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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
メリークルシミマス
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内緒話と都市伝説

協会のロビーにある掲示板。毎日、この掲示板には協会に持ち込まれた色々な依頼が貼られている。その内容も様々で、行方のわからなくなった人やペットの捜索から、イベントの臨時スタッフ募集などがある。


「ここは、一体いつからバイトの募集とかをする場所になったんだ?」


掲示板に貼られている、様々な案件を眺めていた護は、そのスタッフ募集の内容の多さに呆れてしまう。時期が時期だから、店も人手不足なのだろうけれど。そしてソレを普通に貼りだす協会の方もどうなのかと。協会所属の魔術師達は基本的に、この掲示板から依頼を選んで報酬を貰っている。中には《窓口》達のように個人で仕事をしている者もいるが。


「・・・これは?」


バイト募集に埋もれていた一件の依頼。護はそれを手に取り、まじまじと見る。


「これは、普通なら協会(こっち)じゃなくて《怪奇現象捜査課》の方に出す案件じゃねーのか?」


一応、上司に確認しようと、護は依頼の書かれた紙を持っていく。何というか協会のチェックは大雑把を通り越して、ザルなのかと言いたくなった。



  ✡



協会の建物にある休憩室。ここは自動販売機もあるので、飲み物なんかを飲みながら、色々な人物が雑談をしている。護はそこにいた上司を含めた女性三人に近づく。


「おや、護くんの方から来るなんて珍しいね?」

「珍しいのは三人の方じゃありませんか、黒奈さんに(あや)さん、(かなで)さんまで」

「あらあら、アヤ達が黒奈といるのが、そんなに珍しいのかしら?」


胡桃色のショートカットの髪に、朽葉色の眼の女性は、護におどけたように笑う。彼女は詩方(うたかた) 文。協会所属の《言霊使い》で琴葉の姉。普段はこの協会の敷地内にある図書館で《司書》をやっている。


隣にいる、肩で切りそろえた烏羽色の髪と、常磐色の眼の女性は音無 奏。こっちは響の姉。職業はピアニスト。本人曰く、腕はワーグナーの『結婚』を、まるで葬式で流れるような感じにして弾ける程度らしい。


この三人は協会で一緒にいるのは見かけることが、ごく稀にある。その三人をまとめて周りは《夢幻の詩女神(ミューズ)》なんて呼んでいる。確かに三人とも美人なのだけど、黙ってさえいれば。


「そりゃ《全てを喰い潰す黒》とか《鮮血の鎮魂歌(レクイエム)》、さらには《血染めの禁書目録》なんて裏で言われる人が、全員揃っていたら珍しいでしょ」


護は呆れたように三人を見る。どれも彼女達個人が裏の人間達に恐れられて付けられた渾名のようなものだが、物騒極まりない。彼女達の戦闘ぶりが、あまりにも激しかったのがわかる。


「ところで、わたくし達に何のご用件で?」

「いや、奏さん達にじゃなくて、用があるのは黒奈さんにだけですけど」


護は持っていた一枚の依頼の書かれた紙を黒奈に見せる。


「これって本来ならば俺達がやる案件なんじゃありませんか?」

「うーん、確かにね・・・でも、日付とか見る限り、もしかしたら、もうしぃちゃん辺りに手紙でも出してるかもしれないね?」

「そこは確認するしか」

「やっておいてくれないかな?」

「・・・はい」


護は自分から持ってきたので仕方ないとは思うが、何だか体よく厄介事を押し付けられたように感じた。



  ✡



応接室のソファーに座る《窓口》とネロ。向かいには一人の男性がいる。


「では、まず貴方のお名前からお伺いしても、よろしいでしょうか?」

「あ、はい、小鳥遊(たかなし) (しずか)です」


ネロは書類に書かれた名前を確認する。


「さて、今回、こちらに相談された理由ですけれど」

「最近、変な電話がかかってくるんです」

「電話、ですか」

「それならば、ここではなくて協会や《怪奇現象捜査課》の方に依頼を出した方がいいのでは?」


静が言うには協会に解決の依頼は出したが、なかなか請け負ってくれる人物がいなかったようだ。そして、この『相談所』に手紙を出して、今に至るのだという。


「ちなみに、その電話ってどういった内容なんですかね?」

「最初は、誰かの悪戯電話かと思ったんですよ」


最初のうちは無言だったので無視をしていたようだが、だんだんとそれが少し違うモノだと気付いたのだとか。


「小さくですが言ってたんですよ『わたしメリー、今、○○○のゴミ捨て場にいるの』って」

「『メリーさんの電話』ってヤツですか」

「都市伝説が相手では、確かに協会で請け負ってくれる人物は、なかなかいないですね」


──『メリーさんの電話』は都市伝説の一つ。一人の少女が『メリー』と名付けた西洋人形を、引っ越しの際に仕方なく捨てたところ、その日から『わたしメリーさん、今、ゴミ捨て場にいるの』と電話がかかってくる。そして、その電話がかかってくる度に、人形の言っている場所が、少女の家に近づいてくるというものだ。


ざっくり説明するとこんな感じ。


「それに思い当たる節はありませんか?」

「そういえばこの間、彼女と喧嘩して、別れたので彼女の私物をいくつか捨てましたね」

「その中に人形は?」

「・・・覚えてないです」

「人形はちゃんと供養しないといけないですよ?人の形をするモノには魂や気が入りやすいですからね」


《窓口》の言葉に静はそうなのかと、興味がなさそうだ。


「興味がないっていうよりは、感情が余り出ないっていう感じかしら?」


そんな様子を《窓口》は微笑んだまま見ている。それはもう次の行動に移すために、考えているようだった。


「とりあえず、誰にこの件を頼むか、ですが」

「えっと・・・?」

「わたしは、あくまでも仲介者ですからね」


《窓口》はチラリとネロの方を見る。それを合図のように頷くと、ネロはすぐに返事をする。


「今回《闇路》は入れそうですよ?」

「なら、お願いしましょうか」


そして《窓口》はじっと静を見る。見るというよりは、視るという感じだが。


「あとは追々《相談員》と打ち合わせをしてもらいましょう」

「そうですか」

「急いで解決してほしいと思うのは仕方ないですが、手遅れになる前にはこちらも動きますので、安心してくださいな」



  ✡



静が応接室を出ていった後、緊張が解けたのか《窓口》は大きく伸びをして、ソファーに寄りかかる。


「彼は勘違いもしているようですね」

「主は彼に何を視たんですか?」

「あまり他人のプライベートを覗くことは、したくなかったんですけどね、今回は向こうからの情報が少な過ぎて」


はぁ、とため息をついて《窓口》は少しだけ目を閉じた。だが、すぐにその目を開く。


「それにしても、恋愛って拗れると厄介ですね」

「そういう主は護と結構、歪んだ関係ですが」

「わたしは立場上、敵対する事があるというのは、わかってましたけど?」


ティーカップを片付けて、ネロは《窓口》の近くまで歩み寄る。


「ですが、いつまでそのような関係を続けるおつもりで?」

「ふふっ・・・さぁね」


《窓口》ははぐらかすようにニッコリ笑い、立ち上がって部屋を出ていった。


「・・・きっと、どちらかが死ぬまでこの関係は終わらないよ」


自分の部屋に戻ってから《窓口》は小さく呟いた。



『──もしもし、わたしメリーさん・・・今、郵便局の前にいるの』


日に日に、その電話の主は彼の家に近づいてくる。少しずつ、確実に。

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