稀少種と迷い子
十二月になり、町の雰囲気は一層クリスマス一色になっている。護と三月は、どういう訳か今日も一緒に帰宅することになった。
「シングルヘール、シングルヘール、オレひーとりー、今日も一人でー残業だー♪」
「三月、なんか虚しくなるから、そういう事をそのメロディで歌うのやめろ」
道行く人は、三月が悲壮感たっぷりの替え歌を歌いながら歩いていたので、すれ違い様にクスクスと笑っている。それにしてもまぁ、カップルに見える男女二人組の多いこと。
「護はクリスマスとか予定あんの?」
「特にない、お前は?」
「オレもない、お互い寂しいな」
子どもの頃は楽しみだったが、大人のクリスマスは何が楽しくてやってるのか、全く理解が出来ない。
「あれ?《窓口》さんとは過ごさないんだ?」
「あぁ、アイツの所はさぞ賑やかだろうしな」
「そういや、また《窓口》さんの家に一人、来たんだよな?」
「仕え魔の弟だから、アイツの仕え魔として家にいるっていう訳じゃないらしいけどな」
──11月下旬に起きた、とある研究所の襲撃事件。その後、すぐに《窓口》の家を出入りする者が一人増えていた。護は、たまたま数日前に《窓口》が同居人の一人が通う学校の校門の前に、一人でいた為に、不審に思い、声をかけた。
「実は一人、急遽、居候が増えまして・・・それで、その子の転入手続きを鏡花が今してるんですよ」
「・・・またお前、同居人が増えたのか?」
「それがですね、鏡花の弟が見付かったんですよ」
話を聞くと、二人は身寄りも、行くアテもない為に《窓口》の家にいることになったようだ。鏡花に関しては、最初は弟が見付かるまでっていう話だったが、このまま弟と家にいることを望んだらしい。ちょうど話を終えた時に、鏡花とその弟が学校から出てきた。
「あの子が鏡花の弟の水月くんですよ、少し時期的には遅いですが、この学校に転校することになりまして」
「そうだったのか・・・大変だな、あの二人も」
「こちらで色々と必要なモノを揃えるのに、少しだけ時間がかかってしまって」
「俺に言ってくれれば、何かしら手伝ったのに」
護の言葉に《窓口》は、護だってこの時期は忙しいでしょう、と笑って答えた。その彼女の言う『忙しい』の内容は、よくわからないが。
「それじゃ、また」
「あぁ、今度は事件とかない時にな」
「わたしの所に色々と事件を持ち込むのは、大体、キミ達の方でしょう?」
その《窓口》の言葉に、ただ、護は笑うしかなかった。
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応接室には《窓口》とネロ、緑色の髪の左側の一部だけを結わえている黄緑色の眼の少女。彼女からはふわりと花の香りがする。
「周りの植物達の話だと、また、ボクの町付近でカーバンクルの密猟が行われてるらしいんだ・・・島の中では闇オークションとかは少なくなってきてるけど、まだまだ海の向こう側ではあるみたいだからね」
「そうなんですか?でも、それはわたしの管轄外でしょう?薫さん」
彼女は草摩 薫。島の南西にある、箱庭大樹と呼ばれる世界樹の根元にある『大樹と森の街』で花屋を営む《幻術師》だ。花屋とは言っても、生花だけでなく、漢方薬やら植物から作った香水なんかも置いてあるが。植物に関するものなら何でもあるとは薫本人の弁。
「それはそうなんだけど、ボクだけじゃどうにもならないんだよね」
「情報なら亜星さんに頼めばいいですし」
「ボクは戦闘能力が皆無だよ?だから、しぃちゃんにも協力してほしいんだ」
「戦闘能力皆無は嘘じゃないですか、まぁ、貴女から協力のお願いをされたら断らないですけど」
チラリと《窓口》はネロを見る。ネロは、ただ微笑んだまま頷いた。これをいつも部屋に籠っている彼女の、気分転換に外に出る理由になるな、とでも言いたそうに。
「とりあえず亜星さんに『情報』をもらって、色々と準備も必要ですかね?」
「ありがとう、しぃちゃん助かるよ」
薫は嬉しそうに《窓口》に頭を下げた。
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協会本部の建物内にある《怪奇現象捜査課》の部屋。ここでは、所属している者達が色々と書類を作成したり、調べ物をしたりしている。今日の護は外に出る訳でもなく、書類の作成をしている。カタカタとパソコンの操作をしていると、後ろから三月に声をかけられた。
「護ー、暇ー?」
「見たらわかんだろ?」
「本当に真面目だねぇ」
振り返ることもせず、護は作業をしている。三月は少しだけ、護の様子を眺めている。護は三月が、何を言わんとしてるのかがわからず、視線をそのままに、用件を聞き出す。
「で、なんだよ」
「んー?さっきさ、色神さんがお前を探してたぜ?見付けたら声をかけといてって言われた」
「そういう事なら早く言え、馬鹿!」
作成していたモノを保存し、電源を落として護は部屋を急いで出た。
「あ、いたいた・・・護くん、じゃなくて、飛鳥くん悪いねー、急に」
「珍しいですね、どうしたんですか?黒奈さん」
協会の休憩室にいた一人の女性は、護を見付けると、子どものように大きく手を振る。癖のある、ボブの黒髪に紫苑色の眼。彼女は色神 黒奈、そして色神 麻白の姉。一応、ここでは護の上司にあたる。
「いやー、あのね『大樹と森の街』の支部からの話でさ、カーバンクルの密猟がされてるらしいんだよねー、それを君に調べてきてほしいんだ」
「それは、俺達の管轄外じゃ?」
「噂だと、しぃちゃんも動くみたいだけど?」
ニヤニヤと黒奈は、護に何かと《窓口》の事を引き合いに出してくる。全く、何がしたいのか。
「あの・・・?アイツが動くからって、俺も動かないといけないんですか?」
「んー?そういう訳ではないんだけどさ、一応、向こうからの協力要請もあってね」
「・・・そういうのは最初に言うべきでは?」
この上司といい望といい、《窓口》の親戚は相変わらず、言わないといけない事を後から言ってくる。
「なんでまた、向こうからの協力要請が?」
「あそこは立ち入り禁止区域もあるんだけど、その近くで密猟がされてるらしいんだよねー」
「そんな所に俺は行くんですか?」
黒奈は当然と言うように頷いた。その立ち入り禁止区域は魔術師でも入ることをしない危険な場所なんだそうだが。なぜ、この上司はそんな所に護を派遣しようと思ったのか。
「今回ばかりは、どうしても魔力が効きにくい君に頼みたいんだよ」
「そういう理由でしたか」
「別に、君に一人で行けとは言わないし、誰か適当に連れてっても構わないからね」
「そうですか」
適当にって、本当にこの上司は大雑把というか、いい加減な性格である。それでも、ほぼ実力で今の地位にまで昇った人なんだというから驚きだ。(家の力は借りてないとは《窓口》からの話)
「やってくれるかな?」
「そういう事でなら、俺が断る理由はありませんね」
用件はそれだけだったようで、黒奈はただ頑張ってねー、と護に言う。
「あ、それと黒奈さん」
「何かな?」
「この間の研究所の」
「あー、あれか」
「望と何かありませんでした?」
「無いねー、私はこういう事に関してはこっち側の人間だし?ノンちゃんには何一つ伝えてないよ・・・まぁ、いてくれたら多少は楽なんだけどなぁとは思ったけど」
「そうですか」
いい加減な性格な割りには、ちゃんと公私は別にしているようだ(そうでなくては困るが)。そこでも腹の探り合いは、お互いにしてるようだが。
「まぁ、私もどうしても説明できない事件とかで、しぃちゃん達を疑いたいのはわかるんだけどさ」
「はい」
「あんまりそういう事をやりすぎると、協力してくれなくなっちゃうよ?」
「・・・?」
「確かに説明できない事象を、しぃちゃんは簡単にやってのける・・・でもね、それだけで、しぃちゃんの関与は証明できないでしょ?」
それなら、真実を伝えればいいだけの話ではないのか、とでもと護は思うが、黒奈の様子からどうも、そういう訳にはいかないらしい。
「それに、しぃちゃんが関与してたとしても、あちら側の事、絶対に自分じゃないとできない、誰もできないような事件は本当に特殊な事情がない限り滅多に起こさないし、やらない」
「だから困るんじゃないっすか、誰でもできる方法だから」
「まぁ、そもそもしぃちゃんは無闇に人を傷付けるような性格ではないしねー・・・」
「性格なんですか、ソレ」
「しぃちゃんはホント優しいよ、自分と相手の状況によるけど」
彼女は基本的に他人には中立で無関心だ。目の前で誰かが自ら死のうと、周りに人がいなければ何もしないし、回避できる事故も見過ごす。しかし、理不尽に傷付けられていたり、最悪な状況を抜け出したいと自分に助けを求める者には無償で手を差し伸べるし、自分や自分の大切にしている者に悪意を向ける者には、ある程度、手加減しながらもその強大な力を振るう。
「今回もノンちゃんの指示だとしたら、相当、彼女は無理をしていると思うよ?」
「無理ですか」
「そ、一番いいのは、誰も死なせる事なく、必要最低限な事だけをする事なんだろうけど、それができるのは、しぃちゃんだけだろうからね、きっとやらないと思う」
「つまり、犠牲は出したくないと」
「必要最低限の犠牲が出るのは、仕方ないとは思ってるみたいだけどね?だけど、それが度を超えるは嫌なんだって」
《窓口》は相手に合わせて手加減をする。それが相手にとって苦痛でしかなくても。いつだったか、自分でも《窓口》は一番自分が残忍な性格をしていると言っていた。
「まぁ、そんな考えこむ事はないよ、時間とらせて悪かったね」
「じゃ、俺はこれで」
「いい報告待ってるよ」




