迷い子どこの子、この子、猫?
「さて、適当に連れてっていいって言われたけど・・・誰か、暇そうなのっているか?」
廊下を歩きながら、護は考える。一応、それなりに人付き合いはあるものの、本当にこういう場合は誰に頼むか迷う。護は部屋に戻って自分の席に着き、パソコンを立ち上げ、中断していた作業を再開する。
「護ー、色神さんは何だって?」
作業を再開するやいなや、後ろの席にいる三月が声をかけてくる。正直、鬱陶しいと思いながらも返事をする。どうしても、三月は護の邪魔をしたいらしい。
「なんか『大樹と森の街』に行くことになった」
「なんで?」
「向こうからの協力要請があったんだと」
「へー、一人で?」
「別に一人じゃなくてもいいってさ」
「ふーん、誰と行くの?」
「まだ決めてない」
カタカタと、文字を打ち込んで淡々と答える護に、三月は少し不満そうだが、護はそんな事はお構い無しに作業を続ける。というか、構ってるだけ時間の無駄な気もしてくる。
「なぁ、オレも一緒に行きたいなー」
「・・・なんで」
「その方が楽しそう」
タンッと打ち込みを終えて、護は呆れた様子で三月の方を向く。
「あのな?この仕事に楽しそうも何もねーだろ」
「うーん、まぁ・・・それはそうなんだけど」
「なんだよ」
「なんていうか、退屈なんだよね」
本当に、よくこれで三月は異端審問官になれたな、と護は改めて思った。それに三月が異端審問官になった理由は、規制の中でも心置き無く暴れられるからだったそうで、なる前は相当やんちゃだったらしい。本当になんでなれた?
「どっちかっていうと、オレは戦闘班だろ?」
「確かにな・・・考えておいてやるよ」
「サンキュー」
三月はそれだけでも満足だったのか、クルリと自分の机に向かって何やら作業を始めた。護もまた次の作業に入った。
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《情報屋》からの情報を眺めて《窓口》は事実に驚き、考えこむ。
「なんで、先月末から闇市の開催回数が増えてるの・・・?」
闇市というのは不定期に裏で開催されており、開催している所にピンポイントで居合わせるのは難しい。それ故に異端審問官でも、密猟者や購入者の特定が困難になっている。密猟者などを捕まえるにも、現行犯で捕まえる以外には方法がない状態だ。ただ、そんな状態でも《情報屋》の亜星によって、闇市の情報が《窓口》達には入ることがある為、彼女達はそこを襲撃(むしろ検挙)しに行くこともある。この闇市で、出品されてる代物の殆んどが、稀少種とされてる魔物の身体の一部や剥製などだ。
「その中でカーバンクル関係の出品は三件、人魚が一件、吸血鬼も一件・・・ただし、カーバンクルに関しては全部、最近の事だわ」
そして、次に《窓口》は購入者のリストに目をやる。購入者は大体が《窓口》からしたら、大した実力も実積もない家で、ただの見栄か自慢で購入してるような感じだ。この購入者リストは後で《協会》の方へ持っていく。ついでに通報しておいてやろう。
次に出品者リスト。出品の紹介では匿名で出されているものの、そこに出した密猟者の名前などが細かく書かれており、さらにありがたいことに、おまけでその密猟者が密猟していた正確な時間と場所までが載っていた。
「これで、向こうの動きが正確に判れば、わたし達ではなくても現行犯でいけそうね」
さすがに《窓口》も亜星は占星術はできても、正確な未来予知までできないのは知ってるので、ここは違う人物に頼むかと《窓口》は携帯をポケットから出して電話をかけた。
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護は大きくため息をついた。隣には三月もいる。
「結局、三月と来ることになるとか、最悪だ」
「なんだよ、不満かよ」
あれから護は、色々な人物に予定などを聞いてまわったが、結局の所、暇そうなのが三月しかいなかった。三月もちゃんと仕事をしてるのは知ってるのだが、どうにも護は不安で仕方がない。
「心配しなくてもオレだってやるときはやるぜ?」
ヘラヘラと笑って言われても、信憑性は薄い。いつも三月は楽しそうに笑ってるから余計に。
「その言葉が信用出来ないのは、なんでだろうな」
「さあ?いつものオレしか知らないからだろ?」
ここは『守木町』にある《協会》の支部。二人は受付で密猟に関することで来た旨を伝える。
「では、担当の者が案内致しますので、少々お待ちください」
「あ、はい」
『大樹と森の街』は箱庭大樹の根元にある田舎町だ。そして、その箱庭大樹の周りを取り囲むように森が広がっているし、その上に(一部だが)町がある。この森には様々な動植物が自生、繁殖などしており、中には立ち入り禁止区域とされる非常に危険な場所がある。
さらに、この森は魔法植物や幻獣の魔力によって、とても迷いやすく、気付かぬうちに危険区域に入り込んでしまう事もあるようだ。地元の人間が森に入る時は、それを回避するための御守りなどを身に付けるらしい。案内された部屋で、護と三月は担当者から今回の件の動きなどを確認する。
「・・・それにしても、今回の件だけで密猟者だけじゃなくて『異端審問官が行方不明』って」
「これ全部、魔法植物に喰われてるかもって事だろ?怖いな」
手渡された資料を見ながら、護と三月は、とんでもない所に来てしまったのではないか、と仕事を引き受けたことを少しだけ後悔した。
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──護達が《協会》で説明を受けている頃。『』にある一軒の花屋のレジのカウンターで《窓口》と薫が話をしていた。ここは森の上にではなく、森の開けた場所にある。
「・・・なんでまた、行方不明者とかが出てるんです?」
「どうも、魔法植物達が自分達のテリトリーを荒らされたと怒って見境なく襲ってるみたいなんだよね・・・まぁ、植物に人間の善し悪しを判別できるほど知能ないし」
「全員、危険区域には入ってないのに?」
「近くにいたってだけだったりしても、引きずり込まれたんだそうだよ、これが繁殖期だと、よくそういう事っていうのは見られるんだけどね」
薫から渡された資料を見て《窓口》は疑問を薫にぶつける。そこまで深刻な状態では、植物と話ができる薫でもお手上げらしい。
「それで、わたしは何をすればいいんですかね?」
「密猟者の確保は異端審問官でもできるだろうから、ボクと森で危険区域に入って、植物達を宥めるお手伝いをしてほしいんだ、向こうの仕事の邪魔になっちゃいけないからね」
「一口に危険区域とは言っても、全部が全部危険という理由ではなくて、カーバンクルなどの稀少種の生息圏だからという事もありますからね」
「その近くの魔法植物達が暴れてるから、ボクの説得とかが効かなければ、しぃちゃんが切り落とすなり焼き払うなり、なんでもしてくれていいからね」
箱庭大樹の周りの森は、薫とその親戚が管理している。時々、彼女達は森の手入れなどをしながら、稀少種の生態調査なども行っているそうだ。
「一応、二木とか三枝達には、しぃちゃんが亜星から貰った資料を渡しておいたからね」
「これで密猟者の確保は協会の方でできますから、こちらは安心して自由に動けますね」
「それと、明日香の未来予知の結果も更新できるようにしておいてもらったからね」
「それは《時槻》も大変でしょうね・・・後で何か文句とか言われないといいのですが」
《窓口》は小さくため息をついた。周りから《時の管理者》と呼ばれるその人物に、未来予知による協力を頼んだのは《窓口》自身なのだが、さすがに一日中とかになると、無理をしないかと心配になる。
「明日香には確か姉妹がいるだろう?多分、大丈夫だよ」
「その妹さん達だって、個人的な他の仕事はあると思うんですけどね?」
「分担はしてると思うけどなぁ」
「それはそうですが」
それでも、本人が承諾したのだから《窓口》達が何か口出しする事はないが。
「・・・そろそろ森に行くかい?」
「そうですね、早めに落ち着かせた方が異端審問官達も動きやすいでしょうしね」




