過ごし方は色々
午後になってから、朝からどこかへと行っていた《窓口》は、護の家のドアを派手に蹴破ってきた。
「護くん、ただいま〜♪」
「なんで、お前はちゃんと入って来れないんだ?あと、誰が直すと思ってんだ」
「誰って、わたしに決まってるじゃないですか」
《窓口》は指をパチンと鳴らす。一瞬にしてドアは元通りになる。それならわざわざ壊さなくても良いのではないのか。むしろこっちの方が手間だろう。
「わざわざ蹴破ってくる意味は?」
「特にないです・・・でも、一度はやってみたくて」
意味がないならやるなよと、そう護は思うが、今まで何かしらやってきたようなので(多分、それの八つ当たりのようなものだろう)、彼女の少しすっきりした様子を見て、特に何も言わなかった。
「何かやってきたのか?」
「うーん・・・特に何もしてはないんですよね、色々と変わったけど」
不思議な答えの《窓口》に、護は怪訝な表情を浮かべる。彼女がこう答える時、今は何事もなくても、後から反動のように何かあるのを護は知っている。
「今回は何もないのか?」
「そこまで警戒しなくても・・・って、わたしがもう何かやった前提で言わないでください」
「いつもお前がそういう時は、決まって何かやった後だろ」
酷いなぁと《窓口》は小さく言う。それを聞かなかった事にして、護はため息をついて、口を開いた。
「もう一度聞くが、何をやってきた?」
「キミが信じる、信じないは別ですが、自殺願望者がいたんで引き止めただけ」
「・・・本当に?」
「違ったら今頃、護くんはここにいないはずですよ?多分」
そんなに思い詰めた人がいたのかと、そして、別にそれは隠すことなのかと護は少しだけ考える。
「人間でも何でも、生きている者はいつか死ぬんですよ」
「それはそうだが」
「でも自殺願望者にとって一番悲惨だと思うのは、なんだかんだで、生きていることだと思うんですよ」
《窓口》の考えは護にはわからない。それは彼女なりの慈悲なのかは別として。
「何も、生きているから幸せだという事でもないんですけど、だからといって死んだ方が幸せとも限りませんし」
「何が言いたいんだ?」
「結局のところ、難しいって事です」
実際、あの時《窓口》が分厚い本の真っ白なページに書いたモノ。あれは悲惨な死に方を書いたわけではない。ただ、寿命まで自殺を実行しようと、助かるということを書いたのだ。ある意味では悲惨だろう、寿命まで死ぬに死ねないのだから。
「今すぐにでも死にたいと思う人間が、寿命が尽きるまで死なないのは、幸せなんですかね?それとも不幸なんですかね?」
「確かにそれは難しいな」
「でしょう?他人の幸せなんか、所詮、他人ではわからないのです」
幸せというのは自分で決めること、ということか。
「でも、残念な事に幸せは、他人の不幸の上に成り立っているんですよね」
「どういう事だ?」
「例えば自分に不幸があっても、自分より不幸だと思う他人を見て、自分は他人よりはまだ幸せだと感じるんです」
まぁ、自分の中の幸せの価値の考え方は人それぞれですが、と彼女は話を終えた。
「そろそろ、回ってくるか?」
「そうですね、小学生くらいまでなら、きっと今頃に来るかしら、でもその前に」
《窓口》は置いてあった荷物の袋を開ける。そこから取り出したモノを《窓口》は護に差し出す。
「はい、護くんの分」
護に手渡したものは小さなクッキーと飴が入った袋だった。
「別に、俺の分まで用意しなくてもいいのに」
「悪戯されたら困りますからね」
「悪戯なんかするか、ガキじゃねぇし」
《窓口》はニコニコと笑いながら言う。
「いらないんですか?」
「いや・・・お前がくれるなら、貰っとく」
「素直じゃないですね、そんなだから、キミには彼女ができないんですよ」
「それは余計なお世話だ」
✡
しばらく待っていると、ピンポーンとインターホンが鳴る。確認すると《夢幻福音の家》の子ども達だ。付き添いの大人に混じってネロと鏡花、リオネットも一緒にいた。《窓口》がドアを開けた瞬間。
「トリック オア トリート!!」
子ども達は一斉に言うものだから、結構、その声量に驚いた。
「ハッピーハロウィン♪はい、どうぞ」
《窓口》は一人ずつ、護に渡したものと同じ袋を、子ども達にも手渡していく。話を聞くと、子ども達の服は鏡花が作ったらしい。
「大変だな、ネロも」
「毎年のことだが、一日だけだし」
護とネロは、子ども達と《窓口》の様子を、彼女の後ろで見ている。その中で《窓口》は一人の少年に声をかけた。白いウサギの少年は、見た感じ普通の格好。隣にいるリオネットはアリスの格好をしている。
「えっと、ブランシュくんは何の格好をしているのかな?」
「時計ウサギ」
一瞬、その場が沈黙する。護は耐えきれず、思ったことを口にする。
「なぁ、ウサギがウサギの格好したら仮装じゃ」
「護くん、それは言わないの」
ネロも鏡花もそれは思っていたようだ。ウンウンと頷いてる。
「あ、そうだ」
何かを思い出したように《窓口》は一旦、部屋の中に入っていく。戻ってきた時、彼女の手には金色の懐中時計があった。
「キミが時計ウサギなら、これあげますよ」
「え?いいの?」
「わたしはもう使いませんから、どうぞ」
まだ針は動いているが、持ち主の《窓口》は使わないと言うので、ブランシュはその金色の懐中時計を、嬉しそうに受け取った。
「そういえば、三月くんも前、ウサギの仮装だったね」
付き添いの大人の一人である、焦茶色のウサギの三月を見て《窓口》は思い出したように言う。三月もこの《夢幻福音の家》出身。今は護と同じ部署に配属されている。
「アレはほら、名前とかけたネタっすよ?《窓口》さん」
三月は苦笑する。ネロと護は当時の事を思い出したのか、笑いをこらえている。
「おい、何を笑ってんだよっ」
「いや、別に」
「思い出したとかじゃなくてな、クククッ」
三人のやりとりをスルーして《窓口》はリオネットと話をしている。
「リオのお菓子は、家に帰ってからでいいかしら?」
「うん・・・大丈夫」
「あ、ご主人、アリサちゃんも来たみたいですよ」
鏡花がアリサを見つけたようだ。ハロウィンだからなのか、珍しくオレンジと黒を基調とした服装をしている。
「しぃちゃーん」
「あら、アリサも来たのね」
「えへへ、お菓子はいらないので、悪戯させてください♪」
「丁重にお断りします」
二人とも満面の笑顔。楽しそう(?)で何よりだ。
「占いは終わったの?」
「もちろん」
「何を占ったんですか?アリサちゃん」
「それは内緒」
護が不意に右手に着けた腕時計を見て言う。
「そろそろ次、回らなくていいのか?」
「あ、そうですね」
「行ってらっしゃい」
《窓口》は手を振って、子ども達と付き添いの大人を見送った。




