隠蔽と口封じ
二匹の狐の七海と八雲は、折り鶴の爆発音と共に人型に姿を変えた。そして、自分の主人達と仕え魔達が研究所の敷地に入ったのを確認すると、与えられた役目を果たす為に詠唱を始めた。
「──我らが定めし灯火に振り奉りて、境界の守人と為す」
「──我らを以て我らを二重の境界と為す事を、恐み恐み申す」
「──此れより我らは幾人の立ち入りを禁ずる境界と為す」
七海の左手に持つ、綺麗に装飾された赤い蝋燭に火が灯る。
「これで、しばらくは誰も来れないはずですわ」
「あとはオレと七海が見付からないようにするのと、結界が破られないようにするだけだ」
「今回は二重に張りましたし、そうそう破られないと思いますよ?」
ただ、これが結界による空間断絶だと異端審問官にバレると厄介だ。だからこそ、今回は札による結界ではなく、蝋燭の灯火を利用しているのだが。
「勘の鋭いのが向こうにはいる」
「ああ、そういえば護くんがいましたわね」
「あの子はこういう事に関しては、魔力が効きづらいからな」
月光に照らされている研究所を見上げ、二人は事が無事に運ぶのを願う。
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「それでは、僕らも始めましょうか」
「ご主人が、法で裁く価値もないと判断した人には、あたし達も容赦しなくていいんですよねぇ?」
「言い方が少し気になりますが・・・そうですね」
建物の裏口から入ったネロと鏡花、リオネットは一旦は一緒にいるが、それぞれ独自に行動する。この三人は研究者達によるデータ隠滅の阻止と、実験台にされている子どもの救出を目的にしている。
『もし、実験台にされてる子ども達が、手遅れだと判断出来た場合は、殺してあげてください』
家を出る前に主人である《窓口》の言葉。そうでなくても、実験台の子ども達は、研究データの流出を防ぐ為に、研究者達に殺される恐れがあるのだが。
「いやぁ、前回を彷彿とさせますねぇ」
「あの時とは違いますよ?鏡花さん」
「そうですねぇ、今回はリオがいます」
一応、三人はこの研究所の図面は頭に入っている。個別に行動しても問題ないが、監視カメラなどの操作が主人達に負荷をかけそうだ。ただ、それは心配ないと本人達も言っていたし、それほど難しくはないらしい。向こうから映像データを壊すことも可能だとか。多分それは実行されそうだ。
「各自、終わったら指定された所に」
「了解です」
「わかった」
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ネロは鏡花とリオネットと別れて一人静かに歩く。スマートフォンには亜星からの最新の情報が(各仕え魔に)送られているので、それも確認しながら。
「全く、厄介だよね」
──さすがに今回は荷が重いだろ?
「悪いね、頼むよ『僕』」
──ああ、任せておけよ『俺』
「さて、久しぶりに遊ぶか」
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鏡花は鏡の向こう側から、研究所の中を移動する。
「うわぁ・・・ハズレくじ引きましたねぇ」
鏡花が鏡の向こう側から見た惨状。どこも同じ光景だった。あの爆発から、すぐに研究者達が実験台を手にかけていたのだろう。色々な部屋を見るが、床は血の海で子どもの死体が転がっている。凶器は銃だろう。薬莢もそこかしこに転がっている。子ども、といっても実験の繰り返しの所為なのか、それとも惨たらしく殺したのか、人としての原形を留めていなかったが。鏡から出て、鏡花は廊下を駆ける。生きている人間の気配を感知して、そこに向かう。
「ここから先は、みんな生きてるのかぁ」
あまり乱暴なことはしたくなかったが、鏡花は目の前のドアを蹴破る。
「・・・ここは遅かったみたいねぇ」
中にいた研究者と見られる男が二人、驚いて鏡花を見ていた。もちろん銃をこちらに向けて。着ている白衣は返り血で紅く染まり、床には子ども。動かない所を見ると死んでいるらしい。
「何者だ?」
「どうもぉ初めましてぇ、あたしはあなた方に名乗る程の者では、ありませんよぉ」
銃を持っている相手に対して、鏡花は裁ち鋏と針を取り出す。
「ハッ、そんな裁縫道具ごときで、銃を持っている我々に対抗しようと言うのかね?」
「クスッ、これは一応、あたしの戦闘用にと作っていただいたモノなんですよぉ?」
銃の発砲と同時に鏡花は針を投げる。投げるというよりは、飛ばす、だろうか。針が銃弾に刺さり、そこから銃弾は綺麗に半分に割れる。その間にも鏡花は次の行動に移っている。
「──《影止め》」
鏡花は彼等を指差す。すると研究者達の影の上、床に銃弾を割った針が刺さる。すかさず、そのキラリと輝く細い針に糸を通していく。研究者達はその瞬間、身動きが全く出来なくなる。
「なっ・・・何が?!」
「これでも、あたしが裁縫道具で戦うのが、ありえないと思いますかぁ?」
ニッコリ鏡花が笑いながら、スマートフォンを操作する。さらに、その様子を見ることしか出来ない研究者達の、顔が恐怖で青ざめているのを嬉しそうにしている。
「あはっ、このまま、あたしがあなた方をサクッと殺してあげてもいいんですが、勝手に子ども達の命を弄んだ罪は深いし、重いと思うんですよねぇ?」
裁ち鋏を、研究者の胸から喉元に、刃先をなぞるように向けて、鏡花は言う。
「わ・・・悪かった、抵抗はしない、それに警察にも・・・アンタの事を見たとは、言わないから・・・だから、うぐっ」
──ドスッ
「・・・誰が謝れば許すって言いましたぁ?」
「あ・・・あぁっ」
研究者は震える声を、何とか絞り出すように、鏡花に交渉しようと出すが、鏡花は笑顔で容赦なく、研究者の腹に裁ち鋏を刺す。その鏡花の行動と言葉には慈悲も何もない。
──ドスッ・・・ドスッ
「あ・・・ぅ・・・」
その後も、鏡花は裁ち鋏を研究者の身体から抜いては刺す。その度に研究者は呻き声をあげる。ただ、その声はだんだんと弱々しくなっていく。
「勝手に利用して勝手に殺す、その痛みと罪をあなた方は身を以て知るべきだと思うんですよねぇ」
「頼む、もう止めてやってくれ、このままでは、彼は死んでしまう」
「ふふっ、それは拒否します・・・あなた方はあたしの事は言わないと仰いましたが、信用に値しません」
もう声すら上がらない研究者を、これでもかと鏡花は淡々と笑顔で刺し続ける。一部が鋏で切り落とされようが、身体の原形がなくなろうが、中身が出てこようが、そんな事は鏡花には一切、関係ない。
「さて・・・次はあなたです」
「ひっ・・・」
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どれくらいの時間が経っただろうか。もしかしたら、そんなに時間は経っていないのかもしれない。
「壊れたモノを延々と刺すのも飽きましたねぇ」
鏡花は床に刺した針を糸を引いて全て回収する。すると、立ち続けていた二人の研究者の身体は、ドサッと音を立てて倒れた。
「・・・さて、次に行きますかぁ」
血塗れの裁ち鋏を持ったまま、鏡花は死体を踏みつけて、蹴破ったドアから部屋を出る。
「証拠は残してはいけませんからねぇ」
鏡花は次々とドアを蹴破っては、中を見る。子ども達の状態を見て、亜星からの情報の確認。そして情報によって、手遅れだと判断したら裁ち鋏で殺す。それだけではなく、糸で身体を切断したりと、その騒ぎに駆けつけた研究者達も情報を確認して、殺す。その繰り返し。
「・・・本当にハズレくじだわ」
どうやら、鏡花の選んだ廊下に繋がる部屋にいるのは、殆んどが手遅れの子ども達のようだ。子ども達は試薬の副作用なのか、幻覚を見ていたり、支離滅裂な言動をしていたりと、とてもじゃないが《日向》でも治せなさそうだった。
「結局、死ぬにしても処分として研究者に殺されるよりは、マシなのかしらぁ?」
目の前にいた研究者に、邪魔だと笑顔で裁ち鋏を突き刺して、鏡花はため息をつく。フリルエプロンの裾をつまむ。白かったエプロンは大半が紅く染まっていた。
「あ〜あ、服も血塗れだし・・・後で同じ服作らないとなぁ」




