第24話 私の逃げ道がなくなりました!?
それから数日。
武器の出所については、まだ決定的な証拠が見つかっていなかった。
ただ、いくつか分かったことはある。
武器を運び込んだのは、白百合の印を使っていた商人たちと同じ流通経路だった。つまり、小麦の買い占めと武器の搬入は、別々の事件ではない可能性が高い。
けれど、ヴィンセントはその話をするときでさえ、わたくしの顔色を確認していた。
「……そんなに心配そうな顔をしないでください」
「していますか?」
「していますわ」
「.......それは失礼しました」
「反省していませんね」
「あなたが心配してくださるのが、少し嬉しいので」
「もう……」
最近の彼は、以前にも増して遠慮がない。それでも嫌ではないのだから、自分でも困ってしまう。
その日の午後、わたくしたちは王都の宝飾店を訪れていた。
「どうして宝飾店なのです?」
「理由はあります」
「事件とは関係なく?」
「ええ。今日は完全に別件です」
店の奥へ案内される。
するとヴィンセントは、店主に小さく頷いた。
「以前お願いしていたものを」
運ばれてきた箱を見て、わたくしは目を瞬いた。
「これは……」
中に入っていたのは、細身の指輪だった。
白い花を模した小さな意匠が施され、中央には淡い青色の石が嵌め込まれている。
「綺麗……」
「あなたに似合うと思って」
「わたくしに?」
「ええ」
ヴィンセントは少しだけ照れたように笑った。
「正式な婚約の証として、贈りたかったんです」
胸が大きく鳴った。
今までわたくしたちは、周囲から見ればほとんど婚約者のような関係だった。
けれど、正式な約束はまだしていない。
「……わたくしに、選ばせてくださらないのですか?」
「もちろん選んでほしいですよ」
彼は指輪を箱から取り出す。
「私が勝手に決めたくなかったので、今日は一緒に来てもらいました」
「そういうところは、きちんとしているのですね」
「あなたの人生に関わることですから」
その言葉が嬉しかった。
わたくしは指輪を見つめ、それから彼を見る。
「これをいただいたら……わたくしは、本当にあなたの婚約者になるのですね」
「嫌ですか?」
「いいえ」
自分でも驚くほど、素直な声が出た。
「……嬉しいです」
ヴィンセントの目が柔らかくなる。
「では、決まりですね」
彼がわたくしの左手を取る。
指輪が指に通される。
ほんの少しひんやりしていたはずなのに、すぐに体温に馴染んでいった。
「よく似合っています」
「ありがとうございます」
「これで、私が堂々とあなたを大切にしても問題ありませんね」
「今までも十分すぎるほど大切にされていましたけれど」
「まだ足りません」
「……まだ?」
「ええ。私は欲張りなので」
彼は笑った。
「あなたと過ごす時間を、少しずつ増やしていきたい。嬉しいことがあったら一緒に喜んで、辛いことがあったら一緒に考えて、何でもない一日を何でもないまま大切にしたいんです」
その言葉を聞きながら、わたくしは指輪にそっと触れた。
「……未来を約束するというのは、少し怖いことだと思っていました」
「今も怖いですか?」
「少しだけ」
「なら、怖いままでいいですよ」
彼は優しく続けた。
「未来が約束されたから安心するのではなく、何が起きても一緒に向き合う人がいるから安心できる。私は、そんな約束がいいと思っています」
その言葉に、胸が締めつけられる。
「ヴィンセント.......わたくしも、その約束がいいです」
彼は何も言わず、ただ微笑んだ。
帰宅すると、使用人たちはわたくしの指に気づいて大騒ぎになった。
「まあ!」
「ついに……!」
「おめでとうございます!」
「ちょっと、皆さん!」
顔が熱くなる。
ヴィンセントはそんなわたくしを見ながら、楽しそうに笑っている。
「ヴィンセント、笑っていないで助けてください」
「申し訳ありません。あまりにも嬉しくて」
「もう!」
その夜、指輪を眺めながら、わたくしは一人で窓辺に立っていた。
ゲームの中に、こんな未来はなかった。
誰かから指輪を贈られる場面も。
誰かと未来を約束する場面も。
つまり、これは完全にわたくし自身が選んだ未来だ。知っている未来ではなく、自分で選んだ未来。それが、こんなにも嬉しいものだとは思わなかった。
そのとき、扉が軽く叩かれた。
「エヴァンジェリン、まだ起きていますか?」
「ええ」
「では、少しだけ話しませんか」
扉の向こうから聞こえる声に、自然と笑みが浮かぶ。
「……はい。わたくしも、ちょうどあなたと話したいと思っていました」
未来はまだ分からない。
事件の結末も、黒幕の正体も。
それでも今は、それでいい。
分からない未来だからこそ、二人で選んでいけるのだから。
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