怪奇現象の捜査
人が誰もいない暗い教室、少女は一人で『こっくりさん』を実行する。本来ならば、一人で行ってはいけないとされているが、彼女は本当に何か起きるのか、興味本位でそれを行っている。
「こっくりさん、こっくりさん、鳥居を通ってお入りください」
「・・・貴方は、こっくりさんですか?」
人差し指の下にある十円玉は動かない。暫く待ってみるものの、全く何も起きず、彼女はつまらなそうに、ため息をついた。
「・・・やっぱりこういうのは、あくまでも噂でしかないのかな?」
──ガラッ
「っ?!」
閉まっていた教室のドアが突然、開く。一瞬、見回りの教師か、警備員が来たのかと、思わず少女はドアの方を確認するが、そこには何もいなかった。開けたままにするのもな、とドアを閉めたその時、彼女は自分が『こっくりさん』の途中で、十円玉から指を離してしまったことに気付いた。慌てて振り返ると、背後には刃物を持っている、血塗れのウサギのようなぬいぐるみがいつの間にか立っていた。
「・・・え?」
ぬいぐるみは刃物を振り下ろす。
「きゃあーーーーーーーーーーっ」
✡
寮の部屋で麻白が《窓口》からオカルト研究会の部室で見付けた資料について、鏡花と聞いていた。だが突然、何かに気がついたのか《窓口》が窓の外を見た。
「麻白、校舎の方で何かあったようです」
「行こう、しぃ」
鍵を使って鏡花を家に帰し、すぐさま《窓口》は、そのまま校舎に繋いだ。自分達のクラスの教室に繋いだのか、ドアを開けて廊下を進む。その足取りは、しっかりと迷いなく、何か起きた場所がわかっているようだった。そしてとある教室のドアを開けた時、《窓口》は麻白の方をすぐに振り返った。
「しぃ?」
「麻白・・・至急《怪奇現象捜査課》に電話、非常に残念ですけど・・・また、被害者が出ました」
✡
結愛は黙々と勉強をしていた。窓の外を見ていた友香が、次々と外に出る生徒達の姿に、何か起きた事を察知し目を輝かせる。
「これは何か事件の予感・・・♪」
「ちょっと、友香、今から行くつもり?」
「もしかしたら事件の犯人が判るかもよ?」
友香は楽しそうに笑う。結愛はそれを見て、これは言っても聞かないなと諦めて、友香についていくことにした。人混みの端っこから校舎を覗く。警察官がぞろぞろと校舎へと入っていくのが見える。
「本当に事件でもあったのかな?」
その騒ぎを聞きつけたのか、教師や生徒達は遠巻きながら、その様子を見ていた。友香は野次馬の中から、一人の生徒に声をかけた。
「ねぇ、どうしたの?」
「また、生徒が殺されたんだって」
「え?嘘でしょ?」
「しかも今度は教室で、だってさ」
周りの話からでしか状況はわからない。周りを見ると《窓口》と麻白が、その人混みの中にいないことに気付いた。ただ、周りの
人の多さに見付けられないだけなのかもしれないが。少し移動しても見当たらない。
「あれ?そういえば、あの二人は?」
「まさか、校舎の中?」
✡
現場となった教室から、少し離れた場所にいた《窓口》と麻白に、護は近づく。
「すみませんね、急に呼び出してしまって」
「こういうのは慣れてる」
《窓口》が困ったように護に謝る。麻白はそれをただ、微笑んで見ていた。ここの警備員達にも護達から既に話はあったようで、《窓口》と麻白が協会の会員証を見せると、黙って頷いて、状況を理解してくれていた。
「特に現場には触れてませんけど、どうやら一人で『こっくりさん』をやろうとした、もしくはやっていたみたいですね」
「そうみたいだな、もし途中だったらどうなんだ?」
「それはそれで厄介だわ、でもわたしが見る限り、あの『こっくりさん』では、何も出てこなかったみたいですけど」
「しぃの仕事が増えてしまいますよ」
つまり、呼び出した霊に交渉して帰ってもらうか、問答無用で殺す事になるらしい。
「ただでさえ、今回は麻白では相性が悪いというのに」
「っていう事は、この事件は霊とかそういう類いのか」
護の言葉に麻白は頷いているが、主に動かなくてはならない《窓口》は、文字通り頭を抱えている。ここまで彼女が頭を悩ませているのも珍しい。
「なんでまた、こんな魔術師や妖魔のいない学校で?」
「それがね、この学校には『オカルト研究会』っていうのがあるんですよね」
「どうも、興味本位で色々な呪術を試しているようです」
「それが、今回の事件に関わってるのか」
護はどうしたものかと、深く考えている《窓口》の頭に、ポンッと優しく手を乗せる。
「今回は俺達もお前頼りになってすまないけど、あんまり無理とか無茶だけはすんなよ?」
「キミはわたしにそう言いますが、今回ばかりは多少の無理をしないと、どうにもならないわ、一応、考えられる事象は、いくつか絞ってはあるんですけど・・・」
「私もしぃも実際に、殺される所を見たわけじゃないですからね、確証が持てないでいるんですよね」
白い髪を耳にかけ、麻白は苦笑する。本当に見た目と仕草は女の子そのものだ。
「とりあえず、今日のところは俺達も実況見聞だけで引き上げるけど、明日、お前の話を聞かせてもらえるか?」
「わたしだけの話でいいのなら、それは別に構わないですよ、鏡花に連絡をしておきますから」
《窓口》はそう言って、鍵を使って部屋へと戻る。麻白もそれに続いた。
✡
《窓口》の家の自室。いつもの格好の《窓口》と護がいた。
「なぁ《窓口》、昨日お前が言ってた、考えられる事象ってなんだ?」
「一つは今回の被害者とは別に、一人で誰かが『こっくりさん』を行っていた」
「つまり、誰かがこっくりさんに憑かれての犯行ってことか」
《窓口》は黙って頷いて、次の可能性を示す。
「二つ目、誰かが『ひとりかくれんぼ』をした」
「それも降霊術じゃなかったか?」
「コレも一種の呪術、自分を呪う儀式とも言われているわね」
《窓口》は資料を護に手渡し、ソファーに寄りかかって、ため息をつく。どうして、こうも頭を悩ませる案件を受けてしまったのか、少しだけ後悔しているように見える。
「はぁ・・・こういうのは、遊び半分で実行してはいけないんですけどね」
「こういう事件にまで発展すると、お前の言葉が痛いほど思い知らされるよ」
苦笑しながらも護は資料に目を通し、《窓口》の言葉も聞いている。こういった呪術関連の事件の被害者には悪いが、大体は自業自得という事なのだろう。
「被害者が出ているというのに、それでも降霊術を実行しようだなんてね、全く、今時の娘達は何を考えているんだか」
「実際、二人目の被害者は、そのオカルト研究会のメンバーなんだろ?」
「亜星さんの情報だと、そのようですね」
資料を見終えた護は《窓口》に返す。実際に呪術を使う事もある彼女としては、こういった呪術は、自己責任でやるのだから何が起きても放っておきたいところらしい。無関係なのに巻き込まれた被害者には、申し訳ないが。ただ、護達からの依頼なので、本当に仕方なく、不本意ながらも動いているようだ。
「それに、そのオカルト研究会ごときの行いのせいで、これ以上、何も知らずに巻き込まれる人が増えるのも、それは可哀想でしょう?」
「可哀想って、そんな感じでお前は生徒達を見てたのか」
「オカルト研究会のメンバーには、一度、痛い目にあってもらいたいというのが、わたしの本音ですけどね」
「お前のその感覚だと、彼女達がマジで死ぬ寸前までいきそうで怖いわ」
さすがにそれは《窓口》はやらないだろう。しかし若干、護は何かしら《窓口》は、その代償として仕掛けるのではないかと不安に思う。
「放課後、オカルト研究会のメンバーに話を聞いてきますかね」
「それ、俺から聞いてもいいか?」
「その方が一度に全員に話を聞けそうですね、それならネロくんと一緒に学校に来てください」
「わかった・・・だが、なんでネロも?」
「別に、キミの記憶力を信用してないというわけではないんですけどね」
「そういう事か・・・」
苦笑しながらの《窓口》の言葉に、護は大きなため息をついた。
✡
放課後。結愛が教室に残って勉強をしていると、友香がメモ帳を持って嬉しそうに近づいてきた。
「ねぇねぇ結愛、校門の所見てよ」
「えー?・・・あれ、警察の人じゃないの?」
「多分そうなんだけどさ、超カッコ良くない?」
どれどれ、と結愛が窓の外を見ると、二人の青年が校舎に向かって歩いているのが見えた。一人は栗色の髪に翡翠色の眼、もう一人は漆黒の髪に琥珀色の眼だ。きっと、二人は誰もが町で見ても「カッコいい」と言うだろう。
「ねぇ、下まで見に行かない?」
「なんで?きっと忙しいと思うし、仕事の邪魔しちゃダメだよ」
「見るだけならタダじゃん?それに、こういう機会はそうそうないって」
考えることはみんな同じだったのか、一階にある生徒指導室の周りには生徒がキャーキャー言いながら、邪魔にならないように集まっていた。
「ねぇねぇ、あの人達見た?」
「聞いた話では、一人は《異端審問官》らしいよ」
「マジ?超凄いじゃん」
結愛と友香は周りの話などから、オカルト研究会のメンバー全員が呼び出しを受けていることも知った。今回の事件と、何か関係があるのだろうか。ドアが開いて、二人の内の栗色の髪の方が、少し離れてスマートフォンを操作して、誰かに電話をする。多分、仕事の関係だろうが、会話は生徒達には聞こえないようにしているので、生徒達は勝手に「彼女に電話かな」とか言いたい放題だった。暫くして、彼が部屋に戻ると校内放送が流れた。
──夢原さん、一色さん、至急、生徒指導室まで来てください
「あの二人も呼び出し?」
「そういえば、昨日の夜も二人はいなかったよね?」
結愛と友香は顔を見合せる。やはり、あの二人は何か関係があるのではないか。すぐに、やってきた《窓口》と麻白は生徒指導室のドアをノックして、お辞儀をしてから部屋に入っていく。それと入れ替わるように、オカルト研究会のメンバーが出てきた。
「悪いな、急に呼び出してしまって」
「別に、貴方の呼び出しは構わないのですが・・・生徒がまだ校舎にいるというのに、わたし達二人を呼び出すとか、キミは何を考えているんですか?」
部屋に入って、開口一番。《窓口》はにこやかに護に言う。なんだかその笑顔が怖い。パイプ椅子には護とネロが並んで座っており、向かい側に麻白と《窓口》は座る。口調が完全に仕事モードになっている。
「それで、彼女達からは何か有力な事は聞けました?」
「お前の考えてた通り、オカルト研究会のメンバーの一人が『ひとりかくれんぼ』をやってたそうだ」
「ただ、最悪なことに完全に終わらせたわけではないそうです」
《窓口》はそれは厄介だわと頬杖をつき、何かを考えている。きっと対策法だろう。一応、それなりに対応は心得ているのだろうけれど。
「護くん、その生徒に『ひとりかくれんぼ』を終わらせてもらいますか?」
「これ以上、被害を出したらどうする」
「その時はその生徒の自業自得でしょう?そもそも、コレはちゃんとした手順で終わらせないといけないんです」
《窓口》と麻白の言葉に、護は頭を抱えている。どこまでこの二人はこの事件で行動するのが嫌なのか。
「前にも言いましたけど、こういう事は自己責任なんですって」
「だからと言って、その生徒を見殺しにするのか?さすがに被害者が増え続けるのは、こっちとしても避けてほしいんだが?」
「それはちょっと、僕からも何も言えないんですよね」
「だって、今回は刃物を持った人間や妖魔が人間を殺しているのではないですし?それに生徒達を見殺しにするとも、わたしは言ってません」
やはり《窓口》と麻白の考え方はどこか、一般とはズレている。護も長い付き合いではあるが、そこはどうしても理解出来ない。
「護、主達の考えの違いは、今に始まったことじゃないんだから、諦めろ」
「これに関しては因果応報なんですよ?護くん」
「でも、僕らも今ここにいる以上は、嫌でも動かないといけないですよ、しぃ」
「護くん、近々、この学校に夜中で来れる日はありますか?」
麻白の言葉で、仕方なさそうに《窓口》は護の方を見る。
「そこは黒奈さんと相談してみるよ」
「主、それまでに被害者が出ないといいですが」
「・・・そうね」




