Eps.21
クライス・ハルト中将からの要請に従い、アステナ少将がキンジャール中佐の戦隊を捕捉するべく二個戦隊を差し向けた。ギンズ・バルトロメオ大佐は第四機動艦隊に戦力の抽出を打診してはどうかと提案したが、けっきょく不要な隙を見せるべきではないとされ、戦力を抽出し発進させることになった。
今や超新星弾頭を発見できるかどうかは、セシル・アカーディアの双肩にかかっていた。<ラウザハウ>が索敵能力を失している今、<アクトウェイ>が最も優秀な眼を持っており、指揮権こそ国防宇宙軍に預けていようとも実質的には彼女が作業をこなさなければならない。仮に国防宇宙軍の人員が移乗したとしてもシステムへの習熟には時間がかかる。
何もかもが足りない状況でセシルは全力を尽くしたに違いなく、傍で彼女の作業を監督していたリガルから見ても、その仕事ぶりには少しの文句の付けようもないほど見事だった。だが、努力は必ず実り報われるとは限らない。粉骨砕身の努力を以てしても、得られた手がかりはひとつだけ。
メキシコ・サードの周囲を巡る八つの衛星の内、最も大きなM34にはヘリウム採掘船のための大規模な乾ドックが整備されている。ここに最近まで入港していた採掘船の一隻が、申告していた性能諸元と物資積載状況より大きな質量を持っていた記録が見つかったのだ。
メキシコ星系に存在する一億五千万の人命に残された最後の二時間、宙兵隊をも動員してこの採掘船の所在を突き止めようと躍起になった。しかしこの船は進駐したバルハザール宇宙軍の命を受けて無理なヘリウム3採掘を行おうとした一隻であったらしく、あまりにも深層へ降下したために耐気圧隔壁を破損して気密を失い、沈没していた。打つ手なしかと思われたが、濃密な液体ガスの海に沈めば、いかなる通信手段も無効化される。仮にキンジャールが発射ボタンを押したとしてもその信号を受信することはないはずだった。フィリップ・カロンゾによれば、構造上、超新星弾頭を効果的に運用するには表層大気、つまり高度五千キロ付近から投下しなければならない。沈んだ船に積載されているのならば何も問題はないが、キンジャールがさっさと逃げずに星系外縁部を遊弋していることからその望みも薄く、恐らく別の場所に超新星弾頭は秘匿されていると考えられ、捜索は振り出しに戻された。
タイムリミットが迫りつつある中、<アクトウェイ>に通信が入る。船長席でじっと身動ぎせずにその時を待っていたリガルは、すぐに応答ボタンを叩いた。
ホログラフに映し出されたのはアステナ・デュオの疲れきった顔だった。珍しく慇懃に敬礼すると、彼は話し出す。
「リガル船長、すぐに衛星M34の影に退避したまえ。そこなら、APS装甲を最大出力で展開すれば、もしかしたら一命をとりとめるかもしれん」
「お言葉だが、いまさら逃げも隠れもしない。それに、一秒でも可能性が残っているのなら留まるべきだ」
「だが、実際にその可能性はどれほどの勝算なのだ?」全てを悟り切った顔で、アステナは真摯に説得を試みた。「君は国防宇宙軍に失望していたにもかかわらず、道義心からここまで帯同してくれた。言葉だけでは空虚な響きにしかならないとわかっている。だが、感謝しているんだ、船長。君の名誉を信じて、心の底から良かったと思っている。君たちは生き延びるべきなのだ」
「なら、全てが終わったら酒場を貸し切りだ。それが軍人と放浪者の妥協点だよ。みんなでどんちゃん騒ぎして飲むんだ。それでどうだ?」
目を丸くした後、アステナは短く笑った。そしてすがすがしい笑みと共に、幸運を祈る、と言葉を残して敬礼して通信を切った。あんたもな、とリガルは消えたホログラフに向けて呟いた。
深く息を吐き、座席のリクライニング機能を最大にして、船橋を覆う星の海へ身を投じる。
この瞬間も事態を打開しようと忙しなくコンソールを打鍵し、静かに話し合う乗組員の気配を感じる。いつの間にかヴィエラが来て横から顔を覗き込んだ。黒い瞳に輝く光点がきらめく。
「超新星弾頭がメキシコ・サードの底にあるなら、もう何も心配はないじゃない」
憮然とした物言いに、リガルは目を閉じて頭を振った。
「キンジャールがまだ逃げない以上、超新星弾頭は未だ発射可能状態にあるはずだ。奴がリスクを冒してでも見たい何かが星系内にある。そしてそれは——」
言葉が途切れる。思考の海に、微かに浮かんだ直感を手繰り寄せようと意識を集中した。横でヴィエラが何か言っているが、もはやリガルの耳には届いていない。
ガス惑星。採掘船。星系内にあるものを、見たい。内側の、何かを、見る。
突然、目を見開いて体を起こす。リクライニング機能を切った背もたれが遅ればせながらその背中を追うよりも早くコンソールを打鍵し始めた。
「リガル?」
「セシル、いまどこを見てる?」
突然に声をかけられたセシルが振り返った。疲労の色が濃いが、その眼は熱意にぎらぎらと光っている。
「アキにお願いして、メキシコ・サード周辺を自動で走査中。わたし自身は、衛星M34の乾ドックで行われた整備情報と軌道上のプラント採掘船をクロス検索し、申告された質量と推力とを比較しているところです」
「ガス惑星の大気圏内に何か不審な物体はないか?」
「大気圏内ですか? ありません。複数の人工衛星とリンクして全周の索敵を行いましたが、人工物は発見できませんでした」
「衛星の索敵装置は可視光の受動式だろう。能動走査は行ったのか」
「リガル、メキシコ・サードはガス惑星なのよ?」話の帰結する先が見えず、苛立ちに眉を顰めながらセシルは噛んで含めるように言った。「メタン、ヘリウム、水素などの気体が、絶えず激しい気流にかき混ぜられている。つまり、粒子それぞれが少なからず電荷を帯びているの。電磁波による探査を行っても何も見つけられないわ。スポットライトを目に浴びながらホタルの光を探すようなものよ」
「管制長の言う通りです、船長。仮に何かがあるとしても、可視光帯域で見つけられないのなら、電磁的に隔離された状態であるはずです。起爆信号を受け取るには条件が合いません」
イーライの言葉に、別々に作業に取り組んでいたフィリップ、ジュリー、キャロッサが集まってくる。リガルは額を指で強くこすりながら、固まりつつある仮説を言語化しようとした。
「いいか、二人とも。M34の乾ドックを出た件のヘリウム採掘船がメキシコ・サードの大気の中に沈んだのは事実だな? そしてその状態では超新星弾頭が用を為さないのもわかってる。だが、ヘリウム採掘船には電磁的な隔離状態でも救難信号を発するための通信手段を持っていたはずだ」
かわいた破裂音がする。フィリップが大きな掌を打ち合わせ、歯を食いしばりながら唸った。
「気圧差を利用した浮上式のブイか! 確かにガス惑星の大気の中で外部と通信するにはそれがいちばんだ。それに、電波吸収塗料を吹き付けるだけでも、可視光域で捕捉するにはガス惑星が何周もするくらい長時間の観測を行わなきゃ、見つけられっこないぜ。星系外縁に面した、惑星の夜の側にいるのならなおさらだ」
青ざめた顔でセシルが頷く。どうして気付かなかったのかと悔いているようだが、それは誰しもが同じことだ。それを彼女も理解しており、懸命に次の一手をどうするかを考えている。
「しかし、電磁波による能動走査を行ったとしても、やはり先ほどと同じ理由で明瞭な反射電波を受像することは難しいわ。物理的な問題は残ったまま」
「いや、問題ない」イーライの言葉に視線が集まる。彼はそれぞれの顔を眺めながら微かに笑みを浮かべた。「火器管制レーダーを使えばいい。照準を定めるためのレーダーはノイズに強く、恒星などの電波発信源を背にしても目標を捉えることが可能だ。国防宇宙軍のシステムは規格化されているが、この船なら独自のシステムを組める。船首のメインセンサーに合わせて改良を加えるより、メキシコ星系に来る前に超空間でルーチンを用意しておいたから流用しよう」
喜びのあまり、ジュリーがイーライの背中をばしばしと叩く。
「やるじゃないか、イーライ! だけどどうするね。ガス惑星は宇宙の中じゃちっぽけだけど、人間にとっちゃでかすぎるよ。<アクトウェイ>の火器管制レーダーを効率的に照射するには、かなり無茶をして極軌道を巡らなきゃならないよ」
「いいや、そういうわけでもないぜ、ジュリー。いくら気圧浮上式ブイがあるとはいえ、遠距離からの通信を受け取るには発信源に近い位置にいなきゃならん。キンジャールの野郎がフォーマン星系方面の跳躍点付近で動こうとしないのは、あの方向からしか発射信号が送信できないからだろう。メキシコ・サードの公転周期に合わせてるんだ。となれば、推定位置は絞り込める」
駆け足で機関セクションに戻ったフィリップがコンソールを操作する。アキが機転を利かせて彼の操作するホログラフと同じものをメインディスプレイに複製投影した。
メキシコ星系図があらわれる。三次元的な表示の中、カメラがメキシコ・サードをズームアップ。惑星内核からキンジャール率いる戦隊が存在する方向へ直線が伸び、それを中心としたガス惑星の表面が赤く塗りつぶされた。恒星メキシコから見てほとんど外側に分布しており、その内の夜が七割、昼が三割といったところか。
さらに同じように航法セクションに戻ったジュリーがすぐに軌道計算を行う。<アクトウェイ>は現在、衛星軌道の中でもクイナレ星系方面の跳躍点に近い位置を巡っている。ここから加速し所定の位置に着くまでに十分はかかる。火器管制レーダーを使用するということは、船首をメキシコ・サードへ指向しなければならない。同型船と比べ強力なアポジモーターを持つとはいえ、遠心力で飛び出さないようにするには大きな加速を行えないだろう。
「船長、とにかくこの軌道で狙い通りにいけるはずだよ!」
「よし。全員、聞け。直ちに発進、超新星弾頭を積載しているヘリウム採掘船の捜索を行う。アキ、カルーザにでいいから連絡をしてくれ」
「その時間はなさそうです」
白く細い指が伸び、船橋の真正面を指し示す。全員が見たその先には、予測ではあるものの発射信号が届くまでのカウントダウンがあった。
残り五分二十四秒。捜索のための位置につくまで、七分十一秒かかる。
間に合わないのか。落胆が彼らの心を覆いかけた時、今まで口を噤んでいたヴィエラが叫ぶ。
「あきらめないで。超新星弾頭はその中身だけで超新星化を引き起こすわけじゃない。ガス惑星の大気を利用する必要があるの。その特性から判断して、大気の表層まで浮上する必要があるわ。大気圏内の採掘船が発射するのなら、信号を受信した後に高度を確保するための時間があるはず。いますぐに向かえば、浮かんできた船ごと撃墜できるかもしれない」
EXUとして嫌煙されてきた彼女の言葉に全員が目を丸くし、そして笑った。
自分の言葉でにわかに活気づいた船橋の空気に戸惑いながら、ヴィエラは答えを求めてリガルを見た。おどけたように片眼を閉じてみせる。
「目的は違えど同じ場所へ向かう。そういうのをな、道連れっていうんだ」
「そういうこった。さあ、始めるよ。準備はいいかい?」
ジュリーの声に、既に各々の座席についていた乗組員たちが元気よく返事をする。ヴィエラも慌ててオブザーバー席に戻り、無我夢中でハーネスを締めた。
「よし、始めるぞ。ジュリー!」
「アイアイサー。つかまってなよ、みんな!」
周囲の船からすれば、突然にして眩い閃光が生じ、<アクトウェイ>が爆発したように見えたかもしれない。だが実際には、それは後部推進装置からプラズマの青白い炎が噴き出し、猛烈な加速度で流星のように駆けていく<アクトウェイ>の航跡に過ぎなかった。
離脱軌道ではないため慣性補正装置はじゅうぶんに機能している。落ち着いて状況を確認しようとホログラフを覗き込んだところ、鋭い電子音が緊急通信が入ったことを報せた。
反射的に応答ボタンを叩くと、目の前にカルーザ・メンフィスの顔が表れた。ホログラフの中で、金髪の男はアイスブル―の瞳に今まで見たこともないような憤怒をきらめかせて怒鳴る。
「リガル、この大馬鹿野郎! 安全基準も無視していきなり加速する奴があるか。今すぐ隊列に戻れ!」
「カルーザ、いま話している時間はない」爆発しかけた怒りを飲み込んで、リガルも負けじと言い返す。「超新星弾頭の在り処がわかった。後でデータを送るから、メキシコ・プライムの惑星政府に住民を地下へ避難させるよう伝えろ。周辺の採掘船にもだ。ひとつでも多くの命を救え」
「何を言ってる? 超新星弾頭はヘリウム採掘船の中だ。こちらも、それを確認した。分厚いガス惑星の大気は電磁波を通さない。水の中に沈んだ携帯端末に電話をかけるようなものだ。キンジャールには何もできない。すぐに戻れ、リガル。ようやく巡ってきた千載一遇の機会を無駄にするつもりか。お前はカール・メンゾンの汚名を濯いで英雄になりかけているんだぞ」
リガルは、自分の中で何かが切れる音を確かに聞いた。
「黙りやがれ、カルーザ・メンフィス!」
身を乗り出し、ホログラフの中の男へ指を突き付ける。
「おれを信じたくないのならそれでいい。だが、哀れみを混ぜ込んだ生ぬるい優しさを向けられるなんざまっぴらだ。おれにそんなものは必要ない。お前にもだ! いいか、おれの為すこと全てに文句があるなら、黙っておれが英雄になるのを見ていやがれ!」
勢いよくボタンを叩き、通信を切る。怒りを通り越した衝撃のあまり茫然としているカルーザの顔がすぐに消え、代わりに今の<アクトウェイ>の状況を表示するホログラフが整然と並んだ。
「発射信号と思しき信号を受信!」
セシルが鋭く叫ぶ。もはや一刻の猶予もない。リガルは素早く頭を巡らせた。
「大まかでいい、浮上する採掘船を直接砲撃できるか」
「不可能です。既に人工衛星から、表層大気付近まで上昇している採掘船を目視。あと一分弱で弾頭が発射されると思われます」
「なら、発射された後の弾頭を狙撃する」リガルは加速する<アクトウェイ>の揺れに抗して首を巡らせる。「フィリップ、発射方向の見当はつくか?」
「ああ、船長。弾頭は自転方向に発射されることが前提の構造になってる。広範囲のヘリウムに対して核融合反応を起こさせるための特殊燃料を噴霧しなきゃならんから、速度を殺さないまま惑星を半周する軌道を取るはずだ」
フィリップが一瞥を投げる。その言葉の意味するところは明白だ。たとえ撃墜に成功したとしても、特殊燃料に引火すれば、至近距離で巨大な核融合反応の爆風を浴びることになる。生き延びられるかは五分五分だ。
頭の片隅を過った悪い予感を無視して、リガルは指示を下す。幸運も不運も、全てを置き去りにするだけの力が、この船にはある。
「人工衛星の捉えている浮上位置から発射後の軌道を計算しろ」
意外にも、フィリップは白い歯を見せて笑った。
「もう出してるぜ。ほらよ」
メインディスプレイの、メキシコ・サードを模したホログラフに一筋の線が描かれる。起点となっているのは採掘船の浮上位置だ。そこから惑星を半周したくらいの位置まで曲線が表面を這うように伸びた。
「上等だ。ジュリー、どれだけ無茶をしても構わん。弾頭と並行して飛行する軌道を算出して、実行しろ」
「あいよ!」
「イーライ、厳しい状況での砲撃になるぞ。大気による減衰と屈折があるから中性粒子砲を使え。レーザー砲は考慮するな。一撃で仕留めろ」
「時速数千キロの気流の中を横倒しで進みながら、米粒ほどの目標を狙撃ですか。腕が鳴ります。アキ、手を貸してくれ。プログラムを少し修正したい」
「わかりました」
瞬く間に、<アクトウェイ>の予定軌道が算出された。それによれば、これから船首を傾けて一時的に大気圏内を突っ切り、その後、遠心力でメキシコ・サードの表層から飛び出していく途中での交錯となるようだ。大気圏内の飛行を前提としていない航宙船としては自殺行為に等しいが、他に選択肢はない。
もし失敗したら、という言葉を飲み込んで歯を食いしばる。
リガルは、カルーザへの怒りを思い返した。おれがここまで躍起になるのはなぜだろう。アステナの言う通り、さっさとどこかへ逃げてしまえばよかったのだ。
だが、それはできない。今ならわかる。ここで<アクトウェイ>が離脱し、結果として無数の人々が死ぬことになれば、その魂の重さで沈んでしまう。夢の乗る余地など、どこにも残らないに違いない。船とはそういうものだ。乗せるのは人だけではない。無形であればこそ計り知れない意味を乗せながら、太古の昔から船は走り続けてきた。
そうだ、おれは船が欲しかったのだ、とリガルは宇宙がクリアになったと思えるほどの衝撃に震えた。生きる意味がすぐ目前に在った。
乗組員たちが作業する中、ジュリーの操船により<アクトウェイ>が茶色い大気の中へ飛び込んでいく。秒速数百キロを超える速度で衝突する大気の衝撃でAPS装甲が眩いプラズマで包まれた。あまりの明るさに、アキが船橋の外景取り込み映像の光量を落として視覚を保護する。刹那の輝きではあったが、リガルはあの光を忘れることができそうになかった。
噴射炎だけでなく、船体そのものが輝きながら疾駆する<アクトウェイ>。おそろしいほどに美しい光景に、見る者全てが息を飲んだ。それは、間違いなく人の意思が燃える光だ。
大気の中を猛スピードで進むため、船体が激しく揺れる。体に巻き付けたハーネスが航宙服の上から肉に食い込む中、ジュリーの笑い声が響いた。今は彼女の不敵さがこの上なく頼もしい。何よりも<アクトウェイ>らしいといえる。
「大気圏離脱、三十秒前。イーライ、しくじるんじゃないよ!」
「そんな選択肢はあり得ない」
集中し切ったイーライの声は不気味なほど落ち着いていた。セシルがプラズマによる強力な電磁波から索敵機材を保護するべく、フィリップと共に奮闘していた。リガルは肘掛けを指が白くなるほど強く握り締め、ふと、アキを振り返った。
船長席の横で完璧にバランスを保ったまま立っている彼女は、同じ瞬間にリガルと視線を交錯させた。
ひときわ大きく揺れた時、リガルは思わず手を伸ばしてアキを抱き寄せた。彼女は目を丸くして何かを言おうとしたが、やがて眼を閉じて、もたれかかるようにリガルの胴に手を回し、力を込めた。
カウントダウンが進む。二十秒、十五秒、十秒……三、二、一。
ゼロ。
船橋を覆う三次元ディスプレイが外景取り込みを再開する。視界一杯に広がる、渦を巻く薄暗い大気の中で、輝くひとつの物体が見えた。航跡のように見えるのは、フィリップが言っていた特殊燃料か。未だ視界のほとんどはAPS装甲を舐めるプラズマで瞬いているが、セシルが念入りに調整した船首センサーはそれらをノイズとして除去し、途端に鮮明な映像として固定される。
全てが極まり、リガルはイーライが発射ボタンを叩くのが、まるで自分の意思で行われたかのように錯覚した。
白熱した中性粒子の槍が伸びていく。右舷から吹き付ける大気に揺れる中、<アクトウェイ>の砲撃は超新星弾頭を撃ち抜いた。
直後、視界を眩い閃光が満たす。
アキと同じ色だ、ととりとめもないことを考えていた。




