少女達の内緒話
十二月も中盤。日が落ちるのは早く、イルミネーションなどで、いっそう街並みはクリスマスの雰囲気が強くなっている。そんな街を《窓口》とリオネットは歩いていた。
「マスター・・・ボク、クリスマスプレゼントは、ぬいぐるみがいいな」
「何のぬいぐるみが、リオは欲しいんですか?」
「ボクが・・・抱えられるくらいの、テディベア」
リオネットが本以外の物をねだるのは珍しい。普段は自分の部屋(元々は図書室)で静かに一日中、本を読んでいるようなゴスロリ幼女なのに。
「一体、何の魔術に使うつもりなんですか?リオ」
「ボクもね・・・使い魔が、欲しいんだ」
元々が使い魔の集まりのような存在が、使い魔を欲しがっているとはこれ如何に。ちょうど信号待ちする事になったので、うーん、と《窓口》は少し考える。
「リオならその気になれば、自分から使い魔くらい、生み出せそうですけどね?」
「・・・それはボクから、ボクの中にある因子が分かれるだけ」
リオネットはとある研究所で生まれた、名前も形もなかった異形のモノ。それを《窓口》が、今の器となる身体に無理矢理詰め込んで今に至る。
「何でまた、使い魔を?」
「いつも・・・マスターから、鋏を借りるのはね」
「まぁ、ネロくんも亜夢ちゃんも使い魔いますしね・・・」
「七海ねぇと、八雲にぃにも・・・管狐がいるよ?」
そこまで言われたら、もう《窓口》は何も言えないし、必要ないとは思うが、本人が欲しがっているのだから、それに対して《窓口》も口出しをしようとも思っていない。
「うーん・・・とりあえずリオ、使い魔をぬいぐるみに入れようとするのは、止めておきましょうか」
「・・・うん、マスターがそう言うなら」
それでも、ぬいぐるみ自体は欲しいらしいので《窓口》は後で買っておきます、と笑って再びリオネットと日の暮れゆく町を歩く。
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《窓口》の自宅のキッチンで、亜夢と鏡花は二人で料理を作っていた。普段、家事はこの二人が(時々、ネロも)やっている。
「亜夢姉、何か今日はご機嫌ですねぇ」
「そうですか?」
亜夢は無意識にクリスマスソングを歌っていたらしい。それが鏡花にはご機嫌だと思ったようだ。
「今年も亜夢姉はメイド服がいい?」
「そうですね、今のも気に入ってはいるんですが、これは戦闘には向きませんし」
「じゃあ、後で戦闘用も作っておくよ」
「ありがとうございます、鏡花ちゃんは何が欲しいとかありますか?」
基本的に、この家のクリスマスプレゼントは交換というより、欲しい物を周りが一つにまとめてくれるような感じだ。
「あたしですかぁ?うーん・・・」
悩んでいるのは弟の水月がいるからだろう。多分、自分達の主人のことだから、水月だけをのけ者にはしないだろうけど。
「うーん・・・あたし自身は欲しい物はないんですが・・・」
「裁縫道具類も?」
「まだ使えるしぃ・・・」
どうやら本当に鏡花は欲しい物がないらしい。自分は現状で満足している、ということか。それよりも、弟の方を優先したいというのもあるのだろう。
「うーん・・・」
「鏡花ちゃん、まだクリスマスまでは日がありますし、のんびり考えていいと思いますよ?」
「そう?」
亜夢の言葉に、鏡花は少しだけ困ったように笑って、料理を完成させた。
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真夜は家のベランダで日向ぼっこしていた。正直、今日は暇だったのだ。だが、いつの間にか日は沈んでおり、自分がかなり長い時間寝ていたことを知った。日が暮れて、寒くなってきた。
「あらあら、真夜ちゃん、そんな所で寝ていたら、いくら真夜ちゃんでも風邪を引きますよ?」
ベランダの手すりの上で、んーっと伸びをして、声のする方を見ると、七海がニコニコと微笑んだまま、こちらを見ている。
「冬の日だまりは気持ち良いですものね、ここは陽当たりもいいですし」
「七海さんも、よく裏庭でお昼寝をしてますよね」
今日は七海も神社の手伝いに行っていたのか、巫女さんの格好だ。
「そういえば七海さんって、狐の姿と今の姿、どちらが本当の姿なんですか?」
「本来は狐の方ですわ」
「ずっと人の姿をとっていて、疲れないんですか?」
「変身していても消費する魔力は微々たるものですから、特にどちらの姿でも変わりませんわ」
強大な魔力を持つ妖魔は、普段からニコニコとしていると言われる。七海もその例に漏れず、いつも日だまりのように暖かい笑顔だ。怒っていても笑顔でいるが。
「七海さんには、辛い事とかはないんですか?」
「わたしにだってありますけど、千年近く生きていると、それも気にならないんですよね」
長く生きてると言う割りには、七海の尻尾は一本しかない。真夜達は、七海も八雲も狐の姿の時でも、尻尾は一本しか見たことはない。
「わたし達兄妹、みんな尻尾は九本ありますよ」
「え?」
「普段は、一本しか出してないだけですわ」
七海が残りの尻尾を出す。その尻尾は確かに九本あった。
「普段から九本出してると、家の中では色々と動きづらいんですよね」
「そうだったんですか」
確かに、尻尾が九本あると意図しない事(物を落としたり)が起きそうだ。尻尾をまた一本に戻し、七海はベランダの戸を開けた。
「そろそろお嬢達も帰ってきますから、中に入りましょう?」
「はい」
手すりから真夜は飛び降りて、七海の跡を追う。
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時々《窓口》の部屋で、同居人の女子会が開かれている。大体が、クリスマスなどで何か欲しい物とかの話だが。あまりこの話し合いに《窓口》は参加はしていない。
「また、主は追い出されてしまったんですか?」
「追い出されてるっていうよりは、自分から出てきたっていうのが正しいですかね・・・」
リビングで一人こたつで寝転んで、携帯を弄りながら寛いでいる《窓口》に、ネロは困ったように笑っている。
「この光景も冬の風物詩になってきてますね」
「だって寒いんですもの」
寝転んだまま、ネロの方を見て《窓口》は受け答えをする。飲み物をこたつの上に置くと、彼女は寝返りを打って場所を空ける。ネロは少し躊躇いながらも、座れという事だろうと《窓口》の隣に座る。
「主には欲しい物はないのですか?」
「特にわたしにはないですね・・・七海とかキミ達、大人組は欲しい物はないの?」
「亜夢さんはメイド服をご所望らしいですけど」
「それは鏡花が何とかしてくれますね」
起き上がって《窓口》はネロが持ってきた飲み物に口をつける。
「智志くんと水月くんは何かありますかね?」
「それは本人達に聞いてみないと」
「二人とも受験生ですし、それに水月くんは鏡花と部屋を別にした方がいいのかしらね?」
普段、鏡花の弟である水月は学校に行っているので、部屋はなくても困った様子はない。寝る時は鏡花が亜夢の部屋に行ってたりするようだが。
「勉強は、よく智志くんの部屋か、八雲くんの部屋でしてるみたいですしね」
「ちゃんと整理整頓されていても、あの鏡花の部屋では落ち着かないでしょうね」
ふぅっと一息ついて《窓口》は頬杖をつく。空いてる部屋はあるのだが、寝泊まりする時以外に必要な物がない状態だ。
「主、それも本人が望むならいいのでは?」
「わたしは甘過ぎやしませんかね?」
「必要な物に関しては、いいと思いますけど」
《窓口》は同居人達の行動を自由にさせている反面、過保護になっている節がある。甘やかしているようにはネロ達は感じていないが、本人はそれが少し気がかりのようだ。
「悩み事を解決するお手伝いをする人が、今、そういう事で悩んでどうするんです?」
「ネロくん、わたしだって人間です、悩み事の一つや二つはありますよ?」
《窓口》は頬杖をついたままネロを見る。その表情は、悩みがないように見えるのか、とネロに問うような、そんな感じだ。
「それと、八雲くんだって、七海さんと部屋は一緒じゃありませんか」
「あの二人の部屋は、少しだけ他の部屋より広いですからね」
はぁ、とため息をつく《窓口》にネロはただ笑っている。
「それか二人に変わってもらうとか?」
「それは追々、考えておきましょうか」




