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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
悪夢のメルヘンカルタ
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連鎖を断ち切る鍵

《窓口》と鏡花は、荷物を抱えて智志の学校の前にいた。《窓口》の肩には真夜(まや)がいる。真夜はいくら《窓口》が一緒でも、心配だとついてきた。


「いやぁ〜、学生に服を作れるとか、凄く楽しみですねぇ」

「鏡花ちゃん、楽しみなのはいいんだけど、暴走だけはしないでね?」

「ちゃんとわかってますよぉ?真夜さん」


本当にわかっているのかはさておき、二人と一匹は校舎の受付へと向かう。受付は真夜が済ませて、再び《窓口》の肩にピョンと飛び乗る。そこへちょうど智志がやってきた。


「結局、姉さんも来たんだね」

「わたしは鏡花のお手伝いで、ですよ」

「まぁ別にいいけど、教室こっち」


智志の後をついて、二人と一匹は教室へと向かう。


「そういえば、智志くんのクラスは何をやるの?」

「・・・喫茶店」

「ちゃんと食べれるモノを作れる?」

「大丈夫だよ真夜さん、作るのはほとんど女子だし、多分」


真夜からの言葉に、智志はどこか自信なさげに答える。その様子に《窓口》と鏡花は不安しか感じない。教室では、女子達はキャアキャア楽しそうに話しながら準備を進めている。逆に男子達はあまり協力的でないのか、女子達に怒られながらの作業になっている。


「お邪魔します」

「いやぁ、楽しそうでいいですねぇ」


鏡花の目がキラキラと輝いている。どうやら完全に、仕立て屋モードと言うか、お針子モードのスイッチが入ったようだ。


「とりあえず智志くん、あたしに服が必要な子を教えてくれるかしら」

「え、あぁ、うん」

「・・・これはもう止まらないですね」


智志がクラスメイト達に、事情の説明と二人の紹介をする。そして鏡花の元に服が必要な子達が集まった。


「ある程度、女子は私服とかで補ってる?」

「材料費とか限られてるし、中学生がバイトとか、さすがにマズイだろ?」


《窓口》が智志と話している内に、鏡花はポケットからメジャーを取り出し、次々と生徒達のサイズを測り、それを真夜がメモをしていく。


「ホントに、鏡花姉さんのアレは趣味なの?どうみてもプロの仕事なんだけど」

「本人は趣味だと言ってますが、実際リオと亜夢ちゃんの服も鏡花が作ってますからね、腕は確かです」


その時《窓口》の携帯が鳴る。着信の相手を見て《窓口》の顔が一瞬だけ曇る。


「ちょっとごめんね」


《窓口》は教室のベランダへ出ていく。鏡花と真夜も一瞬だけ彼女を見たが、すぐに作業に戻る。通話を終えて戻ってきた彼女に智志は、向こうで何かあったのかと聞く。


「大丈夫ですよ、キミが気にすることではありません」


ニコニコとしているが《窓口》のことだ。ここでは言えないことがあったのだろう。


「もしかして、姉さんは帰らないといけなくなった?」

「向こうはネロくんに頼んでありますから大丈夫、ちょっとだけわたしは教室を離れるけどいいかな?」

「・・・一人で?」


いつものことだが、彼女も一人だと何をしでかすか分からない。


「大丈夫ですよ、すぐに戻ってきますから」


そう言って《窓口》は、そのまま一人でフラフラとどこかに行ってしまった。



  ✡



「さて、事件も気になりますが・・・智志くんが気になるっていう子を捜してみますか」


一人校舎を歩く《窓口》。彼女の姿は生徒達には、あまり認識がされていないようだ。


「ここかしらね?」


認識されにくい事をいいことに、堂々と教室を覗いてまわる。そこで《窓口》は心結(みゆ)を見つけた。


「智志くんが言っていたのは、あの子の事ね・・・確かに微量の魔力は感じるけれど微弱すぎて、わたしでも何が理由かが分からないわね」


どこか疲れているようだが、そんなに弱っているようには見えない。だが、何となく原因の予想はついているようで。


「智志くんにもすぐに戻ると言いましたし、行きますか」



  ✡



言葉通り《窓口》は、すぐに智志達のいる教室に戻ってきた。何をしてたのか気になるが、智志が聞いたところで彼女は何かとはぐらかすだろう。


「それにしても、相変わらず鏡花凄いですね・・・わたしのお手伝いなんていらなかったのでは?」


嬉々として、かなりの速さで鏡花は服を作っていく。その光景に《窓口》も圧倒されていた。


「これくらいなら、ゴスロリを作るよりは簡単ですよぉ」


担当の生徒達そっちのけで、鏡花は服を作っていたらしい。中には古着をリメイクされた物まである。だが、それでもちゃんと雰囲気が統一されているのが凄い。


「で、採寸に狂いがないかは、真夜がしてたのね?」

「うん・・・ちゃんと全員分、狂いはないって」


この光景を智志は初めて見たのだろう、顔が少しだけ引きつっていた。女子達はお互いの格好を見て、さらにテンションが高くなっており、男子は男子で作業に戻っている。


「あの・・・心屋くん、いますかー・・・?」


不意に智志を呼ぶ声がした。振り向けば、教室の入口に心結がいるではないか。


「あ、あの、実行委員の集まりがあるって・・・」

「え、あ、うん・・・わかった」


智志はチラリと《窓口》を見る。その表情から、鏡花達を置いていくのは不安だったのだろう。


「ほら早く行ってらっしゃいな、彼女を待たせてはダメですよ」

「だから、そういうんじゃないってば、姉さん」



  ✡



結局ニコニコと《窓口》に教室を追い出されるようにされ、智志と心結は実行委員の教室へ向かう。


「えっと、さっきの方は・・・?」

「あの人はオレが今居候してる、っていうかオレを拾ってくれた人だよ」

「え、あ、そうなんですか・・・『姉さん』って呼んでたから、親戚とかなのかなって」

「本当なら『ご主人様』とか名前で呼ぶべきなんだろうけどね、あの人はオレ達に好きなように呼んでって言うからさ・・・」


基本的に《窓口》は同居人達の行動には口を出さない。自分に対しての呼び方も、仕事も趣味も何をしていようと自由だ。それだからといって、放任主義という訳でもない。なんだかんだ言っても、裏から手を回してるし。


「それにしても、相変わらず夢路さんは疲れてるみたいだけど大丈夫なの?」

「うん・・・ちゃんと寝てるのに、なんでなんでしょう?」

「姉さんに聞いてみる?あの人、そういう相談とかを聞く仕事してるから」

「多分、大丈夫ですよ・・・気にしないで」

「ならいいんだけど」


気にしないでと言われたものの、智志からは彼女が大丈夫そうには見えない。少しだけ、眼鏡を外してみようとしたのだが。


「そういえば、心屋くんっていつもその眼鏡かけてますけど、目が悪いのですか?」

「いや?眼鏡は無くても普通に見えるよ、この眼鏡は度が入ってないから・・・また、どうして?」

「妖魔の子って視力がいい子ばかりだから、眼鏡をかけているのは珍しいなって思って」


心結はニッコリ笑って教室へ入っていく。いつの間にか着いていたらしい。眼鏡を外すのを諦め、智志も教室へ入っていった。



  ✡



「鏡花、そろそろ帰りましょう」


結局、鏡花は服だけでは飽き足らず、小物類まで作っている。もちろん《窓口》も巻き添えで。でも、少し《窓口》は飽きてきたようで。


「そうですねぇ、ご主人もお仕事がありますしぃ?」

「やはり、先程の電話はお仕事の話で?」

「まぁ、仕事の方はネロくんに頼んでありますけどね・・・」


ネロに任せているが、さすがにこれ以上は家を空けていられないのだろう。智志はまだ戻ってこないようなので、荷物をまとめて《窓口》達は、近くにいたクラスの女子達に声をかけて、教室を後にする。


──家に戻ると、玄関にネロがいた。


「お帰りなさいませ、主」

「ただいま・・・だいぶ遅くなってしまいましたね、そちらは大丈夫でした?」

「ご心配には及びませんよ」


そして、ネロは《窓口》に一枚のカードを手渡す。それは『白雪姫』の絵が描かれたカルタだ。


「ネロくん、話はわたしの部屋で聞いてもいいかしら?」

「かしこまりました」



  ✡



《窓口》の自室。テーブルの上には四枚のカード。それぞれ『赤ずきん』『人魚姫』『ヘンゼルとグレーテル』『白雪姫』が描かれている。《窓口》は『白雪姫』の本を読んでいた。テーブルには他にも、カルタに描かれている童話の本が積まれている。


「今回、事件があったのは北部にある『氷雪の街』です」

「そうなると、これを持ってきたのは《氷室家》の子ですか」

「被害にあったのは『氷雪の街』に住む、魔術師の少女なのだそうです」


少女は毒殺されていて、近くには半分にされたリンゴが落ちていた。少女がかじった跡もあったため、毒はリンゴか、リンゴを切った刃物に仕込まれていたようだ。


「本来の『白雪姫』の話を辿るのなら、最終的には継母が死ぬんですけどね」

「確か、白雪姫の婚約パーティーで焼けた鉄の靴を履かされて、死ぬまで躍らせたんですよね」


それはそれで実現したら残酷な話よね、と《窓口》は手にしていた『白雪姫』の本を閉じる。


「これで残りのカルタは『ピノキオ』と『不思議の国のアリス』の二枚な訳だけど」

「やはり、持ち主はまだ主でもわかりませんか?」

「一人だけですが、もしかしたら持ち主ではないかという人物は見つけました」


《窓口》の言葉に、驚いたような表情をするも、ネロは何も言わない。まだ彼女にも確信はないのだ。


「不思議なのは、何故その人物がこれを持っているのかということ」

「普通に考えれば、何かの拍子に見付けたか、何者かから貰ったとか」

「もし後者だとしたら、この事件を仕組んだのは、一人しかいないでしょうね・・・嫌だわ」

「どうなさいますか?」

「ネロくん、今夜、護くんを呼んでもらえるかしら」


──夢の中で現実を見る少女。彼女の見る夢は全て現実。

無意識のままに行われる殺戮。自分とは違う、もう一人の自分。この悪夢はいつまで続くのか。

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