創られた狂気
「また、事件ですか?」
《窓口》はため息を一つついた。ここは、いつからそういう事件を扱う場所になったのか。本来、そういう事件は協会とかに持っていくべきなのだが。
「確か『相談所』ですよね?ここ」
「あー、うん・・・お前の言いたいことは、痛いくらいにわかるんだけど」
《窓口》の横に座るネロと、前に座る護は苦笑する。何かと、護達だけでは手に余る事件を、彼女に協力してもらっている。だが、ここはあくまでも『相談所』。
「ここはどうしても解決したいけれども、普通の人間ではそう簡単には解決できないような『悩み事』とか『相談事』がある人が来る所なんですよ?」
「それは上もわかってるんだけどさ・・・どうしても、な?」
拗ねるような表情の《窓口》に護は困っている。こうなると、ちゃんと話を聞いてくれるのかが心配になる。
「まぁ、主、護の話だけでも聞いてあげてくださいな」
「むぅ・・・」
渋々《窓口》は返事をする。
「ねぇ、そんなに警察関係者や異端審問官達は無能の集まりなのかしら?」
「言っておくが、ちゃんと解決してる事件もあるからな?」
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──それは数日前のこと。この町で通り魔事件があったのは《窓口》達もニュースで観た。目撃者の話では、あまりに突然で顔ははっきりとはわからないが、犯人は女性だったらしい。そう判断したのは、走り去る犯人の後ろ姿が、黒のウェーブがかかっている長髪だったから、だそうだ。それに防犯カメラの画像にも映っていた。
「最近、こうした事件が多いですね?主」
「ただの通り魔事件なら、警察に任せておけばいいんじゃないですかね?これが呪具とかが関係するなら、異端審問官達が動きますし」
《窓口》の言葉に、ネロはそれもそうかと思う。ここは『相談所』であって『探偵事務所』とかではないのだ。ただ、今の島の外からの『悩み事』のほとんどは内容が同じようなモノなので、《相談員》の仕事の量には偏りが出ている。
「うーん・・・それはわたしも、どうにかしたいところですけどねぇ」
「心霊現象は《光里家》か《闇路家》くらいしか、担当するのは無理ですしね?」
「ストーカー関係は、情報操作が必要ならば《星野》だし」
《窓口》でもどうにもならないこの状況には、頭を抱えているようで。
「何も手紙は、世界の外からの『悩み事』だけではないですけどねぇ」
「そうだったんですか?」
「そうでなくては、他の《相談員》に仕事がないんですもの」
まぁ、島の外でも警察とかいるし少ないですけれど、と《窓口》はため息をつく。
「割合的にはどれくらいなんです?」
「外:島=2:8」
「島の中の相談って結構あるんですね?」
正直、意外だった。大体の島の中の『悩み事』は各地の相談員の所に直接行くか、遠い場合はお互いに連絡を取り合っており、その過程で《窓口》に来る者もいる。
「まぁ・・・島の中のことは大体、協会の方に行った方が早いですし・・・いいんですけどね?」
「それだと、望さんの負担が大きいのでは?」
「大体、あの人は曲がりなりにも今の協会の会長なんだから、暇でしょうに」
親戚で上司だというのに、この酷い扱いである。望もきっと、忙しいはずなのに。
「主」
「なんです?」
「もしも先程の事件で、護が来た場合ですが」
「その時はその時です」
そして今、二人は護と対峙している。
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「それで、なんでまた・・・わたしの所に?」
「あ、いや、まぁ・・・その・・・な」
なんでか、護の態度がおかしい。隠したところで《窓口》には、ばれるのだが。
「護、ここに特に理由なくて来たのか?」
「そうではないみたいですけどね?」
「それがな、目撃者の証言で、どうも凶器が曰く付きっぽいらしいんだよ」
「曰く付き、ですか」
そういうことならば、話は別になる。基本的にそういったモノは《現原家》が回収しているが、それでも手が回らず、もし見付けたら代わりに回収してほしいと《窓口》にも依頼されているからだ。拒否しようとしても向こうの方が上手で、とても断りづらい状況に追い詰められるので、嫌でもやるしかないのだ。
「でも、おかしいですね」
「何が」
「そういった曰く付きの刃物はあらかた、わたしの方でも回収していたはずなんですけどね?」
「新たに、何者かが造った可能性というのはありませんか?主」
うーん、と《窓口》は考え込む。
「それは、あり得るかもしれないですね」
「だとすれば、誰が?」
「協会と敵対関係にあるのは、一人しかいないでしょう?」
「・・・神狩か」
「ご名答、例え造ったのが神狩本人でなくても、間違いなく関わってきますよね・・・本当に色々と嫌だわ」
《窓口》はやれやれと頬杖をつき、さらに、ため息までついている。
「あのさ、曰く付きの刃物ってどういうのを回収したんだ?」
「んー・・・例えば『切り裂きジャックのナイフ』とかですね、あとは・・・」
「あ、もういい、それだけで大体どんなのかは予想できるから」
『曰く付き』とはそういうモノだったかと、護は聞いておいて少し後悔した。凶器になった武器や道具等は、人の血を吸っているという事もあってか、妙に殺傷能力が高くなったり、持ち主を破滅へと導いていく。稀にその凶器と相性がいい適合者と呼ばれる者もいるが。その適合者が使った場合の凶器の殺傷能力は、普通の凶器の威力の比ではない。
「そういうモノは、何かと狂気を孕んでますからねぇ・・・適合者以外が下手に触れようものなら、意識まで全部持っていかれますから」
「だが、事件の凶器となれば、俺達も触れない訳にはいかないんだぜ?」
「そしてきっと、その場にいる人達を皆殺しにするんでしょうね?」
当たり前のように、怖い話を《窓口》はする。そういえば、過去にも、似たような事件の凶器だけが見付からないことはあったが。
「全部が全部、わたしも回収はしてませんよ?」
「何も、見付からない凶器はお前が回収してるとは言ってないだろ」
「そういう風に言いたそうですけどね・・・あ、ネロくん、アレ出してください」
ネロはテーブルの隣の棚に置かれた引き出しから、一枚の札を出す。
「一応、ね?」
「これ、どう使うんだ?」
ネロから渡された札は真っ白で、何も書かれてない。パッと見ただけでは何の効果があるのかがわからない。
「条件下で自動的に発動するので、どういう効果かなどは気にしないでいいですよ」
「そうなのか」
若干、不安ではあるが、護は札を上着の内ポケットに入れる。これがどういう条件で、どう発動するのかはわからないが、彼女からしたら、この札も無いよりはマシなんだろう。
「とりあえず、今日はその事を伝えるのに来たからさ」
「そうですか」
「じゃ、戻るわ」
「戻ったらそこは既に惨劇でした、となってなければいいのですけれどね?」
「お前が言うと、まるで冗談に聞こえないからやめてくれ」
バタンと応接室のドアが閉まる。
「大丈夫ですかね?護」
「さぁね?こればかりは、わたしでもどうにもなりませんよ」
「ちなみに、あの札の効果は?」
「・・・それは発動してからのお楽しみです」
つくづく《窓口》は、何を考えているのかネロにはわからない。当の本人は、そんな事にはお構い無しだった。




