夢から現、過去から未来
亜夢はある程度、昼間にできる仕事を終えて自分の部屋へ。白いエプロンだけを外して、ベッドの上に倒れるように横になる。夜も眠る事はあるが、亜夢は夢魔。本来、夢魔というのは夜行性なので、昼間に眠る事が普通だったりする。現在は亜夢のように人間に合わせた生活をしている者も多いが。
「少しだけ寝ようかな・・・?そうしたら、夕飯の準備・・・と」
亜夢はゆっくりと目を閉じる。そうして意識は遠退いていった。
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亜夢は母が死んだ時に、その場にはいなかった。その時、母と一緒にいたのは双子の兄の來夢で、その頃から來夢は他人に悪夢を見せる能力が、とても強かった。それ故か、度々、來夢は悪夢を喰う獏に襲われそうになっていた。來夢が自分の力の扱いが上手くいかずに何度も落ち込んでいるのも隣で見ていた。あとで母は幼い來夢を庇って喰われてしまったのだと異父兄の心夜から聞いた。
「そっか・・・」
あまりに突然の事で心の整理はつかなかったが、亜夢は來夢を責める事もせず、ただ、ありのままを漠然と受け入れていたようにも思える。受け入れていたというよりは、全く母が死んだという実感がなかった。來夢は來夢で、ずっと自分で自分を責め続けているのが亜夢にもわかっていたし、起きてしまった事はもう仕方がないのだと諦めていた。
「どうしよう・・・ボクのせいだ・・・ボクがちゃんと自分の力を扱えないから、母さんが・・・」
「來夢・・・そう言ったって母さんは帰ってこないんだよ・・・」
その後、しばらくして亜夢達は父に連れられて夢の中から外へと出ることになった。そして、亜夢達に愛夢という姉ができ、その後に諧夢が産まれ、しばらくして芽椏という義妹も増えて今に至るのだ。
「それでも、こうしてこの家にいる事にもなるなんて・・・昔のあたしは考えもつかないんだろうなぁ」
どうして今になって過去の断片を夢として見たのか。亜夢にはそれがわからない。別に死んでしまった母に対して未練とかがないわけではない。むしろ未練しかない。
「この時期にってのがちょっと引っ掛かる・・・あとでそれとなくご主人に相談してみましょうかね?」
そこまで気にする程ではないと思うのだが。今まで忘れていたとか、そういう事ではない。ただ、殆ど見ることのなかった過去を夢で見たから、気になってしまうのかもしれない。
「気にしないようにすると、何だか余計に気になるし・・・ちょっと困ったわ」
しばらく、このモヤモヤ感は胸の内で残っていた。
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「亜夢さん・・・今日、何かありました?」
隣で夕飯の準備の手伝いをしていたネロが不意に聞いてくる。別に聞かれてマズい事ではないのだが、一瞬、心臓がドキリと跳ねた。
「え?別に・・・何もないけど?」
「何だか少し落ち込んでいるようにも見受けられまして」
そんなに分かりやすく行動や顔に出ていたのだろうか。きっと考え込んでいたのであって、落ち込んでいるとは少し違うが。
「まぁ、珍しく夢を見たって事だけかな」
「それは確かに珍しいですね?」
ネロは特に亜夢の見た夢の内容には触れてこない。内容を聞いたところで、ネロ自身がどうこうできるものではないのが解っているのだろう。
「何かその見た夢で気になるようであれば、主に相談されてみては?」
「うーん・・・あんまり気にする事ではないような感じはするんだけどね?だって、夢だし?」
「それでも誰かに話すことで、何かつっかえていたものがなくなる事もありますからね」
「そうするわ・・・ありがと」
その後、ネロからは《窓口》も少し、亜夢の様子を気にかけているような素振りがあったと教えられた。本当に彼女は何もかもがお見通しなんだな、と亜夢は苦笑した。
「あの方はいつもそうです」
「知ってる」
《窓口》は何かわかっていても、自ら進んで亜夢達の事には口も手も出さない。それは亜夢達の考えや行動を尊重してのこと。手助けを求められれば、ちゃんとそれに応じてくれる。ただ、今回は考えすぎて周りが見えていなかったようで。それをも見通した上で、それとなく彼女がネロに伝えていたのではないか。
「単に護と家に帰ってきてから、亜夢さんに何かあったのかを聞かれただけですよ?」
「あー・・・心配かけちゃってたか・・・」
「そういう細かい変化も敏感に感じ取られる方ですからね」
それなら夕飯の後にでも相談するか。亜夢はそう考えて、作業の手を進めた。
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《窓口》の部屋のドアを軽くノックする。中から返事があったので静かにドアを開け、中へ。
「ご主人」
「どうしました?亜夢ちゃん」
「少し相談が・・・」
「どうぞ」
部屋の主である《窓口》はにっこり笑うと、向かいのソファーに亜夢を勧めた。きっと彼女の事なので、内容は聞かずとも解っているのだろうけれど。
「珍しく夢を見たんです」
「・・・夢ですか」
「それも、亡くなった母の」
話を聞く彼女は真剣そのもの。例え、その話がそこまで重要な事ではなくとも。
「なるほど」
「別に忘れていたとかではないんです・・・でも、どうして今になってなのかと」
「特に理由はないのかもしれないけれど、無意識のうちに憧れみたいなのがあったのではないのですかね?」
「憧れ?」
《窓口》の言葉に亜夢は首を傾げる。
「ほら、成人式の日が近いでしょう?中には両親と共に歩く子達も街にいるでしょう」
「それはそうですね」
「普段は特に意識はしていなくても特別な日が近いというだけで目が行く・・・亜夢ちゃんにはお母様がいらっしゃらないから、もしかしたら羨ましかったのかもしれないですね?」
「羨ましい・・・確かに、そうかもしれませんね」
だから今になって、懐かしい母を夢で見たのか。
「もしかしたら、これからに目を向ける良い機会なのかもしれませんね」
「・・・これから?」
「そう、これから先の未来の話ですよ」
何となくだが《窓口》に話した事で、胸の内がすっきりした気がする。
「自分がどう在りたいか、それを考えるには良いのかもしれませんね」
「・・・ありがとうございます、ご主人」
亜夢は一礼すると、少し上機嫌で部屋を出た。静かになった部屋で、小さく《窓口》は誰に言うでもなく口を開いた。
「大丈夫ですよ、亜夢ちゃんのお母様はちゃんとキミを見守ってくれていますから」




