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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第四章:夏休みは修羅場
80/80

80.友の報告とダブルデート【森嶋柚子視点】

遅くなり、お待たせしてすいません。

今回で第四章:夏休みは修羅場 は終わりです。


 柚子は興奮して叫んだ咲良を、驚きの目で見つめた。今までこんなに感情を高ぶらせた彼女を見た事が無かったからだ。

 それにしても咲良の言った事に、柚子は首を傾げずにいられない。


『違うから!! そもそも石川君は神崎さんと付き合っていないの!』


 柚子の脳内では、咲良が王子と付き合う事になったという話は、とりあえず脇に避けられた。それよりもまず、王子と茉莉江の交際が無かったと言う事に、柚子はやっぱり納得がいかなかった。


「ちょっと待って、高校の三年間、二人が付き合ってきたのをこの目で見てきたのよ。咲良だって見ていたでしょう? それを違うというのは、無理があり過ぎない?」

 咲良の興奮振りを見て、少し冷静になれた柚子は、咲良に発言の疑問点を突きつけた。


「それが……二人はイトコ同士なんだって」

 咲良も少し冷静になったのか、今度は落ち着いた声で言葉を返す。しかしそれは余りにも説明不足で、再び柚子にとっては突っ込みどころ満載だ。 


「イトコ同士は結婚できるんだよ。だから付き合っていてもおかしくないよ」

 柚子はすかさず突っ込みを入れた。すると、咲良は再び慌てたように言い訳を始めた。


「それはそうなんだけど、神崎さんの本当の相手は石川君のお兄さんなの。石川君の女避けのために神崎さんが彼女のフリをしていたんだって」

 咲良の説明は、どうも分かり難い。石川君のお兄さんって……。それに女避けって……と、柚子の頭の中は咲良の説明を理解しようと回り出す。

 少し冷静になろうと柚子は小さく深呼吸をすると、再び咲良を真っ直ぐに見た。


「咲良、ごめん。悪いけど今度は時系列で説明して。何だかいろいろな情報がごちゃ混ぜで、よく分からないから」

「うん、ごめんね。説明するのがヘタで」

 柚子の冷静な物言いに、咲良もテンションが下がったのか、シュンとして謝ってきた。そして、そこからぽつぽつと咲良は説明しだした。


 どうやら王子は中学時代に女性不信になったらしい。その理由までは咲良は言わないが、モテ過ぎる男子にとって積極的な女子は嫌悪を通り越して恐怖にさえもなるだろうと、柚子には簡単に想像がついた。

 高校の時の王子がその被害に合わなかったのは、やはり狙い通り神崎茉莉江の存在のお陰だろう。

 そんな王子が高校三年間で女性不信を払拭し、大学で今まで知らなかった同じ出身校の咲良に目を留めるのは自然な流れなのかもしれない。

 しかし、ここで柚子が驚いたのは、咲良の兄と王子の姉の登場だ。


 (兄と姉の誤解を解くため付き合っているフリをしていた? なにそのご都合主義的展開!)


 別に付き合うフリなどしなくても、誤解を解く協力はできたのでは? と柚子は思ったが、話の腰を折る事に躊躇し、そのまま相槌を打って話を聞き続けた。

 その後の話は驚きの連続だった。

 咲良の父親が王子の父親と大学時代の友人で、Q大の保護者会で大学卒業以来の再開を果たし、その流れで王子の家のパーティに家族で参加したのだそうだ。それが今朝の茉莉江との会話だったのかと、柚子は話を聞きながら納得する。

 しかし咲良は柚子と同じ様に、王子は茉莉江と付き合っていると思っていたから、咲良の兄に参加を止められ、最初は参加しなかったらしい。


「え? 王子が迎に来たの?」


「そう、一人で自宅にいたら突然やって来て、話を聞いて欲しいから出かけようって。それで森林公園へ行って、今までの事や神崎さんの事を聞いたの。その後に、付き合って欲しいって……」

 そこまで言うと、咲良は恥ずかしそうに俯いた。柚子は咲良の言葉に一気にボルテージが上がった。


「なにそれ、なにそれ、なにそれ!!! マジで王子に告られたのぉ!!」

 そんな夢みたいなシチュエーションに、柚子は妄想の限りを尽くしもだえた。


「何だか夢見ているみたいで、まだ信じられないの。本当に本当なのかなぁ」

 頬杖をついて、どこかボーと天井の方を見ている咲良に、少しイラッとした柚子は咲良の頬に手を伸ばした。


「信じられないのなら、私が頬を抓ってあげる」

 そう言うと柚子は思いっきり咲良の頬を抓った。


「痛ーい!」


「そうでしょ、そうでしょ。皆の憧れの王子を独り占めするんだから、ファンの皆の心の痛みを受け取りなさい」

 涙目の咲良に、柚子は笑って言った。そして咲良も恥ずかしそうに笑った。


「良かったね、咲良。初彼が王子だなんて、羨ましすぎるぞ」


「そうだよね。何だか恐れ多くて。私にはもったいないよね。でも、すぐに飽きられちゃうかも」

 咲良のネガティブ発言に、柚子は再びイラッとした。


「何バカな事を言っているの。王子の事を信じられないなら、付き合うのをやめた方が良いよ。王子が可哀想だよ。そんな事を言う咲良は応援しない」

 柚子は腹が立った。皆の憧れの王子から告白されたと言うのにと思ったが、咲良の性格を考えると仕方ないのかもしれない。


「ご、ごめん。そんなつもりじゃないんだけど、やっぱり信じられなくて……」


「そうだね。私も信じられないよ。咲良は見ているだけで良いなんて言っていたけど、その欲のない所が王子の心に響いたのかもね」


「そうなのかな?」


「それに、王子を追いかけてQ大の受験を突破しちゃうぐらいだもの、その一途さに参っちゃったんじゃないの?」


「いや、あの、その……石川君にも、そんな事言われたような……」

 俯いてもじもじと恥ずかしそうに言う咲良を見て、柚子は心から安堵した。

 本当の所、Q大まで追いかけて行ったのはいいが、咲良では王子の恋愛対象にはならないだろうなと、柚子の中の冷静な部分では思っていた。それでも、見ているだけだった咲良が、同じ大学へ行く勇気を出した事が嬉しくもあり、羨ましくもあった。


 (私も頑張って圭吾と同じ大学を目指せばよかった)


 柚子は恋人と同じ大学へ行く事を、自分の成績を見て、早々に諦めた。それでも同じ地域の大学だからと自分に言い訳していた。

 少し苦い思いを胸の中に隠して、柚子は咲良の幸せを喜んだ。


「それで、今度、王子に会うのはいつなの? 私にも紹介してくれるよね?」

 

「今度の日曜日にドライブに行こうって……。でも、紹介って?」


「ドライブ! 良いわね。王子も免許を取ったのね。じゃあ、私も圭吾と同じ所へドライブに行くから、友達だって紹介して。ダブルデートをしよう」

 柚子はワクワクしながらお願いする。咲良は驚いた顔をして「ダブルデート」と呟いている。

 柚子は高校の時から、咲良とダブルデートがしたかった。圭吾の友達を紹介した事もあったが、誰とも咲良は付き合う事を了解しなかった。だから、やっと念願のダブルデートができるのだ。 


       *****


 9月最初の日曜日、柚子と咲良はそれぞれの彼氏の車で、虹ヶ岳のロープーウェイの乗り場に集まった。

「初めまして、じゃないけど、咲良の友達の森嶋柚子です。同じ高校だったけど、私の事は知らないですよね?」

 柚子は駿を前にして、やけに馴れ馴れしく挨拶をした。


「ごめん。柴田の事は分かるけど、女子は同じクラスでもあやしいかも」

 駿は謝ると、正直に答える。


「久しぶりだな。一年の時に同じクラスで話をしたぐらいだよな。山野と付き合っているって聞いて、驚いたよ」

 圭吾は事前に柚子が説明した時、冗談だと思ってなかなか信じなかった。本人達が二人で一緒にいるところを見て、やっと信じられたようだ。


「そうだろうね。高校の時はまったく知らなかったから、自分でも驚いているよ。でも、これからは宜しく」

 駿はそう言うと、爽やかな王子スマイルを見せた。


「こちらこそ。咲良は恋愛初心者だから、泣かせないようにしてね」

「ゆ、柚子」

 柚子は駿に会ったら絶対に言おうと思っていた言葉を告げると、咲良が驚いて咎めるように柚子の名を呼んだ。


「もちろん、泣かせるわけないだろ。じゃあ、行こうか」

 駿はそう言うと、咲良の手を取りロープーウェイの切符売り場へと歩いて行った。

 手を引いて歩いて行く駿と恥ずかしそうに付いて行く咲良の後姿を見て、柚子と圭吾は顔を見合わせた。


「なんだか初々しいね」

「ホント、俺達も手を繋ごうか?」

「ふふっ、もちろん」

 柚子と圭吾は笑いあうと、同じように手を繋いで切符売り場へと向かった。


 




 


次回から最終章になります。

しばらく書き溜める時間を頂き、再開したいと思います。

どうぞ宜しくお願いします。

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