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第4話 前世で経験のない出来事!?

 ーーゲームの知識。


 それが、わたくしにとって最大の武器だった。


 誰が敵なのか。


 どの事件が起きるのか。


 誰を警戒すればいいのか。


 前世の知識が、わたくしを何度も救ってくれた。


 けれど、この事件にはその知識がない。


 つまり、これから先、何が起こるのか――誰にも分からない。


「……でしたら」


 ヴィンセント様が口を開いた。


「調べるしかありませんね」


「まあ」


「何か?」


「いえ。もう少し心配してくださるかと思いましたの」


「していますよ」


「本当ですの?」


「ええ」


 ヴィンセント様は真顔だった。


「だから、私も同行します」


「……」


「何か?」


「いえ」


 胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなる。


「頼もしい方ですこと」


「今さらですか?」


「ふふ。では、頼りにしておりますわ」


「お任せください」


 その時だった。


「もう一つ、報告があります!」


 部下が慌てた様子で声を上げた。


「何です?」


「今朝、隣国から大量の小麦が王都へ運び込まれています!」


 ヴィンセント様の表情が変わる。


「どれほどだ?」


「王都の――およそ三か月分です......!!」


「三か月分……?」


 わたくしは思わず立ち上がった。


 国内では小麦が不足している。なのに、隣国から大量の小麦が入ってきた。

 

 一見すれば、救援に見える。


 けれど......


「……おかしいですわ」


「個人的な見解ですが、私もそう思います」


 ヴィンセント様が頷く。


「なぜ、今なのか.......」


「それに――」


 わたくしは書類を見る。


「どうして、こんなに大量の小麦を持っているのでしょう」


 国内の買い占め、異常な価格高騰、そして、隣国からの大量輸入......

 


 まるで最初から――。

 

 すべてが一つの計画として繋がっているようだった。


「.......王都へ行きましょう」


 わたくしは立ち上がった。


「今からですか?」


「ええ」


「朝食の途中ですが、それは......」


「食事なら馬車で召し上がればよろしいでしょう?」


「まったく........あなたは本当に令嬢なのですか?」


「失礼ですわね。わたくしほど令嬢らしい令嬢もそうはいませんわ」


「それはどのあたりが?」


「……これから探すこととしますわ!」

 

 ヴィンセント様が吹き出した。


「ふふっ……」


「笑うところではありません!」


「ふっ......申し訳ありません」


 体裁上は謝っているものの、その目には楽しそうな光が浮かんでいた。


 こうしてわたくしたちは、王都へ向かった。

 

ーーー


 そして、中央市場へ到着した瞬間、私たちは驚くこととなる。異様な光景が目に飛び込んできたのだ。


「小麦がない!」


「昨日まではあったじゃないか!」


「値段が倍だぞ!」


「子供に食べさせる分くらい残してくれ!」


 市場は、人々の怒号と不安で満ちていた。

 

 わたくしが馬車を降りた、その瞬間、市場の中央に置かれた掲示板に、一枚の紙が貼られていることに気づいた。


「……あれは?」


 ヴィンセント様も目を向ける。


 紙には、たった一文だけが記されていた。


 ――『三日後、王都から食料が消える』。


 背筋に、冷たいものが走った。


「ヴィンセント様、これは……偶然ではありませんわ」


「ええ、誰かが王都の人間を意図的に煽っています」

 

 わたくしは紙を剥がし、その裏側を確認する。


 ――何もないただの紙。

 

 けれど......


「……待ってください」

 

 わたくしはもう一度、表面を見た瞬間、気づく......文章の最後。普通なら句点があるはずの場所に――。

 

 小さな白百合の紋章が描かれていた。


「……白百合?」


 思わず呟く。


 『白百合の誓い』。


 ゲームのタイトルにも使われている花。


 けれど、この世界で白百合を象徴として使っている組織など、わたくしは知らない。


 ヴィンセント様が低い声で尋ねた。


「何か心当たりが?」


「……ありませんわ」


 わたくしは初めて、自分の知識にないものを前にしていた。

 

 ゲームに存在しない事件。


 ゲームに存在しない組織。


 そして――。


 ゲームのタイトルと同じ、白百合の紋章。


「ヴィンセント様、わたくし……少しだけ、考えを改めますわ。この世界は、わたくしが知っているゲームの世界ではないのかもしれません」」


 わたくしは白百合の紋章を見つめた。


「……では?」


「ゲームのほうが――」


 そこで言葉を切る。

 

 胸の奥に、ぞくりとした感覚が走った。


「この世界の、ごく一部しか知らなかったのかもしれませんわ」


 もしそうなのだとしたら、わたくしが前世で知っていた物語は、一体何だったのだろう。

 

 誰かが意図的に隠していたのか。


 それとも――ゲームに描かれなかった場所で、ずっと別の物語が動いていたのか。


「……面白いではありませんか」

 

 恐怖より先に、好奇心が勝った。


 わたくしは白百合の紙を折りたたむ。


「だったら、調べてみましょう」


「どこまで?」


「もちろん、全部ですわ」


「相変わらず欲張りですね」


「ふふふ、一旦は褒め言葉として受け取っておきますわね」


 ヴィンセント様が微笑む。


「では、参りましょうか」


「.....ええ」


 わたくしは彼と並んで歩き出した。

 

 だが――


 その時のわたくしは、まだ知らなかった。


 この白百合の紋章が、やがて王国中を巻き込む巨大な陰謀の入口であり――。


 そして何より、わたくし自身の「前世」にまで繋がる、最初の手掛かりになることを。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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 まだまだ書きたいことがございますので、よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!


 それでは、また次のお話でお会いしましょう!

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