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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
メリークルシミマス
84/225

勘違い、絡まる思い

日の沈んだ町を歩く、一組の男女。


「さて、ボクらの仕事の時間だね・・・霊夜」

「ユウくん、本当に私達だけで大丈夫なのかしら?」

「今回は『人形』の中身を殺せないから厄介だね、でも《窓口》さんはとっくに向こうに行ってるみたいだし・・・請け負った以上は行くしかないよ」


裏道を黒い服を着て二人は歩く。向かうは、とあるアパートの一室。



  ✡



《窓口》は玄関のドアなどに札を貼っていく。


「さて、こんなもんで大丈夫ですかね?」


静の住むアパートの一室には《窓口》と真夜、ネロがいる。現在の《窓口》は、いつもの学生のような服ではない、まるで巫女のような感じの服装だった。四つ葉の装飾の髪飾りは、相変わらずだが。静の話だと、電話の主は、もうここの近くまで来ているらしい。ただ、彼はリビングで《窓口》達の様子を見ていた。


「もし、電話があっても出ないか、例え電話に出ても、この部屋の外に出る事を絶対にしないでくださいね?」

「わかりました」


そして、あっと思い出したように《窓口》は静に向き合う。


「それと、わたしから一つ、いいでしょうか?」

「なんでしょう?」

「貴方に真実を知る覚悟はありますか?」

「真実、ですか?」


《窓口》の言葉に、静は理解できないと言いたげな表情をする。


「結構、貴方には辛い現実を・・・わたしは突き付けることになるかもしれないのですが」

「・・・今、それを話すんですか?」

「別に今でなくても、依頼が終わったらでも構いませんよ」

「そうですか・・・もし終わったら、お話を聞かせていただけますか?」


その言葉を聞いて《窓口》は黙って頷き、部屋を出ていった。


「知らない方が幸せなのか、知った方が幸せなのか・・・彼にとって、どちらが良いのかしら?」



  ✡



静の携帯が鳴り響く。静はどうするか、ネロに指示を仰ぐように見る。


「例え電話に出ても、家の外に出なければいいと、我が主は仰いましたからね」


その言葉に静は電話を取った。雑音に混じって少女のような声が受話器の向こうから聞こえる。


『──もしもし、わたしメリーさん』


『──今、貴方の家の前にいるの』


静はその言葉に思わず電話を切り、玄関の方を向いた。


「向こうはなんと?」

「家の・・・前に・・・」


突然、ガンガンとドアを乱暴に開けようとする、激しい音が辺りに響く。静のいる部屋のドアの前。可愛らしい人形がドアノブを掴んでいた。


「《窓口》さん、ボクらが先に仕掛けても大丈夫かな?」

「お願いします」


《窓口》と合流していた幽と霊夜は、その人形と対峙する。だが《窓口》はすぐにまた何処かに行ってしまっていた。


「都市伝説って聞いたから、ボクもどんなモノかと思ったけど」

「やっぱり、詩音の方が良いと思いますけどね?」


二人に気付いた人形が、クルリと顔を向ける。


『誰?』

「君に名乗ったところで、君はボクらに興味はないんだろう?」

「ただ、言い表わすとしたら・・・貴方を在るべき場所に帰す存在、かしら?」


二人の言葉に人形は特に反応をしない。


『わたしは……ただ、会いたい……だけなのに』

「彼に会って、どうするつもりなのかな?」

「殺す、とか危害を加えるつもりだったなら、全力で止めさせていただきますわ」


幽は小型の銃を、霊夜は数珠を取り出す。


『わたしノ……邪魔を……すルの?』

「君には悪いけど、ボクらはただ、ボクらの仕事をするだけだ」


人形の身体が二人の方を向く。身体で見えていなかったが、人形の手には包丁があった。


『邪…魔を……しな………イ……で』

「貴方は今、ここにいるべきモノじゃない」



  ✡



──《窓口》との会話を幽と霊夜は思い出す。依頼人との打ち合わせの後、二人は《窓口》の帰りを待っていた。


「《窓口》さん、ちょっと聞きたいんだけど」

「なんでしょう?」


帰ってきたばかりの《窓口》に幽は、応接室に手招きをする。


「そういえば《窓口》さんは『メリーさんの電話』って、最後はどうなるか知ってるかい?」

「ユウくん、最後っていうのはドアを開けて『あなたの後ろにいる』って言われた後のこと?」

「そうだね」

「基本的に、最後は個々の想像に委ねられますよ」

「殺されるとかじゃないのかい?」


うーん、と《窓口》は困った様子を見せた。


「よく言われるのは、振り返ったらメリーさんに殺される、ですが他にも色々言われているようですよ?・・・壁を背にしていて壁に埋まってるとか、駅で迷子になるとか、本当に色々」


《窓口》はいくつか例を挙げるが、殆んどネットの掲示板の話ですけどね、と笑っていた。


「本当に壁にでも埋まっていたら楽だったのに」


幽夜の銃弾は人形の腹を撃ち抜く。包丁を躱し、霊夜は数珠を使って人形を縛る。


「──灰は灰に」

『い…や……ぁ……ア゛ァァッ』

「霊夜!」


霊夜の数珠による拘束を解こうと人形が暴れ、自身の包丁を持っている腕を引きちぎり、腕だけが霊夜へ向かう。


「──切り離せ《血染めの黒鋏》」


──チョキン


包丁を持った人形の腕は、間一髪のところで糸が切れたように地面へ落ちた。


「・・・えっ?」

「なんだか、美味しいところを持っていくようで少しだけ嫌なんですけど」

「ボクらは別に構わないし、気にしないよ」


幽の少し後ろに、全身真っ黒の鋏を持った《窓口》がいた。


「詩音!?一体、今までどこにいたのよ?」

「いやぁ・・・周りに迷惑がかかってはいけないので、色々とやってたんですよ」


ニコッと笑って《窓口》は手に持った鋏を少しだけ開く。と、同時に人形との間合いを詰めて、その鋏を人形に突き立てる。


「そもそも、貴女の器はそれではないでしょう?」


──チョキン


「貴女のその憎悪も所詮、作り物」


《窓口》は鋏を引き抜き、再び開く。間髪を入れずに人形の首を切断する。


「貴女の意識を在るべき場所、在るべき形へ──切り離せ」

『あ゛ぁ………アァァッ』

「偽りの器を焼きましょう、もう二度と、動かぬように──《火葬》」


《窓口》の言葉で、人形が激しい炎に包まれる。人形が跡形もなく燃え尽きたのを確認してから、黒い鋏を上着の内ポケットにしまう。


「結構、呆気なく《窓口》さんは処理するんだね」

「こういうのは、やはり最初から詩音がやるべきだったのではなくて?」

「わたしも、まさか、別件と繋がってるとは思っていなかったのでね」


霊夜の言葉に、少し苦笑しながらも《窓口》はドアを開けた。



  ✡



リビングで静と幽が、この後の事を話し合う。霊夜とネロの肩の上にいた真夜は黙って聞いている。それを横目に《窓口》は部屋に貼った札を回収していた。


「これでもう、あの電話はないと思います」

「本当にありがとうございました」

「報酬などは打ち合わせの通り、こちらが提示したモノを後日《窓口》さんの所にお願いします」

「わかりました」


二人の話は終わり、幽が立ち上がる。


「じゃあ霊夜、ボクらは帰ろうか、あとはよろしくね《窓口》さん」

「はい、お任せください」


札の回収を終えた《窓口》に軽い会釈をして、幽と霊夜が部屋を出ていく。《窓口》は頭を下げて二人を見送った。


「さて、わたしからは少しだけ・・・よろしいかしら?」

「・・・はい」

「・・・もしかしたらこれは、わたしが直接言うよりは、自ら確かめた方がいいのかもしれませんけれど」


話をしようとした《窓口》は、ふと、何か思うことがあったのか、突然、一枚の紙を静に手渡す。そこには、とある病院の住所と部屋の番号が書かれていた。


「あの、これは?」

「もし気になるなら、明日、その場所へ行くといいでしょう」

「病院・・・?」

「そこで貴方は真実を知るでしょうね、その後、どうするのかは貴方次第」


正直なところ《窓口》は悩んでいたようだ。別件で動いていたから、口外してもいいのかと。


「さて、わたし達も帰りましょうか」

「貴女もありがとうございました」

「いえいえ、それではお邪魔しました」


部屋を出た《窓口》にネロも真夜を肩に乗せたまま続く。


「なんで結局、主の口から言わなかったのですか?」

「正直、どうするかを迷ってはいたんですよね」


さっさと道を歩く《窓口》にネロはついていく。


「彼女が今回の電話の張本人だって、言っていいのかと」

「ご主人、知らない方が幸せな事もありますが」

「だからこそ、その事はわたしから言えなかった」


歩みを止めて、ネロの方にくるりと《窓口》は振り返った。


「その代わりに主は、彼の彼女への誤解は解いておこうと思われたんですね?」

「その後どうするかは二人が決めること、わたしがこの先、二人に何かをすることはありません」


再び歩きはじめた《窓口》に、ネロの肩から《窓口》の肩へ飛び乗った真夜が口を開く。


「ですが、ご主人」

「どうしました?真夜」

「あの鋏で、彼女の意識は本当に戻ったんでしょうか?」

「その辺りは大丈夫、一応、加減をしておきましたし」

「そうですか」

「きっと明日には目覚めますよ、心配なら、今から見に行きますか?」

「あ、それだったら、あたしだけ行きますよ」


ピョンと肩から飛び降りて、真夜は《窓口》に行ってきますと、闇夜に消えた。


「心配性ですね、真夜は」

「万が一っていう事を、考えていらっしゃるんじゃないでしょうか?」

「じゃあ、その『万が一』の可能性を潰しておきましょうかね」

「主、何をされるおつもりですか?」

「キミに、わたしの起こす『奇跡』を見せてあげますよ」


ニコッと笑って《窓口》は口を開く。


「では『彼女は絶対に朝になれば目覚めます、そして人形の中にあった時に見たモノ聞いたモノは全て悪い幻想(ゆめ)、目覚めた時には彼女はこの件に関しては全く覚えていない』これをわたしは『実現』させましょう」


札を一枚取り出して《窓口》はそれを空中へ放る。


「──わたしの紡ぐ言葉は『絶対』に『実現』するわ」


札は光を放って、どこかへ消えた。


「これでキミの言うような『万が一』はありませんね?」

「本当に貴女の力は恐ろしいモノがありますね」

「力だって使い用です、その気になればこの世界だって、わたしは自由に書き換えられますよ?ただ、それはしないし簡単にはできませんけど」


《窓口》は、鍵をポケットから出してドアを出現させ、開けてその向こう側へ行く。ネロは小さくため息をついてから、それに続いた。

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