捜査中に増える被害
深夜。ショートカットにした黒髪の少女は、友人と二人で校舎に来ていた。事件があってからは、警備も厳しく、夜中の校舎は立ち入り禁止になっている。だが、少女はこっそり寮を抜け出していた。
──わたしが『ひとりかくれんぼ』を試したからだ
最初の事件があった日の前日。彼女は遊び半分に『ひとりかくれんぼ』を実行していた。その日の少女は、大事な宿題を教室に忘れたからと言い訳をし、校舎の鍵を借りていた。正直、何も起きるわけがないだろうという思いつつも、怖いもの見たさからの好奇心の方が勝ってしまっている。『ひとりかくれんぼ』に使ったぬいぐるみは、前に家庭科の授業で自分が作ったモノ。少女は自他共に認めるくらいに不器用だったため、ウサギを作ったつもりだったが、完成したのは『ウサギのような何か』になっていた。
「名前、ウサギだしラビットの『ラビ』でいいか」
ぬいぐるみ腹を裂き、中に入れた綿を抜き、米と自分の切った爪を中に詰める。そして、裂いた場所を赤い糸で縫い付け、余った糸は適当にグルグルと巻き付けて結んだ。さすがに校舎で実行する為、完全に忠実とまではいかないものの、ある程度は代用できる事があるだろうと思ったのだ。
──そして時刻は午前3時。
彼女はトイレの洗面台に水を張って、そこにぬいぐるみを入れた。じわじわとぬいぐるみは水を吸って沈んでいく。
「最初の鬼は、わたしだから」
そして、視聴覚室にあったテレビをつけ、目を閉じて10数えてから、包丁を持ってぬいぐるみの所へ行った。包丁は家庭科室から勝手に拝借した。この時の少女は、誰かに見付かったらどうしようという心配と、何か起きるだろうかという期待でドキドキしていた。
「ラビ、見付けた」
少女は包丁を、ぬいぐるみに突き立てる。サクッと刺さる感触があった。
「次はラビが鬼だから」
少女は塩水を用意していた教室の教卓に隠れ、塩水を口に含む。そして、やっぱり何も起きないではないかと心の中で笑いながら、さっさとかくれんぼを終わらせようと、ぬいぐるみの所へ行ったのだが。
そこにぬいぐるみは、なかった。
水の張ってある洗面台の周りは異様に濡れていた。包丁を突き立てた時、確かに水が張ってある場所に、ぬいぐるみはあった。だが、学校のどこを捜しても、ぬいぐるみは見付からなかった。その時は誰かにぬいぐるみが見付かって、持っていかれてしまったのではないかと考えた。でも、それなら洗面台の水も抜かれているはずだろう。
──それが、こんな事になるなんて
護達からの質問で、少女は悟った。自分が遊び半分で行った『ひとりかくれんぼ』が、無関係な生徒をも殺してしまったことに。だから、無理を言ってルームメイトの友人に、一緒に探してもらおうと来てもらったのだ。それを聞いた友人は、呆れて昇降口の前で立ち止まってしまった。
「そういうのってさ、自分で探すべきなんじゃないの?アタシは怖いし、ここで待ってるから」
「本当にここで待っててよ?絶対に置いてかないでよ?」
「はいはい、さっさと行ってきなって」
友人に見送られ、少女は塩水を持って、暫くぬいぐるみを探しながら、静かな廊下を歩いていた。
──ヒタ、ヒタ
何かが、彼女の後ろを歩いてくる音がした。恐る恐る振り返ると、そこには。
刃に血の付いた包丁を持った、血塗れのぬいぐるみがいた。
「ひっ・・・あ、ラ・・・ラビ?」
── ミ ツ ケ タ
慌てて少女はぬいぐるみに背を向けて、昇降口に向かって走る。見覚えのあるそのぬいぐるみを探してはいたが、さすがに実物を見ると怖かった。
「はぁっ・・・はぁっ・・・あっ・・・きゃっ」
足に何かが引っ掛かり、転んでしまう。同時に持っていた塩水の入ったコップは放物線を描き、目の前に落ちる。足元を見ると、赤い糸が足に絡まっている。
「あ、あと少しで、昇降口・・・なのに」
赤い糸の先を見ると、糸はぬいぐるみに繋がっていた。必死に糸を解こうとするも、逆に絡み合い、どんどん足にきつく食い込んでいく。
「だ、誰かぁーーーーーーっ・・・ひっ・・・」
ジリジリと、ぬいぐるみは少女に近づいてくる。必死に逃げながら解こうとするも、ぬいぐるみは、すぐそばまで来ていた。ぬいぐるみは少女を見下ろし、包丁を振り下ろす。
「あ・・・きゃーーーーーーーーーーっ」
悲鳴を昇降口の近くで聞いた少女の友人は、彼女が何か、とんでもないことに遭遇した事に気付いた。慌てて昇降口のドアを開けようと手をかけた、その時。
──ダメだよ、もうあの子は助からない
「・・・え?」
誰かが彼女を引き止める。誰だろうと後ろを振り返る。だが、周りには誰もいない。
──逃げて
誰かが耳元で囁く。その言葉に従って、彼女は寮の方へ走っていく。それを、少女の姿をした桜は見送る。
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校舎の周りには、逃げた女子生徒から騒ぎを聞きつけた教師と生徒達がいた。もちろん、中には警察から入らないように言われているので、外で見ているだけだが。
「いやぁ・・・こうも連日、夜中に起こされると、寝不足になりますよ」
「それはお前だけじゃないからな?」
《窓口》は起きてそのまま鍵を使って現場に来たのか、パジャマ姿だった。麻白はそんな彼女の隣で現場の様子を見ていた。
「今回の被害者は『ひとりかくれんぼ』を実行した生徒だな」
「きっと今回の事件に責任を感じて、自分でこの事件を終わらせようと思ったんでしょうね」
現場に落ちていたコップ。中身は盛大にぶち撒けられていた。
「中身は塩水だったらしいな」
「そのようですね」
二人は捜査の邪魔になると言って、昇降口からは死角になる場所で、現場をただ眺めているだけなのだが、ある程度の状況はわかるらしい。
「こうなってしまっては護くん、麻白、明日・・・というか今日の夜、そろそろわたし達も動きますよ」
「あぁ、わかった」
✡
夜が明けると、教師も生徒達も事件については触れずに、いつものように授業を受けていた。もちろん、結愛と友香も。
「ねぇ、結愛」
「何?友香」
「今夜さ、二人で学校の中を調べない?」
休み時間に突然、何を言い出すかと思ったら、そういう事かと結愛はため息をつく。
「嫌だよ、怖いもん」
「えー?何も結愛に一人で行けって言ってる訳じゃないんだし、それに二人だったら大丈夫だって」
「それだって、そういう幽霊みたいなのが原因だって噂でしょう?そういうのが嫌いだって友香、知ってるでしょう?」
ただでさえ、結愛は夜は寝ていたいのだ。こういう事に巻き込まれて、死ぬとかはご免だ。
「もしかすると、あの二人は何かしらって事もあるかもよ?」
「どういうことよ?」
「何か、怪しいじゃない?」
怪しいと言われたら、何でも怪しいと思う。こういう事に関しては、友香は何でも自分で調べないと気がすまない性格なのは、知ってるが。
「だからって、こういう事まで調べなくてもいいじゃない、これは警察に任せようよ」
「えー・・・じゃあいいよ、一人で調べるから」
それはそれで、危険だと思うのだが。大体、事件の被害者は一人でいて、何かに襲われているのに。こういう事も友香は理解出来ないのか。
「あ、一色さん」
どこかに行っていた、麻白が教室に戻ってきた。どうやら友香は
、今度は麻白を誘うつもりらしい。
「ねぇ、一色さんは、事件の事を調べたいとかって思わない?」
「うーん・・・そういうのは、警察に任せておくべきだと思いますよ」
ほら見ろと言わんばかりの結愛の視線と、にこやかに麻白に断られた友香は、不満気な表情である。
「そういうのが原因で被害者が増えると、結城さんは考えないんですか?」
「え?うーん・・・でも協力できるならしたいじゃん?」
「下手に首を突っ込んで、何かあってからでは遅いんです、一般人が無駄に警察の仕事を増やすような事は避けるべきです」
突然の麻白の言葉に、友香は考え込む。麻白の言葉は、友香ですら何も言わせないような雰囲気がある。友香のようなタイプの人間の扱いは慣れているようだ。
「知識欲に忠実なのはいいのですけど、それが他人の迷惑になってはいけないと思いますよ?」
「でも・・・誰かが解決しないと」
「これは、私の親戚の口癖なのですけど、『何でもかんでも真実を暴けばいいってモノではない』んですよ」
にっこりと笑って麻白は、友香に言う。友香は何も言えないらしい。
「知らないことが幸せなことも、世の中にはありますからね」
「例えば、この事件の犯人とか?」
「そうなりますかね」
「うーん・・・じゃあ犯人探しは諦めるかー・・・」
「自分の身を守る事が第一だと私は思いますよ?だから、夜中に校舎に来るような事は、絶対にしないほうがいいです」
一旦は友香も引き下がったように見えるが、結愛は友香がこのまま、大人しくはしないだろうと思った。だって諦めたのは『犯人探し』だから。
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夜。結愛と友香は校舎の前にいた。結局、麻白の忠告は効いていないようだ。
「ねぇ友香、一色さんも言ってたんだし、調べるのは止めようよ」
「大丈夫、大丈夫」
そういった友香は、勝手に持ってきたのか、校舎の鍵を開けて中に入っていく。さすがに怖かったが、友香を一人に出来ないと、結愛もその後をついていく。結愛は友香の腕をがっちり掴んで、廊下を恐る恐る歩く。
「やっぱり、何もなさそうじゃん?そんな怖がることないよ」
「ねぇ、それならさ・・・もう帰ろうよ」
友香は笑いながら廊下を歩いている。教室などを一通り見て回ったが、何もなかったので二人は帰ろうとした。
その時だった。
「え・・・嘘でしょ?」
廊下に出た時に、友香はふと結愛の方を見たのだ。その向こう。
──そこには包丁を持った血塗れのぬいぐるみが立っていた。
「ほ、ほら、やっぱり止めておけば良かったんだよ、友香の馬鹿!!」
「・・・だって、今日もこんなのに鉢合わせるなんて・・・誰も思わないって?!」
結愛が見ると、友香の顔は青ざめていた。
「とりあえず、結愛、逃げよう」
友香の言葉に結愛は頷いて、二人は一斉に廊下を駆け出した。




