心霊現象、及び怪奇現象
麻白が部屋に戻ると、既に《窓口》の使う机や床には、書類やら資料やらが、色々と山になって無造作に置かれていた。
「あら、お帰りなさい、麻白」
「しぃ・・・これ全部、今回の事件関係の資料かい?」
「そうですが?」
その量の多さに、麻白は目を丸くするが、資料を読んでいた《窓口》は、何を今更驚いているのかと、平然としていた。床に落ちている資料の一部を手に取って、麻白は目を通す。
「被害者を含めた全生徒の個人情報に、さらには教師のまで・・・そして人間関係、部活や愛好会の活動内容とその実績・・・か」
「ついでに、結城さんの言っていた七不思議というのも、調べてもらいました」
《窓口》が手渡した資料には『学校の七不思議』と書かれている。
「えーっと?・・・『音楽室の真夜中に鳴るピアノ』に『家庭科室の動く人形』・・・さらには『人食いの桜』?」
「それらは後で見に行こうと思ってます」
「それなら、僕も確認するけど『トイレで啜り泣く生徒の霊』とか、まるで『花子さん』みたいじゃないか」
資料を捲り、麻白はさすがに隣の部屋の友香のメモ帳でも、これだけの詳しい情報はないだろうと思う。
「これだけの情報を《情報屋》は一日で?」
「さすがに一日では無理ですよ、個人情報はここに来る前に頼んであったのですが、七不思議はすぐに調べてくれたようです」
その情報の中からさらに《窓口》は、必要な情報を選り分けていたようだ。そのわりにはこの散らかりようである。
「今、わたし達に必要そうなのは、この辺りでしょうかね?」
はい、と麻白が《窓口》から渡された資料の束も、結構な量だ。
「残りは、わたしの部屋にでも置いてきますかね・・・」
指をパチンと鳴らすと、無造作に置かれていた書類の山は、一斉に舞い上がり、きちんと整理される。そしてポケットから鍵を出すと、空間を繋ぐドアが現れる。ドアを開けると、そこは《窓口》の家の彼女の自室だった。そこに資料を運んでいく。
「考えてみたら、行き来はこれで出来るんですよね」
「知ってる」
「あと麻白、お風呂とかはどうするつもりだったんですか?」
「・・・それは正直、考えてなかったんだよね、僕が男だってバレたら、かなりマズイよね」
麻白の言葉に、資料を運び終えて、再び椅子に座る《窓口》は、困った表情で頬杖をついた。
「その時は、わたしが記憶を消すしかないのではないかしら?それか、必要な時は誰かに身代わりになってもらいます?」
「それは悪いよ・・・ただ、お風呂に関しては時間ギリギリで入るか、しぃの家の借りるけど・・・」
「幻覚を見せるくらいなら、生徒達の前で使っても、大丈夫ですかね?」
「悪いね、しぃ」
「それくらいなら別に構わないですよ」
《窓口》は笑っているが、麻白は正直、自分が彼女の負担にならないか、少しだけ心配だった。
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夜中。暗い部屋で麻白は目を覚ます。できるだけ静かに、ベッドから出る。
「麻白?」
「あ・・・もしかして、起こしちゃったかい?」
「何か、ありました?」
「ちょっとだけ落ち着かないっていうか、ね」
だから寝てていいよ、と麻白は言うが、ベッドから身体を起こして《窓口》は麻白を見ている。
「校舎に行くんですか?」
「・・・やっぱり気付いてたんだね、しぃは」
「鍵はどうするつもりです?」
「一緒に行くかい?」
「その為にわたしはいるんですよ?」
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昇降口はもちろん鍵がかかっている。だが、それも《窓口》の持っている鍵で開ける。
「閉めておきます?」
「もし誰か来た時に、開いていたら大変だろ?」
「そうですよね」
「それに閉めてもその鍵があれば、教室から直接、僕達の部屋も繋げられるんだろう?」
「できますよ」
鍵をかけて《窓口》と麻白は教室に向かう。静かな校舎に、二人の足音だけが響く。
──ガラッ
教室のドアを開けて中を確認するが、変わったモノは何もない。特に何かが起きそうな、不穏な気配も今のところ感じられない。
「うーん・・・何も無いけど、どうする?しぃ」
「ふむ・・・少し、簡単な降霊術・・・今から喚ぶのは霊ではないんですが、やってみますか」
「降霊術?どんなの?」
「こっくりさん」
指をパチンと一回鳴らし、紙とペンが現れる。五十音と鳥居などが書かれたその紙の、鳥居の上に十円玉を置いて、《窓口》が人差し指でその上を押さえる。
「こっくりさんって、一人でやってはいけないんじゃなかったっけ?」
「今から喚ぶのは《夢神様》の神使です」
「つまり、その辺にいる動物霊とは違うのか」
麻白の言葉に《窓口》は頷いた。そして、ポツリと呟くように呼び掛けた。
「九十九さんか霊藻さん、いらっしゃいますか?」
ボフンと白い煙と共に、一匹の金色の毛と緑色の眼を持つ、九尾の狐が現れる。
「あらあら、お嬢様からの呼び出しなんて、珍しいですわね?」
「こんな夜中に喚び出してしまって、すみませんね、霊藻さん」
「それに《色神》の坊っちゃんも・・・前に会った時より髪も伸びたかしら?」
「僕とはお久しぶり、ですかね?」
霊藻の言葉に、少し恥ずかしそうに麻白はお辞儀をする。
「それで、お嬢様がこの方法で、わたくしを喚んだっていう事は・・・何か急ぎでわたくしに聞きたい事があるのね?」
「はい、今回の事件で何が起きたのか、そしてその犯人の手掛かりを知りたいのです」
「なるほど・・・」
《窓口》の言葉を聞いて少しの間、何かを考えるように、霊藻は目を閉じた。暫くして目を開いて、霊藻は静かに話を始める。
「そうですわね、わたくしから言えるのは、今回の相手は麻白坊っちゃんでは、相性が悪いという事でしょうかね」
「僕じゃ相性が悪い・・・?つまり、犯人は霊とか、そういう類いってことですか?霊藻さん」
「そういう事ですわね」
「それならば、本当はこれは霊夜達に頼むべきだったんだわ」
麻白も霊の類いは視えるのだが、ちゃんとした除霊などは《窓口》と違って、麻白には出来ない。麻白は『色』の魔術を主に使用するが、黒魔術よりは白魔術を得意とする。だから、そういう類いの相手はすこぶる相性が悪い。
「もし調べるなら、なるべく麻白と一緒に、もしくは、わたしが調べるのがいいのかしら」
「万が一、僕が遭遇しても逃げるか、時間稼ぎしか出来ないだろうし・・・ただ、昼間にはお相手も出ないみたいだし、夜はしぃと一緒なら、問題はないんじゃないかな?」
「時間稼ぎだけでも出来るなら、わたしからしたら、それだけで十分ですよ?」
《窓口》は何か考えているが、さすがにずっと一緒に行動というのは無理だろう。とはいえ、クラスも部屋も一緒だから、どうにでもなるだろうか。
「うーん・・・休み時間だけでは、この件を調べるのに時間が足りないです、明日は鏡花にわたしと入れ替わってもらって、色々と調べますか」
「そんな事ができるのかい?」
「あれでも一応、鏡花もドッペルゲンガーですし、問題はないでしょう」
「フフッ、わたくしからはもういいのかしら?」
二人のやり取りを見ていた霊藻は、ニコニコとしながら首を傾げた。
「・・・そうですね、こんな夜中に突然に喚んだのに、ありがとうございました、霊藻さん」
「では、また何かあれば喚んでくださいね?お嬢様」
ボフンと霊藻の姿が消える。十円玉から指を離して《窓口》は紙と十円玉を指を鳴らして、しまう。遠くから、警備員だろうか、こちらに近付いてくる足音が聞こえた。見付かっても何もなさそうだが、色々と面倒な事になりそうだ。
「とりあえず部屋に戻ろうか、しぃ」
「そうですね」
《窓口》は麻白の言葉に頷いて、鍵を取り出した。
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学生の朝は早い。素早く着替えを済ませ、麻白は隣のベッドで、未だ小さな寝息を立てて寝ている《窓口》を起こす。
「しぃ、朝だよ」
「・・・今、何時です?」
「7時」
「・・・あと、一時間だけ」
「ダメだよ、起きて」
いくら、今日の授業は鏡花に任せるとはいえ、さすがに麻白もこれでは困る。
「いくら授業は鏡花ちゃんに出てもらえるからって、主人のしぃがそんなんじゃダメだろう?」
「うーん・・・それは、そうですね」
まだボーッしているが、麻白の言葉に《窓口》は渋々、ベッドから出る。壁に掛けた制服を取り、麻白の方を向く。
「一応、制服の方がいいんですかね?」
「たとえ姿を隠していたとしても、もし、誰かに見られたら大変だろ?」
「そうですね」
《窓口》は頷いて、麻白に背を向けてから、おもむろにパジャマを脱ぎ、シャツの袖に手を通す。それを見て、麻白は慌てて《窓口》から視線を外す。
「しぃ、せめてさ・・・僕が後ろとかを向くのを確認してから、その、着替えてくれないかな?」
「別に、麻白に着替えを見られたところで、わたしは何とも思いませんし、それに、見られたって今更でしょ?」
「それ、相手が護だったら、どうするつもりなの?」
「護くんでも特に問題ありませんよ?さすがに入浴中とかなら、かなり問題ですが」
それに今、こんなこと言ってたら、体育とかどうするつもりだと《窓口》は麻白に言い放つ。その言葉は至極真っ当で、麻白は言い返せない。黒いスカートとグレーのベスト、緑色のリボンタイを着けて、《窓口》は麻白の方に再び向く。
「さて、鏡花を呼びますかね」
「こんな朝早くから呼んで、彼女も大丈夫かい?」
「多分、問題はありません」
《窓口》は部屋のドアを鍵を使って繋ぐ。連絡は行っていたのか、彼女の自室で待機をしていたらしい。
「鏡花、大丈夫?」
「勿論、大丈夫ですよぉ」
部屋に来た鏡花は、すぐに《窓口》と手を合わせると、一瞬にして姿が瓜二つに変わる。
「さすがはドッペルゲンガーだね、しぃにそっくりだ」
「うふふ、あたしはご主人を写す鏡ですからぁ」
「でも、声までそっくりに変えられるのは予想外」
「鏡花、一応このヘアピンを着けておいて」
《窓口》から四つ葉のヘアピンを受け取り、鏡花は着ける。《窓口》はいつもの髪飾りを、鏡花から受け取り着けている。
「それでは鏡花、今日はよろしくお願いしますね」
「はい、おまかせください」
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黒いブレザーを羽織って《窓口》は一人、学校の敷地内を歩く。
「まずは『人食いの桜』から調べますか」
校舎と寮の間にある、大きな一本の桜の木。周りを確認してから、《窓口》はその木に札を一枚貼る。
「──汝に、形と詩を与えよう」
札からフワリと光が現れ、少女の姿をとる。その姿は、学校の生徒のようだ。
「んー・・・こうやって、人間と話しが出来る日が来るとは思わなかったよー」
大きな伸びをする少女は、《窓口》を嬉しそうに見ている。
「さて、答えてもらいましょうか?『人食いの桜』っていうのは貴方の事かしら?」
「うん、そうだよ、でも、アタシは好きで人食いになった訳じゃないわ」
「と、言いますと?」
なんでも、この桜は最初は無縁仏の供養の為に植えられたとの事。時が経って、ここに学校が建てられた。そして最近では、いじめを苦に、この桜の周りで自殺をする生徒が出てきた。それからこの桜は、自分の意志とは関係なく、自殺願望者を引き寄せてしまうらしい。そして、その死体を喰うことで、妖に近い存在に成りつつあるようだ。
「全く・・・どこの西行妖ですかね、貴方は」
「えー・・・でも、好きでなった訳じゃないもん」
「それと、今回の事件で何か知ってますか?」
「さあ?犯人はわからないけど、アタシみたいな七不思議の関係者じゃないよ」
「そうですか、ありがとうございます」
《窓口》が札を剥がそうとした時。ちょっと待ってと、少女が口を開いた。
「ねぇ、情報提供したんだからさ、アタシの『お願い』を聞いてほしいんだけど」
「お願い、ですか?」
「そう、あのね」
少女は《窓口》に耳打ちする。それを聞いて、《窓口》は少し考えて、まぁいいかと承諾した。
「じゃ、お願いね」
「わかりました」
《窓口》は札を剥がした後、桜の木に触れた。
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桜との約束を終えて、今度は授業中の校舎を歩きまわる。
「はぁ・・・まさか、お願いが『動き回る為の姿が欲しい』だなんてね、全く、これでは七不思議が増えるじゃないの」
ため息はついたものの、とても愉しそうに《窓口》は歩く。時折、教師や生徒達とすれ違うが、誰も《窓口》が歩いている事には気付かず、彼女もまた、それを特に気にすることなくいた。
『家庭科室の動く人形』、『トイレで啜り泣く生徒』等も色々と調べてみたが、特に霊的なモノはなかった。
「ついでに、ここも見てきますか」
オカルト研究会の部室。鍵がかかっているが、そんなのは《窓口》には関係ない。ポケットから自分の鍵を出すと鍵穴に差し込み、回す。鍵はカチャリと小さな音を立てて開いた。
「お邪魔しま〜す・・・」
ドアを開けると、そこには色々と呪術に使うらしいモノが、たくさんあった。
「ふーん・・・タロットに占星術、超常現象、伝承の資料・・・藁人形まであるのね」
色々と見るが、特に魔力とかを感じず、気にするほどではないか。そう思ったのだが、机に置かれた資料を見た《窓口》は若干、不機嫌そうになる。
「もし、これを誰かが実行してたら、相当、厄介だわ」
資料を戻して《窓口》は部室を後にした。




