第45話 捨てる道を作る
隔離穴は、限界に近かった。
鉄を入れれば危険は見えなくなる。
だが、消えたわけではない。
泥の下で反応は残る。
虫は寄る。
石蓋はずれる。
乾けば割れる。
封じたものは、そこに残る。
残るなら、いつか溢れる。
《石核ログ》
隔離穴:保管量上昇
虫反応:断続
巣化リスク:継続
推奨:隔離鉄の排出経路
排出経路。
つまり、捨てる道。
集める場所ではなく、外へ出す道がいる。
体でも同じかもしれない。取り込むだけなら詰まる。不要なものは出さなければならない。石の腕にそういう機能が必要になるとは思わなかった。
かなり嫌な成長である。
ガレンは隔離穴を見下ろして言った。
「村に置くな。鍛冶場にも入れるな。鉱山道へ戻せ」
戻す。
旧鉱山道は鉄食い虫の巣に近い。そこへ危険な鉄を返す。理屈は分かる。だが、ただ投げ込めば入口に虫が集まる。虫が外へ出る道を作るだけだ。
リッカが線の外で言った。
「奥に置かないとだめ。でも、奥まで持っていくと危ない」
そう。
近いと虫が出る。
奥だと運ぶ側が危ない。
全部一度に運ぶと虫を呼ぶ。
少しずつ運ぶと時間がかかる。
どれも悪い。
私は旧鉱山道の入口へ向かった。硬層道から外れ、低い石が並ぶ場所を確認する。水路から遠い。村からも離れている。鉱山道の奥へ向かう緩い下りがある。
ここなら、泥包みを転がせる。
鉄を直接持たない。
泥で包む。
石の溝を作る。
転がして奥へ送る。
返却路。
《石核ログ》
新規施工候補:返却路
用途:隔離鉄の鉱山道側排出
条件:水路非接続/村側遮断/少量単位
少量単位。
大事だ。
大鉄板は無理。まず釘や鎖片から。小さく、泥で包み、反応を落とし、転がす。奥で泥が崩れれば、虫はそちらへ集まる。入口ではなく奥へ。
私は石で浅い溝を作った。
幅は、泥包み一つ分。
曲がりは少なく。
途中に引っかかりを入れる。
一気に転がりすぎないようにする。
勢いがつきすぎると、奥で割れる。割れて虫を呼ぶ。ゆっくり送る必要がある。
道を作るだけでも、加減がいる。
《石核ログ》
返却路:試作
勾配:低
停止石:三か所
危険:泥包み破裂
泥包み破裂。
嫌な言葉を出す。
私は隔離穴へ戻り、細い釘を一つ泥で包んだ。厚すぎると重い。薄すぎると鉄が出る。中に釘。外に湿泥。さらに表面に砂をまぶす。
団子。
鉄入り泥団子。
見た目は最悪に地味である。
リッカが言った。
「それ、食べ物みたい」
食べ物ではない。
虫にとっては、たぶん遅れて開く餌だ。
あまり良くない例えだが、機能としては近い。
私は泥包みを返却路の上に置いた。鉤棒で軽く押す。
ごろ。
少し転がる。
停止石で止まる。
もう一度押す。
ごろ。
また止まる。
良い。勝手に奥まで転がらない。確認しながら送れる。
三つ目の停止石を越えたところで、泥包みは鉱山道の暗い側へ落ちた。
音は小さい。
割れてはいない。
少し待つ。
かち。
奥で小さな音がした。
鉄食い虫が寄ったらしい。
だが、入口には出てこない。
成功。
小さいが、重要な成功だった。
《石核ログ》
返却試験:成功
対象:釘一個
虫反応:奥側
入口流出:なし
評価:少量排出可能
ガレンがうなずいた。
「これなら、少しずつ戻せる。全部一度にはやるな」
分かっている。
全部一度にやると事故になる。
強化も同じだった。石を増やしすぎると動けない。鉄も増やしすぎると虫を呼ぶ。便利なものは、量を間違えると敵になる。
私は返却路の始点に印を刻んだ。
三横傷。
その下に、短い下向き線。
さらに、小短線。
封じた小片を、下へ返す。
意味が複雑すぎる。
リッカはかなり悩んだ。
「開けるな、じゃなくて……小さい危ない鉄は、こっちへ送る?」
近い。
もう十分近い。
私は動かなかった。
リッカは続けた。
「大きいのはだめ?」
私は大鉄板の方へ移動せず、返却路の幅を鉤棒で示した。入らない。転がらない。途中で詰まる。
リッカはうなずいた。
「細かいのだけ」
そう。
細かいのだけ。
大きいものは別処理。
問題はまだ残る。
その時、村人の男が籠を持って来た。前に釘を持ってきた男だ。今日は少し慎重に、線の外で止まった。
「これ、確認石に置けばいいんだな」
籠の中には、曲がった釘が三つ。
私はすぐには受けなかった。
リッカが鉄串で転がして見る。
「虫に噛まれてる。端が丸い」
ガレンも遠くから見る。
「鍛冶場にはいらん。泥に包んで一本ずつ戻せ」
一本ずつ。
村人は顔をしかめた。
「面倒だな」
面倒である。
だが、まとめて捨てるな。
私は返却路の始点に、一本傷を刻んだ。
一つずつ。
リッカが読む。
「一個ずつ」
村人は渋々、釘を一つだけ置いた。
私は泥で包む。転がす。停止石で止める。押す。止める。押す。奥へ落とす。
かち。
虫の音は奥。
入口には来ない。
二つ目も同じ。
三つ目で、泥が少し薄かった。
途中で割れた。
釘の端が見える。
かち。
入口側から音が返った。
まずい。
私はすぐに湿泥を追加した。露出した釘を包み直す。鉤棒で押す。虫が一匹、入口側の石陰から出てくる。リッカが小石を転がし、虫の進路を塞ぐ。私は泥包みを奥へ押し込む。
虫は迷い、奥の音へ向かった。
処理完了。
だが、失敗は失敗だった。
《石核ログ》
返却失敗:泥厚不足
危険:入口側誘引
修正:湿泥追加
新規条件:泥厚確認必須
泥厚確認。
また確認項目が増えた。
私は返却路の横に、泥の厚みを見るための石を置いた。小さなくぼみ。泥包みをそこに一度はめる。鉄が見えず、形が崩れなければ通す。
検査石。
《石核ログ》
新規施工:検査石
用途:泥包み厚み確認
効果:露出鉄の事前検出
ガレンがそれを見て言った。
「入口に検査、道で停止、奥で返却。作業になってきたな」
作業。
その通りだった。
戦いではない。
素材集めでもない。
管理作業。
だが、この作業がなければ、虫が村へ出る。水路が汚れる。盗賊に鉄を使われる。鍛冶場も危ない。
地味な作業が、防衛になっている。
私は返却路の石を整えた。
道は細い。
一度に一つ。
検査してから通す。
大きい鉄は通さない。
《リザルト》
問題:隔離鉄の蓄積
新規施工:返却路
用途:小型隔離鉄を旧鉱山道奥へ戻す
新規施工:検査石
新規理解:集めるだけでは詰まる。捨てる道がいる
条件:一個ずつ/泥厚確認/大鉄は通さない
確認:少量返却は有効
未解決:大鉄板の処理/返却作業中の虫誘引/村人の手順理解
危険な鉄を、少しずつ戻す道を作った。
これで隔離穴は少し軽くなる。
ただし、作業が増えた。
体を強くしているはずなのに、なぜか仕事場が増えている。




