凶行の改竄
──誰かが泣いている?
この部屋は見覚えがある・・・
腰まである黒い髪。あの少女はリオネットか?
いや違う・・・あれは、あの声は・・・
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護が目を覚ますと、いつもの見慣れた部屋の天井が見えた。自分の家の寝室の天井だ。カーテンの隙間から日が射している。とっくに夜は明けているようだ。
「あれ・・・?そうだ、昨日」
昨日の事を思い出して、勢いよく飛び起きる。ふと横を見ると、椅子に座って《窓口》が寝ている。分厚い本を抱えているところを見ると、治癒魔法か何かを使っていたのだろうか。今の時間を確認するのに、傍らにあった目覚まし時計を手に取る。目覚まし時計は午前11時を指していた。いつもならとっくに仕事している時間。休みの日でもこんなに寝ていない。
「・・・一回は家に帰ってるみたいだな?」
《窓口》の服装を見ると昨日とは違う、いつもの見慣れたブラウスとスカート。わざわざ着替えてきたのか。身体は昨日の事が嘘のように軽い。本当に夢の中の出来事だったのではないかと錯覚しそうないかとくらい。ただ若干、精神的に疲れてるような感じはまだあるが。寝室を出て、リビングにある電話を確認すると、留守電が一件入っていた。メッセージを聞いてみると三月からで、護は今日から三日間の休みになった事と、今回の事件の被害者でもある容疑者は全員死亡が確認されたという内容だった。
「よく考えたら、あんなの普通の人間じゃ耐えられないよな」
今、思い出しても発狂しそうだ。チラリと《窓口》の方を見ると、すやすやと小さな寝息を立てている。
「やっぱり実力の差なのかね?」
とりあえず《窓口》をこのまま放っておくわけにもいかないので、ネロに連絡を入れる。ついでに座ったまま寝かせておくのも、何かの拍子で倒れかねず、それはそれで危ない気がするので、ベッドに寝かせておく。
「もしもし?」
『──護か、もう大丈夫なのかい?』
「まぁ、おかげさまで・・・」
『──もしかして掛けてきたのは、彼女の事か?』
「あぁ、今は寝てるんだけどさ」
『──多分しばらく起きないだろうから、僕か誰か、迎えに行くか?』
「そっちは暇なのか?忙しいなら俺が送っていくけど?」
『──それは護に悪いから僕が行くよ、どうせこっちも彼女が起きないと仕事も進まないし』
「そうか・・・でさ、あの凶器ってどうなった?」
『──あー、アレは・・・知らない方がいいかもな』
その言葉から《窓口》は、何かしらやらかしたようだ。多分、意図せず壊したとか、何かの拍子で折ったとか、そんな感じだろう。
「俺も三日間は休暇になったらしいからな」
『──そうなのか、なら少し休んでていいんじゃないか?』
「そんなにネロは、俺が軟弱だと思ってんのかよ」
『──僕からしたら、っていうか妖魔達からしたら、彼女も護も身体は弱いとは思うよ』
さすがにそれは言い返せない。というより、妖魔達相手にこういった事を言う事自体が、間違ってた気がする。というか、頑丈さで言われたら何も言い返せない。
『──で、いつ迎えに行けばいい?』
「ん?いつでもいいよ」
『──じゃあ、午後にそっち行く』
「あぁ、待ってるよ」
受話器を置いて、着替えたり色々して迎えを待つ。さすがに、昨日の服装のままで他人と会う気はない。
「ここまで一時間経ったけど、アイツはまだ寝てるのか・・・」
無防備にも程があるのではないか?こうなっている原因は自分にもあるので仕方はないものの、もう少し《窓口》は外の事を知らないと色々と危ないような。そんな事を考えて、ふと幼い時の事を思い出す。
『わたし、あんまり外には行けないんです』
今となっては、なんとなくその理由も解ってきたのだが、その時はそれが護には理解し難いものだった。結局は家が厳しいのだろうと、そう判断していたが。
「そりゃ、外に出られねーよな」
護が何も知らないことで、彼女を知らず知らずのうちに傷付けてはないのだろうか。
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午後になり、インターホンがなる。確認するとネロがいる。
「早かったな」
「陸路より空飛んだ方が早いだろ?」
ニコッと笑ってネロは言う。この『島』ではこういう事は、日常茶飯事なので、特に気にならないが。
「まだ寝てるんだけど、そのまま帰ると目立たないか?」
「下手したら通報とかされかねないかな」
冗談っぽく話すが、それは実際に起きそうなので護も困る。
「まぁ、彼女は鍵持ってるだろうし」
「俺の使ってもいいが」
「繋げられるなら僕はどっちでもいいんだけどね・・・知ってるか?護の鍵と彼女の鍵は、元々は一つの鍵だったんだよ」
それは護も初めて聞いた話だ。護の鍵は三つ葉のクローバーの形はしてるが、葉がハート型なのは前から不思議だとは思っていたけど。そして彼女が持っている鍵はハートの形があしらわれている。
「最初は四つ葉のクローバーの鍵だったんだよ」
「なるほどな、アイツらしい」
《窓口》は髪飾り以外にも、四つ葉クローバーのモチーフを好んで身に付ける。多分、それは護が最初に彼女に見付けて、一つあげたのがきっかけ。その四つ葉を彼女が押し花にして栞にしたものを、護が今も持っている。
「あー・・・これは今日一日は起きそうにないな」
「それ、大丈夫なのかよ?」
「本人は前に『一日二日食べなくても、人間は死なないから』って言ってたんだが、さすがに心配にはなるよ」
寝室で寝てる《窓口》の様子を見たネロが、呆れた様子というか、困った様子で彼女を抱き上げる。
「多分、今なら何をやっても起きないだろうな」
「いくら手加減されてても勝てないからって、寝込みを襲うほど俺は卑怯じゃないぞ?」
「別にそういう意味で言ってるわけじゃない」
じゃあどういう意味だよ、と護は思うが特に何も言わない。
「やっぱ俺が鍵使うよ、抱えたままは大変だろ」
「護がそれでいいなら僕は何も言わないよ」
ネロは軽々と、だけどそっと《窓口》を抱き抱える。それを見て、護がポケットから鍵を出して玄関に向かう。
「護もこっち来るか?」
「暇だから行こうかな」
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鍵を使って自分の家と《窓口》の家とを繋ぐ。この鍵は護でも使えるようにと《窓口》が特別に作った鍵だ。彼女の部屋のテーブルは、相変わらず手紙とか書類が散乱している。護はソファーに座ってクルリと部屋を眺める。何度かこの部屋も出入りはしているが、どうしても気になるのが一つだけ。鍵のかかった扉付きの棚。中は見えないようになっているので、一体、そこに何が入っているかはわからない。過去に、何が入っているのかを聞いた時は、本人が言うには『曰く付きのモノ』が入っていると答えたが、ほとんどの『曰く付きのモノ』は《現原家》に持っていってるのを、護は確認している。
「なんか気になるな」
勝手に開ける気はないが。下手に触ると《窓口》が起きたときに、それこそ半殺しにされかねない。とりあえず《窓口》が起きるのを待つか。
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いつの間にか、護はまた寝てたらしい。それもソファーに座ったままで。
「本当に起きてて大丈夫だったのか?」
「え?・・・あぁ悪い」
ネロが心配そうに、でも呆れた様子で護を見ていた。頭をガシガシと掻いて、ふと、顔を上げると、ベッドが目に入る。
「で、アイツはまだ寝てるのか・・・?」
「さすがに護の相手にしてから、さらに本気ではないものの、殺し合いをやってたらな」
「そんなに身体に大きい負担だったのか?」
「身体にというか、どっちかというと精神的なのが大きい」
そうなのか、と護はまだ寝てる《窓口》を見る。話を聞くと魔術師達は魔力の消費と体力の消費は、ほぼ同時に進行するようで、今回の《窓口》は、それプラス精神的な負担もあって、回復が少し追い付いてないらしい。
「精神的なのって?」
「一つは護に対する時の力加減の調整に、もう一つはあの凶器だな・・・相手の動きを数秒単位での予知とどういう動きをすれば最善かを導き出して、そう動けるように自身に強化をかけて、さらにはその最善を実現させてたんだから、そりゃ精神も削られるさ」
そこまで《窓口》はやっていたのか。話を聞いていて、護は少し情けなくなってくる。
「別に護は気にする必要はないぞ、本人からしたら、まだ良い方だったらしいから」
「・・・そうなのか?」
「本当ならば、もっと酷い事になるはずだったらしいぞ」
そういうところは、相変わらず《窓口》は何も言わない。最悪な状況を回避する最善策を彼女は知っているはずなのに。彼女は時折、最善の一手を打たずに妥協する事をやる。その理由はわからないが、彼女自身にとっては最善でも別の視点では最善ではないのだろう。
「護、今日は泊まっていけば?」
「いや、帰るけど」
「ただでさえ護は家でも独りだろ、こっちだって心配になるよ」
突然で驚いたが、どうやら独りでいる時に倒れたら、とかを思ったのだろう。そこまで心配されてるのか。
「別に泊まってもいいけど、どこで寝んだよ」
「一応、空いてる部屋はある」
「そうか・・・」
そこまで言って何か引っ掛かる。ネロとも学生時代からの友人だから何かおかしい時はわかる。
「・・・なぁ」
「なんだ?」
「他人の事より自分の事の方が深刻なんじゃないか?」
「突然どうした?」
「最近『裏』の出てきてないだろ」
『裏』のネロのもう一人の人格。前はちょくちょく入れ替わってた気がする。
「あー・・・それも護が気にする必要はない」
「・・・また暴走するのはやめてくれよ?」
「それは無いから」
「一番、被害を被るのアイツだろ?」
「それも『僕』もわかってるよ」




