対価の支払い
護達、異端審問官が店を出ていき、近くに誰もいないのを確認すると、薫と《窓口》はカウンターで話を始めた。
「今回の件の対価は何がいい?しぃちゃん」
「そうですね・・・何があるかにもよるのですが」
薫はカウンターの後ろにある引き出しから、色々な植物の種の入った小さな袋を出す。
「渡すのは薬とかでもいいけど、何か他にも使えそうなモノがいいよね?」
「そうですね・・・この金色の種は?」
「これは『幸福の種』っていって、庭とかに植えるだけで他人の不幸を喰って、純金の花が咲く、その花は咲いたら枯れないから、綺麗に咲けば、装飾品としても使用されるんだ」
「真夜がいる時に使ったら、すぐに咲きそうですね」
「次に『不幸の種』これは『幸福の種』とは逆だけど、他人に寄生させることで、個人を特定して不幸にする事が出来る」
他にも薫は一通り種の説明をしていく。
「あとは、この前やっと回収した、凄く珍しい種かな」
「珍しい種?」
薫が出した二つの黒い種。パッと見た感じは普通の植物の種だ。
「コレが『魔縛りの茨』の種だよ、対象の魔力に反応して、相手を拘束する事ができるモノの種なんだ」
「確かこの茨って」
「魔力に耐性があって、その拘束対象が魔法とか使う際に、魔力を吸い上げて絞めあげる茨だ」
「ではコレにしましょうかね、きっと何かに使えそうです」
薫は嬉しそうに笑って、種を小さな紙袋の中に入れていく。
「今回はまだ二つだけど、もう少し栽培して回収できたら、また取り置きしておくよ」
「いいんですか?」
「しぃちゃん達だけは特別だって」
小さな紙袋の口を閉じて薫は《窓口》に渡す。受け取った袋を持って《窓口》は奥の部屋に行く。ただ単に、バッグの中に入れただけのようだ。
「それで何をするつもりなんだい?しぃちゃん」
「うふふ、考えている事が上手くいくかはわからないですが、護くんにでも試してもらいましょうかね」
「しぃちゃんは利用できるものは何でも使うんだね、それが幼馴染みだとしても」
薫のその言葉にクスクスと《窓口》は笑う。
「あくまでも、わたしよりは現場で試せる機会が、彼の方が多いからですよ?」
「その為に、しぃちゃんは護をあそこまでの実力のある異端審問官に仕上げたのかい?」
「それでは語弊があります、彼自身が異端審問官になる道を選んだんですよ?そのバックアップを、普通ならしない方法で、わたしはしただけの話です」
ただ、護が、ここまで自分にとっても、厄介な存在にはなるとは思っていなかったのかまでは定かではないが、当の《窓口》は困ったように笑う。
「しぃちゃんは護の事をどう思ってる?」
「それはどういう意味で、ですかね?」
「たまにボクは、しぃちゃんは護の事を大事に見てない気がするんだ」
「わたし自身、護くんの事は特別、大事な人だと思っていますけど・・・これでも結構、大切にしてるつもりなんですよ?彼にとって最善になる状況なら、多少はわたしの方で妥協してますし」
「・・・そうなの?」
薫は《窓口》の言葉に驚く。いつだって彼女が優先するのは護で、例えそれが敵対している状況でも護にとっては最善な一手を打っているのだ。ただし、隠し通さなければならない事象がある場合は、それをも考慮しつつ、だが。それが彼女にとっての妥協なのだろうか。
「誰かに護くんが殺されるくらいなら、わたしが身代わりになってもいいわ、本来ならばわたしは中立でなければいけませんけれどね・・・だって彼のいない世界はきっと、わたしには退屈ですもの」
《窓口》の考えはよく薫にはわからない。ただ、本当にそれが正解なのかと言われても疑問符が浮かぶ。
「しぃちゃん、無理に我慢するのは良くないよ、そのままだと、護が誰かのモノになっちゃうよ?」
「我慢か・・・別に我慢はしてないんですよ、誰かと結ばれるのが護くんの幸福であるのなら、部外者のわたしが口を出すことではありませんよ」
「それは何?しぃちゃんと一緒じゃダメだってこと?」
「残念な事に、わたしは自分の未来も縁も見えませんし・・・それに、わたしと一緒にいるのが彼の幸福に繋がるとは限りませんからね」
その時の《窓口》の笑顔は無邪気そのものだった。
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《協会》のとある一室で、護はパソコンを操作している。隣には三月もいる。二人は上司に送る報告書を書いているだけなのだが。既に三月は飽きたらしい。
「護ー、終わった?オレの分もやってほしいんだけどさー」
「何で俺が、三月の報告書まで書かなきゃならねーんだよ」
「えー?一緒に来てやったのに、お礼の一つもないのかよ」
「別に俺はお前に、どうしても来てくれとは言ってないぞ、そもそも、お前から一緒に来るって言ったんだろうが」
三月の邪魔を軽くあしらい、護は作業を続ける。三月は若干、不満そうだが。そんなの気にしない。
「そういや、あのあと《窓口》さんは大丈夫だったのか?」
「アイツなら、しぶとく生きてるよ」
「その言い方だと、彼女が死んだ方が良かった、みたいに聞こえるぞ」
「別に、そういう風に言ったつもりはねーよ」
静かな部屋にカタカタとパソコンを操作する音が響く。三月も渋々、報告書を書いているようだ。だが、無言でいるのが三月には耐えられないのか、すぐに護に話しかけてくる。
「護ってさ、本当にモテるよな」
「いきなりなんだよ」
「部屋の外、女子社員が何人か小声だけど、キャーキャー言ってるぜ、大体が護の事だ」
「・・・本当に耳だけはいいんだな」
ドアと距離がある為、護には部屋の外の小さな声は聞こえない。さすがはウサギということか。そんな事に集中するなら、別な、それも重要な仕事に集中してほしいものだ。
「モテるっていうよりは、ただ物珍しいだけだろう?俺は魔力持ちじゃねーし」
「そうかねー?でも、護には《窓口》さんがいるしなー」
「何度も言ってるが、アイツとは付き合ってる訳じゃねーし」
それも三月には不思議なようで、護にどうしてこういう関係を続けているのかを聞いてくる。何度か周りにも言われてはいるが。
「別に理由はない」
「そんな感じでいると、いつか、どっかの誰かに《窓口》さん、取られちゃうぞ?」
「アイツが選んだ相手なら俺が口出しする事じゃねーよ、そいつがアイツを泣かせるような奴なら、話は別だが」
なんというか、護は《窓口》の保護者のようだ。それが災いしているのか、護は自分に向けられてる好意に、気付いてないように三月には思えた。
「護って娘がいたら、ホント過干渉しそう、んで、ウザがられそう」
「いきなりなんだよ?」
「何でもない」
三月は首を横に振って作業に戻る。だが、なんとなく三月は楽しそうだった。
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作業を終えて護と三月が部屋を出ると、三月の言っていた通り、三人の女子社員がいた。
「えっと・・・」
「あ、邪魔でしたよね、ごめんなさいっ」
女子三人組は、キャーキャー黄色い声をあげながら、遠くへ走っていった。
「なんだったんだ?」
「やっぱり、護は女の子の事がわかってないんだな」
首を傾げた護の後ろで、三月がやれやれとため息をつく。暫く歩くと、受付に《窓口》と薫の姿があった。どうやら《窓口》も動けるようになったらしい。
「もう《窓口》さん、大丈夫なんですか?」
「えぇ、ご心配おかけしました」
《窓口》は三月にペコリとお辞儀をする。そんな事をされるような奴ではないのにと護は思う。
「二人はまだ、こっちで仕事があるんですよね?」
「あぁ、今度は闇市の参加者の摘発だとさ」
「そんなにこの街の支部は人がいないんですか?」
周りをキョロキョロと見て《窓口》は首を傾げた。
「しぃちゃん、こっちは田舎だし、若いのは都会とか隣に人が流れてるんだよ」
「さすがに『水路と海の街』には適わないですね」
「あそこは観光地だしな」
その場にいた全員は納得したが、なんとなくため息が出てしまう。
「んで、この後《窓口》はどうするんだ?」
「何かあればまた来ますけど、わたしはこれで帰りますね」
「しぃちゃんは今回、ボクのお手伝いで来てくれただけだからね、ボクの今回の仕事は終わってるから」
それなら、なぜ二人は協会に来たのかと護は疑問に思う。
「一応、ボクは椿達からの報告書とかの確認とかもしないといけないし?」
「・・・え?」
「護、薫さんって二木さん達の親戚だったよな?でも、報告書の確認とかって事は・・・?」
「薫さん、ここでは椿さん達の上司にあたるんです、といっても、薫さんは異端審問官ではありませんが・・・まぁ、支部長に近いかしら?つまり、立場上はキミ達の上司の、さらに上司になりますかね?普段、彼女が花屋にいるのは、椿さん達に殆どの業務を任せているからなんですよ」
護にそっと《窓口》が耳打ちする。本当に《窓口》の交友関係はとんでもない。一体、いつどこで、こんな権力と実力がある人間や妖魔達に会っているのだろう。
「それは内緒です」
ニッコリ笑って《窓口》はシーッと、指を口元に持っていく仕草をする。
「たまに俺は、お前の事を恐ろしく思うよ」
「別に、わたしが誰と遊んでいても、キミに関係はない事でしょう?」
「口出しする権利は俺にはないしな」
そして、する事もないし、そろそろ帰ると言って《窓口》は協会の建物から出ていった。




