脱出、報告と語らぬ真実
いつもの《窓口》の家の応接室。部屋の明かりは点けずに、集まっている。血塗れの服を着替えるために、戦闘班の三人は部屋を出る。
「姉さん、みんなもお帰りなさい」
「お留守番ありがとうございます、智志くん」
「で、その子は?」
彼女達と一緒に来た一人の少年を見て、智志は首を傾げている。
「鏡花の弟の水月くんですよ」
「なんでまた、こんな時に見付かったんだ?」
話によると彼もまた、生き別れていた鏡花を探していたらしく、色々な施設を転々としていたようだ。そして、研究所の職員の話を聞いて、もしかしたら鏡花もいるかもしれないと思っていたらしい。
「確かに鏡花はいましたね、ただ襲撃している方に、ですが」
「あの、それで姉ちゃん、えっと鏡花は・・・」
「少し、貴方には残酷な話をしなくてはなりませんね、今、鏡花は記憶をなくしてまして」
「そうだったんですか・・・それでも、貴女が姉ちゃんを助けてくださってたんですよね?」
「行き倒れを放っておく趣味は、わたしにはありませんから」
それを聞いて、水月は少しだけ安心をしたようだ。その時、家の電話が鳴る。智志が電話をとりに部屋を出ていった。
「きっと彼からの電話でしょうね〜」
亜星がソファーに座り、ポツリと呟く。姉の、あんな姿を見せることになって申し訳ない、と《窓口》は水月に頭を下げた。
「いえ、姉ちゃんに居場所があったってだけでも安心しました、きっと今回は貴女のお仕事のお手伝いだったんでしょう?」
「それでも酷い事をさせてますよね?」
「それだけやられるような事を、あそこではしてたんでしょ?貴女が気負う事じゃないですよ」
「・・・結構、貴方も裏のことを知ってるみたいですね」
そこに、ちょうど鏡花とネロ、リオネットが戻ってきた。
「水月・・・だよね?」
「鏡花、これからどうしますか?」
「うーん・・・本当なら、あたしは水月を見付けるまでここにいるって約束でしたねぇ・・・」
「姉ちゃん、俺達は帰る家もないんだ」
「ご主人、約束と違いますけど、水月も一緒にここに置いてもらえませんか?」
《窓口》は少し悩んだようだが、頷いて口を開く。
「いいでしょう、ですが、水月くんはあくまでも居候って扱いですよ?」
「それでもいいです」
少しして智志が《窓口》を呼びに戻ってくる。話を聞くと、どうやら疑っているようだ。今日がどんな日か、わかってて電話をしてるのかと、少しぼやいている。
「七海と八雲は頃合いを見て結界を解いて、ドアを閉めてください、それで、亜星さんと雷くんを送ってあげてください」
「わかりました」
鍵を八雲に投げて《窓口》は部屋を出ていった。八雲は上手くその鍵をキャッチする。
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「おーい、護ー、結界が解かれたぞー」
暫く研究所の周りを歩いていた護に、三月が呼びにくる。
「解かれたのか、破った、じゃなくて」
「どうも、こっちが破るちょっと前に、向こうに解かれたらしいな」
三月は耳をピコピコと動かしている。その様子から、被り物とか着け耳じゃなくて、本物なんだなと護は改めて思った。
「あー・・・中はかなり悲惨らしいな」
「ここから聞こえるのかよ?三月」
「一応、オレはウサギだし?」
「・・・俺達も行くぞ」
「じゃ、先行くわ」
タンッと三月は駆けていく。その速さに護は一瞬だけ驚いた。
「さすがは獣人か・・・」
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夜が明けて、護と三月は《窓口》の家の応接室を訪れた。ネロが相変わらず、笑顔で出迎えてくれる。
「二人共、いらっしゃい」
「よぉ、アイツは?」
「彼女なら『ここに置いている呪いの人形が増えてきたから、供養してきます』って、朝早くから神社に七海さん達と行ったよ」
「あーっ、もう!なんでいつも、こんな時にいないんだよ、アイツは!」
「へー、あの人も人形供養とかできるんだ?」
「よく神社にも持ち込まれるから、そのついでだってさ」
ネロは二人に飲み物はいるか聞く。二人は急ぎだからいらない、と断った。三月としては、戻ってくるまで待っていたかったらしいが。
「急ぎなら、今からでも会いに行けばいいじゃないか、護だって鍵を持っているんだから」
「なら、今から行くわ」
「そうか、行ってらっしゃい」
鍵を使って神社の前に出る。石段を登って境内に行くと、奥の方で《窓口》と狐達が何かを燃やしていた。人形供養というのはこうするものなのか。
「よぉ、しぃ」
「あら、どうしました?珍しいですね」
「狐さん達はいつもの事ですが、《窓口》さんこそ、珍しいじゃないですか、巫女さんの姿とか、すげー似合ってます」
狐達はもちろんの事、確かに《窓口》も髪を結い、きちんとした巫女さんの格好をしている。護は《窓口》のこの姿を見るのは、何年ぶりだろうと一瞬考えた。
「人形供養をするのに、ミニスカートとかではさすがに・・・ね?」
「でもその様子だと、全部終わってます?」
「えぇ、ちょうど火を消すところだったんですよ」
「なぁ、しぃ」
「何でしょう?」
足元にあったバケツを持ち上げる《窓口》に護は口を開く。
「お前さ、この間《夢宮》の所に行ってたって言ってたろ?」
「言いましたね」
「この人形供養の事ではないよな?」
「この事ですよ?だって火を使うし、万が一の事があって、周りに迷惑がかかったらダメでしょう?もう神社が焼けるなんて嫌ですし、いつもそうしてますけど」
確かに《窓口》はこういう時も《夢宮家》を出入りしていたなと護は思い出す。やはり、今回の襲撃には彼女は関わっていないのだろうか。そんな事を考える護をよそに、バシャッとバケツの水で《窓口》は火を消した。
「お嬢、あとはオレらでやっておくんで、着替えてきたらどうですか?」
「はーい、八雲、後はよろしくお願いします」
《窓口》は境内の奥に入っていく。
「なんか覗いたら着替えてる所が見えそうだよな」
「さすがに、ここでそういうのはやめとけ、馬鹿」
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着替えて出てきた《窓口》は、いつものブラウスと茶色いセーター、グレーのタータンチェックのスカートだった。
「これからどこに行くんだ?」
「うふふ、さぁ?どこでしょうね?」
「ついていっていいか?」
「構わないですよ?・・・ついてこれるのならね」
「え?」
トンッと地面を軽く蹴って《窓口》は、一瞬のうちに鳥居の近くまで移動し、空中を高く跳んでいく。
「アイツ、何を」
慌てて二人は跡を追うが、そこにはもう《窓口》の姿はなかった。
「逃げられたな、護」
「だが、行くとしたら《夢宮》の所だろう」
二人も《窓口》を追って《夢宮家》に向かった。
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《夢宮家》の応接室のソファーに向かい合って《窓口》と望は座る。
「昨日はご苦労だったね、しぃ」
「今回も、わたしは疑われてますけどね」
「それは仕方ないだろう?しぃだって、それはわかっててやっているんじゃなかったのかい?」
望の言葉に《窓口》は何も言わない。確かに、こうなるのは、わかりきった事ではあるが。
「ちなみに研究データは、今回も《情報屋》に管理していただけるそうです」
「そう、それは良かった」
《窓口》の報告に望は満足そうに頷いている。
「しぃが語らなければ、今回の件も『猫箱』の中な訳だけど」
「そもそも、わたしは嘘を吐くのは好きではありませんし、貴方にも言えることでしょう?だからこそ、わたし達がやったことにはなっていない」
《窓口》の言葉に望はただ微笑む。《窓口》は特に反応もせず、立ち上がる。
「・・・では、わたしはもう帰りますね」
「また何かあったら、ここにおいで」
無言で《窓口》は部屋を出ると、ちょうど護と三月が家の中に入ってきた。
「・・・やっぱり、行動が読まれてますね」
「お前の行動がわかりやす過ぎんだよ」
「まぁ、わたしはもう帰りますけどね」
「もう用件は済んだんですか?」
「うふふ、二人共、少し来るのが遅かったですね・・・といっても、わたしも人形供養が終わった報告だけなんですけど」
ニッコリ笑って《窓口》は護の脇をスルリと歩いていく。
「おい」
護は通り抜ける《窓口》の、華奢な腕を掴む。《窓口》は何事かと、護の方を向く。
「・・・今回また、とある研究所が襲撃された」
「そうですか、それで?」
「お前はどこまで知っている?そして、どこまで裏で糸を引いている?今回も『猫箱』の中に入れておくつもりか?」
「あら、キミは『猫箱』の中を確定させたいんですか?」
「それが、俺達の仕事だと思ってる」
「その前に、護くん、腕が痛いです」
少し困ったような《窓口》の腕を護は放す。どうやら質問してる内に、力がどんどん入りすぎたらしい。少しだけ、手の跡がついていた。
「『猫箱』の中を確定させるなんて、そんなの簡単じゃないですか」
「・・・何だと?」
「箱ごと猫を潰してしまえば、結果は嫌でも一つですよ?」
ニコニコと微笑む《窓口》に、護も三月も何も言えない。
「それでは、わたしは帰ります」
玄関のドアを開けて《窓口》は出ていってしまう。
「箱ごと潰す、か」
「アイツの『猫箱』は、段ボールと防弾ガラスの二重構造だろ、絶対に」




