少女達の修行
「──《鳥葬》」
「──訪れる終焉は光の如く、矢となり撃ち抜け」
ネロの召喚した大量の烏を《窓口》の札が打ち落としていく。
「何やってんだ?アイツらは」
《窓口》の家の裏庭。《窓口》とネロが魔法の撃ち合いをしている。
「あ、護さんいらっしゃいませ」
「亜夢さん、こんにちは」
二人の撃ち合いを離れた場所でニコニコと眺めていた亜夢は護にそのままの笑顔で挨拶をする。
「で、あの二人は喧嘩でもしてんのか?」
「それは違いますよ、突然ご主人が『最近、運動不足だから誰か遊んでくれない?』と仰いまして」
「ふーん・・・それでか」
それほど前回の事件の犯人を逃がしてしまったのが悔しかったのか。最近の《窓口》は暇な同居人達と、こうやって遊んでいるんだそうだ。
「っていうかアレでまだアイツは遊び感覚なのか」
「その方がいいですよ、ご主人に本気出されたらこの島が壊れちゃいます」
亜夢達でさえ《窓口》の本気は見たことはないらしい。髪飾りを着けてる時点で本気じゃないのは護でもわかるが。
「そういやあの髪飾りってどこまでアイツの力を抑えるんだろう」
自分であげた髪飾りではあるが、その後に彼女自身が手を加えているので、実際にどれだけ効果があるのかまでは護は把握してはいない。
「前にご主人に伺ったところ、望さんと同等か少し強いくらいまで抑えるって仰ってましたね」
「その言い方だと本気になれば、いくら望が相手でも殺し合いにすらならないって事か」
「それは否定しませんが、人を殺す事や命を奪う事に関してご主人は抵抗があるみたいですからね」
「何かしらの命の犠牲は生きるのには必要だが、必要以上の犠牲は出したくないってのは言ってたな」
それだから自分はこの島の誰よりも残酷な事をしていると過去に《窓口》は言っていた。止めを刺さないっていうのは慈悲なのか、それとも・・・。
「っと、やぁ護じゃないか・・・」
「よぉ、俺らのこと弱いって言ってた割りにはアイツに押されてないか?」
「へぇ〜・・・ネロくん、わたしがいないところではそんな事を言ってるんですか・・・?」
「護、余計な事言うなよ・・・っていうか主?冗談ですって」
「ちょっとお仕置きが必要かしら?」
ニコニコしているので冗談だとは思うが、ネロはかなり焦ったようだ。その笑顔は少しだけ怖い。
「なんでまたお前はこういう事やってんだ?」
「ちょっと運動不足だったもので」
「本音は?」
「逃げられたのが少しだけ心残りです」
意外に《窓口》は負けず嫌いなところがある。それは今に始まった事ではないが。ただし、彼女自身は努力とは無縁な人間である。
「それで、護くんは何の用かしら?」
「あぁ、さっき望から伝言があってな」
「・・・伝言?わたしに直接言えばいいのに」
「お前が望の電話に出ないから俺が来たの」
ポケットから《窓口》が携帯を出して確認する。その瞬間、動きが固まる。
「着信履歴が38件・・・嫌がらせにも程がありますね、ストーカーなんですか?あの人」
「いや、だから電話に出ないお前が悪いんだろ」
真顔で言ってるので、本気なのか冗談なのかわからない。
「それで、伝言って?」
「今日、予定が空いたら望の所に俺と来いってさ」
「そうですか、わかりました・・・うん?」
《窓口》は返事をした後に一回、首を傾げた。『護と』呼び出されたことに疑問を感じた。
「どうした?」
「なんで護くん、キミとなんですか?」
「それは俺の方が聞きたいんだけど」
✡
──《夢宮家》の屋敷の応接室。《窓口》と護は揃って望と対峙する。二人並んでこの屋敷にいるのはいつ以来だったか。
「二人共、急に呼び出して申し訳ないね」
相変わらず望はニコニコと笑っている。
「今回は一体どうされたんです?」
「いや僕らもそろそろ動き出さないと、と思ってね」
「貴方がなかなか動かないのは今に始まった事ではないじゃないですか」
苦笑する望に対して《窓口》は退屈そうにしている。
「それで望はなんで俺まで呼んだ?」
「一つ気になった事があってね、護は実際の事件以外で魔術師や妖魔達と手合わせをした事はあるかい?」
「異端審問官になる前に、しぃと手合わせをしてからはほとんどと言ってもいいくらい無いな」
「だろう?」
「それで?」
《窓口》もそうだが望もなかなか本題を言わない。
「護くん達にも実戦に近い環境がほしいって事でしょう?」
「ただそれができるのは僕らくらいだろう?」
さすが親戚、言いたいことはよく解っている。
「他の連中がなんて言うかだけどな、それ」
「模擬戦って事なら問題ないのではないですか?色々と条件が必要になるでしょうけど」
なるほど模擬戦か、と望も護も妙に《窓口》の言葉に納得してしまった。
「条件か・・・」
「その辺りは望さんに任せますよ?」
「・・・考えておくよ」
✡
《夢宮家》の奥、ひっそりとある資料室。護は色々とファイルを手に取り、中を確認していく。応接室を出る前に護は望にこの屋敷に資料室があるか聞いた。
「何か知りたい事でもあるのかい?」
「あるから聞いたんだけど・・・」
「しぃ、場所はわかるね?案内してあげて」
「・・・わかりました」
《窓口》の表情は「なんでわたしが」と言いたげだったが、望も忙しいのも解っていたのか渋々承諾する。
《窓口》が言うには協会にある資料よりも詳しい資料がここにはあって、中には公開出来ないようなものもあるらしい。そういう公開出来ないものは、さらに厳重に別の場所で保管されてはいるとも言っているが。その場所は《窓口》でも知らないらしい。
「別にしぃは先に帰ってていいんだぞ?」
「あら、また護くんが迷子になって泣かれたら大変じゃないですか」
「もうあの時の俺とは違うよ、しぃ」
確かに初めて会った時に護はこの屋敷で迷子になっていた。だが、それは子どもの時の話だ。さすがにこの歳で迷子は、もうないと思う。多分。
「あの時は本当に、この屋敷は広く感じたんだよな・・・」
「今でも変わらず広いんですけどね」
入りきらなかった資料が入っている段ボールの箱の上に座って《窓口》は護の様子をニコニコと楽しそうに見ている。そんな事を気にする事なく護は資料のページを捲っていく。
「・・・本当に協会にない資料があるんだな」
「協会にあるのはコピーだったり、ここに入りきらなかった、第三者に見られても困らない資料ですからね」
それにしても、よく望は護にこの資料室に入るのを許したなと思う。一応、仕事に関係するからとはいえ。
「それだけ護くんは、望さんから見ても信頼できるという事なのでしょうね」
「買いかぶりすぎだと俺は思うんだがな」
色々と資料を捲っては棚に戻し、それを繰り返す。
「ん?・・・これは」
「何か見付かりました?」
「なぁ、この《夢幻福音の家》の吸血鬼の暴走ってさ」
「あ、それはネロくんですね・・・そんな資料もここにあったのですね」
この事件は確か護が学生の時の出来事ではなかったか。まぁこれは誰にも口外をする気はないが。
「護くん、そろそろ日が沈みますよ」
「え?・・・なら行くか」
《窓口》の言葉に意外そうな返事をする。護の表情から目的のものは見付かっていないようだ。
「また来ればいいだけの話だよな」
二人は資料室を出る。廊下を二人並んで歩いているとなんだか不思議な気分になった。




