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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
不老不死の幻想
67/225

殺戮の夢、誘う夢魔

応接室には四人。一人は《窓口》、隣にはネロ。向かい側には亜夢と一人の女性がいる。


「急にごめんなさいね、しぃちゃん」

「いえ、今日はちょうど空いてましたし、愛夢(あいむ)さんの頼み事なら、わたしが断る理由はありませんよ」


彼女は愛夢、亜夢の異母姉であり純粋な夢魔(サキュバス)。腰まである、ウェーブのかかった桜色の髪と珊瑚色の眼。彼女は町で夢魔が多く働くキャバクラの経営者。今日は仕事があったのか、それとも、これから仕事なのかはわからないが、煌びやかで派手な赤いドレスを着ている。


「ウフフ、それにしても、ネロくんは相変わらずいい殿方でいらっしゃるのねぇ・・・」

「いや、あの・・・?」

「ちょっと、姉さん」

「ネロくん、亜夢ちゃん、こればかりは愛夢さんの社交辞令ですから」

「堕としてもいいんだけど、アタシの可愛い妹のご主人様の助手さんだもの」


誘惑するのは淫魔の性分なので、こればかりは《窓口》にも愛夢にもどうにもならない。ただ一応、愛夢にも好みはあるようで。異性なら誰でもいいという訳ではないらしい。


「最近はアタシも気になる男性(ヒト)がいなくてねぇ・・・」

「ホント、浮気性なのは父さんにそっくりだわ」

「あら亜夢ちゃん、アタシ達はお相手に甘い夢を提供するのが、お仕事なのよ?」


このままでは愛夢が何をしにきたのか、ネロと亜夢にはわからない。《窓口》は話を聞こうと、口を開く。


「それで、愛夢さんは何かわたしに依頼があって、ここに来たのでしょう?」

「ウフフ、しぃちゃんは何でもお見通しね」


ニッコリ笑って愛夢が話を始める。その表情は、先程と打って代わって、とても真剣なモノ。


「これは、アタシのお店の娘が相手したお客様から、その娘が聞いた話なんだけどね?」


愛夢の店は、サキュバスや身寄りの無い夢魔や人間の少女(一応、年齢とかはちゃんとしてる)達が多く働いている。店には個室もあり、要人も利用しているらしく、社会の色々な裏事情なども、彼女達は時々だが、聞いていたりする。


「何でも・・・どこかの研究所で、人体実験が裏で行われてるらしいのね」

「また、ですか」

「前回は確か、合成獣(キメラ)かなんかの実験場でしたよね?ご主人」

「今回、その娘の聞いた話では、不老不死の薬の研究をしているんだって」


どうやら、身寄りの無い子ども達を引き取っていっては、薬の効果を実験しているとの事。


「それで、一応そういう事実があったら、しぃちゃん達にどうにかしてほしいのよ、お店の娘もなんか誘われたみたいでさ・・・そういうのは断るようにって指導してたから良かったけど」

「何事も実害があってからでは遅いですからね・・・それにしても《月守》やわたしではないんだから、たかがその辺りにいる研究者ごときが、不老不死の薬を作れる訳がないのに」

「え?ちょっと待ってください、ご主人?ご主人はそんなモノも作れるんですか?」

「一応、作成の『実現』は可能です」


そう言って《窓口》は棚から一つの小瓶を取り出す。その小瓶には、透明な青い液体が入っている。


「これは俗にいう『エリクシル』とか『エリクサー』と呼ばれる薬です」

「へー・・・これは初めて見ました」

「わたしが作ったモノですが、効果はほぼ完璧なモノです」

「誰かに試したんですか?コレ」


薬の量を見る限り、使用したような形跡がある。それを《窓口》は「違う、違う」と手をヒラヒラと振る。次に彼女は、衝撃的な言葉をネロ達に発した。


「あぁ、それ実は試したのではなくて、リオが誤って飲んでしまったんですよ」

「え?」

「だから、その影響でリオは、もうあれ以上、身体の方は成長しないんですよ、まぁ『不死』に関しては、わたしがどうにか書き換えて、ただ『不死』に近いだけの、再生力が特化された事にしましたけど」


だから、リオネットは首が飛ぼうが、胸を突かれようと即座に再生が可能なのだとか。一応、不死ではないので、限度はあるようだ。


「わたしも暇潰しにこんなモノを作ってしまったのが、少しマズかったですね」


暇潰しでこんな危険な(?)代物を作るなと、その場にいた全員が思うが、下手にそういった事を言えば、自分達に飲ませられるのではないかとも思ってしまう。この人はやりかねないから。


「大丈夫ですよ、ここの誰かに飲ませるとかはしないですから」

「でも、主、何でソレは捨てないんです?」

「もしかしたら、いつかどこかで必要になるかもと思って、捨てられないんですよね・・・一応、これでも用法と用量をちゃんと守れば、どんな薬よりも優良な治療薬になるモノですからね」


一度、小瓶を眺めてから《窓口》はまた棚に戻す。


「うーん・・・もし、その研究が本当ならば、一度、望さんに指示を仰ぎますかね?まぁ、こちらでなくても『状況証拠』や『証言』、『自白』等が揃ってさえいれば異端審問官達が有罪確定してくれるとは思うのですがね」

「あと《情報屋》にも協力をお願いしますか?主」

「そうですね、あと《雷田(いかだ)》にも連絡、かしらね」

「こっちでもまた何か判ったら連絡するわ」


愛夢はそういって応接室を出ていった。これから仕事なんだそうだ。



  ✡



愛夢が帰ってから《窓口》は望の所に向かう。屋敷の門を開けると、出迎える真っ白な猫がいた。


「《窓口》さん、いらっしゃいませ」

「今晩は、真朝ちゃん・・・えっと、今日はあの人はいるかしら?」

「ご主人様はいらっしゃいますよ、ただ、自室の方にですが」


どうやら望は仕事中のようだ。一応、家を出る前に連絡はしてはいるが。


「もしかして、時間ない?」

「いえ、きっと《窓口》さんの事なら優先していただけるかと」

「忙しいなら別に無理は言わないですが」


仕事が自分のせいで終わらないとか、そういう事態になることだけは、絶対に何が何でも避けたい。仕事の邪魔になるなら、後日でもいいし、話を真朝に伝えてもらえばいいのだが、それでも真朝は《窓口》を応接室まで案内してくれた。しばらく、応接室でお茶を一人で飲みながら望を待つ。本当に来ても良かったのか、と《窓口》は不安に思う。


「あぁ、しぃ、ごめんね、待たせてしまって」

「今日は比較的、わたしは暇なので大丈夫ですよ」


飲んでいたお茶は冷めきっていたが、自分に時間があるのは事実だ。それよりも望の方が心配なのだが。


「ところで、しぃの方から来るのは珍しいね」

「真朝ちゃんに頼んで、貴方に話を伝えてもらっても良かったのですが、少し、意見を聞きたくて」


そして《窓口》は先程、応接室で聞いた愛夢の話をする。


「望さんならどうされるかな、と」

「どうするも何も、僕は容赦なく、すぐにでもその研究所を殲滅しにかかるけど、しぃは優しいからなぁ」


望は《窓口》を見る。正直な話、こういった事は《窓口》も初めてではないのだが。とりあえず、この話は望の耳に入れておいた方がいいだろうと判断している。


「そしてそれが事実なら、きっと異端審問官達も動くだろうね?でもそれだと何かと手順も物量的にも多いだろうし、時間もかかるだろう?手っ取り早く殲滅させる方法であれば、こちらは何でもいいさ、今回もしぃに任せるよ」

「そうですか」

「どんな手段を使ってもいいし、誰をどれだけ傷つけても、殺したって構わない、だけど・・・これは異端審問官達には絶対に知られてはいけないよ?あくまでも秘密裏で動いてほしい」

「・・・わかりました」

「しぃなら前回みたく上手に事を進められるだろうから、心配はする必要はないけどね」

「もしも、向こうから協力要請をされた場合は?」

「それは絶対にないとは僕も言えないけど、その時も上手くやってくれるかい?」


話が終わり、今日は望も忙しいだろうからと《窓口》はさっさと応接室を出る。


「護くんは特に気を付けなくてはね?彼は何かと勘が良いから」



  ✡



自宅に戻ると、ネロがすぐに《情報屋》達に連絡を入れた事を伝えてくれた。


「さて・・・『情報』が確定し次第、行動に移りますけど」

「やはり殺すことに抵抗がありますか?主」

「家族の為に仕方なく人体実験をしていた、とかを嫌でも視えてしまうんですよ・・・」


別に誰がどう死のうと《窓口》自身には関係ないのだが、やはりそうした事情まで視えてしまうと、そこは少しでも生きてほしいと思ってしまうのも事実で。


「前回だって、そうした事情で見逃した人間は、少なからずいたではありませんか」

「まぁ、それはそうなんですけど・・・ね」


《窓口》の言葉はどこか煮え切らない。自室のドアを開け《窓口》はバッグを壁に掛けてソファーに座る。何がそこまで彼女を悩ませるのか。


「僕らに対しても何か思っていられるのでしたなら、それは気にならさないでください」

「え?」

「僕らは貴女の為にあるのです、時には剣にも盾にもなります」

「・・・うん」

「貴女が望むなら、僕らはいつ死んだって構わないのですよ?」

「それをわたしは望まないのを知っているのに、キミはよくそういう事を言いますね?」


《窓口》の言葉にネロは微笑んだままだ。


「とりあえず、今回も異端審問官にはばれないように行動しなくてはなりません」

「もちろん、そう貴女が仰るのならば」

「今回もリオと智志くんはお留守番かな・・・?」

「本人達が希望するなら、連れていっても問題はないのでは?」


そこは考えておきますと《窓口》は頬杖をつく。


「はぁ・・・困ったわ」

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