断片的な夢
《窓口》は鍵を使い、自宅の玄関のドアを開ける。ドアの向こう側は、神社の石段の前だった。
「さぁ、行きましょうか」
にっこり笑って《窓口》は石段を上がっていく。護もその後に続く。
「あらあら、二人で突然、どうされました?」
石段を上がった先、神社の境内を掃き掃除をしていた七海が、二人に気付いて、柔らかい笑顔を向ける。
「七海、神社に振袖ってありましたっけ?」
「またまた、突然に・・・お嬢が着るのですか?」
「わたしではなくて、亜夢ちゃんが着てみたいらしいのですが」
「あら、そうでしたの?」
相変わらず笑顔を崩さずに、七海は、んー、と考えている。どちらかと言うと、どこに仕舞ったかを思い出しているようだ。
「確か・・・タンスに仕舞ってあったと思いますわ、お嬢の紅い振袖」
「あるんだ、振袖」
「ふふ・・・護くん、もしかしたら、またお嬢も着るかもしれないでしょう?」
「あ・・・そっか、そういう・・・」
七海の言葉にボソッと呟いた護に、七海は笑顔で護に耳打ちする。護は納得したようだが、その様子を見ていた《窓口》は首を傾げていた。
「振袖はわたしが探しておきますわ、もし、着るのなら・・・帰ったら亜夢ちゃんにも、わたしから話をしておきましょう」
「いいの?」
「別に構いませんわ」
「良かったな、しぃ」
七海達も他にやる事があるだろうと、護と《窓口》は神社を後にした。
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《窓口》と護はそのまま家に帰っても暇なので、町を歩いていた。
「成人式か・・・毎年、何かしらやらかすのがいるよな」
「浮かれるのは解りますけどね」
「全く、こういうのを相手にする方の身にもなってほしいもんだ」
「本当にお疲れ様です」
護の愚痴に《窓口》はただ笑っているだけだった。
「成人式もいいけど、受験生は大変ですよね」
「今、そっちは受験生を二人抱えているんだっけか」
「そうですね」
「受験生が大変なのは、人も妖魔も同じなんだな」
「ですね」
《窓口》には、他にも悩みの種があるような表情だったのを、護は見逃さなかった。
「お前にしては珍しく、悩み事があるみたいだな」
「悩み事っていうよりは、リオの事ですね」
「最近は人形を使った呪術を調べてるんだって?」
「まぁ、調べているだけで家の中で試すような事は、まだしていませんけどね?」
そのまま《窓口》は特に何も言わない。護は彼女に、前々から気になっている事を口にした。
「なぁ・・・前にも聞いたけど、リオちゃんって何者なんだ?」
「リオ本人は人形だって言ってますけどね」
「ふーん、人形ね・・・じゃあ付喪神なのか」
「いえ、混沌です」
何だか話が噛み合わず、護は少し頭をひねる。《窓口》本人としては、ただ事実を言っただけなのだが。
「混沌ってどういうことなんだ?」
「簡単に言えば、黒くてドロドロしたモノかしらね?」
「は?」
「リオの『見た目』はともかく『中身』が、ですが」
《窓口》が説明をするが、護には理解ができないらしい。これ以上の詳しい説明を《窓口》もできないので、仕方ないが。
「んー?だから、再生能力が普通の妖魔よりも高いのか?」
「それはちょっと違いますけど、半分は当たってますね」
「半分かよ」
これ以上は護も、リオネットの正体を《窓口》に聞いても、わからないと判断したようだ。
「じゃあ、もう一つ」
「まだあるんですか?」
「いつ、どこでリオちゃんと出会った?」
「ええと・・・どこだったかしらね?」
「それは、はぐらかしてるのか?本当に覚えていないのか?」
「キミはどちらだと思います?」
なぜか質問に質問で返す《窓口》。困ったような《窓口》の問いかけに、護は答えない。そのどちらの可能性も、護には否定できないからだ。否定もできなければ、肯定もできない。
「これだから箱の中の猫は」
「ふふっ、箱の中の猫は黙って観測者が箱を開けるのを待つのみなのですから」
「その箱の『鍵』はどこにある?」
「それを探すのが《異端審問官》の仕事なのでしょう?」
「探してても猫が隠してたら、見付かるモノも見付からねぇよ」
護の呆れた反応に《窓口》はただ、楽しそうに笑っている。
「過去の断片からでしか、真実の『鍵』は見付かりませんよ?」
「その過去さえも、お前は書き換えてやがる癖に」
そんなことを歩きながら話していたら、二人は協会の建物の目の前まで来ていた。
「このまま歩くのと鍵を使うの、どちらがいいですか?護くん」
「ん?お前の好きなようにすればいいよ、俺はついていくだけだしな」
「ちょっと、疲れてしまいまして」
「なんて言うか、お前って戦闘以外では柔弱だな」
「あくまでも、わたしは人間なのですけど?」
「知ってる」
《窓口》の、少しだけ拗ねたような言葉に護は笑う。
「いくらわたしが魔術師だからといっても、身体的には普通の人間と、さほど変わらないんですよ?」
「悪かったって、だから機嫌を直してくれよ、しぃ」
護は《窓口》をからかっているつもりはないのだが、どうしてもその反応が可笑しく映るらしい。
「あんまり酷いと、もうキミが持ってくる事件に一切、協力してあげませんからね?」
「はいはい、ごめんな」
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鍵を使って家に戻ると亜夢がいたので、七海から振袖があれば話が来るだろうという事を伝えた。
「ありがとうございます、ご主人」
「ところで、あの二人は?」
「諧夢と芽椏ちゃんですか?あの二人なら先程、家に帰りましたよ?」
《窓口》の疑問にすぐに答える亜夢。亜夢の返事に、彼女はそうですかとだけ呟いて、自分の部屋へ。護もそれに続いた。




