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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
不老不死の幻想
74/225

脱出、報告と語らぬ真実

いつもの《窓口》の家の応接室。部屋の明かりは点けずに、集まっている。血塗れの服を着替えるために、戦闘班の三人は部屋を出る。


「姉さん、みんなもお帰りなさい」

「お留守番ありがとうございます、智志くん」

「で、その子は?」


彼女達と一緒に来た一人の少年を見て、智志は首を傾げている。


「鏡花の弟の水月(みづき)くんですよ」

「なんでまた、こんな時に見付かったんだ?」


話によると彼もまた、生き別れていた鏡花を探していたらしく、色々な施設を転々としていたようだ。そして、研究所の職員の話を聞いて、もしかしたら鏡花もいるかもしれないと思っていたらしい。


「確かに鏡花はいましたね、ただ襲撃している方(こちら側)に、ですが」

「あの、それで姉ちゃん、えっと鏡花は・・・」

「少し、貴方には残酷な話をしなくてはなりませんね、今、鏡花は記憶をなくしてまして」

「そうだったんですか・・・それでも、貴女が姉ちゃんを助けてくださってたんですよね?」

「行き倒れを放っておく趣味は、わたしにはありませんから」


それを聞いて、水月は少しだけ安心をしたようだ。その時、家の電話が鳴る。智志が電話をとりに部屋を出ていった。


「きっと彼からの電話でしょうね〜」


亜星がソファーに座り、ポツリと呟く。姉の、あんな姿を見せることになって申し訳ない、と《窓口》は水月に頭を下げた。


「いえ、姉ちゃんに居場所があったってだけでも安心しました、きっと今回は貴女のお仕事のお手伝いだったんでしょう?」

「それでも酷い事をさせてますよね?」

「それだけやられるような事を、あそこではしてたんでしょ?貴女が気負う事じゃないですよ」

「・・・結構、貴方も裏のことを知ってるみたいですね」


そこに、ちょうど鏡花とネロ、リオネットが戻ってきた。


「水月・・・だよね?」

「鏡花、これからどうしますか?」

「うーん・・・本当なら、あたしは水月を見付けるまでここにいるって約束でしたねぇ・・・」

「姉ちゃん、俺達は帰る家もないんだ」

「ご主人、約束と違いますけど、水月も一緒にここに置いてもらえませんか?」


《窓口》は少し悩んだようだが、頷いて口を開く。


「いいでしょう、ですが、水月くんはあくまでも居候って扱いですよ?」

「それでもいいです」


少しして智志が《窓口》を呼びに戻ってくる。話を聞くと、どうやら疑っているようだ。今日がどんな日か、わかってて電話をしてるのかと、少しぼやいている。


「七海と八雲は頃合いを見て結界を解いて、ドアを閉めてください、それで、亜星さんと雷くんを送ってあげてください」

「わかりました」


鍵を八雲に投げて《窓口》は部屋を出ていった。八雲は上手くその鍵をキャッチする。



  ✡



「おーい、護ー、結界が解かれたぞー」


暫く研究所の周りを歩いていた護に、三月が呼びにくる。


「解かれたのか、破った、じゃなくて」

「どうも、こっちが破るちょっと前に、向こうに解かれたらしいな」


三月は耳をピコピコと動かしている。その様子から、被り物とか着け耳じゃなくて、本物なんだなと護は改めて思った。


「あー・・・中はかなり悲惨らしいな」

「ここから聞こえるのかよ?三月」

「一応、オレはウサギだし?」

「・・・俺達も行くぞ」

「じゃ、先行くわ」


タンッと三月は駆けていく。その速さに護は一瞬だけ驚いた。


「さすがは獣人か・・・」



  ✡



夜が明けて、護と三月は《窓口》の家の応接室を訪れた。ネロが相変わらず、笑顔で出迎えてくれる。


「二人共、いらっしゃい」

「よぉ、アイツは?」

「彼女なら『ここに置いている呪いの人形が増えてきたから、供養してきます』って、朝早くから神社に七海さん達と行ったよ」

「あーっ、もう!なんでいつも、こんな時にいないんだよ、アイツは!」

「へー、あの人も人形供養とかできるんだ?」

「よく神社にも持ち込まれるから、そのついでだってさ」


ネロは二人に飲み物はいるか聞く。二人は急ぎだからいらない、と断った。三月としては、戻ってくるまで待っていたかったらしいが。


「急ぎなら、今からでも会いに行けばいいじゃないか、護だって鍵を持っているんだから」

「なら、今から行くわ」

「そうか、行ってらっしゃい」


鍵を使って神社の前に出る。石段を登って境内に行くと、奥の方で《窓口》と狐達が何かを燃やしていた。人形供養というのはこうするものなのか。


「よぉ、しぃ」

「あら、どうしました?珍しいですね」

「狐さん達はいつもの事ですが、《窓口》さんこそ、珍しいじゃないですか、巫女さんの姿とか、すげー似合ってます」


狐達はもちろんの事、確かに《窓口》も髪を結い、きちんとした巫女さんの格好をしている。護は《窓口》のこの姿を見るのは、何年ぶりだろうと一瞬考えた。


「人形供養をするのに、ミニスカートとかではさすがに・・・ね?」

「でもその様子だと、全部終わってます?」

「えぇ、ちょうど火を消すところだったんですよ」

「なぁ、しぃ」

「何でしょう?」


足元にあったバケツを持ち上げる《窓口》に護は口を開く。


「お前さ、この間《夢宮》の所に行ってたって言ってたろ?」

「言いましたね」

「この人形供養の事ではないよな?」

「この事ですよ?だって火を使うし、万が一の事があって、周りに迷惑がかかったらダメでしょう?もう神社が焼けるなんて嫌ですし、いつもそうしてますけど」


確かに《窓口》はこういう時も《夢宮家》を出入りしていたなと護は思い出す。やはり、今回の襲撃には彼女は関わっていないのだろうか。そんな事を考える護をよそに、バシャッとバケツの水で《窓口》は火を消した。


「お嬢、あとはオレらでやっておくんで、着替えてきたらどうですか?」

「はーい、八雲、後はよろしくお願いします」


《窓口》は境内の奥に入っていく。


「なんか覗いたら着替えてる所が見えそうだよな」

「さすがに、ここでそういうのはやめとけ、馬鹿」



  ✡



着替えて出てきた《窓口》は、いつものブラウスと茶色いセーター、グレーのタータンチェックのスカートだった。


「これからどこに行くんだ?」

「うふふ、さぁ?どこでしょうね?」

「ついていっていいか?」

「構わないですよ?・・・ついてこれるのならね」

「え?」


トンッと地面を軽く蹴って《窓口》は、一瞬のうちに鳥居の近くまで移動し、空中を高く跳んでいく。


「アイツ、何を」


慌てて二人は跡を追うが、そこにはもう《窓口》の姿はなかった。


「逃げられたな、護」

「だが、行くとしたら《夢宮》の所だろう」


二人も《窓口》を追って《夢宮家》に向かった。



  ✡



《夢宮家》の応接室のソファーに向かい合って《窓口》と望は座る。


「昨日はご苦労だったね、しぃ」

「今回も、わたしは疑われてますけどね」

「それは仕方ないだろう?しぃだって、それはわかっててやっているんじゃなかったのかい?」


望の言葉に《窓口》は何も言わない。確かに、こうなるのは、わかりきった事ではあるが。


「ちなみに研究データは、今回も《情報屋》に管理していただけるそうです」

「そう、それは良かった」


《窓口》の報告に望は満足そうに頷いている。


「しぃが語らなければ、今回の件も『猫箱』の中な訳だけど」

「そもそも、わたしは嘘を吐くのは好きではありませんし、貴方にも言えることでしょう?だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


《窓口》の言葉に望はただ微笑む。《窓口》は特に反応もせず、立ち上がる。


「・・・では、わたしはもう帰りますね」

「また何かあったら、ここにおいで」


無言で《窓口》は部屋を出ると、ちょうど護と三月が家の中に入ってきた。


「・・・やっぱり、行動が読まれてますね」

「お前の行動がわかりやす過ぎんだよ」

「まぁ、わたしはもう帰りますけどね」

「もう用件は済んだんですか?」

「うふふ、二人共、少し来るのが遅かったですね・・・といっても、わたしも人形供養が終わった報告だけなんですけど」


ニッコリ笑って《窓口》は護の脇をスルリと歩いていく。


「おい」


護は通り抜ける《窓口》の、華奢な腕を掴む。《窓口》は何事かと、護の方を向く。


「・・・今回また、とある研究所が襲撃された」

「そうですか、それで?」

「お前はどこまで知っている?そして、どこまで裏で糸を引いている?今回も『猫箱』の中に入れておくつもりか?」

「あら、キミは『猫箱』の中を確定させたいんですか?」

「それが、俺達の仕事だと思ってる」

「その前に、護くん、腕が痛いです」


少し困ったような《窓口》の腕を護は放す。どうやら質問してる内に、力がどんどん入りすぎたらしい。少しだけ、手の跡がついていた。


「『猫箱』の中を確定させるなんて、そんなの簡単じゃないですか」

「・・・何だと?」

「箱ごと猫を潰してしまえば、結果は嫌でも一つですよ?」


ニコニコと微笑む《窓口》に、護も三月も何も言えない。


「それでは、わたしは帰ります」


玄関のドアを開けて《窓口》は出ていってしまう。


「箱ごと潰す、か」

「アイツの『猫箱』は、段ボールと防弾ガラスの二重構造だろ、絶対に」

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