隠す者との接触
リオネットが目を覚ますと、光の全く射さない、暗く狭い部屋にいた。この部屋に窓はあるようだ。だが、カーテンが閉められているために暗いようだ。
「・・・えっと」
今、自分が置かれている状況を静かに、ゆっくりと確認する。まず、手には手錠をかけられ、手錠は鎖で壁に繋がれている。鎖の長さの分だけ、多少は動ける。周りは暗いので、はっきりとは見えないが、人の気配がする。子どもが二人。耳を澄ますと、息がある。まだ生きているようだ。とりあえず、最悪の状況ではないようでリオネットは少し安心する。部屋の外も少し気配を伺ってみる。なんだか不穏で強大な魔力を感じた。そして、リオネットはなぜ、自分がここにいるのかを考え、その前に何があったかを思い出す。
──誰かに付けられてるのを感じてリオネットは自分の主人の《窓口》に電話をかけた。
その後しばらく歩き、路地裏に入ったときに、後ろから突然、何者かに襲われた。そこからの記憶はない。
「・・・さて、これからどうするか」
どうにかして、子ども達と逃げる方法を考えなくては。
「もしかして、リオちゃん?」
「そうだよ」
向かいの壁にいる子の一人は、声でリオネットがいることに気付いたのだろう、周りの様子を伺いながらだが話しかけてくる。
「リオちゃん、なんでここに?」
「ホントは助けに来た・・・ボクも、捕まったけど」
その話を聞いていた、もう一人も少しだけ話しかけてくる。その声は震えていた。
「ぼく達、助かるの?」
「マスターなら・・・見つけてくれるけど」
きっと《窓口》なら、待っていれば、ここにいる自分を見付けてくれるだろう。だが、今回、リオネットは大人しく待つつもりはない。
「・・・逃げれるなら、二人も一緒に」
「無理だよ、リオちゃん」
「この家、吸血鬼の家なんだ」
それを聞いてリオネットは、なんとなくだが納得する。不穏な魔力の原因はこれだったのか。吸血鬼相手だと今の《窓口》でもキツいだろう。どうしたものか。
「様子を見て、逃げるしか・・・ないか」
「もし、見付かったら?」
「・・・その時は、ボクが相手するよ」
二人の安全は第一に考えなくてはいけない。それは、きっと同じ状況に置かれた《窓口》でも、同じように考えるだろう。
「それじゃ、リオちゃんが危ないよ」
「ボクは、大丈夫・・・」
周りを伺いながら、リオネットはまず、自分の手錠が繋がれている鎖と手錠を、素手で断ち切って壊す。幸いなことに、人間用の手錠だったので、リオネットでも簡単に壊せた。同じようにして二人の手錠も壊す。
「すごいね、リオちゃん」
「これくらい・・・ボクには、簡単だよ」
三人は物音を立てないように、窓に近づく。カーテンを少し開ける。窓は鍵がかかっている。そして、この部屋はちょっとした地下倉庫らしい。完全には地面に埋まっているわけではなく、窓は空気の入れ替えをするためのもののようで、少しだけしか開かなそうだ。隙間から子どもくらいなら地上へ出られそうではある。
さて、問題はここからだ。いつ二人を連れて逃げるか。何か、犯人の気を惹くことがあればいいのだが。
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《窓口》と護、ルナは一軒の家の前にいた。ルナは途中で町にいた二人と偶然会い、事情を聞いて付いてきたのだ。
「ここですね」
「この家って吸血鬼が住んでる家じゃ?」
「吸血鬼は吸血鬼でも、ルナみたいな純血種じゃないはずだよ?お兄さん」
護は手帳を出して確認する。確かにこの家の主は、人と吸血鬼のハーフらしい。そして度々、周りの住人と衝突もしているようだ。
「それにしても、よくお前はリオちゃんの居場所が判ったな」
「いつも一緒にいますからね、遠くはなれていても気配だけで捜すのは楽です」
護にはわからないが、どうやら《窓口》とリオネットの間には、言葉では表せない何かがあるのだろう。それは護が踏み込める話ではない。
「とりあえず、まずは俺が話をするがいいか?」
その言葉に《窓口》とルナは頷く。ただでさえ、隣にいる《窓口》は病み上がりなのだ。無茶はさせられない。
「もし、お兄さんが襲われることがあれば、ルナとお姉さんで何とかするね」
「あ、あぁ・・・うん、頼んだよ」
自信満々にルナは笑って護を見る。護はただ苦笑して、家のインターホンを鳴らした。
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「誰か来たみたい・・・お客さんかな?」
「・・・多分」
窓から逃げる為に、色々な物を積み重ねていたリオネット達は、突然のインターホンの音に驚いた。だが、これは好都合だ。この際に逃げることができそうだ。
「・・・今のうち」
「急ごう」
少年の方を先に外へ逃がす、次に少女。少し窓が高いため少年は少女の手を取り、外へ引き上げる。そして最後にリオネットが出て、カーテンと窓を閉めた。
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家のドアを開けて出てきたのは、灰色の髪と紅い眼を持つ男だった。
「なんかうちに用か?」
「最近、子どもがいなくなってる話について聞きたいんですが」
「ハッ、知らねぇな」
刺激はしないように、護は慎重に質問をしていく。
「ここにその子ども達がいるっていうことは?」
「無いな」
「まったく・・・嘘つきですね」
護のすぐ隣で《窓口》がボソッと言う。護は、男を刺激するように煽るのはよしてほしいのが本心。ここに子ども達がいることに間違いはないのだろうが。
「鬼は嘘が嫌いだとは言いますが・・・本当のことを仰ってくださいな、あと、わたしに嘘は通用しませんよ?」
「なら調べりゃいい、こないだだって警察が来たが、何もなかっただろ?」
「部屋は調べる必要はありませんわ、だって、もう子ども達は部屋から逃げたようですので、ね?」
護は驚いて《窓口》を見る。当の本人は真っ直ぐ男を見ている。
「逃げた?そんなわけないな」
「あら?なぜ、そう言えるのですか?」
「なぜって・・・」
《窓口》はニッコリ笑っている。護は再度、質問をする。
「本当に、事件について何も知らないのか?」
「知らねぇって、言ってるだろうが!」
男が《窓口》と護に向かい殴りかかる。その瞬間、二人はギリギリかわす。《窓口》はかわしたと同時に、ふわりと空中で回し蹴りを男の後頭部に食らわせ、そのまま地面に顔面を叩きつける。
「危ないなぁ、もう」
トンッと軽く着地をした《窓口》は、危機感のない調子で口を開く。
「・・・護」
護は声のする方に視線を移す。そこには、隠れるようにリオネットがいた。護は隙を見て、リオネットに駆け寄り、目線に合わせて屈む。
「リオちゃん、無事だったのか?」
「護っ?!後ろっ!」
男が起き上がって、その勢いで一撃を加えようとする。護はとっさにリオネットを庇う。《窓口》の魔法も発動が間に合わない。だが、どんなに待っても衝撃も何もなく、恐る恐る護が振り返ると、ルナが片手で男の一撃を受け止めていた。
「え・・・ルナちゃん?」
「ホント、お兄さんは人間の癖にカッコいいんだから」
そのままルナは男の拳を押し返し、男の腹に一撃を加える。幼女に殴られたとは思えないほどに、男の身体は勢いよく飛んでいく。
「あ、ヤバ・・・そっちにお姉さん、いるじゃん」
飛んでいく方向に《窓口》がいたことを思い出し、ルナは少しだけ慌てた表情を見せる。だが、そんな心配をしなくても良かったのか、余裕の表情で《窓口》はちゃんとかわしていた。
「今の、わざとですか?ルナちゃん」
「ううん、今のは偶然だよっ」
「さて、護くん、キミの今やるべき事は、わかっていますね?」
《窓口》の言葉に護は頷く。リオネットと一緒にいた二人の子どもを、一刻も早くこの場から離すこと。これが護が今、やるべき事だろう。正直、今の男の様子から捕まえるにも、護だけでは無駄死にになるだけだろう。いくら他にできる事があるとしても、今ではない。
「来るよ、お姉さん」
「──《氷壁》」
《窓口》は本を開き、詠唱なしに魔法を発動させた。《窓口》達の目の前に一瞬にして氷の壁が現れる。
「護くん、行って!早く!」
護は二人の子どもを抱えて走る。家の周りには、護があらかじめ呼んでいた警察関係者がいた。
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「さてと、ここからなのですが・・・」
ガシャンッとガラスが割れるように、氷の壁はいとも簡単に男に破られてしまう。だが、護達を逃がすには、いい時間稼ぎにはなったようだ。
「ルナちゃん、アレってどういう状態なんですかね?」
「アレが中毒症状っていうか、吸血衝動だよ」
「そうなんですか」
暴れてる様は、まるでアルコール中毒の親父だな、と《窓口》は攻撃をかわしながらルナと会話する。
「普段は、きっと人間としての理性で抑えてたのが、何かのきっかけで吸血しちゃって、吸血鬼の力が抑えられずに、欲求のままに暴走してるんだよ」
「うちのネロくんも、度々、吸血衝動が出てますけど・・・ここまで酷くはなかったような気がしますけど?」
「それはお姉さん、完全に衝動に飲まれてないからだよ、ルナ達だって衝動に飲まれたら、お姉さんにもリオちゃん達にも、何をするかわからないよ?」
「何それ、怖いですね」
ルナもまた、かわしながらも一撃を加える。その度に男は遠く、軽く飛んでいく。
「雑種の癖にルナとやり合おうなんて、ホントに狂ってるとしか言い様がないよね」
「雑種って、犬とかではないんだから」
「まだ野良犬の方がお利口さんだよ?お姉さん」
無邪気にルナは笑っているが、今の《窓口》は笑ってもいられない。正直なところ、かわすのもやっとなのだ。体格差をものともしないルナに、純血種は改めて強いなぁと感心はする。
「それとお姉さん、今日は詠唱魔法は使わないんだね?」
「詠唱するには色々と間に合わないんですよ」
「詠唱破棄とかは?」
「それもできないことはないんですけどね、っと」
一旦《窓口》は男から距離を取る。
「マスター、大丈夫?・・・ボク、代わりに行こうか?」
「リオ、護くんと一緒に行かなかったの?」
「うん・・・ボクだって、ルナちゃんと友達だから・・・マスター、休んでて」
そういう事かと《窓口》はリオネットを見る。リオネットなりに、主人を気遣っているのだ。
「不安だけど・・・行ってらっしゃい」
「わかった」
若干、悩んだものの、久しぶりに、リオネットはやる気十分らしい。
「ルナちゃんだけ、ズルいよ」
「あははっ、ごめんね」
ルナと一緒にリオネットも加わる。どうも二人は、遊んでいるような感覚でいるらしい。
「そぉれっ、1、2、3♪」
客観的に見ると、何かの格闘ゲームをやっているように見える。ただ、一方的にルナ達が攻撃しているので、男が可哀想に思えてくる。これは酷い。
「くそっ、ガキの癖に」
「躾がなってないわねー、それっ」
ハーフとはいえ、男もさすがは吸血鬼、結構、身体が頑丈だ。
「意外としぶといなぁ」
「だね・・・」
さすがに、このまま素手では無理があると判断したのか、男は大きなチェーンソーを持ち出す。
「あら、また物騒な物を持ってきたわね」
「ルナちゃん・・・気を付けてね」
「リオちゃんもね」
振り回されるチェーンソーを見ても、全く怯むことをしない幼女二人。
「でもさすがに、これじゃ・・・ボクも素手は、無理かな」
リオネットはポケットから黒い鋏を取り出す。
「──赤はやがて黒に、黒は全てを侵し、塗り潰す」
持っていた鋏は一瞬のうちに、リオネットの身長の倍くらいはある大きさになる。
「ルナちゃん・・・チェーンソーは、ボクが受け止めるから」
「わかった」
リオネットがチェーンソーを受け止め、ルナが反撃をする。その瞬間の隙を突いて、リオネットは鋏を二つに分け追撃をする。
「リオちゃん?!」
二人の攻撃をかわした男の反撃で、リオネットの左腕がチェーンソーに当たり、切断されて飛んだ。同時に、鋏の片割れは地面に突き刺さる。
「リオちゃん、大丈夫?」
「大丈夫、血も出てない」
言葉通り、リオネットの腕からは出血が見られない。
「ボクは、人形・・・ボクは、マスターの為だけに存在する」
「せっかく、鏡花ねぇが・・・作ってくれた、服なのにな」
一瞬にして、リオネットは男と距離を詰め、チェーンソーを持っている腕に斬り掛かる。追撃に一回クルッと回り、右手に持っていた鋏を左手に持ちかえる。
「あれ?!」
その一瞬の出来事だったが、リオネットの左腕が元通りになっている。ただ、服の袖はそのまま地面に落ちている。
「いっそのこと・・・このまま、ボクが喰って」
「それはダメですよ、リオ」
左手に分厚い本、右手に鋏の片割れを持って《窓口》が立っている。
「二人して本気を出さないだけ、まだマシですけど」
周りを少し見て《窓口》はため息をつく。
「全く、誰が破壊された物を直すと思ってるんだか・・・」
塀や地面には、男が二人の幼女によって叩きつけられた時などに出来たヒビが入っている。
「あと、これ以上長引かせると、護くん達に怒られちゃいますからね?(特にわたしが)」
《窓口》は本を開き、二人に男から離れるように言う。
「──罪には罰を、悪い子は籠の中へ《クランプスの籠》」
男の周りに、籠というよりは檻のようなものが現れる。こうして見ると、益々猛獣が檻に入れられてるようにしか見えない。
「結構な時間、暴れてましたからね、少しは体力の消耗があるし、そう簡単には破られることはないでしょう」
「ルナ、お兄さん達を呼んでくるね」
檻の中でも、まだ男は抵抗しているが、ルナは護のいるところまで走っていった。




