行く年来る年
「ご主人ー、暇ですぅ」
「鏡花、わたしに暇だと言われましてもね」
神社の縁側に座る《窓口》に、鏡花は後ろからギューっと抱きついて、退屈だと訴える。現在《窓口》達は年末という事もあり、《窓口》の実家でもあるこの神社にいる。
「家事は殆んど、七海さんや八雲さん達がやってるしぃ」
「だから言ったでしょう?どうせ神社ではする事がないし、鏡花達は、別にわたしと一緒に来なくてもいいって」
泣き付く鏡花を若干、鬱陶しいとは思うが、その《窓口》自身も正直なところ、暇なのである。
「だって、お家のお掃除は終わってますしぃ」
「確かにわたしは、大晦日までに掃除は終わっていればいいとは言いましたけど」
まだ大晦日まで三日ある。三日“も”ある。その前から《窓口》は早めに神社に行こうと思っていたし、鏡花達同居人には、来るなら後からでいいと伝えていたはずなのに。
「三日間もご主人がいないとか、寂しいじゃないですかぁ」
「どうせ、鏡花はわたしがいない時は、わたしの部屋で寝ているんでしょう?」
未だに鏡花は弟と部屋を共有しており、寝る時だけは弟に気を使って別の部屋(亜夢や《窓口》の部屋)に移動する。
「だって、水月を追い出すのは可哀想じゃないですかぁー」
「何も一緒に寝ればいいじゃないですか、姉弟なんだから」
「いくら姉弟でも、それは嫌ですよぉ」
「それを言ったら、七海と八雲だって同じ部屋で寝てますよ?」
狐達の寝る時が、どんな状態なのかは《窓口》は知らないが。鏡花は《窓口》の言葉にむぅ、と何か言いたげだ。仕方なく、というように《窓口》は、思い付いた事を口にする。
「二段ベッドでも年明けに買いますか?鏡花」
「それならば、寝る時に部屋を別にしないで済みますねぇ」
「後、水月くんの机も」
「大掃除で、だいぶ部屋のスペースも空きましたしねぇ、机も置けますね」
それまでに、また鏡花の私物が増えないといいのだけど、と《窓口》は思う。
「それで、鏡花はいつまでわたしに抱きついてるつもりなのですか?」
「へ?あ、そうですねぇ・・・いっそのこと、この方がご主人も温かいかと思って」
外は寒いというのに《窓口》は縁側に座っているものだから、鏡花は鏡花なりに気を使っていたようだ。それも巫女服(ちゃんとした正装の巫女の格好ではないが)で。
「うぅー・・・七海さん達に何かお手伝いできるか、聞いてきますかねぇ?」
「最初からそうすればよかったのでは?」
鏡花はパッと離れて「そうですねぇ」と部屋の奥に行く。その瞬間に背中が寒くなり、《窓口》は少しだけ身震いする。
「そういえば、七海達もやる事あるのかしら?」
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神社の裏にある玄関から、外に出る。普段、この神社には八匹の狐が出入りをしている。ちょっとした御守りと御札も売っており、そこでは今、七海と八雲の兄妹である、六花と五月が売り子をやっている。
「あら、どうなさいました?」
「んー?・・・鏡花が退屈そうだから、何かできそうな事があるかなって」
「さっちゃん、何かあるかしら?」
さっちゃん、と六花に呼ばれた五月は、金色の髪をツインテールにした、緑色の眼の狐だ。六花と同じく、売り子をやっている。
「りっちゃん、こっちは特にないと思う」
「それなら、みーちゃんかしーくんの所かしら?」
「三鈴か四季の所?・・・今、二人はどこにいるのかしら?」
「多分、今なら裏にいると思うよ」
正直、なぜ神社内で、たらい回しにされなくてはいけないのか、と《窓口》は疑問に思うが、自分も暇だし別にいいかと六花に言われた通り、他の狐の所に行くことにした。
「・・・なんとなく、あの二人にも他の狐の所に行けって言われそう」
神社の裏で二人を《窓口》は見つける。銀髪の髪を一つの三つ編みにした、右目が空色で左目が緑色の三鈴は、八雲が女装しましたと言っても違和感がない。それとは対照的に、四季は七海と性別を入れ替えて、金髪を短くした感じ。眼の色も三鈴とは逆だ。三鈴が動く度に、三つ編みを結ぶ緋色のリボンに付けられた、一個の大きな黄金色の鈴が鳴る。四季の方は髪の一部を、小さな黄金色の鈴がついた緋色の紐の髪飾りでまとめている。
「二人は何してるの?」
「一応、人形供養です」
「あ、お嬢も焼き芋食べる?」
「・・・貰います」
芋と一緒に焼かれて、人形の供養になるのかと思いつつ、四季が投げたアルミの塊をキャッチする。
「おっと・・・熱っ!」
「四季、食べ物を投げちゃいけませんっ!!」
「痛っ?!おい三鈴、叩くことねーだろ!」
「それは四季の自業自得だと思いますよ」
《窓口》は焼き芋を上手くキャッチしたはいいが、熱かったので袖に包んで持ちながら、三鈴に平手打ちを食らった四季に呆れたように言う。同時に彼の髪飾りの鈴がリリンと小さく鳴った。
「お嬢に言われたら、もう俺は何も言えないじゃないか」
「事実ですものね?」
「後、人形と一緒に焼き芋をするのは、いかがなものかと」
「それも四季です」
薄々感付いてはいたが、やっぱりかと《窓口》はため息をついて、その場を後にする。つまり、この二人の所にいても何もない。
「・・・あとは一実と二葉の所かしら?」
「珍しいな、普段の巫女の格好じゃないなんて」
境内を歩いていると、何をしにきたのか知らないが、護がいた。
「今日は特に何もないので、特に正装じゃなくても構わないでしょう?まぁ、それなりに違和感はないようにしたつもりですが」
「それはいいけど、外にいて寒くないのか?中には炬燵だってあんだろ」
「今は智志くんと水月くんが勉強中ですから、邪魔になるわ・・・あ、コレ食べます?」
《窓口》は護に先程、四季に貰った焼き芋を護に渡す。護はそれを黙って受け取る。
「二人に言わせれば神社の方が比較的、落ち着いて勉強できるらしいです」
「まぁ、静かだしな・・・でも、他の奴等はどうしたんだよ?」
「大晦日にはこっちに来ますって言ってました」
「そうか」
護はやはり《窓口》が寒そうに見えたのか、自分が着ていた黒いコートを《窓口》に突き出した。
「少しの間、コレ着てろ」
「あら、それは護くんに悪いわ」
「どうしてもお前が寒そうに見えんだよ」
「それに、わたしとキミの身長差とかを考えてくださいよ」
じれったかったのか、護はそのままコートを《窓口》に羽織らせる。かなり暖かい。
「全く、手とか、かなり冷たいじゃねーか」
「護くん、風邪引きますよ?」
「そこまで俺は病弱じゃねーよ」
「ところで、キミは何をしにきたんです?」
「特に何もないけど、お前が神社で暇そうだって聞いたから」
なんでも、神社に来る途中で鏡花に会ったらしい。鏡花は七海達にお使いでも頼まれたようだ。
「確かに今は暇ですけど」
「年明けたら忙しくなるんだろ?初詣とかで、人が沢山来るだろうし」
「それはそうですよ」
ここは神社ですからねと、《窓口》は賽銭箱の前に座り込む。
「来年は平和だといいんだけどな?」
《窓口》は護の言葉に小さなため息をつく。
「何もない平和というのはいい事だけど、きっとそれは生きていても退屈だわ」
「・・・お前の感覚は俺とは違うから、よくわからないが」
「でしょうね」
《窓口》は立ち上がって羽織っていたコートを護に返す。
「中に戻ります、ありがとうございました」
「そうか、いい退屈しのぎにはなったようだな」
「それにしても、わたしに構ってばかりで、キミは仕事とか大丈夫なんですか?」
「ちゃんとやる事はやってるよ」
「やっててくれないと、わたしが困りますけどね?」
《窓口》の言葉に護は苦笑する。
「じゃあ、今度は初詣にでも来るよ」
「はいはい、仕事の合間にご苦労様です」




