すれ違い、そして勘違い
幽と霊夜は、今日も二人一緒に《窓口》の家の応接室にやってきた。出掛ける準備をしていた《窓口》に、霊夜は不思議そうに首を傾げた。
「今日は、詩音は打ち合わせには立ち会わないの?」
「ちょっと今日は外に行かないといけなくて・・・ですが、ネロくんがわたしの代理でいてくれますから」
「そう、なら助手くんに必要なことも伝えておけばいいのね?」
「よろしくお願いします」
肩に真夜を乗せて《窓口》は家を出る。
「それでは、行ってきますね」
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『夢見市』にある病院。そこに《窓口》は真夜を連れてやってきた。正直、あまり病院という場所には、立ち入りたくないのが本音。
「ここか・・・」
「さすがに猫の姿では入れませんよね」
「・・・ですね」
《情報屋》の亜星から貰った資料と、七海からの情報を《窓口》は携帯で確認する。肩から飛び降りた真夜の姿が、少女の姿に変わった。耳は上手く隠している、というか見た目は普通の人間の姿だった。
「・・・真夜、尻尾」
「へ?・・・あ」
尻尾だけが残っていたが、真夜はワンピースの下にサッと隠す。
「これで、とりあえずは大丈夫ですよね?それでは参りましょうか、ご主人」
「そうね」
そして二人は病院の中に入っていった。
──二人がこの病院に来ることになったのは、静の依頼を受ける数日前のことだった。リビングで《窓口》がテレビを観ていた時、ちょうど七海と八雲は神社から帰ってきた。
「お嬢、少しだけいいでしょうか?」
「どうしました?七海」
いつもとは違う、困ったように笑っている七海に《窓口》は、なんとなく、直感で仕事の事かなと感じた。
「実は・・・神社の方に依頼が来たのですが、どうしましょう?」
「依頼?それは珍しいですね」
《窓口》も少なからず、神社に参拝客がいるというのは知っている。神社に依頼が来るのは何も初めてではないが、かなり珍しい事だ。
「最初は六花が気が付いたといいますか」
「結構、深刻そうだったのね?」
「あまりにも熱心にお参りをしているようだったらしいんです」
「それで?」
七海の話を聞くと、妙齢の女性が一人、お参りをしていたのだとか。その後、六花の所に御守りを買いに来たらしいので、七海達に話をしてみたら、と薦めたのだそうだ。
「なんでも、この間の交通事故の、被害者の女性の母親らしくって」
この時、観ていたニュース番組でやっていたので、《窓口》も大雑把な内容は知っていた。なんでも飲酒運転で、歩行者のいる道と建物に突っ込んだというモノ。その被害者は一人だけではないし、死傷者多数と言われていた。
「その事故の被害者が、早く意識が戻りますように、と願っていたようで」
「まぁ・・・もし、医者が手を尽くしてもなお、暫く経っても意識が戻らないのであれば、また連絡をもらってくださいな」
「かしこまりました」
そして、七海からの連絡を受けて《窓口》が彼女の意識を捜しに来ることになったのである。
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病院のロビーは、他の患者達の話し声で意外に騒がしい。真夜が受付に行き、事情を説明すると《窓口》と真夜は、とある一室に行くように言われた。病院の奥の集中治療室の前。そこにいた一組の男女。七海の言っていた被害者の両親だ。
「あ、もしかして神社の方ですか?」
「はい、神社の狐達から事情は伺っております」
「あぁ、本当ですか」
《窓口》が来たことに気付いた二人は、彼女をまじまじと見る。まぁ《窓口》の格好はどう見ても学生のような、いつもの格好なので、疑いたくなるのは仕方ないのだが。
「彼女の意識を捜す前に一つ、何故、彼女の意識の捜索の依頼を神社に?」
「娘には、付き合っている男性がおりまして」
「その男性はこの事をご存知で?」
「いえ、実はまだ、言ってなくて」
どうも、彼氏と喧嘩して家を飛び出したところを、彼女は交通事故に遭ってしまったとの事で、どうにも彼女の両親は、彼氏にこの事を伝えられずにいたらしい。
「一応、一命は取り留めたものの、娘は未だ目覚めずにいます」
「それで娘の意志を確認したく、神社の方へ」
「・・・なるほど」
これでは彼がいつまで待っていても、彼女が帰ってくる訳がないわな、と《窓口》は集中治療室のドアを見る。
「ところで、その事故にあった時の彼女の所持品の中に『人形』はありますかね?」
「人形ですか?・・・確か、事故現場に娘の近くに人形があったと警察から聞きましたね、どうもメリーさんとかそれに近い名前のだったそうで」
「娘の他にも巻き込まれた方が、その人形を持っていたようなんですよ」
「・・・そうですか」
「あの、それが何か?」
「あぁ・・・いえ、こちらの話の事なので、お二人は気になさらないでください」
どうも今回は色んな事情が絡み合い、すれ違い、複雑になっているようだ。
「本当なら中に入って彼女の意識を捜せればいいのですが」
「ご主人、さすがにそれは難しいかと」
「ですよね・・・まぁ、ここからでも少しはできるから、問題は・・・ないか」
《窓口》は壁に手をあて、目を閉じた。
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《窓口》と真夜が病院を出ると、外はもう既に暗く、街灯や建物も灯りが点いていた。真夜は病院を出ると同時に、普段の猫の姿に戻り《窓口》の肩に飛び乗った。
「まさか、両親もあそこに彼女の意識がないとは思わないですよねー」
「それはそうでしょう」
彼女の意識を捜す《窓口》は暫くしてから口を開いた。
「・・・どうも彼女の意識はここには『いない』ようですね、だから目覚めずにいるんです」
「では、どこに?」
「うーん・・・もしかしたらというのはあるのですが、確証がないので迂闊に伝えるのは・・・」
《窓口》の様子に彼女の両親は、それなら全て《窓口》に任せると言って頭を下げた。その方が《窓口》も都合が良かったので、必ず依頼を遂行すると約束して、病院を出たのだ。
「まぁ、亜星さんの『情報』を見るまでは、その彼氏が静さんだとは思わなかったけどね」
「そうなると彼女は」
「静さんにかけている『メリーさんの電話』の張本人です」
携帯を出して《窓口》は霊夜にメールを送る。内容は、二人にとって必要であろう『情報』と注意事項。《窓口》が幽に直接メールをしなかったのは、霊夜が彼の助手でもあるからだ。すぐに霊夜からの返信がある。
『情報とかありがとうございます☆
一応、ユウくんにも伝えておきますね〜
あと、こちらの打ち合わせも、もう少しで終わります』
「向こうは向こうで順調のようですね」
「さて、この後はどうしますか?ご主人」
「とりあえず協会に行きましょう、調べないといけない事があります」
金色のハートの鍵を出して《窓口》達は協会へ向かった。
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《窓口》は真夜を肩に乗せて、人々が行き交う協会のロビーを歩く。
「珍しいな」
「あら、護くんではありませんか」
「どうしたんだ?こんな時間に」
「まあ、こちらで少し調べる事がありまして・・・ちょっと今は忙しいので、これで」
護に会ったが、今の《窓口》には構っている暇はない。早々にエレベーターの方へ向かった。本来、資料室には鍵がかかっている。殆んどここに立ち入るのは、警察関係者か《窓口》くらいしかいないが。
「えっと・・・会員証・・・暗証番号は・・・っと、開いた」
資料の鍵は、会員証と暗証番号によって厳重にかけられている。時々、暗証番号は変わるが、そういう時は《窓口》が自身の鍵を使って開けるという強行手段をとるので、これを知った護に説教され、同時に暗証番号も教えてもらっている。
「今度更新する時は、望さんに頼んで暗証番号なくても開くようにしてもらおうかしら」
「ご主人、それはさすがに駄目ですって」
中に入って《窓口》は一冊の資料のファイルを手に取る。
「事故は先週の話ですからね、きっと最近のにあるはず」
パラパラとページを捲り、目的の事故の資料を探す。《情報屋》の亜星に頼むのが一番手っ取り早いのだが、彼女は色々とまた調べる事があるらしい。
「あった・・・人形だけが、回収されたけど、なくなってるみたいね、なくなった時期的には『電話』がかかってきた時期と重なる」
「それにしても、不思議なのはこれだけの事故でも、彼が彼女を探そうとしなかった事ですね」
「亜星さんが調べてくれたことによると、一応、彼女や友人達にはメールなどを送っているみたいです、通話履歴も残っている」
「でも、彼女からの返事だけは無かった、と」
彼女の両親にも連絡をしたが、その時に彼女の両親は二人が喧嘩をした事を知り、きっと静が気に病むからと、事故の事を伏せてしまったらしい。さらに友人達も同じように考えた結果、彼は何も知らない状態になっている。
「ニュースとか観ないんですかね?」
「彼は社会人、仕事の都合によっては観てないこともあるでしょうし、例え観ていたとしても被害者の名前が伏せてあったら気付かない」
ましてや、自分の彼女が巻き込まれたなんて、想像もしないだろう。
「思いやりがすれ違いを生み、誤解が生じてる」
「そりゃ、一週間もずっと帰ってくる事も連絡もなければ、振られたと思いますよね」
それもあって静は《窓口》に彼女と別れたと相談に来た時に言ったのだ。
「それで、彼は彼女の私物を捨てたってことですか」
「それでも彼は、どこかでいつか彼女が帰ってくるのではないかとも思っているようですよ」
「全部はまだ捨ててないと?」
「相談に来た時の彼に視たものの中に、まだ着れる衣類だとか、必要なモノやすぐに買えないモノを捨てた記憶は、無かった」
人の記憶やプライベートを覗く趣味は《窓口》にはないのだが、今回ばかりは、視えてしまったのだから仕方ない。
「彼女の意識は、都市伝説を媒体にして一人歩きをしているのもわかったし、幽くん達にも連絡したから、その辺りも彼らに任せましょう」
「ご主人がそう望まれるなら、あたし達はそれに従うだけです」




