第33話 骨は重りではない
重心線を刻んだあと、私はしばらく硬層道で移動試験をした。
芯は通る。
重心は偏る。
放熱板はずれる。
殻片は姿勢を止める。
一つ直すと、一つ暴れる。
とても律儀な失敗である。
特に放熱板が悪かった。胸核部の熱を逃がすには役に立つ。だが、泥層越しに挟んでいるだけなので、動くたびに角度が変わる。角度が変わると、熱の逃げ道も変わる。さらに重心までずれる。
つまり、冷やすための板が、移動を邪魔する。
便利なのに邪魔。
もはや装備の基本性格になってきた。
《石核ログ》
放熱板:位置ずれ
胸核部:熱拡散不安定
姿勢制御:乱れ
推奨:保持構造の追加
保持構造。
貼るのではない。
握るのでもない。
位置を保つ形。
それがいる。
ガレンは鍛冶場の脇から、折れた桶の木片を持ってきた。水を汲む桶だったらしい。板は曲がっており、端に古い縄の跡がある。
「鉄で組むと虫を呼ぶ。木で仮に組め」
木。
軽い。
燃える。
水で膨らむ。
熱で乾く。
虫には食われにくい。
利点と欠点がはっきりしている。信用はできないが、使えなくはない。
私は木片を胸核部の横へ当てた。
すぐ落ちた。
当然だった。
曲がった板は、私の石面に合わない。泥で貼れば一応つくが、それではただの板だ。放熱板を保持する骨組みにはならない。
ガレンが鼻を鳴らす。
「貼るな。渡せ」
渡す。
つまり、胸核部の片側から反対側へ、橋のようにかける。
私は木片を盾片とクラストバグ殻片の間へ渡した。片側を盾片の縁に噛ませ、もう片側を殻片の下へ入れる。その中央に放熱板を差し込む。
直接貼らない。
木片が位置を決める。
泥が揺れを止める。
放熱板が熱を逃がす。
《石核ログ》
仮骨組み:形成
素材:桶木片
用途:放熱板保持/姿勢補助
固定率:低
注意:燃焼/乾燥割れ
仮骨組み。
骨。
ついに私に骨ができた。
ただし、桶の破片である。
もう少し威厳のある骨がよかった。いや、贅沢は言えない。腕一本の時点で威厳の方向性はかなり失っている。
私は移動した。
一歩目。
放熱板がずれない。
二歩目。
胸核部の熱が、木片の間から逃げる。鉄板が少し温まる。泥が乾きすぎない。
三歩目。
姿勢が安定する。
悪くない。
かなり悪くない。
《石核ログ》
放熱板保持:安定
重心偏り:軽減
連続稼働:改善
可動性:維持
維持。
素晴らしい言葉である。
上昇ではない。維持。
だが、装備を増やして維持なら勝ちである。
私は調子に乗って、少し速く動いた。
その瞬間、木片が根に引っかかった。
がつん。
止まった。
放熱板はずれなかった。
代わりに、仮骨組み全体が外れかけた。
《石核ログ》
可動干渉:発生
原因:仮骨組みの張り出し
固定率:低下
また幅。
装甲で学んだはずだった。外へ出たものは、守る。冷やす。支える。だが、同時に引っかかる。
骨組みは、体の外に出しすぎると枝になる。
枝は森で引っかかる。
とても分かりやすい失敗である。
リッカが少し離れた場所で見ていた。手には鉄串ではなく、短い紐を持っている。桶を縛っていた古紐だろう。
「そこ、広がりすぎ。閉じた方がいいと思う」
閉じる。
私は木片の角度を変えた。放熱板を押さえるために外へ張っていたものを、少し内側へ倒す。盾片と殻片の間で三角を作る。
三角。
強そうな形だ。
いや、形に強そうという感想は雑かもしれない。だが、一本で支えるより、二点で渡すより、三点で押さえる方が安定する。
ガレンが言った。
「そうだ。骨は重さじゃねえ。形で支える」
骨は重さではない。
私はその言葉を記録した。
重りを足して釣り合うのではなく、形で逃げを止める。支えを増やす。力と熱の通り道を決める。
それが骨組み。
《石核ログ》
仮骨組み:三角配置
固定率:低 → 中未満
放熱板保持:安定
新規理解:骨は重さではなく形で支える
中未満。
またこの評価。
だが、低よりはいい。
私は再び動いた。
根に近い場所では骨組みを内側へ畳む。
硬層道では少し開いて熱を逃がす。
戦う時は盾片側を前に出す。
水路では木片を濡らしすぎない。
操作項目がまた増えた。
しかし、増えた分だけ動きは安定している。胸核部の熱も前より散る。重心も暴れにくい。放熱板が勝手に落ちない。
これは、ただの部品ではない。
部品同士の位置を決める部品だ。
骨組み。
たしかに、そう呼べる。
リッカが古紐を地面へ置いた。
「これ、結ぶのに使える。でも、燃えるし、濡れると伸びる」
説明が先に出るようになった。
良い。
かなり良い。
私は古紐を全部は取らず、短く切れた部分だけを鉤棒で寄せた。仮骨組みの一か所に軽くかける。強く縛らない。燃えるものを増やしすぎると、また危険になる。
《素材取得》
古紐:短片
用途:仮骨組み補助
注意:燃焼/湿潤伸び
これで、木片がすぐ外れにくくなった。
ただし、熱で乾くと切れるかもしれない。水で濡れると伸びるかもしれない。火には弱い。
完璧ではない。
だが、仮としては十分。
私の体は、仮の積み重ねでできている。
それが少しだけ、形になってきた。
《第33話リザルト》
問題:放熱板の位置ずれ
試作:桶木片による仮骨組み
失敗:張り出しによる可動干渉
改良:三角配置
新規理解:骨は重さではなく形で支える
取得:古紐短片
改善:放熱板保持/重心安定/連続稼働
未解決:燃焼リスク/湿潤伸び/骨組みの展開収納
骨ができた。
桶の破片だけど。
胸核部の次が桶骨。
進化の順番としては、かなり不安である。




