第23話 私の婚約者は朝から甘すぎます......!?
地下通路で武器を発見した翌朝。
わたくしはいつもより早く目を覚ました。
昨夜の光景が、まだ頭から離れない。
古びた地下通路。
白百合の印。
そして、整然と並べられた大量の武器。
あれだけのものが、誰にも知られないまま王都の地下に隠されていたのだ。
ベッドから起き上がり、窓を開ける。
朝の空気は冷たく、庭では使用人たちがいつもと変わらない様子で働いている。鳥の声も聞こえるし、焼きたてのパンの香りも漂ってくる。
世界は、何も変わっていないように見えた。けれど、わたくしの中では確実に何かが変わっていた。
「……考えすぎかしら」
「何がです?」
「きゃっ!」
突然背後から声がして、わたくしは肩を跳ねさせた。振り返ると、そこにはヴィンセントが立っている。
「……どうして朝から私の部屋にいるのですか」
「あなたが朝食を抜いて、勝手に仕事を始めるのではないかと思いまして」
「まだ何もしていませんわ」
「昨日のあなたを見ていると、信用できません」
そう言いながら、彼は小さな盆を持っていた。
そこには紅茶と、焼きたてのパン、それからわたくしの好きな果物が並べられている。
「……これは?」
「朝食です。部屋まで運ばせました」
「使用人に頼めばよかったのでは?」
「私がやりたかったので」
あまりにも自然に言われて、返す言葉に困ってしまう。
「それに、昨夜は遅かったでしょう。今日は少しゆっくりしてください」
「でも、昨日見つかった武器について調べなければ……」
「調査はすでに進めています」
「いつの間に?」
「あなたが眠っている間に、部下へ指示を出しました」
ヴィンセントは椅子を引き、わたくしをそこへ座らせる。
「あなたが一人で全部背負う必要はありません。私もいますし、部下もいます。何より、あなたは昨日かなり緊張していたでしょう」
「……そんなに顔に出ていました?」
「少しだけ」
彼はわたくしの前髪を指先で整えながら、穏やかに笑った。
「でも、それでいいんです。強い人ほど、自分が平気だと思い込んでしまいますから」
「ヴィンセントは、わたくしを弱いと思っていますの?」
「まさか」
即答だった。
「あなたは十分すぎるほど強い。ただ、強いことと、一人で耐え続けることは別でしょう」
胸の奥に、その言葉が静かに落ちた。
「……一人で耐え続けることと、強さは別」
「ええ。私は、あなたが強くなくても隣にいたいと思っています」
その言葉に、胸が温かくなる。
以前のわたくしは、弱さを見せることが怖かった。
誰かに頼れば、その人を困らせる。
誰かに守られれば、自分の価値がなくなる。
そんなふうに考えていたのかもしれない。
けれど、今は違う。
「では……今日は少しだけ、甘えてもいいですか?」
「もちろんです」
「本当に少しだけですわよ」
「では、少しずつ増やしていきましょう」
「増やす前提なのですね」
思わず笑う。
朝食を終えた頃、侍女が報告書を届けに来た。
ヴィンセントが受け取って目を通す。
「昨夜の武器ですが、製造元は王都のものではありません」
「隣国?」
「そこまでは分かっていません。ただ、武器の一部に古い王国軍の刻印があるそうです」
「王国軍?」
「ええ。ただし現在使われているものではありません。十年以上前に廃棄された型です」
わたくしは眉を寄せる。
「では、誰かが古い武器を集めた?」
「あるいは、古い武器を使う必要がある人物がいる」
ヴィンセントは報告書を閉じた。
「まだ推測の段階です。だからこそ、今日はここまでにしておきましょう」
「またですか」
「ええ。またです」
彼はわたくしの手を取り、軽く握る。
「事件を解決するために生きる必要はありません。生きている中で、事件を解決すればいいんです」
その言葉を聞いて、わたくしは小さく息を吐いた。
「……あなたといると、わたくしの考え方まで変わってしまいそうですわ」
「それは光栄ですね」
「褒めているとは限りませんわよ」
「それでも嬉しいですよ」
そう言って笑う彼の顔を見ていると、不思議と不安が薄れていった。
事件は、まだ終わらない。
けれど今日くらいは、この人と過ごす時間を大切にしてもいいのだと思った。
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