黒猫との出会い
いつだったか、真夜の姉の真朝は主人である望と共に一度、家に帰ってきた。一人の少女、今の自分の主人も連れて。その時の彼女は、まだ学生くらいの歳だった気がする。今より髪も長かった(今は肩より少し長いくらいか)。この時も彼女は、あの髪飾りを着けていたのを覚えてる。
真夜は今回は真夕が行くのだろうと、家の影から庭の様子を見ていた。両親は真夕と一緒にいて、望と何か話をしていた。だけど、彼女は真夜に気付いていたようで、ずっとこちらを見ていた。
「しぃ?」
「あの黒い子もここの?」
そのあとの彼女は、望と何か話していた。そのうち真夕が真夜を呼びにきた。
「真夜、そんな隅にいないで、こっち来なさいな」
「でも姉さん」
「大丈夫よ、おいで」
渋々ではあったが、真夜は真夕の後ろをついていく。少し離れてではあるが。
「わたし、この黒い子がいいです」
望も両親も彼女の言葉に驚いていたようだが、一番驚いたのは真夜自身だった。
「しぃがその子がいいっていうなら、僕は何も言わないよ」
望がそう言うと、彼女は笑って真夜を見る。
「あなた、お名前は?」
「マヤです、真の夜と書いて真夜」
「蒼い月みたいに綺麗な眼なのね、本当に月夜のようです」
「あ、ありがとうございます」
「これからよろしくお願いしますね」
その言葉が決定打になって、真夜は彼女の下へ行くことになった。
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──《窓口》は最初から、真夜のことを全部わかっていたんだなぁ、と今更ながら思う。
「ご主人様、あの方達は?」
「あまり堅くならないでいいですよ、わたしのことも呼び方は自由ですからね」
呼び方は自由だと言われても、真夜は少し困ってしまう。結局、ご主人と呼ぶことにしたが。真夜が《窓口》がいる家に来た時には、すでに七海と八雲がいた。その時は仕え魔として、というよりは家族とか保護者としてのような感じだった気がする。
「七海、あのね、この子なんですけど」
「この子ですか・・・初めまして、七海です」
「で、こっちは八雲」
「えっと、真夜です」
自己紹介の後はなにやら話をしているが、真夜には何のことやら、さっぱりわからなかった。
「真夜ちゃん、あなたは何か『悪いモノ』が視えてたりするのかしら?」
「えっと、はい」
「『ソレ』をどうにかしたいって思う?」
「そりゃあ、できる事ならしたいですよ」
急な七海からの質問に驚いたが、真夜は正直に答えていた。きっと心のどこかで、もしかしたら、どうにかなるのではないかと思っていたのかもしれない。それから、真夜は七海達と『不幸』を操作する方法を探して、今ではそれが出来るようになった。そうしたら、他人の『不幸』までも視えるようになってしまったが。
「それは違うよ、真夜ちゃん」
七海が言うには、他人の『不幸』が今まで視えなかったのは、自分の周りにあった『不幸』に隠れてしまっていただけだったらしい。
「まぁ、誰にだって『不幸』はあるから、気にしないのよ」
ただ、それは真夜の周りにある程は大きくないだけで、あるのは当たり前のことなのだから、と七海は真夜に言う。この家に来てから、暫くしてから《窓口》は、真夜にチョーカーをプレゼントしてくれた。青いリボンに透明な蒼い三日月のチャームが付いたチョーカー。これのおかげで、今は『不幸』を引き寄せても、誰にも影響がない。
「ありがとうございます、ご主人」
「似合ってますよ、真夜」
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蒼い三日月のチャームを揺らし、真夜は町を歩く。途中《協会》の本部付近を通って、真夜は最初の頃はよくここに来たなぁと、しみじみ思う。《窓口》が《窓口》としての仕事をするまでは、真夜が《協会》からの仕事を持ってきていた。そのうち、望が《箱庭相談所》を立ち上げたので、彼女が《窓口》として声がかかった。なんだかんだで、その頃にネロも同居人として加わり、真夜の役割も変わった。
今では、いつの間にか同居人が増えて、やる事も少ないが、それはそれで真夜はこの生活を楽しんでいる。ただ、これ以上はさすがに同居人は増やさないでほしいが。
「まだあたしは実家には帰れそうにないなぁ、姉さんはああ言ってるけど」
次に両親に会う時は、自分が胸を張って一人前の仕え魔になったと言えるようになってからがいい。今度こそ、両親が笑顔でいられるように。今は会いたくても、話をしたくても我慢しよう。町外れの丘の上にある一軒の洋館。今の自分の大切な居場所。真夜はドアを開けて中へ入る。
「只今、戻りました」
遠くから《窓口》達の「おかえりなさい」と言う声が聞こえた。
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──いつか、思い描く理想を実現する為にあたしはここで頑張るんだ
それまでは戻らないと決めた。あの窓からの空を見ていた時とは違うのだから。




