捜す者と隠す者
──一人の子どもが行方不明になってから、暫く経った。
未だ目撃情報などを照らし合わせても、どこにいるのかがわからない。何しろその時の所持品すらも見付かっていないのだ。
「これは困りましたね」
「もういいのか?」
「誰だって、三日間も薬を飲んで、ちゃんと大人しく寝てれば、嫌でも回復しますよ」
護は《窓口》が起きていることに少しだけ不安になるが、様子を見る限り、体調は完全に回復したようだ。新たに《情報屋》から貰ったであろう資料を見て《窓口》は頭を抱えている。いなくなってる一人すら見付かっていないのに、さらにまた子どもがいなくなってるのだ。
「全く、この街にはロリコンとか、ショタコンしかいないんですか?」
「いや、俺を見て言われてもな・・・それと俺は違うからな?」
「何も、わたしは護くんがロリコンでショタコンだとは言ってませんよ?」
「たまに言葉に刺っていうか、悪意があるよな」
そして《窓口》は街の地図を広げ、リオネット達に渡した物とは違う振り子を出す。
「冗談はこれくらいにして、始めましょうか」
「あぁ、あとこれ、お前に頼まれてたモノな」
《窓口》から頼まれていた物、それはいなくなってる子どもが普段から使っている物だった。護も何に使うかは聞いてはいなかったが、それらで子ども達の居場所がわかるのならと、快く借りることが出来た。
「本当は、その子だけが写る写真でも良かったんですが、いつも使っている物の方が、こういった人探しは、きっとしやすいかと思いまして」
「こういうのって『霊視』とかとは違うのか?」
「線引きは難しいところですね、それは」
霊能力者がよく部屋の内装などを当てる『霊視』。《窓口》が言うには、アレはテレパシーと原理は同じようなモノらしい。
「テレパシーは自分の思念を離れた他人の潜在意識に伝えますが、そういった『霊視』っていうのは他人の潜在意識から記憶を覗き見るだけの話です」
「ある意味、プライベートも何もないな、それ」
「普段は見ようとしなければいいだけの話ですよ、そういうのは案外コントロールができているもの、たとえ無意識にでもね」
そして《窓口》は左手に子どもが普段使っていた物、右手に振り子を地図の上で持ち、静かに見ている。しばらくすると振り子は右に回りだす。
「右回りだな、若干、斜めに回ってるが」
「この町の西側半分に絞ってみますか、ただ、この家自体が街の西側から遠いですからね・・・」
「大雑把でも判れば、あとは俺達でもその場を重点的に捜せるだろう?」
「確かにね」
地図を半分に畳んで《窓口》は同じ事をする、それをさらに一回。《窓口》曰く、これはダウジングというよりネットで検索をかけている感覚らしい。
「大体、西から南にかけてってところですかね」
「広いな、それ」
「地図上でやった限りですからね、仕方ないです」
「それでも絞れた方か」
「この地図と、この家の中ではね」
ふぅ、と息をついて《窓口》はソファーに寄りかかる。やはり病み上がりで、まだ無理をしているのではないかと、心配になる。
「本当に大丈夫だったのか?」
「これは結構集中しますからね、ちょっとだけ、精神的に疲れるんですよ」
「無理だけはするなよ?」
「これだけで倒れてたら、どんな魔術も使えませんって」
心配する護に《窓口》はニッコリと笑う。左手に持っていた物を護に返して、地図と振り子をしまう。
「もう使わないのか?」
「借りっぱなしというのも、どうかと思いまして」
「そうか、お前がそう言うなら別にいいんだ」
《窓口》から受け取った物をバッグにしまい、ドアの方を向いて、護は再び口を開く。
「そういえば、リオちゃんは今日も出掛けてるのか?」
「ルナちゃんと一緒に、振り子を使って捜すって」
「リオちゃんに何かあったらどうすんだ?」
「ああいう風に見えても、リオは妖魔の子なんですよ?それにわたしの同居人なんです、一人でも何とかなります」
それでも心配にはなる事はあると《窓口》は付け足す。リオネットも、やるときはやると知ってはいるのだが。
「それと、あのルナって娘は純血種の吸血鬼だろ?」
「そうですよ、《白羽の満月》と呼ばれる血族の一人ですね」
この『箱庭島』の各地には純血種の吸血鬼の一族がいる。それぞれ独自の能力を持っている為、血族別に二つ名のような通称がある。ルナの一族以外は《紅蓮の上弦の月》《翠玉の下弦の月》《蒼海の三日月》《黒風の新月》と呼ばれているが、長いのでそれぞれ《紅月》《蒼月》《翠月》《黒月》《白月》とも呼ばれる。まぁ最近はそれすらもなく、黒の一族だとか言われてるというが。
「でもルナちゃん、日中堂々と日傘も差さずに歩いてるよな?」
「《白》は吸血鬼の一族にしては珍しく、元々、日光に耐性が他の吸血鬼よりあるみたいなんですよね、それでも日中の動きは鈍くなるらしいですが」
まぁ、友人から聞いた話ですが、と《窓口》は笑う。彼女は本当に交友関係が幅広いから困る。
「それと、他の吸血鬼達も最近は人に紛れてることが都合がいいので日傘とか要らなくなってるらしいです・・・でもさすがに夏の日傘無しはキツいみたいですが」
「ふぅん、そうなのか」
吸血鬼達も大変なんだなと護は思う。他の吸血鬼達も人と共存するために、少し日光に耐性がついたのだと《窓口》は言うが。
「あくまでも、人に紛れてる時に日の光に耐性が出来ただけで、完全に日光を克服した訳ではないんですけどね」
「克服したら、それはそれで怖いと思うぞ?」
「・・・それもそうね」
《窓口》はただ苦笑する。そうそうできることではないが。
「何もないといいんですけどね・・・」
「そうだな」
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黄昏時の公園のブランコに二人の少女。
「結局、ルナ達じゃわからなかったね」
「・・・そうだね」
白い方の少女、ルナは立ち漕ぎして、隣にいるゴスロリのリオネットにつまらなそうに言う。
「だって・・・ルナちゃん、全然、集中出来ないし」
「やっぱり、お姉さん達が見つけてくれるのを待つしかないのかな?」
「・・・その方がいいよ」
リオネットがブランコから降りると、ルナは漕いでいたブランコを止めて、ポケットから《窓口》から借りた振り子を出して、リオネットに投げる。リオネットはそれを上手くキャッチする。
「リオちゃん、お姉さんに返しておいて」
「うん・・・わかった」
リオネットは振り子を大事にポケットに入れ、ルナから少しだけ離れる。
「・・・そういえば、ルナちゃんってさ」
「なぁに?リオちゃん」
「いつも・・・ご飯って、何食べるの?」
「普通の人と同じだよ?嫌いなモノはあるけど」
ほとんど無表情と変わらないが、リオネットは意外そうな顔をする。リオネットの、ぴょこんと頭のてっぺんから出ている毛が一瞬、揺れる。
「そんな意外だった?」
「・・・うん」
そういう自分も普通に人と同じ食事をしているものの、吸血鬼の食事はやっぱり人間の血なのかと不意に思っただけで、そこまで意味のない事だったわけだが。
「これは、お兄様が話してたことだけど」
「・・・?」
「ルナ達、吸血鬼は人間の血を吸うけど、吸いすぎても身体に悪いんだって」
「・・・そうなの?」
吸血鬼にとって人間の血は食事ではあるが、これがまた中毒性みたいなのがあるらしい。人間でいうとジャンクフードのようなものなのだとか。何事にも限度があるので、そういうことを言いたいらしい。
「人間の血はかなり強い力を出せるけど、人間だって不摂生な生活してたら身体に悪いでしょう?」
なるほど、とリオネットは最近、体調を崩した自分の主人を思い出す。あの人は不摂生で体調を崩したというより、無理してただけだが。
「ところでリオちゃん」
「ん・・・何?」
「他の妖魔達も人間を食べるけどさ、食べ方に違いがあるじゃない?」
「・・・あるね」
魂だけを喰う者もいれば、肉を丸ごと喰う者もいる。それだけでなく心を喰う者もいる。妖魔は人間の魂を喰う(=人の霊力を喰う)ことで己の魔力に変換する。だからこそ、妖魔は人間を喰う。
「でもさ、生きてる人の魂って身体のどこにあるんだろうね?」
「・・・前にマスターは、生きてる人の魂は・・・『血』に宿るって、言ってた」
人間は血が巡ることで生きている。生きてる間の魂は、そこに宿っているらしい。家系によって魔力などが左右されるのは、そのためなのだとか。
「今思ったけどさ、いなくなってる子達って、みんな魔力は持ってない子達だよね」
「だって・・・無力な人間の方が、楽に喰える」
リオネットの言葉に、何かルナは思ったようだ。
「まさか、もう食べられてるとかってないよね・・・?」
「・・・それは、わからない」
しばらく沈黙が流れる。出来れば考えたくない最悪の状況だが。
「・・・そろそろ、ボク帰る」
「一人で大丈夫?」
「・・・うん、大丈夫」
「じゃあ、また明日ね」
「うん・・・また明日」
小さく手を振り、リオネットはルナと別れようと離れる。その時、後ろから何かの気配を感じて、反射的に振り向く。
「・・・?」
「どうしたの?リオちゃん」
「・・・なんでもない」
なんでもないとは言ったが、誰かに見られているような気がした。ルナは感じていなかったみたいなので、多分、リオネットの気のせいだろう。
「やっぱり、ルナも一緒に行こうか?」
「・・・大丈夫」
「大丈夫なら別にいいけど・・・」
そのままルナと別れ、街を一人歩く。だが、どうも誰かに跡を付けられているようだ。
「・・・とりあえず」
少々、不本意だが、歩きながらにポケットから携帯を取出し、電話をかけた。
✡
「電話・・・リオから?」
《窓口》は、ポケットに入れていた携帯の着信を確認して出る。
「何かあったのか?」
護の言葉に《窓口》はちょっと待ってと手で制す。
「どうしたの?リオ」
──誰かが、後をついてくるみたい
《窓口》は筆談で、護にリオネットが目を付けられたと簡潔に伝える。
「ちょっと護くんに替わるよ?」
「リオちゃん、今から俺か誰か、そっちに迎えに行こうか?」
『──大丈夫』
「もし、今回の犯人だったらどうすんだ?」
『──その時は、いなくなってる子がいるか・・・見てくる』
リオネットはとんでもないことを言いだす。それは自分が囮になるっていうことではないか。
「リオちゃん、それは危険じゃないか?」
『──ボクだって、ただの人間じゃないんだよ?護が・・・思ってるより、頑丈』
《窓口》は護の言葉から、リオネットが何をしようとしているのか理解したのだろう。色々と道具を用意しだす。
「護くん、リオに迎えに行くから、行ってらっしゃいって伝えてくれる?」
「・・・《窓口》から、行ってらっしゃい、だとさ」
『──うん・・・わかった、ありがとう』
そしてリオネットからの通話は切れた。
「おい」
「行きますよ、護くん」
「話を・・・」
「リオのことですから、わざと捕まる、とでも言ったんでしょう?」
あの子も意外と頑固ですからね、と《窓口》は一冊の分厚い本を取り、さっさと部屋を出ていく。護も自分の荷物を慌てて掴み、跡を追う。
「なぁ《窓口》、なんでリオちゃんが目を付けられたんだよ?」
「リオが人間に見えたんでしょう、中身はともかく、器は人間と変わらないですし、普段はリオも力を抑えてますからね」
なんだか意味深なことを早口で言っているが、護はそれに対しては、今は何も聞かないことにした。
「心配なのは、リオが本気を出さないといいんですけど・・・」
「それ、なんか不都合があるのか?」
「不都合しかないですよ」
二人は日が沈みゆく街に向かって走っていく。捜しているモノを見付ける為に。




