ヴェステラへの帰路(中編)
荷馬車の車輪が、乾いた街道に一定のリズムを刻んでいる。
頭上には真昼の太陽。時折吹き抜ける風が幌を揺らし、陽射しの熱をやわらげてくれた。
加賀谷は帆布を持ち上げ、道の先に見える街並みをじっと見つめている。
「……戻ってきたな。自由都市ヴェステラ」
「だいぶ疲れたよ」
隣で麦藁帽子をかぶったジルが、半分眠たそうな声でそう言った。
「そういえば、別れ際にレオンさんと何を話してたの?」
「え? ああ、……レオンの。投資議会の開拓が順調なんだ。50都市くらいが議会に加わる」
「すごい数だな……。でも、カガヤさん。そもそも何で“ファンド”なんて仕組みを、最初にやろうと思ったの?」
ジルの問いに、加賀谷は幌の内側へと視線を戻す。
「理由は簡単だよ。金ってのは、信用で動く。でも昔の世界じゃ、信用は“家”とか“血”で担保されてた。貴族とか名家とか、そういう連中な」
「だから相続で受け継がれて、財産も全部身内のもんになって……って感じだよな」
「でもそれじゃ、“挑戦する奴”に金は回らない。だから、血筋じゃなくて“理念”や“企画”に金を投じられるようにした。それがファンドだ」
「つまり……応援したいって思える事業とか人に、投資できる仕組み?俺たちがソーシングの時に出会った人たちに個人単位でも支援できるってこと?」
「そう。そして投資した側には、ちゃんと利益が返ってくる仕組みも用意した。信頼と見返りの循環がなければ、信用は育たないからな」
「そっか……だから“共栄連合”って名前なんだ」
ジルがぽつりと呟いた。
加賀谷は少しだけ微笑んで、続ける。
「そして、これからやるのは――もっとでかい。“公開株式制度”ってやつだ」
「聞いたことあるけど、ファンドとどう違うの?」
「ファンドは“まとまった金”を運用する仕組み。だけど株式は、“資本そのもの”を小口に分けて、自由に売り買いできるようにする」
「えっ……じゃあ、誰でもその“株”ってやつを持てるの?」
「ああ。農民でも、異国の商人でも、可能になる。ある企業や都市、あるいは個人の“未来の儲け”を小さく切り分けて、“証”にして売る。それが株だ」
「なるほど……でもそれ、危なくない? 失敗したらお金が消えるんじゃ」
「だからこそ“有限責任”って概念が要る。出資者は、損しても出した金まで。命や家まで持ってかれる心配はない」
「安心してお金を出せる仕組み……か」
「そう。それがあるからこそ、人は挑戦に金を出せる。金は血よりも、夢に集まるようになる」
「すごいな……。血筋じゃなくて、志とか信頼で世界を作り直そうとしてるのか?」
「作り直すというより、“そういう世界”を一つここに置いてやるのさ。そしたら他が勝手に変わる」
ジルは荷馬車の天井を見上げ、しばらく黙っていた。
やがて、少しだけ照れくさそうに呟く。
「……カガヤさん、やっぱ俺は、インターンに参加してよかったよ」
「そういってくれると救われるよ」
馬車の揺れが心地よくなってくる。
加賀谷は目を閉じながら、こう思った。
――礎は撒いた。
次は、芽吹かせる番だ。
“未来を分かち合うための資本”を、いまこの地に。
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★あとがき
株式登場!
共栄連合構想がいよいよ大詰め




