表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
亜夢の追憶
97/225

過去の断片

──ふと亜夢が周りを見渡すと、懐かしい光景が広がっている。それはまだ幼い頃。こうして夢の中で過ごしていた日々。


「亜夢、どうしたの?」


懐かしい声。振り向くと声の主の菖蒲色の長い髪が風で揺れる。優しい眼差しで母が自分を見下ろしていた。


「・・・お母さん?」


その瞬間、亜夢は理解してしまった。あぁ、そうか、これは夢だ。それも、まだ母が生きていた時の夢。


「あたし、もう行くね」


目を開けると、そこは今では見慣れた天井。


「まさか母さんの夢を見るなんて・・・ね」


本来ならば夢魔は夢を見せる側の存在。滅多に自分が夢を見ることはないのだ。それなのに珍しく夢を見た。時計を見るとまだ夜明けには程遠い。


「・・・何事もなければいいのだけれど」


一抹の不安を抱えつつ、亜夢は再び眠りについた。



  ✡



一月も中旬のある日。《窓口》の自室には彼女と護がいた。偶然にも護は仕事が休みだというので暇だったらしく、遊びにきたらしい。


「しぃ?忙しいならさ、そう最初に言ってくれよ」

「え?わたし自身は、別に忙くはないのですよ?だって、ただ手紙を読んでるだけですし」

「それだって、この量だぜ?」

「これは、少しサボっていましたしね・・・」


サボってたと《窓口》は言うが。その期間は護達の依頼で、とある女子校に行ってもらっていた為で。遊んでいたのではないので護もそこには何も言わない。だが、護の目の前で読んだ手紙を無慈悲に次々とボックスに放り込むのは、どうなのか。


「その手紙の山ってどうなるんだ?」

「協会に持っていったとしても、大した依頼にもなりませんからね・・・勝手にこちらで処分してますけど?」

「そうなのか」


《窓口》がそう言うのだから、部外者の護が口出しする事ではないが。彼女がのんびりと護と話ながら手紙を読んでいると、突然、家のインターホンが鳴った。


「お邪魔しま〜す」


ドアの向こうから元気の良い、少年の声がする。そして、少ししてから勢いよく部屋のドアが開かれた。


「こんにちは〜♪」

「あら、諧夢(かいむ)くん、今日は芽椏(めあ)ちゃんも一緒なんですね」


二人が視線を向けると、そこにいたのは亜夢の弟と妹だった。諧夢は桃色の髪に、真珠色の眼の夢魔(インキュバス)の少年。

芽椏は菫色(すみれいろ)の髪に、紫水晶の眼の悪夢(ナイトメア)の幼女だ。亜夢ほどの長さではないが(亜夢はツインテールにしていても腰の辺りまである)、芽椏もツインテールにしている。


「あれ?亜夢お姉ちゃんは?」

「今は買い物に行ってますよ」


芽椏の言葉に《窓口》は笑顔で答えた。ただし、その作業の手は止めてない。


「で、今日は二人でどうしたんだ?」

「ボク達はただ遊びにきただけだよ」


今度はニコニコと諧夢は護の質問に答えた。


「二人には、家には仕事中と迷惑になる時間以外なら、いつでも遊びに来ていいとは、わたしからも言いましたからね」

「そうだったのか」


でも今日は二人共、亜夢に用があるらしい。きっと成人式が近いから、愛夢辺りからのお使いも兼ねてだろう。


「そろそろ亜夢ちゃんも帰ってくるとは思いますし、それまでは二人共、こちらにどうぞ」


《窓口》の言葉に、二人は頷いた。



  ✡



もう成人式の時期か、と街を歩きながら亜夢は思い出す。

──正直な話、魔物や妖怪といった人外に、成人といった概念はない。というのも、妖魔達の成長速度というのはまちまちで、それこそ五百年とか長い年月が経っても幼稚園児並みにしか成長していない者もいれば、一応、成長は人と同じようにするが、そこから老いるまでが緩やかになる者もいる。それに、七海や八雲みたいに、千年近く経っていても若い姿をとるのもいるし。だから、二十歳で大人と言われたところで、妖魔達にしてみれば、上には上がいるし、二十歳ではまだまだ子供なのだ。まぁ、人間は寿命が短いので、それでもいいのだが。ちなみに亜夢は成長も遅ければ、老いも緩やかなタイプ。夢魔なので、実質、夢の中でなら老いる事はほぼないように思うが。


「振袖・・・綺麗だなぁ」


正直、一度は振袖は着てみたいとは思う。毎年、この時期になるとそう思うことが多々あって。あまり口には出さないが。


「まぁ今年も、姉さんのお店の手伝いかな・・・確か、今年入ったお店の()にも何人か人間の娘がいたはずだし」


そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか普段出入りしている、丘の上の家に着いていた。


「ただいま帰りました」


ドアを開けると、見知った靴が二組。どうやら弟と妹が遊びに来ているようだ。


「おかえりなさい、お姉ちゃん」


亜夢の帰りに反応して、自分の主人の部屋から、妹の芽椏が嬉しそうに出てきた。


「あら、芽椏ちゃん、いらっしゃい」

「エヘヘ、遊びに来ちゃった」

「今日は諧夢も一緒なのね?」

「うん、でも諧夢お兄ちゃんは《窓口》のお姉ちゃんのお部屋にいるの」

「そうなの?別に二人共、あたしの部屋に居てもよかったのに」


きっと彼女のことだ。亜夢が帰ってくるまではと、部屋に居てもらっているのだろう。亜夢はドアをノックして部屋に入る。相変わらず《窓口》はソファーで手紙を読んでいるし、護も特に何もないのか、諧夢と話してた。


「おかえりなさい、亜夢ちゃん」

「ただいまです、ご主人」


入ってきた亜夢に《窓口》はにこやかに目線を移し、諧夢も口を開いた。


「あ、亜夢姉ちゃん」

「もしかして、姉さんから?」

「うん、今年も成人式に、愛夢姉ちゃんがお店の手伝いをして欲しいってさ」

「そう・・・」


それだけ諧夢に返事をして、亜夢はため息をついた。


「諧夢の用はそれだけ?」

「いや、ただ遊びに行くって言ったら、亜夢姉ちゃんに伝言よろしくって」


愛夢も弟を使わないで、直接来ればいいのにと亜夢は思ったが、実母から継いだ店が忙しいんだろう。


──亜夢の実家の関係は若干、ややこしい。愛夢と諧夢は亜夢と双子の兄とは腹違いの兄妹。一番上の兄とは異父兄妹。芽椏に関しては、血が繋がってない。まぁ、それでも兄妹みんな仲はいいし、今の義母(芽椏の母)とも関係は良好だ。ただ、愛夢の店の手伝いに関しては亜夢にも仕事があるので、もう少し考えてほしいと思うけど。


「遊ぶなら、ここではご主人のお仕事の邪魔になるよ?だから二人共、あたしの部屋においで」

「はーい」

「じゃあ、先に亜夢姉ちゃんの部屋に行ってるね、行こうか、芽椏」


諧夢と芽椏は嬉しそうに部屋を出ていった。


「ご主人」

「何ですか?」

「実は、その、あたしも振袖を着てみたいなって、思ったんですけど・・・」


亜夢の言葉に《窓口》と護は不思議そうな反応を見せた。


「妖魔には成人っていう概念はないんじゃなかったか?」

「まぁ・・・それは確かに、護さんの仰る通りなんですけれども・・・」


亜夢の様子に、何も言わずに《窓口》は少しだけ、何か考えている。


「うーん、七海達に聞いてみないと、わかりませんけど・・・でも、今も神社に振袖、あったかしら?」

「さすがに、鏡花ちゃんも振袖は作れませんしね」

「振袖を作れたら、それはそれで凄いと思うぞ」


結構というか、かなりとぼけた亜夢の言葉に護は苦笑した。



  ✡




亜夢が部屋を出ていった後。護は《窓口》に思ったことを口にした。


「なんでまた突然、振袖が着たいと思ったんだろうなぁ?」

「前々から思ってはいたみたいですよ?たまたま、今回は口に出しただけで」


最後の手紙を読み終えた《窓口》は、その手紙を色分けされた引き出しの一つに入れた。


「・・・ちゃんとした『相談』ってあるんだな」

「もちろん、中にはありますよ?数は少ないですけどね」


どんな内容かは、護が聞いたところで《窓口》は絶対に言わないので、そこには触れないが。


「何も成人式の時じゃなくても、亜夢ちゃんも女の子ですし、いつかは着る機会はあるでしょうに」

「それでも、よく見るのは成人式の時が多いからじゃないか?」

「それもそうですね」


護の言葉で《窓口》はうんうんと、どこか納得したようだ。


「で、どうすんだ?」

「何が?」

「亜夢さんの振袖」

「うーん・・・神社にあれば、ですけど、彼女に着せることは可能ですね」


そう言って《窓口》はソファーから立ち上がる。


「ん?今からどこか行くのか?」

「神社」

「あ、今日も七海さん達は神社の手伝いなのか」

「だって、成人式が近いですからね」

「俺もついていってもいいか?」

「構いませんよ?だって、仕事で行くのではないですし」


《窓口》はにっこり笑って、護と部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ