接触のち離別
男は、待機していた警察関係者達によって逮捕、連行された。
「しぃ、リオちゃん、大丈夫か?」
ルナと共に、護は《窓口》とリオネットの所へ、早足で向かってくる。
「わたし達の心配より、子ども達は?」
「二人は大丈夫だ、病院に連れていったら、貧血気味にはなっているが、問題ないそうだ」
「それは良かったです」
そして、護はリオネットの服の片方だけ、袖がないことに気が付いた。
「リオちゃんの服、どうしたんだ?」
「さっき、片方だけ腕ごと切られまして」
「なっ・・・切られた?でも見た感じ、わからないが」
切られたというのが信じられないほど、リオネットの腕は痕もなく、普通に動いている。
「まぁ、見た目はともかく、中身は人間じゃないですからね」
「病院に一応、連れていった方が」
「ボクは、大丈夫だよ・・・ちゃんと、治ったから」
リオネットは、護に向かって袖の無い方の手でピースをしてみせる。いつも通り、伏し目がちで無表情ではあるが。護と一緒にいたルナは、いつの間にか《窓口》のスカートの裾を握って、周りの様子を見ている。
「ルナちゃん、どうしたの?」
「ちょっとだけ喉渇いた」
「・・・大丈夫?」
こそこそとリオネットとルナは話をしている。その様子を見ていた《窓口》は、ポケットから一つの飴を出す。
「ルナちゃん、飴ですがどうぞ」
「ありがとう、お姉さん」
《窓口》が出した、赤色の飴をルナは受け取り、すぐに口に放り込む。
「ルナ、お家に帰るね」
「送っていかなくて大丈夫なのか?」
「ルナより、お姉さん達を送ってあげてよ」
ニッコリ笑って、ルナはバイバイと大きく手を振り、颯爽と飛んでいった。
「わたし達も帰りましょうか」
「・・・うん」
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《窓口》の自室。《窓口》は荷物と本を片付けている。ソファーには、護とリオネットが座ってその様子を見ていた。帰ってすぐにリオネットは服を着替え、《窓口》は鏡花にリオネットの服の事情を話し謝っていた。鏡花は笑って「それくらい問題ないですよぉ」と言っていたが、《窓口》は申し訳なさそうだった。
「ところで、さっきルナちゃんにあげた飴って、何か効果とかあるのか?」
「特にありません」
「普通の飴なのか?」
「普通ではありませんけど、普通の飴と変わらないですね」
《窓口》は、また妙な言い回しをする。
「アレはちょっとした、吸血鬼用の飴なので」
「・・・は?」
「勘が鋭い護くんなら、これだけで何を意味するか、きっと解ると思いますけど」
つまり、あの飴の材料には人間の血が入っている。だから、色が赤かったのか。
「アレは、売ってるものなのか?」
「一応、病院とかでも売ってますよ、ただ、売ってるものはルナちゃんは好きではないみたいですがね」
「じゃあ、お前があげたのは?」
「わたしが作ったものですが・・・」
《窓口》が飴を作ったことにも驚いたが、一番の疑問は、その飴に誰の血が、そして、どこからその血を入手したかだ。
「護くん、この家に住んでる人間はわたしだけですよ?」
「なおさら、その血が他人のだったら、とか考えるだろうが」
「問題ないですよ、わたしの血ですから」
それはそれで、バレンタインのチョコレートに『おまじない』と称して、そういう類いのモノを入れる女性のように思えてくる。病んでるのかコイツは。
「あの飴を、そういう類いのモノと一緒にしないでください」
「どう考えても、それを作ろうと思う事が狂ってるだろ」
「他人の血を使った方がおかしいでしょ、それこそ犯罪になりかねないですよ」
それもそうかと、妙に護は納得する。やってることが、狂ってるのに変わりはないが。
「でも、あの飴は吸血鬼にとっては、無いと困るんですよ?」
「それはわかるが」
「わたしだって、アレを作るにあたって、少し痛い思いをしてるんです」
「そう言うんなら買ってこいよ」
護の言葉に《窓口》はもう何も言わない。これ以上は、ただ堂々巡りになるのがわかっているようだ。
「飴についてはわかったが、もう一つ、リオちゃんって一体、何者なんだ?」
「世の中には『知らない方が幸せ』ということもありますよ?それでも、キミは聞きます?」
《窓口》は片付けを終えてソファーに座る。相変わらず、はぐらかすかのような言動だ。
「どういうことだ?」
「秘密は秘密のままである方が、時としていい場合があるのですよ」
ニッコリ微笑んで《窓口》は、シーッと人差し指を口元に持っていく仕草をする。
「パンドラの箱は、絶対に開けてはダメなんですよ」
「いつも何かと、はぐらかすよな」
「なんでもかんでも、真実は暴けばいいってものではないんですよ?護くん」
「その言葉は何を意味するんだ?」
《窓口》はただ微笑んでいる。リオネットに関しては、二人の話に興味はないようだが。
「とりあえず、お前が話す気はないのだけはわかった」
「うふふ、なんでもかんでもわかってしまっては、人生つまらないですもの」
「・・・今日のところは、もう遅いから帰る」
「えぇ、また今度ね」
部屋を出ていく護を《窓口》は小さく手を振り見送る。周りが静かになったところで、《窓口》は再び口を開いた。
「真実を護くんが知ったら、どう思うかしらね?」
「それは・・・ボクも、わからない」
「リオ自身はどう考えていますか?」
「ボクは、人形・・・人形は、何も語らない」
リオネットはソファーから降り、ドアの方へ歩いていく。《窓口》も立ち上がり、部屋のドアを開ける。そのままリオネットは自分の部屋へ戻っていった。
「人形ねぇ・・・ある意味では正しいですね」
部屋で一人、《窓口》は考える。
「前までのリオは、何者にもなれるが故に、何者にもなれない存在」
「わたしが定義したから、リオは一度死んだわけですが、これで本当によかったのかしら?」
今、彼女の問いに応えるものは誰もいない。ただ、静かに夜は更けていく。
「過去の事を考えるよりは、今は事件も解決したし、それで良しとしますか」
ふとカレンダーを見ると10月31日は近い。
「これで子ども達も、ハロウィンは安心して街を出歩けそうですね」
満足そうに頷いていると、ネロが部屋の外から、呼ぶ声がしたので《窓口》は返事をして部屋を出た。




