ハロウィンの過ごし方
10月31日、世間一般はハロウィンで知られる魔女の祝祭のソーウィン。この日の魔女は大切な故人を偲ぶ儀式を行う。
愛里沙はこの日は重要な占いをする。大きな釜に水を張り、水晶球占いをするように覗く。重要な占いで何を占うのか?そんなの年頃の女の子なら決まって(省略)・・・愛里沙の占うことが、何かはまぁ、置いておくとしよう。
「占いが終わったら、しぃちゃんの所へ遊びに行こうかな?」
ソーウィンは、魔女にとって『お盆』のようなものだ。でも、人間達の、ハロウィンのお祭り騒ぎも嫌いではない。(日本でも、お盆だったかお彼岸の時に、お墓を派手に飾る地域もあったりするし)
仮装をしている子ども達の様子は見ていて楽しい。ついでにお菓子も貰いにいこう。愛里沙は占いと出掛ける準備を始めた。
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朝。護が部屋で寝ていると、突然、ピンポーンとインターホンのチャイムがなる。
「ったく、誰だよ、こんな朝から・・・」
時刻は8:00。ボサボサの髪を適当に掻き上げ、確認する。四つ葉の装飾が付いた、深緑のリボンの髪飾りを着けた、黒髪に黒い眼の少女。何か荷物を抱えている。そこにいたのは《窓口》だった。護は慌ててカレンダーを確認し、どうしようか考える。画面の向こうの彼女は少し首を傾げて、もう一度チャイムを鳴らす。出るしかないようだ。
「・・・はい」
『あ、護くん?おはよう、起きてました?』
「今、起きたばかりだから、開けるの少し待ってくれ」
『わかりました』
とりあえず、護は着替えとかを色々と手早く済ます。チェーンを外し、鍵を開け、ドアを開く。
「・・・こんな朝早くから人の家に何の用だ?」
「毎年の事じゃないですか、忘れました?」
「他の奴らは一緒じゃなかったのかよ」
「途中までは一緒でしたよ?まぁ、そんな事よりも、お邪魔しま〜す」
ニコニコしながら、スタスタと勝手に家に上がる《窓口》。他人の都合はお構い無しなのか。
「仕事かなんかしてきたのか?」
「え?どうしてそんな事を聞くんですか?」
《窓口》の服装は、高校生が着る制服のような、いつもの白いブラウスにグレーのタータンチェックのスカートだ。本人曰く、これは仕事着ではないらしいが、仕事の時の彼女は、大体、この格好だと思う。
「仕事以外でのお前がその服装なのは、あまり俺は見たことないから」
「ここに来る前に、寄った所があっただけですよ」
ニッコリ笑って《窓口》は髪をヘアゴムで一つに束ねる。
「なんか作ります?」
「いや、起きたばかりだし、別にそんな事しなくていいよ」
「そうですか、でも少しここのキッチン借りますね〜」
「なんだ?お菓子作りでもすんのか?」
「ハロウィンのお菓子なら、昨日のうちに亜夢ちゃん達と作りました」
それなのに、なぜ、そんなにルンルンと人の家のキッチンに立っているんだと、護は聞こうか迷うが、なんだか怖い答えが返ってきそうなのでやめた。
「それにしても、相変わらず物が少ないですね」
「独り暮らしの男の部屋なんか、大体こんなもんだろ」
今いるこの部屋にはテーブルとソファー、テレビと小さな本棚があるだけ。それに普段から出来るだけ掃除はしている。《窓口》にしてみれば、物がないように思うのだろう(普段から彼女の部屋のテーブルの上は、書類やら手紙で結構ごちゃごちゃしてるし)。今は突然のことで、脱いだ服は隣の寝室に放りっぱなしだが。
「はい、これ」
ボーッと、テレビを観ていたら《窓口》はマグカップを一つ、護の目の前のテーブルに置いた。中身はコーヒーだった。
「砂糖とミルクはいる?」
「砂糖一個だけ」
それだけ聞いてまた《窓口》はキッチンに向かう。戻ってきたときに、彼女はマグカップと角砂糖を一個、持っていた。彼女の持ってきたマグカップの中身は、余ったコーヒーも少なかったのか7割ほど牛乳を入れたカフェオレだった。《窓口》は護に砂糖を渡し、隣に座る。
「そういえば、今年は同居人達はどうしてるんだ?」
「七海と八雲は神社の手伝い、ネロくんとリオは《夢幻福音の家》に、あ、ついでに鏡花も、亜夢ちゃんはお姉さんのお店の手伝い、真夜と智志くんは家にいます」
その言葉を聞いて、護は一瞬そうか、と言いそうになった。
「なぁ、亜夢さんのお姉さんの店って」
「キャバクラですね」
「いいのかよ、手伝いさせて」
「愛夢さんから毎年、今日は仮装パーティーみたいなモノだから接客させてるわけではないとは聞いてます」
主人としての立場弱くないか?と護は思ったが、彼女はそこまで気にしている様子もないので、黙っていた。
「そういえば、あの家にも子ども来るのか?」
「少しだけですけどね」
のんびり落ち着いているが、一体《窓口》は何をしに、この家に朝から来たのだろうか?
「あぁ、そうそう、これから行く所があったんですよ、ただ荷物だけ置かせてほしかったんです」
「それならそうと、最初から言えよ」
「言ってませんでしたっけ?」
「途中、どこか寄ったっていうのは聞いたが」
「そことは別の所です、ちょっと行ってきます」
《窓口》は慌ててマグカップの中身を飲み干して、束ねていた髪を解いて、パタパタと玄関に走っていった。一人、ポツンと取り残される護。何か事件とかを起こさないといいのだが。
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「・・・間に合えばいいんですけど」
《窓口》はビルやマンションの屋上を飛んで回る、白いレースの日傘を差して。ここは『夢現の街』の北部。護の住んでいる家は、町の中央のやや北側にある。その護の家に行く途中で、視てしまった黒い靄のようなモノ。普段の彼女ならば、それも視てみぬ振りをする、本当に酷い時以外は。
「さてと、どうしましょうかね?」
トンッ、と一つのマンションの屋上に着地する。手すりの向こう、一人の女性が立っている。どうやら、黒い靄のようなモノの原因は、彼女らしい。
「飛び降りるんですか?」
突然の《窓口》の言葉に驚いたのか、女性は振り向きざまにふらつき、慌てて手すりを掴む。
「このまま飛び降りたら、かなり痛いでしょうね?」
「な・・・んで?」
「普段なら、別にわたしは死にたい人間を、引き止めるつもりはないんですけど、こんな日に死なれて、大切な彼の休日を潰されるのは、わたし自身、どうかと思いまして」
女性は《窓口》がいることに、酷く混乱しているようだが、白いレースの日傘を差したままの彼女は、呆れたように言う。
「このまま貴女が死のうと、わたしには全く、関係ないんですけどね」
「なら、なぜ?」
「先程も言いましたが、彼の休日が無くなりますし・・・それに、子ども達の楽しい一日の邪魔になりますから」
正直な話、死にたい人間に対して、無理に死ぬなと引き止めるようなことをする気はない。ただ、他人に迷惑をかけなければ、他人がどう死のうと《窓口》は口を出すつもりもない。興味も無いのだ。
「あの人の所に、私も行きたいのです」
「向こうは本当にそれを望むかしら?」
しばらくの沈黙。口を開いたのは《窓口》だった。
「そういえば、今日はあの世とこの世が一番近づくのでしたね」
《窓口》の言葉に彼女は首を傾げている。何を伝えたいのかがわからないのだろう。
「貴女が会いたい人が亡くなっているのなら、今日は現世に来ているのではないですかね?」
「・・・ぇ?」
「視えないなら、それはそれで仕方がない事ですけどね」
《窓口》は女性の隣まで歩いていき、そのまま、ふわりと飛び降りる。女性は驚いたような表情で、飛び降りた《窓口》を目で追う。その《窓口》は、何事もなく着地して、どこかへと歩いていった。
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「もしかして・・・怒ってます?」
日傘を閉じて《窓口》は女性が遠くに見える場所で、一人立っている。その左手には分厚い本がある。
『俺の仕事が無くなったっていうことに関しては、な』
「それは、申し訳ないことをしましたね」
《窓口》の背後に黒いローブの男が現れる。その手には大きな鎌が握られている。
『この埋め合わせはどうするつもりだ?』
「そうですね・・・これでどうでしょう?」
《窓口》は持っていた分厚い本を開く。開いたページには何も書かれていない。真っ白だ。そこに彼女は右手に持ったペンで何かを書き、背後にいる人物に見せる。
『・・・?!おいおい、こっちの方が悲惨じゃないか』
「あらあら、死神ともあろうお方が、人の死に方に拘るんですか?」
クスクス笑う《窓口》に、死神は何も言わない。どう考えても、彼女の方が死神らしい態度だ。
「今、死ななかったところで、結局はあの人はいつか死ぬんですから、後にどう死のうと、結局は変わらないでしょう?」
『・・・死神より恐ろしいな、アンタは』
「あら、いつだって、怖いのは生きている人間なんですよ?」
本を閉じて《窓口》は死神を見る。死神は何も言わずに空間に溶けるように消えた。
「でも、後で少し修正はしておかないといけないですね」
もう遠くの女性は、屋上から自分の部屋に戻っているようだ。それを確認して《窓口》も来た道を引き返していった。




