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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
カーバンクルと密猟者
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猫のような何か

森の入り口に《窓口》と薫は立っている。ここは危険区域に近い為、家も何もない。


「そうだ、しぃちゃん、森に入る前にこれ着けておいて」


思い出したように薫から手渡されたのは、一つのミサンガ。ミント色の糸で編まれた、緑色で葉の形の石が装飾されているミサンガだった。


「これは?」

「ボクが作った『リーフミサンガ』っていう、森の魔力で道に迷わないようにする為の道具、っていうかただの御守りだよ」

「それと、この石は?」

「それは『草守りの石』っていう、この森の魔法植物に襲われないようにする魔法石でさ、この辺りにしかない石っていうか、魔力の結晶で《魔石細工師》の千晶(ちあき)に頼んで、装飾できるように加工してもらったんだ」


このミサンガのお陰で、地元の人間達は森で迷わないらしい。ただ『草守りの石』までは持っている人は少ない(例え持っていてもかなり小さい)ので、魔法植物に襲われた場合は、逃げるか喰われるかのどちらからしい。


「自然界はやはり弱肉強食なのですね・・・」

「それはどの世界も変わらないよ、しぃちゃん」


覚悟を決めて、二人の少女は森の中に足を踏み入れた。



  ✡



日が沈んだ、深い森の奥。護達、異端審問官はとある『情報』を基に行動を始めた。


「しかし、どこからこんな詳しい情報が出てくるんだか・・・」

「そういえば、アイツも動く噂があるって、黒奈さんが言ってたな」

「だとしたら、多分これは《星の情報屋》からのだよ」

「確かにここまで詳しく調べられるのは、あの子くらいか」


さらには今回、後ろには《時の管理者》と呼ばれる、時槻 明日香がついているらしい。どこまで《窓口》の交友関係(という名のバックアップ)は影響力があるのだろうか。滞りなく仕事を終えた、護と三月はそんな事を考えながらも森の中を歩く・・・のだが歩いても歩いても同じ景色で、本当に帰り道にいるのかも判らなくなっていた。


「護、オレ達って帰るんだよな?」

「一応、俺達もそういう迷子にならないように御守り(らしきモノ)は支給されたけどな」

「・・・コンパスはアテにならないんだっけ?」

「どうも魔力とかで狂うらしいな、特殊な電磁波みたいになってるって聞いた」


確かにこれでは、魔力を持っている者でも森で迷うのは頷けるし、立ち入り禁止区域にもうっかり入ってしまうのも解る。そして二人は気付いていた。自分達が現在進行形で迷子になっていることに。


──一応、密猟者に関しては、現行犯で捕まえることはできた。そして先に地元の異端審問官に証拠共々連れていかれた。そこまでは良かったのだが、いざ、二人も帰ろうと思ったら、はぐれてしまい、それから道が判らなくなってしまったのである。


「なぁ三月、お前の耳で出口とか判らないのか?」

「んー・・・それがさ、何にも聞こえないんだよな」


三月が耳をピコピコと動かす。森は異様なくらい静かだ。護が右手に着けた腕時計を見ると、針は午前二時を指していた。


「草木も眠る丑三つ時とは、こういう事なんだろうな・・・」

「なんか不気味だよな」


鍵を使おうにも、森に入ってから地面に足をとられて転んだ時にでも落としたのか、ポケットを探しても、入ってないという絶望的な状況。


──ザワッ


「・・・何だ?」

「どうした?三月」

「何か変な音っていうか気配っていうか、ざわめきみたいなのを感じた」

「風か?」

「いや、違う」


これは本当にヤバいのではないかと、二人は思う。


──ヒュン


「危なっ」


植物の蔓が、護達に向かって鞭のような感じで襲い掛かってくる。周りを見ると、どうも囲まれたらしい。逃場がない。


「どうする?」

「どうするも何も、喰われるわけにはいかないだろ!」

「だよな、でも中には毒草があるから無闇に切れないぜ?」


正直な話、護には毒草などの見分けがつかない。知識としては知ってるが、実際に見分けろと言われたら難しい。


「下手に手を出しても、手を出さなくても死ぬとか嫌だな」



  ✡



二人の少女も森の中にいた。薫の植物達に対する説得は、未だ続く。


──ザワッ


「っ?!」

「どうしました?薫さん」

「誰かがこの立ち入り禁止区域に入ったみたい、襲われてる」

「行きましょう」


薫は、植物達と会話ができる為に異端審問官達の仕事の邪魔をしないようにと説得している。一応、今のところ、その説得で植物達は大人しくなってくれていたので《窓口》の仕事はなかったのだが。薫の案内で駆けつけると、植物の蔓の合間から、見知った顔がいることに気付いた。


「あれは・・・護くん?」

「何でまた、彼らがこんな所に?」

「もしかして、御守り効いてない?」


護が、魔力などの影響を受けにくい体質なのは《窓口》も知っている。まさかとは思ったが、御守りの効果も効いてないとは思わなかった。


「──《血染めの黒鋏》」


バッグから取り出した、持ち手から刃まで全部が黒い鋏が《窓口》の言葉と同時に巨大化する。


「薫さん、ごめんなさい、無差別に植物達を切っちゃいますね」

「いいよ、しぃちゃんの好きなようにして」


タンッと地面を蹴って近くの木の上へ、そしてさらに上へ跳ぶ。鋏の刃を二つに分けて、左右それぞれを手に持つ。右手に持った鋏の片割れを、下に落ちる勢いで大きく振り下ろした。


「──《黒風の凶刃》」


片割れの鋏から放たれた衝撃波は黒い風の刃となり、護と三月を襲う蔓を容赦なく切り刻む。


「うわっ・・・何だ?」


驚く二人の声。トンッと《窓口》は護と三月の前に降り立つ。ついでに薫もあとから合流する。


「えっと・・・《窓口》さん?」

「どうしてキミ達は、立ち入り禁止区域にいるのかしら?」

「それを言ったらお前もだろう?」

「とりあえず、ここから出ますよ」


蔓は《窓口》の攻撃でも既に再生しているし、さらに数も増えている。不穏な空気を纏い、ウネウネと触手のように蔦は蠢く。


「これでは埒があかないし、薫さんでも話が通じるかどうかわかりませんね・・・」

「ちょっとこれは難しいかもね」

「っていうか、その鋏はリオちゃんのじゃ?」

「これは元々わたしの鋏です、たまにリオには護身用に持たせてますけどね」


襲ってくる蔓を鋏で切りながら《窓口》は話す。


「薫さん、どうします?」

「ボクのできる限り、やってみるよ」


薫はポケットから注射器と、何か液体の入った小さなビンを出す。


「ところで護くん、鍵は?いつも持っているでしょう?」

「それが・・・」

「落としたのね?」


呆れたようにため息をついて《窓口》はバッグから自分の鍵を出す。


「あれ作るの結構、大変なんですけど?」

「・・・悪い」

「仕方ないですね──召喚、出てきて!《カーバンクル》」


鍵から光が現れ、一匹の猫のようなクリーム色の毛を持つ、何か可愛らしい生き物が出てきた。猫というには耳が少し長く、大きさも小動物くらいで尻尾は二本生えている。そして額には赤い宝石がついていて、それが幻獣とされるカーバンクルであることが判った。


「何でお前がカーバンクルを召喚できるんだよ?!」

「一度、密猟者の罠に掛かってたところを逃がしたんですよね・・・まぁ、そんな事よりカーバンクル、キミに頼み事!この鍵の片割れを探してほしいのだけど」


鍵を《窓口》が見せると、カーバンクルは頷いて森の中へ消えていった。


「見付かったらあの子はわたしの方に持ってきますから、護くん達を先に森の外まで送りましょう」

「お前は?」

「今は薫さんのお手伝いをしているので」


ニッコリ笑って《窓口》は鍵を使ってドアを出現させる。薫はいくつかの注射器を蔓に刺して薬品を入れていく。不思議な事に植物達は大人しくなっていく。


「さ、薫さんが時間稼ぎしてくれてますから」

「護、行くぞ」

「悪いな」


ドアを開けて三月と護は向こう側へ出る。そこは森の入り口だった。


「しぃちゃん危ないっ」

「え?」


ドアを挟んだ向こう側。閉める直前に振り返った《窓口》の腹部に刺のような何かが刺さる。


「痛っ・・・」

「大丈夫、じゃないね」

「すみません、薫さん」

「しかも神経毒のある刺だ、急がないと」


薫はうずくまる《窓口》に刺さる刺を見て、一瞬でどういうモノかを見抜いたようだ。さすがはこの森の管理者。


「お前達、ボクの大事な友達を傷付けたことが、どういう事か解るよね?」


注射器に、新たな紫色のビンの中の無色透明な液体を入れる。


「枯らすよ」


その薫の雰囲気というか、様子に植物達も恐れをなしたのか、植物達は一斉にその場を去っていった。

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