情報漏洩のち隠蔽
真夜中。時々、分厚い雲の隙間から綺麗な満月が顔を覗かせる。
「二人とも急で申し訳ありません」
「いいえ〜、大丈夫ですよ〜」
「《窓口》さんの頼みだからな、まあ、ボクも最近は暇だったしね」
《窓口》の目の前には一組の男女。一人は亜星、もう一人は雷田 雷。彼は金糸雀色の髪に群青色の眼を持つ。彼は『雷を操る能力』を持つ為に、周りから《歩く避雷針》だとか《生きた蓄電池》とか《人間発電機》など、散々な事を言われている。
「異端審問官が明日に強制捜査するみたいなのでね、その前に物事を片付けておきたいのです」
《窓口》達が今いるのは『夢現の街』を北に行った、山の麓の森の中にひっそりと佇む研究所の、監視カメラの死角になる場所。
「前回といい今回といい、こんな夜中に行くのはどうしてなんだい?」
「できるだけ、わたしとしては被害者の数を少なくしたいんですよね・・・ただのエゴでしかありませんが」
「相変わらず、優しいというか甘いというか」
そして研究所の近くの木のうえに三人は移動する。木の上から研究所内の様子を伺う。
「ところで、亜星さんの助手の彼は?」
「うふふ、彼のいつも使ってるコップに、結構強めの睡眠薬を仕込んでおいたので、彼は朝まで何があっても起きることはないですよ〜」
ニコニコと亜星は笑う。どうやら、ちゃんと《日向》から処方されたモノを適量盛ったらしいので、安心ではあるらしい。やってることは既に犯罪レベルだが。
「《窓口》さんの同居人の皆さんには、ちゃんとGPSを着けてもらいました〜?」
「もちろん」
「雷くんの監視カメラのハッキング用のPCもありますからね、一応、わたしの携帯と連動してるので、補助に必要なデータもわかるようになってます〜」
本当にこういう時の亜星は怖い。用意周到だし、証拠隠滅をする為に、一から自分でPCを組み立てて、使い捨てに近い状態を確立させている。
「GPSで《窓口》さんの同居人達の位置を確認して、カメラの操作をしてしまえば、誰も映らないしな」
「ですが、まずはわたし達も中に入れないと、ハッキングも何も出来ないですよ〜?」
「まぁ・・・そこはまず、わたしがですね?」
上空には一羽の烏と一匹の蝶が、そして《窓口》の肩には真夜、近くには二匹の狐と、お針子のような姿の鏡花に抱かれたリオネットがいる。
「どうされるのですか?ご主人」
「一番簡単に人を誘導するのは爆破とか・・・ですかね?」
《窓口》は一枚の紙に『爆破』と書く。そして、その紙で鶴を折る。
「どの辺りがいいんでしょう?」
亜星から受け取った、研究所の図面を見ながら《窓口》は難しい表情を浮かべる。
「今回も爆破したら、すぐに異端審問官が前回みたいに来ると思うけど」
「今回は来ても大丈夫ですよ、ね?七海、八雲」
「その狐さん達は戦闘班じゃないんですか〜?」
「今回は結界で隔離してもらいます、ちょっとこの間の事件より規模は広いですが、準備は前もってしておいてもらいましたし、用意さえちゃんとしてれば、いつでも誰でも発動ができる簡単な魔術です」
まぁ、それでも不安材料がないとは言えませんが、と《窓口》は図面を見ながら笑う。
「うーん、やはり正々堂々と入り口からですかね?それとも裏から?」
「向こうの退路は潰したいよな」
「それは入ってから、警備システムを弄ればいいんですよ〜」
「言っておくけど、ボクは星野さんみたいに操作するんじゃないからね?」
「PCや電子機器を介して電力の操作ですものね〜、そしてそれはわたしがやりますし〜」
ある意味ではこの三人組みは相性がいい。周りからしたら最悪な組み合わせに見えるだろうが。
「無難に裏を爆破してから結界の発動ですかね?夜中だからこの研究所の表側の人間はいないだろうし」
《窓口》が折り鶴にふぅっと息を吹き掛けると、まるで生きているかのように飛びはじめた。パタパタと折り鶴は敷地の奥へと飛んでいく。それと同時に金色と銀色の狐が飛び出し、二手に分かれる。
「それでは、3、2、1・・・行きますよ」
《窓口》の言葉を合図に、ドンッと大きな爆発音と共に研究所が爆破される。
「折り鶴の威力じゃねぇ」
「あら、小さな爆発では誰も驚かないでしょう?」
正面は鍵がかかっていたが、そこを《窓口》が簡単な魔法で破壊する。どこに監視カメラがあるかもわかっているので、死角から。
「あの鍵を使えばいいのに」
「こうした鍵は持っている人が少数で限られますからね〜、使えばすぐにでも誰が使ったかがバレてしまいますよ~?」
「二人共、急ぎますよ・・・お願い、亜夢ちゃん」
ヒラヒラと藤色の蝶が奥へと飛んでいく。
「さて、入り口のカメラも壊さないとね・・・《炎弾》」
「そういえば、今日はいつものちゃんとした御札じゃないんですね〜?」
「御札は御札なのですよ?今回のはどこでも手に入る既製品ですが」
「あの蝶はどこに何を?」
「あの子には警備員がいる場所とか制御室に行ってもらいました、一応、誰か人がいたら面倒でしょう?」
「姿を見られたらどうするんだ?」
「あの子には催眠術の技術を仕込んであります、問題ないかと」
カメラに映らないのかと不安になるが、彼女は夢魔なので、夢と現実を行き来することで、それは回避するそうだ。
「受付にもパソコンありますし、そこから繋ぎましょうか〜」
亜星が手際よく、何だかんだよくわからないケーブルやら配線を弄っている。
「これを〜こうして~・・・そして、こうすれば〜・・・はい、雷くん、準備ができましたよ〜」
「じゃあ始めるか・・・」
二人が作業中は《窓口》と真夜は暇そうだ。他の同居人達は裏(爆破済み)から入って、自分達の役割を果たしているので心配はない。
「一応、こっちは誰も来れないようにしたけど」
「それでは場所を移動しますか」
✡
ヒラヒラと藤色の蝶は飛ぶ。その蝶に、逃げ惑うこの研究所の人間達は全く、気付いていない。『警備管理室』とかかれたプレートの部屋の中に、夢を介して入る。爆発の騒ぎで誰も人はいなかった。
───リン
鈴の音のような、または耳鳴りのような音。フワリと蝶が一人のメイド服の少女に姿を変える。
「誰もいないのも・・・つまらないわね」
いない方が本来いいのだが、亜夢は少しだけ退屈そうだ。無駄に人を殺すようなことは主人の《窓口》も望まないし。それに警備員くらいなら、ただ雇われてるだけであり、ほぼ研究とは無関係だ。監視カメラの映像が切り替わるのが激しい所を見ると、ハッキングも始まっているようだ。
「ある程度、する事が終われば、ご主人達もここに来るでしょうしね・・・」
それまでに、この部屋に人が戻って来なければ、亜夢の仕事はない。
「もし戻ってきたら、寝かせるだけにしますかね・・・兄さんみたいに殺るのも、姉さんみたいに殺るのも気分じゃないし」
椅子に腰掛け、亜夢は画面を眺める。暫く経って、人が走ってくるのがわかった。どうやら、主人達は警備システムもついでに弄ってたらしく、その確認をしに来たようだ。亜夢は開いたドアの影に隠れられるように、ドアの横の壁に移動する。
「確認に来たのは・・・一、二・・・三人か」
ポケットから小さな香水を出す。香りは全くといってもいい程ないが、自分以外に催眠効果があるモノだ。手首に一回、シュッと吹き付ける。さすがに、亜夢が一度に三人を相手にするのは疲れる。姉の愛夢ならきっと、余裕なんだろうが。ドアが乱暴に開かれて、三人の男性が傾れ込むように入ってくる。一番最後に入って来た男性に、亜夢は静かに歩み寄る。完全に近づく頃には、亜夢の髪の色が藤色から桃色に変化していた。
「ふふっ、何か面白い事はありましたか?」
「っ?!」
その場にいた全員の視線が亜夢に集中する。とその瞬間、一気に身体の自由を奪ったのか倒れこむ。まだ意識はあるようだが。
「クスクス、少し人間には強かったかしら?」
「な・・・に・・・?」
机に力なく寄りかかる三人に一人ずつ亜夢は腕を回して、親が子ども寝かしつけるように、優しく、甘く耳元で囁く。
「ただ黙って、あなたは身を任せて、あたしの言葉だけを聞けばいいのです・・・そしてあたしのことは忘れるの、わかりますね?」
亜夢の珊瑚色の眼に見つめられ、相手はただ亜夢の言葉に頷く。
「──さぁ、眠りなさい・・・ようこそ、あたしの甘い悪夢の世界へ」
✡
《窓口》達が『警備管理室』とかかれたプレートの部屋に入った時には、亜夢がいつものメイド服姿でそこにいた。床には三人の人間が寝ていた。ツインテールの髪の色が桃色の状態を見ると、どうやら淫魔の能力を使っていたようだ。
「あ、ご主人〜♡」
「亜夢ちゃんちょっと待ってください、まずはその能力を解除してから、ね?」
「あ、そうですね」
桃色だった亜夢の髪が、瞬時に元の藤色に戻る。それを見た亜星と雷は物珍しそうにしていた。
「使う能力で髪の色が変わるんだな、その子」
「そういう子は珍しいですかね?」
「確かに、あまり見ないですね〜」
ここでも亜星は配線を弄っている。直接は証拠が残るからということで。《窓口》が指をパチンと鳴らすと、ドアに鍵がかかる。先程もそうやってドアを開けたらしい。
「素手でなんて色々な所に触ったら、立証された時に大変じゃないですか~、完全に証拠を残す事になるんですから~」
亜星の配線弄りは素手でいいのかと、亜夢は不安になる。ただコードなどの配線も亜星の所有物だと聞き、少し安心する。
「他の子達は大丈夫かな・・・特にリオちゃん」
「大丈夫ですよ、リオだってやれば出来る子です」




