都市伝説とすれ違い
「こういう依頼なんですけれど」
静の相談の翌日。応接室のソファーには《窓口》とネロ。その向かい側には一組の男女。
「ふぅん・・・『メリーさんの電話』ねえ」
「それならば、詩音の方が得意ではないの?」
向かって右側にいる、墨色の髪に茜色の眼の青年の方は《窓口》が渡した資料の中身を確認している。こちらは闇路 幽。一応彼らも相談員で、基本的に霊や悪魔を相手にしている《祓魔師》だ。
向かって左側にいる、灰色のハーフアップの髪に、柳色の眼の少女は影谷 霊夜。ちなみに、幽の彼女で単なる《霊能力者》。彼女とは学生時代からの友人であり、彼女を《窓口》と呼ばないで、偽名で呼ぶ人物の一人だ。
「わたしは、また違う方で動かなくてはならないんですよね」
霊夜の言葉に《窓口》は苦笑する。正直、霊夜の言葉通りなのだが《窓口》は今回は幽達二人に任せることにしたのだ。
「まぁいいじゃないか、ボクも仕事が終わって次の仕事はどうしようかと思っていたのだから」
「ユウくんがそう言うのなら、私は別に構わないのですけれど」
幽は霊夜を宥める。霊夜は特に《窓口》を責めるつもりがないというのは解っているのだが。
「二人だけの時間を盗ってしまって本当に申し訳ありませんね、霊夜」
「別に私は詩音を責めるつもりではないのよ?だって、こちらとしては、詩音はユウくんの仕事のお得意様な訳ですもの、ね?」
「気にしていないなら、いいんですけど」
気にしてる訳ないじゃないと、霊夜は笑っている。
「それで、詩音が他に動くっていうのは?」
「依頼人が相談前に彼女と別れたらしいんですけど、それがなんだか、主には引っ掛かったそうで」
「ふーん・・・珍しいね?《窓口》さんが依頼人のプライベートな事で動くなんて」
「わたしがそちらで動くことで、お二人にとっては良い方向にいくかと」
ニコッと《窓口》は笑って幽と霊夜を見る。そういう事ならばと、霊夜も少しだけ納得した様子。
「今回はその辺の幽霊を相手にするより大変だしね、はい・・・コレはボクが空いてる日ね、打ち合わせする日は依頼人と《窓口》さんで決めていいから」
「わかりました、連絡を入れておきます」
《窓口》は幽から予定が書かれた紙を受け取って、確認してからネロに手渡した。
「正直、私とユウくんだけで大丈夫なのか、心配だわ」
「もちろん、その辺りはわたしも協力しますので」
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幽と霊夜が帰った後。《窓口》の携帯に着信が入った。確認すると、護からだった。
「もしもし?」
『──あ、しぃ?ちょっと、お前に聞きたい事があって電話したんだけど』
「聞きたい事ですか・・・?」
『──本当はそっちに行こうか迷ったんだけどさ』
「今なら空いてますけど」
『──んー・・・なら、悪いんだけどそっち行くわ』
「わかりました、お待ちしてます」
プツリと切れたのを確認するように、ティーカップを片付けていたネロが《窓口》の方に振り返った。
「もしかして、護からですか?」
「今から来るそうです」
「一体、どうしたんでしょうね?」
「多分、この案件絡みだと思うんですよねぇ」
《窓口》が大きく伸びをしたところで、応接室のドアが開いて護が入ってきた。どうやら鍵を使ったらしい。
「早かったですね?」
「悪いな、俺もあまり時間がないんだよ」
「とりあえず、どうぞ、座って」
《窓口》に促されて、護は《窓口》の向かい側に座る。ネロは飲み物を出して《窓口》の隣に座った。
「今日は何のご用件でしょう?」
「コレについて聞きたいんだけど、お前の所に手紙が来てないか?」
護が出した一枚の紙。それは普段は協会の掲示板に貼られる依頼の書かれたモノだ。
「・・・来てたとしても、わたしが軽はずみに口外していいんでしょうかね?一応、守秘義務もありますし?」
「もし、もう依頼として受け取っているなら、キャンセルじゃないけど、こっちでやっておきたいんだが」
「・・・ちょっと確認してきても?」
「あぁ、別にそれは構わないけど」
《窓口》は立ち上がって、依頼の紙を持って応接室を出ていく。
「まだそういう手紙が来てなかったのか、来ていて誰かに依頼済みだったのか、どっちだ?」
「護、僕からは仕事に関しては何も言わないよ?」
「それはわかってる」
しばらく経っても《窓口》は戻ってこない。護も、それがどういう事を表すのかは、わからないが。
「・・・時間がかかるんだな」
「まぁ、こういう場合はまず、相談者に連絡をしなくてはならないからね」
「色々とややこしいな」
「こればっかりは、僕らも相談者の意志に委ねるしかないのさ」
応接室のドアが開いて《窓口》が入ってくる。かなり表情は堅かった。
「どうだった?」
「一応、この相談者さんには許可を取ったので、答えますね」
「あったのか」
「昨日、その件については話を聞きました・・・そして先程、幽夜くんに依頼済みです」
「・・・そうだったのか」
「ちなみに相談者は協会の方は今日、依頼の取り下げをするつもりだったようです」
だが、紙は護が持っていた為に、どうしようか静は迷っていたようだ。
「まぁ、まだ打ち合わせはしてないですが、今回はキミ達でも相手をするのは難しいんじゃないかしら」
「どういう事だ?」
「相手は『都市伝説』だと言ったら、わかりやすいかと」
それでも護には理解が出来てないようだ。首を傾げている。
「その辺の霊の力を1とするなら、怨霊は10、それが都市伝説ならば、さらに上だと言えばわかりやすいかしら?」
その言葉で護はそういう事かと頷く。つまり、今回の件は譲るつもりはないと《窓口》は言ってもいる。
「それは、幽くんでもキツくないか?」
「その為にわたしも動くんですけどね」
「・・・じゃあ、コレはお前が請け負うって事でいいんだな?」
「そうなりますかね?」
護はそれならそれでも構わない、とソファーから立ち上がって応接室を出ていく。
「じゃあな」
「あら、今回は意外と素直に引き下がるんですね?」
「依頼人が決めたことに、俺は口出しするつもりはねーよ」
「そうですか」
バタンとドアが閉まり、応接室には《窓口》とネロが残される。
「この後はどうされるおつもりで?」
「幽くん達と打ち合わせしてもらっている内に、わたし達は別件の方で動きましょう」
「あ、お師匠様から『情報』も?」
「今回の件は結構、すれ違いと勘違いによって、かなり拗れてることがわかりました」
《窓口》は再びソファーから立ち上がって、応接室を出ていく。ネロはそれを黙って見ていた。
「さて、今回はどういった物語を綴るのかしらね?」
《窓口》は自分の部屋のドアを開けて、一人、中に入っていった。




