Eps.19
レイズ星間連合国防宇宙軍艦隊とバルハザール宇宙軍侵攻艦隊が接敵するまで、あと五分。
<アクトウェイ>の船橋は静まり返っている。張り詰めた緊張感で空間そのものが音を立ててひび割れ、崩れ去ってしまいそうだ。身動ぎすれば悪い結末を招いてしまうという、偏執的な考えも筋が通っているように感ぜられる。
メキシコ・プライムへ向かう軌道を進み続けるレイズ艦隊の進行方向に向かって十時方向から、三八隻の戦力を有する戦隊アルファが接近してくる。六隻の戦艦を中核とする強力な部隊で、単純な隻数以上の戦闘力を持つ。この六隻の戦艦が二隻ずつペアを組み三列に並んで、護衛艦がその周囲を取り巻く長方形の広い面を斜め下方に傾けた隊形だ。
対するレイズ艦隊は第二、第三艦隊それぞれがコイン型の隊形を取り、やや密集している。コインは二枚がそれぞれ重なり広い面を進行方向へ向けており、<アクトウェイ>は第二艦隊が構成する先頭のコインの左側を占位した。隊形の中では敵艦隊に最も近い位置であり、第二艦隊の重巡洋艦、その一隻として火力を発揮するためだ。
表向きは。
カルーザ・メンフィスはその意図を伝えてはこなかったが、リガルは公開通信であることに着眼し、当たり障りのない返事を返した。セシル・アカーディアの綿密な観測により、メキシコ・サードから脱出する際の情報と照合してキンジャール中佐の乗る軽巡洋艦の位置を特定させ、アステナ・デュオ少将に掛け合いもっとも狙いやすい位置に<アクトウェイ>を配置させた。そしてその後の艦隊運動も、よく言えば優秀、悪く言えば人の悪いアステナの提案に着想を得てギンズ・バルトロメオ大佐が形にした。
この奇策が吉と出るか凶と出るかはすぐにわかる。いずれにしろ、打つべき手は打った。後は結果を待つのみだ。
「接敵まで三分」
セシルのカウントダウンに、フィリップは額から流れ落ちる汗を拭い、イーライは航宙服の襟を指で広げて風を入れた。ジュリーは飄々としているようだが、じっとりと汗で湿った手を握ったり開いたりしている。キャロッサは息を殺して船長席の左後ろにあるオブザーバー席に着き、両手を胸の前に引き寄せた。その右側にはヴィエラ・オリエガの不遜な姿がある。高みの見物ということらしく、ハーネスできつく締められた胸の中に手を突っ込んで無表情に船橋の様子を観察していた。
そして船長席の右横、リガルのすぐ傍には影のように付き従うアキの姿がある。美しい女神のような佇まいはリガルの心を落ち着かせた。手を伸ばせば触れられる距離にいる。
思えば、この星系を出る時から彼女と共に在った。四カ月の時を経て戻ってきた、いまこの瞬間を並んで目の当たりにしようとしている。認めたくはないが、彼女はもう、得体のしれない生体端末ではなくなっていた。アキはこの船の命運を握る、正に女神だった。かけがえのない相棒になりつつある。
「接敵まで一分!」
セシルの声に、リガルは肚を決めて手を振りかざす。
「作戦開始だ。ジュリー、やっちまえ!」
「あいよ!」
戦隊アルファは〇・一光速、レイズ艦隊は〇・一二光速で急速に接近し、中性粒子砲の射程に差し掛かる直前に双方が動き出した。
僅差ではあるが先に行動を起こしたのはバルハザール軍だった。戦隊アルファの隊形は単純であるものの、それ故に効果的で隙が無い。
だが、互いの軌道が交錯する直前、駆逐艦四隻と軽巡洋艦一隻が隊形を乱した。それはキンジャール中佐の指揮する戦隊だ。彼は<アクトウェイ>を取り逃した一件から、バルハザール宇宙軍の侵攻艦隊の中で辛酸を舐めていた。本来は規律と名誉を重んじるべき軍人であるはずの同僚たちから蔑視されていたのだ。何しろ圧倒的な戦力を持ちつつ一隻の軽巡洋艦級の船——たとえ比類ない性能を誇り、天賦の才を持つ男が操船していたとしても、船は船だ——を拿捕することすらできなかった男に、軍務の重責が務まるはずもないではないか?
キンジャールにとって、この一戦はまたとない好機だ。不用意な公開通信のおかげで、彼の憎む男が乗り組んだ黒い船は所在を明らかにした。戦闘を目前に控えた状態で隊形を乱すなど、本来であれば命令無視、上官反抗と受け取られかねない。軽率でやけっぱちな行動でも、バルハザール宇宙軍とは軍とは名ばかりのならず者集団に等しい。指揮系統は確率されているものの、命令の強制力を担保するのは軍規ではなかったのだ。
長方形の平面隊形の中で下方に位置している五隻は主機を作動させ僅かに前進し、レイズ艦隊の中央部へ火力を集中させやすい凹型に隊列を変化させた。いうまでもなく、キンジャールは戦闘のどさくさに紛れて<アクトウェイ>を確実に撃沈しようとしているのだ。長らく組織内での権力闘争に身を置き、政治的な手段で味方であるはずの佐官の昇進を妨害し、排除してきた彼にとっては、この程度の命令違反と自己満足を旨とする行動発起への自制心を持たない。
そしてキンジャールや僚友にとって予想外であったのは、たった一個戦隊の統率を乱した行動により、バルハザール宇宙軍はリガルやアステナの予想した以上の混乱を来していたことだ。あり得るはずもないのだが、彼らの中では冷遇されていたキンジャールが裏切ったのかもしれないという衝撃があった。無論、利敵行為に等しい行いであったには違いないが、少なくともキンジャールが僚艦を攻撃する意図を持たなかったことが混乱に拍車をかけてしまう。
反対に、これあると予期していたレイズ艦隊はキンジャールの失態をみすみす見逃すことなどしなかった。
キンジャールの戦隊から狙われることとなった<アクトウェイ>だが、すぐに二枚のコイン型隊形が左右にスライドする機動と同調し砲火を躱す。砲撃と同時に加速する予定だった戦隊アルファは一個戦隊が隊列を乱したことで混乱し、理想的なタイミングを逃した。その一瞬の間に、やや内角を付けたコイン型隊形の集中砲火が六隻の戦艦を含む中枢部へと襲い掛かった。
作戦にないキンジャールの独断専行により、練度という点でレイズ艦隊に一歩譲るバルハザール宇宙軍の将兵は貴重な時間を無為に浪費し、対応する余裕のないまま新たに組み替えられたレイズ艦隊の隊形から放たれる砲火の雨をまともに受ける格好となった。
六隻の戦艦のうち、三隻は二百発以上の中性粒子砲の直撃を受けて轟沈。生存者もいないほど凄惨な最期を遂げた。さらに軽巡洋艦、駆逐艦で構成される軽装備の戦隊が定められた目標へ向けて対艦ミサイルを発射。レイズ艦隊の中枢部を攻撃しようと直進していた敵艦隊は避ける間もなく、狙いやすい的だったため、迎撃はほとんど行われなかった。機転を利かせた数隻の船がレーザー砲とミサイルで弾幕を形成しようとしたが遅すぎた。発射から間もなくして連続して弾頭が炸裂。撒き散らされたガンマ線レーザーの槍が戦隊アルファの支援艦群へ向けて殺到した。
軌道の交錯は刹那にも満たない短い時間だったが、通過射撃が終わった後に戦隊アルファに残された戦力はほとんどなかった。その惨状は敵であれど惨たらしいもので、リガルは思わずホログラフから目を逸らしてしまう。
敵戦隊を構成していた主力の戦艦は六隻ともデブリの雲となって惰性で流れていく。旗艦と思しき隊形の中心にいた一隻だけが原形を留めたまま最後の軌道を進み続けているが、全ての推進装置と攻撃能力を失っており、ひび割れた艦体のあちこちから内気が噴出している。他、六隻の重巡洋艦、五隻の軽巡洋艦、七隻の駆逐艦が大破。生き残った一四隻はほとんどが中破ないしは大破寸前といった有様で、自力で航行できる船は少ない。皮肉にもこの事態を招いた張本人であるキンジャールの指揮する一個戦隊だけは、軌道の予測が困難であったために攻撃目標から意図的に外されており、ほぼ無傷で難を逃れていた。
大勝ではあるが、完勝とも言い切れない。バルハザール宇宙軍は翻弄されながらも反撃を試みていた。
レイズ艦隊は第三艦隊の重巡洋艦<ルメル>と軽巡洋艦<ハウイン>が大破、死傷者多数。駆逐艦<バグス>と<ローエン>は艦内システムの半分が機能停止した。第二艦隊は重巡洋艦<ラウザハウ>が船首に直撃弾を受けて高感度のセンサー類を全損。APS装甲発生装置も被弾に対し過負荷状態となって溶解するという構造的欠陥を露わにした。
これほど短時間で濃密な戦闘の真っただ中にあり、なおかつ標的として狙われながらも一発の被弾もしていない<アクトウェイ>は、高い機動力と綿密に計算された回避パターンに助けられたとはいえ幸運だったのだ。
大きく息を吐く声が聞こえる。振り返れば、キャロッサが汗で頬にへばりついた濃紺の髪を手で掻き上げているところだった。
キャロッサはリガルの視線に気付くと、弱々しい笑みを浮かべて応える。
「船長、アステナ司令官に医療支援の要否を確認したいと思いますが、よろしいですか?」
「うん。クイナレ星系の時と同じで、必要があればアキと連携して手配してくれ」
頷いてすぐにコンソールを打鍵し始めるキャロッサを後目に、リガルは今の戦闘記録から航海日誌を作成するため、情報を整理すべく同じようにコンソールに指を走らせたが、すぐに指が動きを止めた。
「おめでとうと言っておくわ」
ヴィエラの声がすぐ耳元で囁くように聞こえる。官能的ではあるが、思わず肝が冷えた。
「まだ戦隊ベータ、デルタが残ってる。浮かれるにはまだ早い」
「でも勝利は目前。あとは何事もなく勝てるかどうか、そして勝った後に、勝ち切れているか。それが問題だわ」
ああ、とリガルはメキシコ星系図のホログラフを睨む。そして自分の言い放った言葉を反芻した。
気を抜くにはまだ早い。
間もなく、カルーザ・メンフィスの指揮する第一艦隊が戦隊ガンマと接敵する。一五隻に対し一六隻の戦力を有する敵と比べれば互角といえるだろう。
戦隊デルタ、ベータは、戦隊アルファを撃破しそのまま進み続けた第二、第三艦隊へと立て続けに攻撃を仕掛け、いずれも甚大な被害を被って敗退した。レイズ艦隊は新たに駆逐艦二隻を失ったが、それまでだった。両戦隊を合わせても敵軍の残存艦は十隻に満たず、彼らは傷ついた戦隊が許す限りの速度でバルハザール領宙であるジル星系方面の跳躍点へ進み続けている。キンジャールの指揮する戦隊アルファの残存部隊は、そのまま大きく迂回して星系外縁部へ退避を始めていた。
戦隊ガンマからすれば、軽巡洋艦と駆逐艦のみで戦艦と重巡洋艦を含む敵と相対しなければならないのだから、戦闘を回避しても仕方のない局面だったろう。しかし彼らは敵地に取り残されており、第二、第三艦隊がより跳躍点に近いメキシコ・サード、およびメキシコ・プライムの中間地点を航行しているとあっては、無傷で帰郷することはできない。また、この時点で公転方向とは逆向きに舵を切ろうにも百八十度の方向転換が必要だ。減速の途中で第一艦隊に後背を襲われてしまう。
「不利であるのは明らかです。降伏しないのでしょうか?」
隣に立つアキが、悲哀からではなく純真無垢な疑問を呈すると、リガルの代わりにイーライが答えた。
「アキ、人間が命を捨てる理由は何だと思う?」
「絶望、でしょうか」
「半分正解だ。絶望と、希望だよ。戦隊ガンマは足を止めて無防備なところを第一艦隊に攻撃されるか、自分たちよりはるかに重装備の敵を相手に一か八かの通過攻撃を仕掛けて切り抜けるか。どちらがより選択しやすいかは明白だ」
「なるほど。自暴自棄な行動に見えますが、絶望的な状況下で希望を見失わずに最善の一手を打った、ということですね」
機械知性にしては人間の心理状況をよく理解するものだ、と感心する。と、リガルは慌ててホログラフへと視線を戻した。いままさに第一艦隊が戦隊ガンマを射程圏内におさめようとしている。
第二、第三艦隊と同じく、<アクトウェイ>は慣性航行状態にあった。今や重巡洋艦<ラウザハウ>が中破してしまったため、この艦隊で最も高性能のセンサーを搭載しているのはこの船しかいない。アステナ少将からの要請もあり、<アクトウェイ>は惰性で宇宙空間を進みながら船尾を前に、船首を後ろへ向けていて、優秀なセンサーの能力を最大限に発揮できる姿勢を取っている。偵察艦としての役目を果たしているのだ。ノーマッドに求める役目ではないが、誰よりも早くカルーザ・メンフィスの戦いを見れるとあっては、文句をいえるはずもない。
戦場となるメキシコ・セカンドの近傍宙域とは二・五光時の距離がある。各セクションのホログラフや第二艦隊旗艦<ウーズ>をはじめとする各艦へ送信される映像は二・五時間前のものだ。どんな結末であれ、時系列でみれば既に決着がついている戦いである。
戦隊ガンマは三隻の軽巡洋艦と十三隻の駆逐艦で構成されており、敵の指揮官はこれを三分割し、大きく散開させた。ほぼ垂直に立ち上がった正方形が横方向に三つ並んでいる格好だ。
対して、カルーザは巧妙な戦術を取った。長方形隊形を組んでいた第一艦隊が突然、弾ける。一見して無秩序に見える各艦の動きが時間が経つにつれて意味を為しはじめる。その技巧にジュリーが口笛を吹いて囃すほど、緻密で統率された動きを見せる。リガルもその見事な動きがこてんぱんにやられた第一艦隊のものとは思えず、あらためてカルーザの手腕に舌を巻いた。
カルーザは旗艦<ハーキス>と重巡洋艦三隻で一列横隊を作り、その後ろに残りの軽巡洋艦、駆逐艦を配置した。横に長い棒状の隊形で、軌道をほんの僅かに上方へと逸らす。第一艦隊は軽巡洋艦と駆逐艦のミサイルの目標選定と誘導に多くの時間を割いて準備していた。高速で交錯する両艦隊であるが、バルハザール宇宙軍の砲撃が激しくはあれどばらばらで統率が取れていないのに対し、第一艦隊は元来の練度の高さもあってか、特定の目標に必要以上の火力が集中することのないよう、三つの平面隊形のそれぞれに整然と砲撃を加えた。
本来であれば、軽装備の支援艦を守るために大火力と重装甲を発揮する重武装艦がいるべきだ。しかし、もはやその時を待つばかりとなった貧弱な敵戦隊が、昔日の借りを返すといわんばかりに容赦のない砲撃を受け止めきれるはずがなかった。
交戦時間は僅か三十秒。第一艦隊が通り過ぎた後には、慣性の法則に従いながら元の軌道を進み続ける残骸の山だった。生き残ったバルハザール宇宙軍の乗組員たちが救命筏に乗り込み、ぱらぱらと射出されていく。彼らはしばらくあの窮屈なポッドの中で生き延びるしかないだろう。ひどい目に遭うだろうが、同情してやるほど上等な連中でないのも確かだ。
盟友のこれ以上はない完全勝利を見届けた<アクトウェイ>と、第二、第三艦隊の元へ直後に通信が届く。
戦艦<ハーキス>の艦橋に座るカルーザ・メンフィスの顔は鉄面皮そのもので何の感情も映していなかったが、彼の周囲は雪辱を晴らした将兵の歓呼の声で満たされていた。
「第一艦隊より第二、第三艦隊へ。任務完了、当方の損害無し。捕虜収容の後、合流します」
真空でさえも突き抜けて聞こえるのではないかと思えるほどの騒音の中で、カルーザは宣言した。極めつけに完璧な挙手敬礼をして、映像が消える。
「彼、やったわね」
ヴィエラが船長席の後ろからホログラフを覗き込みながら言う。リガルは咳払いしていつの間にか浮かんでいた笑みを消すと、ゆっくり頭を振った。
「まだ超新星弾頭の件が残ってる。それに、全ての戦隊と交戦し勝利を収めたとはいえ、まだキンジャール中佐の指揮する一個戦隊が星系外縁部に離脱したままだ」
「ともあれ、これでゆっくりと弾頭の捜索に取りかかれる。メキシコ星系に到着したばかりの時と比べれば、間違いなく状況は好転している。あなたたち伝説の第二五四期生コンビによって、ね」
レイズ=バルハザール戦争において、確かにリガルとカルーザは武勲を立て、名を残した。もはや国防宇宙軍は彼を手放すことはないだろう。アーガス・ホメイを失った今、艦隊司令官としての才覚と手腕を発揮した若い天才の出世街道は明るい。
自分も歩んでいたかもしれない人生から目を逸らし、リガルは自嘲気味な笑みを浮かべた。
「件の弾頭を抜きにしても楽観視できない。確かにレイズ領宙の敵兵力を壊滅させたのは間違いない。だけどまだ奴らが支援していたと思しき海賊問題もあるし、何より、戦争終結のためにバルハザールの首都星系までいかなきゃならんかもしれん。今の国防宇宙軍に、盾を構えて槍を突き出すような余裕は——」
「船長」
二人は顔を上げ、セシルを見る。動揺した彼女の声に何事かと関心を露わにしているが、セシルは驚愕の中に喜悦をも滲ませた複雑な声色で報告を続ける。
「ジル星系方面の跳躍点に多数の艦艇が出現しました。とてつもない数です」
この期に及んで増援か。リガルは三次元ディスプレイが投影するメキシコ星系図のバルハザール領宙であるジル星系へ通じる跳躍点にあらわれた複数の光点を、絶望的な心境で見つめた。
だが、次のセシルの一言で、あきらめるにはまだ早いと気付く。
「あの艦船は、レイズでもバルハザールでもありません。かといって、クイナレ星系で見た無人船でもありません。もっと強力な船のようです」
「多数とは?」
「数は現在も増加中。八十、百……まだ増え続けています」
「横から失礼します、船長」アキがヴィエラを押しのけてリガルの横に立つ。
「待て、アキ。まだセシルの報告が終わっていない」
「管制長の報告した艦隊より公開通信です。お言葉ながら、先にご覧になさったほうがよろしいかと」
彼女がここまで強情になるのは稀だ。船橋の乗組員たちが互いに顔を舞いわせる中、リガルは好奇心に負けて首肯した。
「メインディスプレイに出せ」
星々の瞬く暗闇を背景に、一つのホログラフが投影され、思わずリガルは声をあげた。
映し出されたのは、白を基調として黒い装飾をあしらった機能的な航宙服を身にまとい、目深に制帽を被った男だった。コバルトブルーの瞳がきらめき、船橋と思しき場所を背景にしている。肩章には金色の星が三つ縫い留められており、さらに十個の星を背景に女神が灯を掲げる国章がその下に見えた。それは自由の象徴、宇宙における人間の尊厳を守護する女神。オリオン腕に住む者であれば誰しもが知る国家の象徴。十個の居住星系とその政府、そして自由民主主義が信奉する理想の灯台として暗闇を照らす意匠。
「レイズ星間連合、およびバルハザール民主共和国に属する市民と軍人に告げる」無感動で断固たる声が言う。「こちらはバレンティア連邦航空宇宙軍、第四機動艦隊司令官のクライス・ハルト中将だ。銀河連合議会の決議に従い、調停軍として派遣された。既にバルハザール首都、リャーウル星系にも分艦隊を派遣し制圧している。バルハザール宇宙軍に告ぐ。即刻、星系内における全ての軍事活動を停止せよ。これ以上の戦闘は無意味である」
静まり返った船橋で、ヴィエラが大きく息を吐いた。
「戦争のほうは何とか終わりそうだけど、厄介なことになりそうね」
苦々しい思いで、リガルは今もなお増え続ける大艦隊の姿を睨みつけていた。




