探しモノを捜す者
《窓口》のベッドの横で、リオネットは(表情は分かりにくいが)不安そうにしていた。
「・・・《日向》、どう?」
「うん、これはただの風邪だね、あと日頃の疲れが出たっていうだけだろう」
「大丈夫、なの?」
「少し休めば、大丈夫だよ」
伽羅色の髪と蜂蜜色の眼の、リオネットから日向と呼ばれた男。彼は日向 陽。一応、というか本業は医者。陽は笑ってリオネットの頭をポンポンとする。
「最近、色々と無理をしてたんじゃない?」
「無理したつもりは、ないんですけどね?」
彼からの問いに《窓口》は首を傾げている。多分、自覚はしていなくても、思うように休息も取れていなかったのだろう。
「自覚はなくても、相当、無理してたんだろ」
そんな彼女の様子を、呆れたようにソファーに座って護は見ていた。
「暫く《窓口》さんは安静にね」
「はぁーい・・・」
「陽さんの言うことは、ちゃんと素直に聞くんだな」
「・・・日向はお医者さん、だから仕方ない」
リオネットはベッドから離れて、本棚の方へ歩いていく。
「あの、診察料は?」
「僕でも出来る仕事が来てれば、今回はそれでいいよ」
「それならリオ、その棚の下から二番目、左から五番目の封筒」
リオネットは、本棚から言われた通りの場所の封筒を取り、陽に渡す。
「なんか、物々交換みたいだな」
「物々交換してるのは《窓口》さんと《相談員》達の間だけだよ、護くん」
受け取った封筒をバッグに入れて、陽はニッコリ笑う。
「じゃあ、僕は帰るよ、護くんあとはよろしく」
「あぁ、忙しいのにありがとうございました」
護は一礼すると、陽はそのまま帰っていった。
「俺も今日は帰る」
「護・・・また明日、ここ来る?」
「来るとは思うけど、どうした?リオちゃん」
帰る支度をする護に、リオネットはいつも通りの無表情のまま、淡々と話しかける。
「・・・別に、理由はないよ」
そのまま首を横に振り、リオネットは部屋を出ていった。
「なぁ、どうしたんだ?リオちゃん」
「明日もリオは出かけるみたいですよ」
「今日は亜夢さんとだったみたいだが、明日は一人で?」
「うん、なんでも友達に会いに行くって」
護は少しだけ何かを考えていたが、何事もなかったよう支度を済ませた。
「色々と気になるが、とりあえず、俺ももう行くわ」
「うん」
「そんな状態なんだから、夜中に出歩くなよ?」
「大丈夫ですよ、陽さんだけじゃなく、ネロくん達にも叱られますからね」
護はそりゃそうだと言って、部屋を出ていった。
✡
翌日。昼ご飯を食べたあと、リオネットは一人で街の公園のベンチに座っていた。腰まであるストレートの黒髪に、伏し目がちな黒い眼。ゴスロリを着ている為、遠くから見たら本当に人形のようだ。
「リオちゃんっ、お待たせっ!」
手を振りながら、一人の少女がリオネットに向かって元気に走ってくる。遠くからでもわかるほど白い。
「・・・ルナちゃん、早いね」
「そりゃあ、ルナが呼んだんだから、リオちゃんを待たせちゃダメでしょ?」
ルナと呼ばれた少女の背丈は、リオネットと殆んど変わらない。リオネットと同じように、腰まであるストレートの白い髪、黄金色の眼、そして透き通るような白い肌。時々、笑うと二本の鋭い牙が見える。
「・・・今日は、どうしたの?ルナちゃん」
「ほら、この間からいなくなってる子、いるでしょ?」
「マスターには・・・言ったよ?」
「その時はルナも一緒だったじゃん、って、そうじゃなくって」
プクッと頬を膨らませ、ルナはリオネットの手を取り、ブンブンと上下に振る。リオネットはされるがまま。
「っ・・・痛い、ルナちゃん、痛いよ」
「あっ、ごめんごめん」
「・・・で、その子が、どうしたの?」
「そうっ、それでさ、リオちゃんのお家のお姉さんに、占いを教えてもらって、ルナ達でも捜そうって思うの」
ニッコリ笑ってルナは言うが、リオネットは首を傾げてはいるが、無表情のままだ。
「でも・・・今、人間の子達は、出歩かないよ?」
「そこはほら、他の妖魔の子も誘ってさ」
考えているようで全く考えていなかったルナは、とってつけたように言う。
「・・・あと、マスター・・・今、具合悪い」
「そうなの?うーん・・・じゃあ、お見舞いにも行こう」
どうしても、今すぐじゃないといけないのか、とリオネットは思うが、あえて何も言わなかった。下手にそういった事を言うと、今度は腕一本無くなるだろうし、そんな事態はごめんだ。
「おい、こんなところでガキが何してんだ?」
ルナが振り返って見ると、そこには学校をさぼっているらしい、高校生の集団がいた。リオネットはベンチから降りる。
「学校さぼってる人間に言われたくないわね」
「うん・・・同じく」
「今時珍しいね、子どもにちょっかいかけるヤクザって」
「・・・ルナちゃん、それは違う」
稀にルナは使う言葉を間違えてる。結構、長く生きてるようだが、思考や言動は見た目相応だ。
「ガキがオレらとやり合う気か?」
「高々、十年ちょっとしか生きてない人間に、ルナ達が負けるわけないじゃん」
「何だと?」
「ダメ・・・ルナちゃん、止めときなよ」
ニコニコしながらルナはその集団を見ているが、リオネットは気が気でない。下手をすれば、この人間達はルナ一人で殲滅しかねない。
「・・・悪いこと言わない、今すぐ、ここから離れた方が・・・いいよ」
「ガキに情けをかけらるのも癪だな」
「あのね・・・ルナちゃん、こう見えて、吸血鬼・・・それも、純血種」
その言葉に集団は笑う。冗談だと思ったようだ。リオネットの言葉は冗談ではないが、見た目ではそう思えないのは、リオネットも同感だと思った。
「そろそろ来たら?そうすればルナも仕返し出来るから」
「ねぇ・・・ルナちゃん、怒られるよ?」
退屈そうなルナにリオネットはただ、呆れる。本当にこの吸血鬼は今、自分が置かれている状況がわかってるのか。ただのお遊びだと思ってるのだろうけど。
「何してんだ?お前ら」
突然、聞き覚えのある、青年の声が背後から聞こえる。声のする方へ目をやると、護が歩いてくるではないか。
「おい、あれ《異端審問官》じゃねーか?やべぇ、逃げるぞ」
集団は護を見て一斉に逃げだす。さすがに、捕まることは嫌だったのだろう。まぁ、服装のから学校も特定されるし、彼らも逃げるしかないんだろうけど。
「リオちゃん達、大丈夫か?」
「ボク達は・・・大丈夫」
「同じ人間でも、こう差があるものなのね〜」
目をキラキラさせてルナは護を見ている。それはどこか憧れの色を帯びている。
「こういう人を紳士っていうのよね、カッコいい」
「否定は、しない」
「おいおい、何の話だ?」
話がわかってない護に対して、リオネットは、なんでもないとただ首を横に振った。
「今から《窓口》の所に行く予定なんだが、リオちゃんも一緒に来るか?」
「うん・・・行く、ルナちゃんは?」
「ルナも行きますっ♪」
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《窓口》の部屋に、護のあとを白と黒の二人の幼女が楽しげについて入ってくる。
「お姉さん、こんにちは〜」
「あら、ルナちゃん、こんにちは」
「おいおい、起きてて大丈夫なのかよ?」
「ちょうど、主に薬を飲んでもらってたところだよ」
ネロは《窓口》から水の入ったコップを受け取る。見ると《窓口》の顔はまだ少し赤いものの、少しずつ回復しているようだ。
「ルナちゃん、今日はどうしたのかな?」
「あのね、今日はお姉さんに占いを教えてもらいに来たの」
「ルナさん、何を占うんです?」
「いなくなってる子、捜そうって思って」
それを聞いて、同時に《窓口》とネロは難しそうな顔をする。
「うーん・・・それは」
「物ならダウジングとか、方法はありますけど・・・技術であり、占いではないですしね」
子どもが相手だからか、少々困った表情の《窓口》。
「《窓口》自身がダウジングで、何か手掛かりを探すのってのは出来ないのか?」
「わたしの場合、それはもう、ダウジングの域を超えていますよね」
そもそもダウジングとは、潜在意識が水脈などから出ている波長を受け取ることで成り立つらしい。魔力を行使したら、それはダウジングとはいえないようだ。
「まぁ、出来ないことはないと思いますけど」
「あ、今すぐじゃなくていいからな?」
「じゃあ、ルナにそのダウジング教えてよ」
《窓口》は仕方ないと思いながらも頷いた。
「ダウジングは道具を使っているのがよく知られてますね」
《窓口》はネロに頼んで棚から道具を持ってきてもらう。L字に曲げた針金が一組と、チェーンに水晶が付いた振り子、テレビなどでよく見られる道具だ。
「針金の方は、水脈とか貴金属を探す時に、よく使われますね」
「じゃあ、振り子の方は?」
「例えば、どの道を行くかを判断したい時、ダウジングの方法としては、まず精神を集中して振り子を静かに降ろす」
「その対象の判断が正しいとき、振り子は右に、逆だと左に回ります」
「この時の回転の大きさは、答えの強さだったり、近さに比例します」
《窓口》は振り子を持ってルナに見せる。ルナは目をキラキラさせて、彼女の説明を聞いている。
「今回はちょっとだけ、わたしが振り子を使ってみますが、わたしのはダウジングとは違うとだけ」
「《窓口》、使うのはいいが身体に負担は?」
「これで消費する魔力は微々たるものです、大丈夫です・・・よね?」
最後の方は目線をネロに向けて確認する。ネロは困っていた。その表情は「きっと止めてもやるでしょ?」と言いたそうなモノ。そんなネロに《窓口》はお構い無しに、街の地図をベッドの上に広げ、その上から手に持った振り子を静かに降ろす。水晶が少しずつだが回りだす。ただ、その回り方に偏りがある。
「西側の方ですかね」
それだけ言って《窓口》は広げた地図をたたむ。
「もうやらないの?」
「あまりやってると、そこに口出しするのがいますからね、使うなら貸しますよ」
護をチラッと見て《窓口》は持っていた振り子をルナに渡す。嬉しそうに受け取ったルナは、リオネットと振り子を眺めている。
「ところで何を捜したんだ?手掛かりになりそうなモノか?」
「当たらずとも遠からずってところですかね、ただ、今のは調子が悪いので正確ではありません、とだけ言っておきます」
《窓口》はそのまま、ポフンと後ろに倒れて寝てしまう。
「体調が完全に回復したら協力してもらうから、今の結果は特に気にしてない」
「あら、よくわかってるじゃないですか」
「どれくらいの付き合いだと思ってるんだ?」
「かなり長いですね、嫌になるくらいね」
寝てはいるが、冗談を言ってられるようなので、もう少し安静にしておけば、完全に回復するだろう。
「何かあったらまた来るから、それまでには体調万全にしとけよ?」
「言われなくても」
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──誰か助けて・・・
日の光も射さない暗い部屋。扉は堅く閉ざされている。幼い少女は祈る。この部屋から出られるようにと。また、友人達と会えるように、遊べるようにと。




