七不思議と心霊現象
授業中だというのに《窓口》は窓の外を退屈そうに眺めていた。《窓口》の席は窓際の一番後ろの席。隣は麻白が座っている。
「夢原さん、この問題解けますか?」
「ねぇ、ねぇったら」
「・・・何ですか?」
小さく麻白が《窓口》を呼ぶ。見るとこっそり前を指差している。どうやら指名されたようだ。黒板に書かれた数式を見て《窓口》は、やれやれといった感じで前に出る。その時、こそこそと何かを言いながら、一部の生徒達が笑って《窓口》を見ていたのを麻白は見ていた。どこにでも性格が悪いのはいるもので。
──だけど、その笑いは一瞬にして凍り付いた。
チョークを持った、その瞬間から《窓口》はいとも簡単に、その問題を解いてみせたのだ。《窓口》は特に何かを言うでもなく、黒板に書かれた数式を黙々と、全て解いて席に戻った。勿論、全て正解。そんな《窓口》を見る教師の顔が、若干、青ざめていたように見えたのだが、気のせいだろうか。
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休み時間になり、次の授業の準備をしていると、クラスメイトが麻白と《窓口》の周りに集まってくる。
「ねぇねぇ、一色さんのその髪って地毛なの?」
「さっきの授業、夢原さん凄かったねー」
麻白は笑って対応しているが、隣にいる《窓口》は、かなり困惑した表情だった。
「少し、席を外してもいいかしら?」
生徒の質問責めに耐えられなくなったのか、《窓口》は席を立つ。麻白の席を通りすぎる時に、麻白は《窓口》からメモの切れ端をこっそり受け取った。
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午前中の授業が全て終わって、麻白はこっそり教室を抜け出して、校舎の裏に来ている。
「やれやれ、本当に生徒達には困ったものです」
「これは最初のうちだけだよ、しぃ」
校舎の裏に《窓口》はいた。どうも、生徒達の相手は面倒くさかったようだ。どちらかと言えば、あまり必要以上に他人と関わりを持ちたがらないのが《窓口》で。
「全く、いきなりの呼び出しとか驚いたよ」
「教室では絶対に話せないだろうと思ったので」
《窓口》から受け取ったメモの切れ端を見せて、麻白は苦笑する。そのメモには魔法文字で『校舎裏で待ってる』と書かれている。これなら誰かに見られても、内容はわからないだろう。
「さすがに、しぃも《夢宮》の姓は使わないんだね」
「《夢宮》の親戚だというだけで、こういう時は動きづらくなりますからね・・・そういう麻白こそ」
「そりゃ《色神》の名前も、そこそこ有名だしね」
麻白は壁に寄りかかっている《窓口》に思い出したように言う。
「そうそう、クラスの子が学校の中を案内してくれるみたいだけど?」
「・・・表向きは、わたしも麻白も魔法とか魔術は使えないですからね」
「一応、しぃも一緒にって言ったら快く承諾してくれたよ」
「仕方ないですね」
本当にやれやれといった感じだが、一旦《窓口》と麻白は教室に戻ることにした。
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友香と結愛が廊下で話していると、遠くから《窓口》と麻白が廊下を歩いてくるのが見えた。
「あ、いたいた♪」
友香が二人に駆け寄って、二人の腕を掴んで結愛の所まで連れてくる。
「えっと・・・同じクラスの・・・?」
「あたしは友香、結城 友香っていうんだ、そんでこっちは結愛、名切 結愛」
二人の自己紹介を聞いて、麻白は頷いているが《窓口》の方は反応はなく、特に興味なさそうな感じだ。むしろ、自己紹介されなくても、名前はわかっていたのだろう。それは口に出せないからか、微妙な態度に出てる。
「あたし達が学校の中を案内するよ」
「ありがとうございます」
友香の言葉に《窓口》はペコリとお辞儀をする。だいぶよそよそしいが、気にならないらしい。
「じゃあ、行こうか」
ポケットからメモ帳を出して、颯爽と歩きだした友香に、結愛は小さくため息をついた。
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友香は《窓口》達に、保健室や生徒会室などを案内していく。それだけならいいのだが、メモ帳に書かれた色々な情報なども《窓口》達に言うものだから、結愛は二人が引かないか、気が気でなかった。
「名切さん、結城さんのメモ帳には、色々な事が書いてあるんですね」
「うん・・・あの人は新聞部だからね、色んな情報や噂が書いてあるって聞いたことがあるわ」
結愛は何か聞きたい噂とかがあれば、友香に聞けばいいかもしれないと《窓口》達に言う。それには聞きたい事ができたらと、返事が返ってきた。
「・・・この教室は?」
「ここはね、オカルト研究会の部室だよ」
「オカルト研究会?」
「なんでも、ネットとかにある、いろんな呪術とかを試したりしてるらしいよ?都市伝説とかも調べたり、心霊スポットにも行ったりしてるって、今のところ、何かあったとかはないらしいけど」
「なるほど、ね・・・」
それを聞いた《窓口》は、何か興味があったのだろうか。結愛はそういうホラー的なモノは苦手なので、絶対に話題には触れないが。
「あらら?夢原さんは、そういうオカルトみたいなのに興味があるのかな?」
「興味、というよりは・・・ただ、少し気になっただけです」
「ふーん・・・?」
それを興味があると言っているのだが。ただし、事件に関係していそうという意味で。そんな《窓口》の様子を、友香はどこか嬉しそうにメモをしている。
「じゃあ、そんな夢原さんに、この学校の七不思議を教えてあげようか?」
「ちょっと、友香、やめておきなよ・・・二人共、まだ来たばかりなんだよ?」
「大丈夫だって、結愛」
「もう、友香ってば」
結愛の様子を見た麻白が、苦笑しながら結愛に聞く。
「もしかして、名切さんはそういうのは苦手ですか?」
「そうなんだよー、結愛はいつもあたしが七不思議とか、怪談とか話そうとすると、こうやって嫌がってね」
結愛が答える前に友香が答えてしまう。結愛は、どうして友香が答えるのかと、不満そう。
「それなら、後でその七不思議とかは聞きましょう?苦手な人がいるのに、無理して聞かせるのはいかがなものかと」
《窓口》はスタスタと、オカルト研究会の部室の前を歩いていく。
「夢原さん?もういいの?」
「あらかた案内は終わったのでしょう?わたしは先に教室に戻ってますね」
ニッコリ笑って《窓口》は一人で廊下を歩いていった。廊下にあった時計を見ると、そろそろ最後の授業が始まりそうだ。
「あたし達も戻ろうか」
「そろそろ授業だしね」
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一日の授業が終わり、放課後。寮の管理人に案内されて《窓口》と麻白は、荷物を持って学校の寮の中を歩いていた。寮の管理人は困ったわと言っているが、その表情は特に困った様子はない。
「ごめんなさいねぇ、今、部屋がここしか空いてなくて・・・でも、二人部屋だから大丈夫ね」
普通の生徒の部屋は三人か四人の部屋らしい。だが、二人しかいないのなら、それは好都合だと《窓口》と麻白は思うが、口には出さない。部屋の鍵を受け取り、二人は部屋に入る。掃除はしてあるのか、綺麗だ。さらに、聞いた話では、壁も防音仕様らしい。
「何かわからないことがあったら、私の所にいつでもいらっしゃい」
「「ありがとうございます」」
ドアが閉まって《窓口》は一息つく。
「さてと」
部屋に入った瞬間から《窓口》は、何かに気付いていたのか、コンセントに刺さっていた電源タップを静かに外す。
「ねえ、それって?」
《窓口》は周りを見渡してから、無言で麻白に向かってシーッと静かにと合図をする。その後も《窓口》はその電源タップだけでなく、時計やら色々と机に静かに音を立てないように並べていく。そして、制服のポケットから真っ黒い鋏を出すと、並べたモノの上で『何か』を切った。
──チョキン
「・・・しぃ、もういいかい?」
「えぇ、大丈夫です」
「もしかして」
「ええ、盗聴器ですね」
電源タップを器用に解体すると出てきたのは、黒い見慣れない機械。恐らく《窓口》が切ったのは、盗聴器と受信機器の『繋がり』だろう。もしくは盗聴器の中身の部分だけを切って壊したのだろう。
「一体、誰が?」
「さぁ?でも、これでわたし達の会話は誰にも聞かれませんから、心置きなく仕事の話が出来ます」
「さすがだね、しぃは」
荷物を置いて、ベッドに《窓口》は腰掛ける。麻白は麻白で、荷ほどきを始めている。
「それにしても・・・ついこの間に殺人事件があったというのに、誰も、何も事件について触れてないなんてね」
「確かに違和感はあるね」
「この学校という鳥かごの中では犯人も限られると思っているのか、彼女達も口にはしてませんがお互いを疑っているみたいですけどね?」
「でも、初日にしては興味深い情報が得られたんじゃないかい?」
「オカルト研究会に、七不思議・・・一応《情報屋》にも情報は頼んでおきましたけど」
「本当に仕事が早いね、しぃは」
さっさと《窓口》としては、この牢獄のような学校を出たいらしい。普段から家を出ないのに、どうしてなのか。
「まぁ、わたしは事件を解決したところで、あの家という鳥かごの中に帰るだけなんですけどねぇ」
「幸せの青い鳥は鳥かごの中に、か」
「うふふ、鳥かごの鳥はかごの中でしか自由はないのですから」
《窓口》の言葉はどこか悲しげだ。麻白は特に何かを言うことはしない。自分もあまり外に出ない方だからだ。
「今夜はどうします?麻白」
「今はまだ、様子見かな・・・でも、何かあればすぐに動くけどね」
「わかりました」
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夕食を終えて《窓口》は、一人ですぐに部屋に戻ったようだ。向こうでも色々とやる事があるらしい。
「しぃは、空間を繋ぐ鍵を持っているしな・・・多分、行き来はすぐに出来るんだろうけど」
麻白は部屋に戻る途中で、寮の各部屋へ挨拶回りをしている。最後の部屋、自分達の部屋の隣のドアをノックする。返事をしてドアを開けたのは友香だった。
「あ、一色さんじゃん」
「お隣さんは結城さんでしたか」
「あたしだけじゃないよー?結愛も一緒♪」
「そうだったんですね」
呼ばれた訳ではないが、中から結愛もドアの方にやってくる。
「フフフ、一色さんに聞きたい事があるんだよねー、あたし」
「えぇっと・・・聞きたい事?」
「友香、あんまり人のことを詮索するのは、よくないよ」
「いいじゃないの、結愛だって気になってたんでしょ?」
今は麻白も《窓口》も、表向きは転校生としているのだから、興味を持たれるのは解る。だが、どこまで話せるかは友香の質問次第だろう。それに今の《窓口》は、必要以上に人と関わることを避けるから、麻白に回ってくるのは仕方ないか。
「まぁ、部屋の中で話そうか」
「いいですよ」
「ゴメンね一色さん、友香は一度こうなってしまったら、とことん突っ走るタイプなの」
「大丈夫ですよ」
そういうタイプは親戚にもいるし、周りにもいる。友香はベッドに座る。結愛は課題をやっていたのか、そのまま椅子に、麻白は友香が座っていたらしい椅子に、腰掛けている。
「それでさっそくなんだけどさー、一色さんは夢原さんとはどういう関係なの?」
「どういう関係?と言われましても、たまたま私と彼女は同じ日に転校してきたというだけですよ?」
「ふーん、親戚とか家族だっていう訳ではないんだ?」
なかなか友香は勘が鋭いようだ。だが、親戚であることは明かさない方がよさそうではある。
「なぜ、そう思われたんですか?」
「朝、学校に来てから、二人が仲良く職員室に向かってたって聞いたからさ」
「同じ転校生だから、少し『同じ日になんて、偶然ですね』と話をしただけですよ」
昼間の学校内では、暫くは《窓口》も麻白と一緒に行動はしないだろうから、二人の関係性は特に問題はないのだろうけど。
「部屋も一緒になったみたいだしね」
「部屋は隣しか空いてなくて」
「そうだよね、だって事件で・・・おっと」
「大丈夫です、ニュースでやってました」
麻白はそれだけで、あの部屋は被害者の部屋だったのかと悟る。もう一人いたようだが、別の部屋に移ったのだろう。仮にそうでなくても、麻白と《窓口》が他の生徒達と一緒にさえならなければ、仕事には何も影響も問題はない。
「まぁ、事件は警察が調べてるしね?」
「そうですよね」
「あ、そろそろ一色さんも戻る?課題もあるし」
「そうします、ではお邪魔しました」
麻白は部屋を出ると、ため息を一つついた。




