表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
亜夢の追憶
100/225

未来を見据える蝶

成人式当日。各地で綺麗に正装した若者達が町を歩いていた。


「うふふっ、あたしがメイド服以外の格好で外に出るなんて・・・一体、何年振りでしょう?」

「うーん・・・確か、亜夢ちゃんがこの家に来てからは、ずっとメイド服でしたよね?」


亜夢は普段のメイド服ではなく、紅い振袖を着ている。ツインテールにしている藤色の髪も、今日は簪を着けたりしていて少し派手な印象を受ける。


「今日はこれで町を歩いても、全く違和感はありませんね」

「普段と違うから、慣れるまでに少し時間かかりそうですね?」

「ふふっ、でもそれは今日だけですからね」

「そうですね・・・それではご主人、行ってきますね!」

「はい、行ってらっしゃい」


嬉しそうに家を出る亜夢を《窓口》は笑顔で見送った。



  ✡



町の北部の一角にある、一軒のキャバクラ。ここは姉である愛夢が経営をしている。だが元々は愛夢の母の店。


「あら、亜夢ちゃん」

「姉さん、お店の手伝いにきたよ」

「とても綺麗な振袖ね」

「でしょう?」


嬉しそうに話す亜夢に、愛夢も思わず笑みが零れた。


「姉さん、今日は兄さん達はいないの?」

「シンくんはお仕事、來夢くんも今日はそのお手伝いよ」

「なんだ、てっきり兄さん達ももういると思ってたのに」

「向こうのお仕事が終わったら来るって、シンくんは言ってたわよ」


少し残念そうな亜夢に、愛夢は笑顔のまま、そう告げた。愛夢の言う通り、兄の心夜(しんや)來夢(らいむ)はスーツ姿で来た。途中で会ったのか、諧夢(かいむ)芽椏(めあ)も一緒だった。一応、諧夢と芽椏は兄妹ではあるが、子供をキャバクラに連れこむのはどうなのだろうか。


「久しぶりかな?」

「何を言ってるのよ?兄さん、お正月に会ったじゃないの」

「いや・・・メイド服姿じゃない亜夢が、だよ」


瑠璃色の眼を細めて笑う心夜に、一瞬だけ亜夢はドキッとする。どことなくそこには母の面影があったのだ。心夜の仕事は悪夢などによる睡眠障害に困っている人達の救済。言い換えれば、夢魔による夢の中からの殺戮が必要以上に起きないように監視と管理をしている。


「母さんがいたら、何て言うんだろうな?」

「來夢、いきなりどうしたのよ?そうは言っても、もうあたし達の母さんはいないのよ?」

「わかってるよ、でも何となくそう思ったんだ」


そんな双子の様子を愛夢と心夜は、なんとなく悲しそうに見ていた。



  ✡



──亜夢がこの家に来たのは、愛夢と諧夢の母が巻き込まれた事件のすぐ後の事だった。


「あたしをこの家に置いていただけませんか?」

「別にそれはいいのですが・・・またどうして?」


亜夢が《窓口》を選んだのは、ただ単に愛夢と諧夢の母が亡くなった事件の犯人を捕まえた魔術師が彼女だったからという理由だったのだが。それに、独り立ちもしたいという考えもあった。血の繋がりはなくても、亜夢にとっては尊敬する母だった。


「どうしましょうね?真夜(マヤ)

「今、亜星(あかり)さんも家出中でここにいますしね・・・」

「彼女のお家の人がなんて言うかにもよりますよ?」


この事に関しては亜夢は、心夜には相談していた。兄妹の中でも一番しっかりしてるし、亜夢がそう決めたのならと心夜は止めなかったのだが。料理とか家事は愛夢が基本的に共働きの両親に代わってやっていたが、亜夢も手伝いをしていたし、その辺りも心配ではなかったようだ。


「うーん・・・それなら、しばらくはここにいてもいいんじゃないですか?あたしも話相手ができますし」

「お家の人と真夜達がそう言うのならいいですよ、それならわたしが口を出す事ではないので」


《窓口》はなんとなく観念したような感じだったが、それから亜夢は《窓口》の家に居候することになった。亜夢がメイド服を着るようになったのは、たまたま今使っている部屋に一着だけあったのを見つけたので、なんとなく着てみたのが始まり。


「あ、この服いいな」


それからは鏡花が来るまでは、既製品を自分で買っていた(少し亜夢自身で手は加えている)。正直、既製品より鏡花の作ったメイド服の方が動きやすいし、自分の趣味にも合っているのだが。ふと、亜夢が過去のことを思い出していると、愛夢が突然、亜夢に話を振ってきた。


「亜夢ちゃん、もし良ければなんだけれど」

「何?姉さん」

「亜夢ちゃんは、これからどうしたいかとかってある?」

「うーん・・・そうねぇ・・・」


亜夢は少しの間、目を閉じて考える。すぐに思い浮かぶのは、幼い頃の自分の母の姿。


「あたし達の母さんみたいな、夢魔になれるといいな」

「それは素敵な未来ね」


亜夢の言葉に愛夢は、嬉しそうな笑顔を見せた。



  ✡



愛夢の仕事の手伝いの休憩中に、芽椏が亜夢のところへやってきた。


「亜夢お姉ちゃん」

「あら、芽椏ちゃん、どうしました?」

「あのね、亜夢お姉ちゃんと來夢お兄ちゃんのママってどういう人だったの?」


亜夢と芽椏は年齢が15近く離れている(諧夢とは10違う)。まぁ家庭の事情が事情なので、芽椏が亜夢達の母を知らないのも無理はないが。もちろん、愛夢と諧夢の母の事も知らないだろう。


「あたし達の母さん、か・・・兄さんに聞いた方が早いと思うけれど」

「心夜お兄ちゃん、今、愛夢お姉ちゃんとお仕事してるの」


芽椏は亜夢達に母親がいないのは知っているが、どうしていないのかまでは知らない。隠しているつもりはないのだが、あまり話題にはならなかった。


「それじゃあ仕方ないわね・・・髪は兄さんと同じ色をしていたわ、見たいなら家にアルバムがあったとは思うけど」

「じゃあ、お家に帰ったら心夜お兄ちゃんと探してみる」

「うん、そうした方がいいわ」


芽椏はそれを聞いて、諧夢に呼ばれて來夢に連れられ、一緒に家に帰った。


「芽椏ちゃんは姉さん達にも聞いているのかしら?」



  ✡



丘の上の家に帰ってから亜夢は、自分の部屋で振袖からいつものメイド服に着替える。振袖は七海が脱ぐのを手伝ってくれて、そのまま持っていった。


「やっぱり、この格好が今はしっくりきますね」


姿見に写る、メイド服の自分。今はこれが自分らしい自分のあり方だ。藤色の髪を櫛で()く。腰より少し長いストレートの髪をリボンでまとめ、ツインテールにする。


「母さんも結構、長いストレートだったわね・・・でも、そろそろ少し切ろうかな」


動く度に揺れる髪。伸ばしていたのは、なんとなく自分の母を意識していた気がする。


「さて、お仕事しないとね」


机の上に置かれた写真立て。亜夢は一度その写真に向かって、にっこり笑って部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ