口封じ、のち脱出
「えっと・・・これでよし、無事にデータもコピーが取れて、回収ができましたね〜」
「あとは他の子が帰ってくるだけです」
必要な情報は全て回収したのか、亜星はパソコンからUSBメモリを取り出す。
「さて、あとはこちらで復元できないように、徹底的に壊してしまいましょう〜」
「毎度の事ながら、助かります」
《窓口》はこの時間は普段なら寝ている。正直、今も眠くて仕方ない。
「そういえば《窓口》さん、携帯は?」
「家に置いてきました、もしもかかってきた場合、ここで出るのもマズいかと思いまして」
「お留守番の子もいますしね〜、アリバイ工作はきっちりやってますね〜」
眠そうな《窓口》に対して亜星は元気だ。嬉々としてパソコンを弄っている。
「電話があっても、起こしてとか言われてないといいですけどね~」
「こっちはそろそろ終わるからね、さて、無事な子どもが何人いるかだな」
✡
ノワールもまたドアを壊して、中を確認する。大体が亜星から送られてきた情報により、子どもの殆んどが手遅れだとわかっている。
「末期状態じゃ、助かるわけねーよな」
廊下を歩いていると、まぁ、研究員らが必死で足掻いているのが見て取れる。何かを怒鳴っているのが正直、耳障り。今日は曇っているが満月。それもあってか、少しだけ気分も高揚しているというか。結構、楽しい。
「全く、遊びにもなりゃしない」
向かってくる警備員も相手にならない。一応、念のため、自分の姿を丸々と変えて、致命傷にならない程度に、色々と上手く折ってみたりはする。たまたま蹴って壊したドアの向こうにいた研究者を、爪で八つ裂きにする。正直、確認するのもなんか面倒くさくなってきているが、内容は全て覚えているので問題はないだろう。
「やっぱり、人間っていうのは脆いよな」
さすがに吸血はしない。それが元で主人を窮地に追い込むわけにはいかないからだ。
「無事な子どもが一人もいないっていうのもなんだかなー」
そもそも、最初から無事な子どもなんかいないだろうとは思っていたが。ただ《窓口》のあの言葉は、ある種の願いも含まれていたようにも思える。一人でもいいから、無事な子どもがいればいいと。
「雷くんの言葉じゃないが、ホント・・・優しいというか甘いというか・・・」
なんとなく振り返ると、歩いてきた廊下は壁も床も真っ赤に染まっている。廊下だけでなく、自分自身も。だけど、それは気にすることではない。
「ま、いっか」
手に付いた血を少しだけ舐めて、ノワールはまた歩きはじめた。
✡
ネロと鏡花の二人と別れたリオネットは、なんとなく自分が初めて《窓口》と会った時の二人は、こんな感じで裏で動いてたのかと思っていた。
「ボクの時も、こう・・・だったのかな?」
テクテクと歩いているが、何分、リオネットは幼稚園児くらいの身長しかないため、全く距離が進まない。普段は誰かと一緒の時はリオネットに合わせてくれてるか、抱き抱えられているし。
「・・・こういう時、アレ飲んだの後悔」
《窓口》の暇潰しに作られた不老不死の薬、ちょっとした好奇心でほんの少しだけ飲んでしまった。それからリオネットはこの姿のまま成長しない。ただ死なないのは、いつかリオネットにとって苦しくなるからと『不死』ではなくなったけど。
「やっと・・・部屋」
だが、今のままでは手が届かない。
「・・・何も聞こえない?」
気配も探るが、部屋の中は誰もいないか、全員、既に死んでいるようだ。
「・・・次、急ごう」
──バサッ
リオネット背中から真っ黒な翼が生える。一応、変身は出来る。ただ、リオネットのそれは、他の同居人達とは違うが。
「少しは・・・早いかな」
人の気配がする方へと一気に飛んでいく。翼を戻して、トンッと着地をすると、ちょうど研究者と思われる人間が三人、部屋に入っていくところだった。ドアが閉まる前に、リオネットも素早く中へと入る。
「ねぇ・・・何を、しているの?」
研究員は驚いてリオネットを見るが、ただの子どもかと油断したようだ。
「ボクと・・・遊ぼ?」
「・・・え?」
──ズルッ ミシッ グシャッ
一瞬の出来事で、他の二人は何が起きたのか解らなかったようだ。リオネットの左腕が複数の触手のように変形し、一人を絞め上げてから、床へ押しつぶしたのだ。
「すぐに、壊れる・・・つまらない」
数分間の間に研究者達は、原形も留めていない肉塊と化した。リオネットは、部屋の奥にいる一人の少年(見た目は確実にリオネットより上)に目線を向ける。
「あ、あの・・・」
「キミは・・・無事なの?」
「今日、ここ来たばかりなんだ」
リオネットは一瞬だけ首をひねった。なんだか、彼とは初対面の気がしない。どこかで会っていたのだろうか?頭のてっぺんから爪先までを観察する。
「なんで・・・ここに、来たの?」
「姉ちゃんを、家族を探していて・・・ここには、身寄りのない人達がいるって聞いたから」
「もしかして・・・ドッペルゲンガー?」
その言葉と亜麻色の髪と薔薇色の眼。どこかで見たと思ったら、鏡花と同じではないか。そう思うと、どことなく鏡花に面影が似ている気がする。
「えっと、そうだけど?どこかで会っていたっけ?」
「まさか・・・鏡花ねぇの・・・?」
「もしかして、鏡花姉ちゃんを知ってるのかい?」
知ってるも何も、さっきまで一緒だったのだが。もし、仮にこの少年が鏡花の弟だとしても、現在進行形で姉がこの研究所を襲撃してると知らせていいのか、リオネットには判断しかねない。
「とりあえず、ボクと一緒に・・・来て」
少年は質問に返事はないが、リオネットが姉を知っていると判断したようだ。頷いてリオネットの跡をついてくる。
「・・・今、何が起きてるか・・・知ってる?」
「・・・うん、なんとなくだけど」
「でも・・・これ、内緒・・・約束」
少年にドアを開けてもらい、リオネットは仕事をする。
✡
「あ、鏡花の方も終わったのか?」
「えぇ、ハズレくじでしたけどねぇ」
指定した場所には、既に仕事を終えたノワールと鏡花がいる。二人共に服は血塗れになっている。あとはリオネットが来るのを待つだけだった。
「あ、リオが来ましたよ」
リオネットが走ってくる。一人の少年を連れて。
「リオ、その子は?」
「ノワールにぃ、鏡花ねぇ・・・一人だけ、無事だった」
「そうか・・・その子には色々と聞きたいが、とりあえず主の所へ急ごう」
✡
夜中に呼び出しをくらい、護は不機嫌だった。それも、例の研究所で、原因不明の爆発を起こしたというではないか。
「前回といい、今回といい・・・」
「護も寝てただろうにな、ご苦労様」
「ったく、面倒だ」
三月になだめられるように言われたが、護は不機嫌なままだ。研究所の前には他にも呼び出された異端審問官達がいる。ただ誰も敷地に入ろうとはしていない。
「どうやら、空間断絶の魔法だか魔術が使われてるみたいでな、そう簡単に入れないんだと」
「それは破れないのか?」
「結構、造りが複雑みたいだぜ」
そんな複雑な空間断絶を行えるのは少ないだろう。それだけで犯人は絞れそうなのだが。
「それがそうとも限らないぜ?何日も前から入念に準備していれば、簡単な空間魔法が使える奴なら誰でもできるって解析班が言ってた」
「つまり、今回は・・・」
「計画的で、即興では中々できない事らしい」
そうなると《窓口》達が今、ここにいるとも言えないらしい。護は、それはそれで困ったという表情。
「電話とかで確認する?」
「アイツが電話に出るだろうか・・・」
時刻は午前3時を回っている。普段ならば寝ているだろう。携帯はマナーモードにしているのか出ない、家にも電話をするが、なかなか誰も出ない。
『──はい』
「あれ?《窓口》では、ないな・・・?」
『──あ、智志です』
「え?・・・あぁ、智志くんか」
やっと電話に出たのは、意外にも智志だった。なんでも、受験勉強中でまだ起きていて、たまたまキッチンに飲み物を取りにきたところだったらしい。ネロや亜夢、夜行性の奴らはどうしたのだろうか?時々、街に夜遊びに出てるとは聞くが。まさか今日に限ってそんな事をしてるのだろうか。そしてふと、今日は曇っているが満月だったということを思い出す。
「智志くん、夜中に悪いんだけど・・・アイツは?」
『──姉さんですか?普通に部屋で寝てますけど』
「・・・そうか」
『──こんな時間に電話なんて、何かあったんですか?』
「いや・・・あったっていうかな、とりあえずアイツを起こしてもらえる?それかネロか亜夢さんがいれば二人に代わってもらいたい」
『──別にいいですけど、今日は満月ですよね?できればオレもあの二人には出会したくないし・・・少し姉さん、あの人は寝起き悪いから』
「うん、それは知ってる」
『──じゃ、ちょっと待っててください、今、起こしてきますから』
しばらく保留音が流れる。
「なんだって?護」
「普通に寝ているってさ」
「んで、無理に起こしてもらってるのか・・・今日は満月だろ?彼女としては起きたとしても、できれば部屋から出たくないんじゃね?特に満月の時のネロとの鉢合わせは最悪な事態を引き起こすかもしれないからな?」
「もしかしたら、いないっていう事も考えられるだろう?」
もし本当に寝ていたら、彼女に申し訳ないことをしてるよなと三月は笑っている。と、保留音が止まった。
「もしもし、しぃ?」
『──・・・何ですか?』
物凄く不機嫌そうな《窓口》の声がする。どうやら本当に寝てたらしい。声からも眠いのが伺える。
「こんな夜中に悪いな」
『──・・・で?・・・キミの用件は何なんです?』
「一回、携帯にかけたけど繋がらないからさ・・・今、何をしてるのかなって」
『──・・・そんなことで寝ている人を、起こさないでくれますか?』
「悪かったって、あとさ、さっき智志くんが出たんだけど、ネロ達はどうした?」
『──ネロくん達?・・・多分、街にでも散歩してる・・・のかも・・・?』
「さ、散歩?」
『──大体、今日は満月でしょう?キミは、ここまで言わないとわからないのかしら・・・?もう、部屋に戻ってもいいですか?眠いので、寝ます』
「ああ、おやすみ」
『──プツッ』
結構、乱暴に通話が切れる。あとで彼女に謝らなければいけないだろうか。
「あー、本当に寝てたパターン?」
「・・・あれが演技じゃなければな」
「全く、疑い深いね」
「そういう仕事だ」
✡
──《窓口》が電話に出る5分前。
「あ、三人共来ましたね」
「あら?でも、一人だけ、知らない子がいらっしゃいますね〜」
「とりあえず《窓口》さんの家で色々と聞こう」
扉が壊された警備管理室の前に《窓口》と亜夢がいる。亜星と雷はせっせと片付けをしている。
「ところで、ご主人、監視カメラの映像とかって」
「亜星さんが全部消去、っていうか破壊しました、復元は不可能だそうです」
《窓口》が鍵を取り出す。そこに七海と八雲もやってきた。
「では、帰りましょう」
空間を繋ぐドアを開けて《窓口》達は研究所を脱出する。




