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第44話 隔離穴は倉庫ではない

隔離穴には、鉄が増えていた。


大鉄板。

細い鎖片。

泥で包んだ釘。

割れた刃の欠片。


どれも、使える鉄に見える。


だが、使える鉄ではない。


虫を呼んだ鉄。

罠に使われた鉄。

水路へ落とされかけた鉄。

偽印の近くに置かれていた鉄。


これは素材ではなく、危険物だった。


《石核ログ》

隔離鉄:増加

虫反応:低下中

管理負荷:上昇

警告:保管量過多


保管量過多。


当然だった。


危険な鉄を見つける。

移す。

埋める。

隔離する。


それを続ければ、隔離穴に鉄が溜まる。


溜まった鉄は、また虫を呼ぶ。


つまり、隔離穴そのものが大きな餌になりかねない。


非常によろしくない。


私は隔離穴の周りを確認した。


泥は乾き始めている。石蓋の隙間から、鉄板の端が少し見えている。雨が降れば泥が流れる。乾けば割れる。誰かが石蓋を動かせば、もっと見える。


封じたつもりで、封じきれていない。


ガレンが来て、鉄板の端を見ただけで顔をしかめた。


「これは鍛冶場に入れねえ」


分かっている。


「虫が噛んだ鉄は、屑鉄とは別だ。溶かせばどうにかなると思うな。持ち込むまでが危ねえ」


正しい。


リッカは少し離れて、隔離穴を見ていた。


「でも、鉄だよね。村の人、欲しがるかも」


それも正しい。


鉄は役に立つ。釘になる。刃になる。鍋の修理にもなる。だから、人間は拾う。


そして、拾った先で虫を呼ぶ。


私は地面に線を刻んだ。


隔離穴の周りに、円。

その外へ斜め重ね。

さらに、三丸傷。


虫。

禁止。

開けるな。


伝わるか。


リッカが読む。


「虫がいるから、開けるな?」


良い。


かなり良い。


私は円の内側に、短い横傷を三本刻んだ。


封じる。


そういう意味にしたい。


《石核ログ》

新規印:三横傷

意味候補:封じ/開封禁止

対象:隔離穴


意味候補。


まだ確定ではない。


印は、使って伝わって初めて意味になる。私だけが分かっても、あまり役に立たない。


リッカが三横傷を見て言った。


「閉めておく印?」


近い。


私は動かなかった。


リッカはうなずく。


「じゃあ、三本があったら、勝手に開けない」


通じた。


その時、村外柵の方から男が一人近づいてきた。手には古い籠。中には曲がった釘と鍋の縁。


村人だ。


盗賊ではない。


男は隔離穴を見て言った。


「ここに入れればいいんだろ。鉄食い虫のやつ」


違う。


かなり違う。


私は鉤棒で男の進路を止めた。


男は顔をこわばらせる。


「なんだよ。危ない鉄をまとめるんじゃないのか」


まとめる。


その考えは分かる。


だが、何でもまとめればいいわけではない。危ないものを一か所に積めば、そこが一番危ない場所になる。


ガレンが低く言った。


「墓穴を倉庫にするな」


良い言い方だ。


隔離穴は墓穴。


倉庫ではない。


私は地面を削った。


三つの場所を描く。


ひとつめは、仮餌場の円。

そこには小さな鉄片を二単位まで。


ふたつめは、隔離穴。

虫が噛んだもの、罠に使われたもの、触りたくないもの。


みっつめは、鍛冶場の方向。

虫がついていない、ガレンが扱う鉄。


鉄は全部同じではない。


餌にする鉄。

封じる鉄。

使う鉄。


分ける必要がある。


《石核ログ》

鉄分類:仮設定

餌鉄:少量管理

隔離鉄:汚染・罠由来

鍛冶鉄:ガレン管理

新規理解:鉄は用途ではなく危険度で分ける


男はまだ納得していない顔だった。


「そんな細かいこと、誰が分かるんだ」


そこが問題である。


分からなければ、また全部ここへ捨てる。


リッカが籠の中を見た。


「それ、虫に噛まれてる?」


男は釘を持ち上げた。


「分からん」


リッカは近づきすぎず、鉄串の先で釘を転がした。


「端が丸い。噛まれてるかも。鍋の縁は違う。こっちは普通の割れ方」


読める。


だが、リッカに頼りすぎるのは危険だ。


ガレンが鍋の縁を見て言った。


「そっちは俺が見る。釘はここに入れるな。餌場でもねえ。泥で包んで、鉱山道側の石下に置け」


ガレンの管理にも限界がある。全部は受けない。だが、判断はできる。


私は隔離穴の横に、小さな石置き場を作った。


穴へ入れる前の確認場所。


一時置き。


石を二つ並べ、その間に鉄を置く。そこから先は、勝手に入れない。確認してから、餌場、隔離穴、鍛冶場へ分ける。


また場所が増える。


だが、直接穴へ入れられるよりはましだ。


《石核ログ》

新規施工:一時確認石

用途:鉄片の分類前置き場

注意:長時間放置不可


長時間放置不可。


また出た。


置き場を作ると、放置される。

放置されると、そこが新しい餌場になる。

餌場が増えると、管理が破綻する。


私は一時確認石の横に、短い一本線を刻んだ。


一回だけ。

置きっぱなし禁止。


伝わるかは怪しい。


リッカが首を傾げた。


「一晩置いちゃだめ?」


かなり良い。


その意味で使う。


男は不満そうに鍋の縁を持ち、ガレンの方へ歩いた。釘は石の間に置いた。リッカが線の外から見ている。


私は釘へ泥をかぶせた。


虫の反応を下げる。


すぐには隔離穴へ入れない。まず、様子を見る。小型虫が寄るなら餌場へ移す。反応が強ければ隔離。反応がなければ、ガレン判断。


分類とは、すぐ決めないことでもある。


その直後、隔離穴の石蓋がわずかに動いた。


私は反応した。


虫か。


違う。


石蓋の下から、細い脚が出ていた。小型の鉄食い虫だ。中に残っていた鉄反応へ向かい、隙間から出ようとしている。


隔離穴に閉じ込めた虫が、中で動いていた。


完全な隔離ではなかった。


《状況解析》

隔離穴内部:小型鉄食い虫確認

原因:鉄反応残留

危険:内部繁殖/外部流出


内部繁殖。


嫌すぎる。


隔離穴が墓穴どころか、巣になる可能性がある。


私は石蓋を全部開けなかった。開ければ虫が出る。隙間だけを広げ、泥で進路を誘導する。外に小さな餌鉄を一つ置く。虫がそちらへ出る。出た瞬間、餌鉄ごと鉤棒で仮餌場へ移す。


一匹。


まだ一匹。


だが、これで分かった。


隔離穴は、ただ封じるだけでは足りない。


内部も確認する必要がある。


私は隔離穴の石蓋に、小さな空丸傷を刻んだ。


鳴らなくても見る場所。


さらに三横傷。


封じるが、確認する。


閉じたら終わりではない。


閉じたものほど、後で見る。


《石核ログ》

隔離穴:運用修正

追加:内部確認

新規理解:封じたものほど確認が必要

警告:隔離穴の巣化リスク


リッカがそれを見て、小さく言った。


「ここ、倉庫じゃなくて、危ないものの見張り場所なんだ」


そうだ。


かなり正確だ。


私は石蓋を戻し、石座を整えた。蓋の縁に欠け点を入れる。誰かが開ければ、位置がずれる。戻しても分かる。


開けた痕跡を残す。


また管理が増えた。


だが、必要だった。


《リザルト》


問題:隔離鉄の増加

新規理解:隔離穴は倉庫ではない

鉄分類:餌鉄/隔離鉄/鍛冶鉄

新規施工:一時確認石

新規印:三横傷=封じ/開封禁止

確認:隔離穴内部の小型鉄食い虫

運用修正:封じたものほど確認する

未解決:隔離穴の巣化リスク/鉄分類の誤読/汚染鉄の最終処分


鉄は素材だった。


だが、全部の鉄が素材ではない。


使えるもの。

餌にするもの。

封じるもの。


分けなければ、強化ではなく事故になる。


素材管理という言葉が、少し嫌いになってきた。

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