情報提供または情報漏洩
「ウフフ、さぁこっちにいらっしゃい」
「失礼いたします」
愛夢が連れてきた、一人の少し小柄な女性。黒髪の淡い水色の眼で、そんな派手な感じがない。
「茉夢です」
茉夢は護と三月に名刺を渡す。これも本人のように、あまりごちゃごちゃした感じではない。
「えっと」
「茉夢ちゃんはこう見えても人気の上位なのよ♡」
そんな情報を二人は知りたい訳ではないのだが。それが表情に出ていたのか、茉夢は前置きもなく、口を開く。
「先程のお客様について、知りたいことがあるとオーナーからは伺っております」
「あ、はい」
ちゃんと話はしてあるんだと、護は意外に思う。
「さっそくで悪いんだけど、さっきのキミの客ってどういう人なんだ?」
「とある研究所で、不老不死の薬を研究と開発してる方だと伺っております」
「そう聞くと、立場的には結構、上の方なのか」
「その様ですね」
これも仕事だからか、茉夢は微笑んだままで受け答えをする。
「君はどこまで、その・・・研究とかの話を聞いている?」
「と、申しますと?」
「例えばだけど、その薬の試作品の実験内容、とか」
茉夢は一瞬だけ、チラッと愛夢を見たのを、護は見逃さなかった。何か隠さないといけない事があるのかと、探りを入れる。
「ここも、あんまり個室のお客様の話を口外しないからね」
そういう事かと護は理由に納得する。彼女達は結構、いろんな人から裏事情などを聞いているらしく、中には本当に言えない事もあるようだ。
「今回は茉夢ちゃんに判断は任せるよ」
ニッコリ愛夢は茉夢に笑ってみせる。茉夢は頷いて話を続けた。
「知ってるのか?」
「なんでも、身寄りのない子ども達を集めて、表向きは開発中の新薬の被験者、実際はその試作品を飲ませてその効果を見るために何やら言えない事をしてる、簡単に言えば実験台にしてるようです」
それは事実なのか、人体実験をしているとは聞いていたが。どうやら、足がつかないように対策をしてるようだ。
「その研究所に強制捜査でもするのかい?」
「さぁな、まだそういう研究してる所があるとは聞いただけで、俺らみたいな末端の奴は上からの指示で動くから」
「へぇ、そうなんだ?」
いくら協力してもらったとはいえ、愛夢に口外しようものなら、そこから《窓口》にばれるだろう。
「そういえば、愛夢さんって最近《窓口》さんには会ったんですか?」
「しぃちゃん?妹の所にはよく遊びに行くからね、その時に会ってるわよ」
「そうなんですか」
今まで大人しかった三月が、急に口を開いたので、一体どうしたのかと思ったが、何で《窓口》と会ったかを聞いたのか。
「じゃあ、一番最近でいつ会いました?」
「うーんとね・・・数日前かな」
「それ本当に?」
「ここでアタシが嘘を言っても仕方ないでしょう?そんなの何も得もないわ」
「ですよねー」
本当に三月が何を考えているのか、護には理解できない。その後も色々と茉夢から話を聞いていく。
「聞きたい事はもうないのかな?」
「まぁ、ある程度は・・・ありがとうございました」
愛夢に出口まで案内してもらい、二人は店を出る。暫く歩いたところで護は、三月に先程の質問の真意を聞く。
「もしかしたら《窓口》さんも、この事実を知っている可能性があるぞ」
「何でわかる」
「愛夢さんは『数日前』に《窓口》さんと会ってるだろ?その時にこの事を話したかもしれないだろう?」
「なくはないが・・・そう易々と口を開くんだろうか、いくらアイツ相手でも」
「噂をすればなんとやら、前から来たぜ」
人混みに紛れて《窓口》が歩いてくる。それも『一人』で。とても嫌な思考が頭を掠めていく。
「あら?二人でこんな所にいるなんて、珍しいんじゃないですか?」
「・・・お前、一人でどこに行ってたんだ?」
「夢宮の所ですよ、個人的に少し用事があったので」
「これからどこに行く?」
「どこって、家に帰るだけですよ?」
護の質問に、不思議そうに首を傾げて答える《窓口》。だけど、護には何だか嫌な予感がする。彼女が望に用事というのも気になるが、それ以上に何を企んでいるのか。
「お前、鍵は?」
「たまには、わたしだって外を歩きたい時もあるんですよ」
「そりゃ、魔法ばかり使ってたら運動不足になりますよねー」
「ふふっ、そうですよ」
三月の言葉に嬉しそうに《窓口》は答える。
「それで、《窓口》さんは何をどこまで知っているんです?」
「さて・・・一体、何の事でしょうか?」
一瞬にして二人の間の空気が凍り付くのを、護は感じた。二人は水面下で腹の探り合いをしているようだ。下手な事はお互い言えない。暫くの沈黙の後、先に口を開いたのは三月の方だった。
「さっき、オレら愛夢さんに会ったんですよ」
「あら、そうでしたか」
「そしたら『数日前』に《窓口》さんにも会ったって聞いて」
「確かに会ってますよ」
「その時『何か』聞いてません?まぁ、店の子がちょっと思い悩んでるとか、ちょっとした相談とか」
「もし、愛夢さんからの相談をわたしが受けていたら、わたしが貴方に口外するとでも思ってます?一応、わたしにも守秘義務というのがあるのですが」
《窓口》はニコニコと笑顔で答える。三月はそうですねと、大人しくなる。なので、護が次に彼女に質問を投げかける。
「お前、今度は何を企んでる?」
「護くんは、わたしの何を疑っているんですか?」
「例えばの話だが、どこか襲撃とかしたりしないよな?」
「なんでそんな事を聞くんです?それに襲撃って、キミはわたしを何だと思っているんですか」
護の言葉に少し、ムッとした表情を見せて《窓口》は小さくため息をつく。そして、少しだけ空を見ていた。
「わたしはもう行きますが、気が済みました?」
「あぁ、引き止めてすみませんね・・・空ももう結構暗いし、送ってあげたら?護」
「え?俺が?」
突然、三月が護に話を振る。あまりにそれが突然で驚いた。
「もうここからは鍵を使うんで大丈夫です、本当は歩いて帰りたいところでしたけど」
「なら、護と一緒でも問題ないでしょ?」
「わたしの家と方向逆ですよ?護くんだって忙しいでしょうし、いつもわたしに構ってなんて、いられないでしょう?」
《窓口》の言ってる事は正しいが、三月はそれが疑わしいようだ。そこまでして彼女が拒否する理由は何なのか。二人に知られてはいけない『何か』があるのか。考えすぎのような気がするも、それは今の二人の状況もあるような。
「暗いのに、女の子が一人じゃ危ないでしょう?」
「それはわたしが無力な人間だった場合でしょう?一応、これでも魔術師です、それ相応の対応くらいは心得てます」
「・・・そうですね」
三月は《窓口》に完全に論破されたようだ。少し耳が下がってる。
「それでは、またね、二人とも」
ニッコリ笑って《窓口》は歩いていく。さすがに、人混みの中で堂々と鍵を使うことはしないらしい。
「お前、完全にアイツに論破されたな」
「嘘は、言ってなさそうだよな・・・」
「ただ、何かを隠してるみたいだけどな」
✡
しばらく歩いて《窓口》はチラッと振り返る。
「・・・明後日か」
護と三月には悪いが、彼女は視てしまった。異端審問官達が強制捜査を実行する日を。実際、今日《窓口》が望の所に行ったのは事実だ。今回の件の研究データの処理についてと、その他諸々を相談しに行っただけだが。
「急だけど、明日の夜に実行ですかね」
そんな事を考えながら《窓口》は家に帰った。
✡
「──という訳で、明日の夜に研究所に襲撃に行きますよ」
帰ってすぐに《窓口》は住人達を招集する。急ではあるが、近々実行すると思っていたのか、みんな準備は出来ていたらしい。
「あ、でも智志くんとリオはどうします?」
「オレも行きたいけどさ」
「受験生ですものね?」
さすがに学生の本分を妨げるのはと《窓口》も考えたので、今回も智志はお留守番ということに。
「ボクは、一緒に行く」
じっとリオネットは《窓口》を見ていた。別に引き止める理由はないので(見た目が幼女を理由にするには可哀想)今回は一緒に連れていくことに。
「ネロくん、亜星さんと《雷田》に連絡よろしくお願いします」
「はい」




