勘違い、絡まる思い
日の沈んだ町を歩く、一組の男女。
「さて、ボクらの仕事の時間だね・・・霊夜」
「ユウくん、本当に私達だけで大丈夫なのかしら?」
「今回は『人形』の中身を殺せないから厄介だね、でも《窓口》さんはとっくに向こうに行ってるみたいだし・・・請け負った以上は行くしかないよ」
裏道を黒い服を着て二人は歩く。向かうは、とあるアパートの一室。
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《窓口》は玄関のドアなどに札を貼っていく。
「さて、こんなもんで大丈夫ですかね?」
静の住むアパートの一室には《窓口》と真夜、ネロがいる。現在の《窓口》は、いつもの学生のような服ではない、まるで巫女のような感じの服装だった。四つ葉の装飾の髪飾りは、相変わらずだが。静の話だと、電話の主は、もうここの近くまで来ているらしい。ただ、彼はリビングで《窓口》達の様子を見ていた。
「もし、電話があっても出ないか、例え電話に出ても、この部屋の外に出る事を絶対にしないでくださいね?」
「わかりました」
そして、あっと思い出したように《窓口》は静に向き合う。
「それと、わたしから一つ、いいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「貴方に真実を知る覚悟はありますか?」
「真実、ですか?」
《窓口》の言葉に、静は理解できないと言いたげな表情をする。
「結構、貴方には辛い現実を・・・わたしは突き付けることになるかもしれないのですが」
「・・・今、それを話すんですか?」
「別に今でなくても、依頼が終わったらでも構いませんよ」
「そうですか・・・もし終わったら、お話を聞かせていただけますか?」
その言葉を聞いて《窓口》は黙って頷き、部屋を出ていった。
「知らない方が幸せなのか、知った方が幸せなのか・・・彼にとって、どちらが良いのかしら?」
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静の携帯が鳴り響く。静はどうするか、ネロに指示を仰ぐように見る。
「例え電話に出ても、家の外に出なければいいと、我が主は仰いましたからね」
その言葉に静は電話を取った。雑音に混じって少女のような声が受話器の向こうから聞こえる。
『──もしもし、わたしメリーさん』
『──今、貴方の家の前にいるの』
静はその言葉に思わず電話を切り、玄関の方を向いた。
「向こうはなんと?」
「家の・・・前に・・・」
突然、ガンガンとドアを乱暴に開けようとする、激しい音が辺りに響く。静のいる部屋のドアの前。可愛らしい人形がドアノブを掴んでいた。
「《窓口》さん、ボクらが先に仕掛けても大丈夫かな?」
「お願いします」
《窓口》と合流していた幽と霊夜は、その人形と対峙する。だが《窓口》はすぐにまた何処かに行ってしまっていた。
「都市伝説って聞いたから、ボクもどんなモノかと思ったけど」
「やっぱり、詩音の方が良いと思いますけどね?」
二人に気付いた人形が、クルリと顔を向ける。
『誰?』
「君に名乗ったところで、君はボクらに興味はないんだろう?」
「ただ、言い表わすとしたら・・・貴方を在るべき場所に帰す存在、かしら?」
二人の言葉に人形は特に反応をしない。
『わたしは……ただ、会いたい……だけなのに』
「彼に会って、どうするつもりなのかな?」
「殺す、とか危害を加えるつもりだったなら、全力で止めさせていただきますわ」
幽は小型の銃を、霊夜は数珠を取り出す。
『わたしノ……邪魔を……すルの?』
「君には悪いけど、ボクらはただ、ボクらの仕事をするだけだ」
人形の身体が二人の方を向く。身体で見えていなかったが、人形の手には包丁があった。
『邪…魔を……しな………イ……で』
「貴方は今、ここにいるべきモノじゃない」
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──《窓口》との会話を幽と霊夜は思い出す。依頼人との打ち合わせの後、二人は《窓口》の帰りを待っていた。
「《窓口》さん、ちょっと聞きたいんだけど」
「なんでしょう?」
帰ってきたばかりの《窓口》に幽は、応接室に手招きをする。
「そういえば《窓口》さんは『メリーさんの電話』って、最後はどうなるか知ってるかい?」
「ユウくん、最後っていうのはドアを開けて『あなたの後ろにいる』って言われた後のこと?」
「そうだね」
「基本的に、最後は個々の想像に委ねられますよ」
「殺されるとかじゃないのかい?」
うーん、と《窓口》は困った様子を見せた。
「よく言われるのは、振り返ったらメリーさんに殺される、ですが他にも色々言われているようですよ?・・・壁を背にしていて壁に埋まってるとか、駅で迷子になるとか、本当に色々」
《窓口》はいくつか例を挙げるが、殆んどネットの掲示板の話ですけどね、と笑っていた。
「本当に壁にでも埋まっていたら楽だったのに」
幽夜の銃弾は人形の腹を撃ち抜く。包丁を躱し、霊夜は数珠を使って人形を縛る。
「──灰は灰に」
『い…や……ぁ……ア゛ァァッ』
「霊夜!」
霊夜の数珠による拘束を解こうと人形が暴れ、自身の包丁を持っている腕を引きちぎり、腕だけが霊夜へ向かう。
「──切り離せ《血染めの黒鋏》」
──チョキン
包丁を持った人形の腕は、間一髪のところで糸が切れたように地面へ落ちた。
「・・・えっ?」
「なんだか、美味しいところを持っていくようで少しだけ嫌なんですけど」
「ボクらは別に構わないし、気にしないよ」
幽の少し後ろに、全身真っ黒の鋏を持った《窓口》がいた。
「詩音!?一体、今までどこにいたのよ?」
「いやぁ・・・周りに迷惑がかかってはいけないので、色々とやってたんですよ」
ニコッと笑って《窓口》は手に持った鋏を少しだけ開く。と、同時に人形との間合いを詰めて、その鋏を人形に突き立てる。
「そもそも、貴女の器はそれではないでしょう?」
──チョキン
「貴女のその憎悪も所詮、作り物」
《窓口》は鋏を引き抜き、再び開く。間髪を入れずに人形の首を切断する。
「貴女の意識を在るべき場所、在るべき形へ──切り離せ」
『あ゛ぁ………アァァッ』
「偽りの器を焼きましょう、もう二度と、動かぬように──《火葬》」
《窓口》の言葉で、人形が激しい炎に包まれる。人形が跡形もなく燃え尽きたのを確認してから、黒い鋏を上着の内ポケットにしまう。
「結構、呆気なく《窓口》さんは処理するんだね」
「こういうのは、やはり最初から詩音がやるべきだったのではなくて?」
「わたしも、まさか、別件と繋がってるとは思っていなかったのでね」
霊夜の言葉に、少し苦笑しながらも《窓口》はドアを開けた。
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リビングで静と幽が、この後の事を話し合う。霊夜とネロの肩の上にいた真夜は黙って聞いている。それを横目に《窓口》は部屋に貼った札を回収していた。
「これでもう、あの電話はないと思います」
「本当にありがとうございました」
「報酬などは打ち合わせの通り、こちらが提示したモノを後日《窓口》さんの所にお願いします」
「わかりました」
二人の話は終わり、幽が立ち上がる。
「じゃあ霊夜、ボクらは帰ろうか、あとはよろしくね《窓口》さん」
「はい、お任せください」
札の回収を終えた《窓口》に軽い会釈をして、幽と霊夜が部屋を出ていく。《窓口》は頭を下げて二人を見送った。
「さて、わたしからは少しだけ・・・よろしいかしら?」
「・・・はい」
「・・・もしかしたらこれは、わたしが直接言うよりは、自ら確かめた方がいいのかもしれませんけれど」
話をしようとした《窓口》は、ふと、何か思うことがあったのか、突然、一枚の紙を静に手渡す。そこには、とある病院の住所と部屋の番号が書かれていた。
「あの、これは?」
「もし気になるなら、明日、その場所へ行くといいでしょう」
「病院・・・?」
「そこで貴方は真実を知るでしょうね、その後、どうするのかは貴方次第」
正直なところ《窓口》は悩んでいたようだ。別件で動いていたから、口外してもいいのかと。
「さて、わたし達も帰りましょうか」
「貴女もありがとうございました」
「いえいえ、それではお邪魔しました」
部屋を出た《窓口》にネロも真夜を肩に乗せたまま続く。
「なんで結局、主の口から言わなかったのですか?」
「正直、どうするかを迷ってはいたんですよね」
さっさと道を歩く《窓口》にネロはついていく。
「彼女が今回の電話の張本人だって、言っていいのかと」
「ご主人、知らない方が幸せな事もありますが」
「だからこそ、その事はわたしから言えなかった」
歩みを止めて、ネロの方にくるりと《窓口》は振り返った。
「その代わりに主は、彼の彼女への誤解は解いておこうと思われたんですね?」
「その後どうするかは二人が決めること、わたしがこの先、二人に何かをすることはありません」
再び歩きはじめた《窓口》に、ネロの肩から《窓口》の肩へ飛び乗った真夜が口を開く。
「ですが、ご主人」
「どうしました?真夜」
「あの鋏で、彼女の意識は本当に戻ったんでしょうか?」
「その辺りは大丈夫、一応、加減をしておきましたし」
「そうですか」
「きっと明日には目覚めますよ、心配なら、今から見に行きますか?」
「あ、それだったら、あたしだけ行きますよ」
ピョンと肩から飛び降りて、真夜は《窓口》に行ってきますと、闇夜に消えた。
「心配性ですね、真夜は」
「万が一っていう事を、考えていらっしゃるんじゃないでしょうか?」
「じゃあ、その『万が一』の可能性を潰しておきましょうかね」
「主、何をされるおつもりですか?」
「キミに、わたしの起こす『奇跡』を見せてあげますよ」
ニコッと笑って《窓口》は口を開く。
「では『彼女は絶対に朝になれば目覚めます、そして人形の中にあった時に見たモノ聞いたモノは全て悪い幻想、目覚めた時には彼女はこの件に関しては全く覚えていない』これをわたしは『実現』させましょう」
札を一枚取り出して《窓口》はそれを空中へ放る。
「──わたしの紡ぐ言葉は『絶対』に『実現』するわ」
札は光を放って、どこかへ消えた。
「これでキミの言うような『万が一』はありませんね?」
「本当に貴女の力は恐ろしいモノがありますね」
「力だって使い用です、その気になればこの世界だって、わたしは自由に書き換えられますよ?ただ、それはしないし簡単にはできませんけど」
《窓口》は、鍵をポケットから出してドアを出現させ、開けてその向こう側へ行く。ネロは小さくため息をついてから、それに続いた。




