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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
人形の人捜し
51/225

接触のち離別

男は、待機していた警察関係者達によって逮捕、連行された。


「しぃ、リオちゃん、大丈夫か?」


ルナと共に、護は《窓口》とリオネットの所へ、早足で向かってくる。


「わたし達の心配より、子ども達は?」

「二人は大丈夫だ、病院に連れていったら、貧血気味にはなっているが、問題ないそうだ」

「それは良かったです」


そして、護はリオネットの服の片方だけ、袖がないことに気が付いた。


「リオちゃんの服、どうしたんだ?」

「さっき、片方だけ腕ごと切られまして」

「なっ・・・切られた?でも見た感じ、わからないが」


切られたというのが信じられないほど、リオネットの腕は痕もなく、普通に動いている。


「まぁ、見た目はともかく、中身は人間じゃないですからね」

「病院に一応、連れていった方が」

「ボクは、大丈夫だよ・・・ちゃんと、治ったから」


リオネットは、護に向かって袖の無い方の手でピースをしてみせる。いつも通り、伏し目がちで無表情ではあるが。護と一緒にいたルナは、いつの間にか《窓口》のスカートの裾を握って、周りの様子を見ている。


「ルナちゃん、どうしたの?」

「ちょっとだけ喉渇いた」

「・・・大丈夫?」


こそこそとリオネットとルナは話をしている。その様子を見ていた《窓口》は、ポケットから一つの飴を出す。


「ルナちゃん、飴ですがどうぞ」

「ありがとう、お姉さん」


《窓口》が出した、赤色の飴をルナは受け取り、すぐに口に放り込む。


「ルナ、お家に帰るね」

「送っていかなくて大丈夫なのか?」

「ルナより、お姉さん達を送ってあげてよ」


ニッコリ笑って、ルナはバイバイと大きく手を振り、颯爽と飛んでいった。


「わたし達も帰りましょうか」

「・・・うん」



  ✡



《窓口》の自室。《窓口》は荷物と本を片付けている。ソファーには、護とリオネットが座ってその様子を見ていた。帰ってすぐにリオネットは服を着替え、《窓口》は鏡花にリオネットの服の事情を話し謝っていた。鏡花は笑って「それくらい問題ないですよぉ」と言っていたが、《窓口》は申し訳なさそうだった。


「ところで、さっきルナちゃんにあげた飴って、何か効果とかあるのか?」

「特にありません」

「普通の飴なのか?」

「普通ではありませんけど、普通の飴と変わらないですね」


《窓口》は、また妙な言い回しをする。


「アレはちょっとした、吸血鬼用の飴なので」

「・・・は?」

「勘が鋭い護くんなら、これだけで何を意味するか、きっと解ると思いますけど」


つまり、あの飴の材料には人間の血が入っている。だから、色が赤かったのか。


「アレは、売ってるものなのか?」

「一応、病院とかでも売ってますよ、ただ、売ってるものはルナちゃんは好きではないみたいですがね」

「じゃあ、お前があげたのは?」

「わたしが作ったものですが・・・」


《窓口》が飴を作ったことにも驚いたが、一番の疑問は、その飴に誰の血が、そして、どこからその血を入手したかだ。


「護くん、この家に住んでる人間はわたしだけですよ?」

「なおさら、その血が他人のだったら、とか考えるだろうが」

「問題ないですよ、わたしの血ですから」


それはそれで、バレンタインのチョコレートに『おまじない』と称して、そういう類いのモノを入れる女性のように思えてくる。病んでるのかコイツは。


「あの飴を、そういう類いのモノと一緒にしないでください」

「どう考えても、それを作ろうと思う事が狂ってるだろ」

「他人の血を使った方がおかしいでしょ、それこそ犯罪になりかねないですよ」


それもそうかと、妙に護は納得する。やってることが、狂ってるのに変わりはないが。


「でも、あの飴は吸血鬼にとっては、無いと困るんですよ?」

「それはわかるが」

「わたしだって、アレを作るにあたって、少し痛い思いをしてるんです」

「そう言うんなら買ってこいよ」


護の言葉に《窓口》はもう何も言わない。これ以上は、ただ堂々巡りになるのがわかっているようだ。


「飴についてはわかったが、もう一つ、リオちゃんって一体、何者なんだ?」

「世の中には『知らない方が幸せ』ということもありますよ?それでも、キミは聞きます?」


《窓口》は片付けを終えてソファーに座る。相変わらず、はぐらかすかのような言動だ。


「どういうことだ?」

「秘密は秘密のままである方が、時としていい場合があるのですよ」


ニッコリ微笑んで《窓口》は、シーッと人差し指を口元に持っていく仕草をする。


「パンドラの箱は、絶対に開けてはダメなんですよ」

「いつも何かと、はぐらかすよな」

「なんでもかんでも、真実は暴けばいいってものではないんですよ?護くん」

「その言葉は何を意味するんだ?」


《窓口》はただ微笑んでいる。リオネットに関しては、二人の話に興味はないようだが。


「とりあえず、お前が話す気はないのだけはわかった」

「うふふ、なんでもかんでもわかってしまっては、人生つまらないですもの」

「・・・今日のところは、もう遅いから帰る」

「えぇ、また今度ね」


部屋を出ていく護を《窓口》は小さく手を振り見送る。周りが静かになったところで、《窓口》は再び口を開いた。


「真実を護くんが知ったら、どう思うかしらね?」

「それは・・・ボクも、わからない」

「リオ自身はどう考えていますか?」

「ボクは、人形・・・人形は、何も語らない」


リオネットはソファーから降り、ドアの方へ歩いていく。《窓口》も立ち上がり、部屋のドアを開ける。そのままリオネットは自分の部屋へ戻っていった。


「人形ねぇ・・・ある意味では正しいですね」


部屋で一人、《窓口》は考える。


「前までのリオは、何者にもなれるが故に、何者にもなれない存在」


「わたしが定義したから、リオは一度死んだわけですが、これで本当によかったのかしら?」


今、彼女の問いに応えるものは誰もいない。ただ、静かに夜は更けていく。


「過去の事を考えるよりは、今は事件も解決したし、それで良しとしますか」


ふとカレンダーを見ると10月31日は近い。


「これで子ども達も、ハロウィンは安心して街を出歩けそうですね」


満足そうに頷いていると、ネロが部屋の外から、呼ぶ声がしたので《窓口》は返事をして部屋を出た。

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