表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
悪夢のメルヘンカルタ
42/225

悲劇、あるいは惨劇

今日もまた、事件は報道された。


『──ニュースです。また新たな事件が起きました。今度は『水路と海の街』で人魚の少女が殺害されているのが、発見されました。遺体は刃物でバラバラに切断され、泡立てられた洗剤と共にビンに詰められており、殺害されてからビンに詰められたと見られます。また『大樹と森の町』で起きた事件とは何か関係があるのか、警察は捜査を進めています。』


「今度は『水路と海の街』か」

「『大樹と森の町』から、さほど遠くはないですね」


ニュースを見ていた《窓口》に、ネロは飲み物の入ったコップを渡す。『水路と海の街』は『箱庭島』の南にある大きな街だ。海岸付近はちょっとしたリゾート地に、内陸部は水路が引かれており、ゴンドラなどで移動をするので、観光客にはとても人気のある街だ。


「しかし、また悪趣味と言いますか・・・なんで、わざわざ解体して、ビンに・・・?しかも泡立てた洗剤と、というのが」

「確かに・・・一体、犯人が何をしたいのか、わたしでも全くわからないですね」

「なんと言いますか、狂ってるとしか言い様のない事件ですね」

「しかも、今度の被害者は人魚、ですか」

「そういえば主?人魚も確か『特定稀少種』に指定されていましたよね?」

「人魚の肉は、食べると不老不死になると、一時期、乱獲されましたからね・・・今では別の意味で乱獲されそうになっていますけど」


妖魔の中には『特定稀少種』とされている種族がいる。彼女の話ではそういった種族は、未だに闇ルートなどで高額で取引されているのだという。


「キミのような純血種の吸血鬼、人魚、ユニコーン、カーバンクル等が『特定稀少種』にされているんですよね」


『特定稀少種』は繁栄が限定的だったり、何かと理由を付けて人に狩られやすい。早いうちから種の滅亡を危惧した夢宮が、その種族の保護を目的とした法律を作って、今にいたる。


「主の管轄外の事とはいえ、あのお嬢さん達で大丈夫なんですかね?」

「大丈夫、心配ないわ・・・だって《草摩》も《清水》も、ここの《相談員》なのですよ?」


さすがに《窓口》でも、余所の事に口を出す訳にはいかない。向こうからの協力の要請があれば、話は別だが。


「なんだか嫌な感じがするのよね・・・」


《窓口》は首を傾げている。それはなんの確証も、理由もない勘のようなものなのだが。


「主の勘が当たらないといいんですがね・・・」


飲み終えたコップをキッチンの流しに置いて、浮かない表情をしながらも《窓口》は部屋に戻っていった。



  ✡



放課後。心結(みゆ)は文化祭の実行委員の会議が終わって自分のクラスの教室へと向かっていた。今日も何故か身体は疲れてるような感覚でだるい。


「あのカードを貰ってから、だよなぁ」


一昨日、胡散臭い占い師から貰った(正確には押し付けられた)古い箱。家に帰ってから箱を開けてみると、確かにあの占い師が言うとおり、カードが6枚入っていた。しかし、あれからあの箱は何だか気味が悪くて一度も開けていないし、返そうと思うもあの占い師は街からいなくなってしまっていた。その日から、心結は妙にリアルな夢を見るようになった。それも、誰かを自分が殺す悪夢。昨日は帰ってからぼんやりテレビを見ていて驚いた。夢で見た殺し方で、遠くの町で殺害されている人狼のニュースが流れていたのだ。


「やっぱり、アレはなんか変なものだったのかな・・・」


だが、それをどこに持っていけばいいのか。『夢現の街』だと神社に行けばいいのだろうか?ぼーっとそんな事を考えながら、前をよく見ずに歩いていたのが悪かった。廊下の角で誰かとぶつかってしまった。


「っ?あ、ご、ごめんなさいっ!!大丈夫ですか?!」

「あぁ、オレは大丈夫・・・って、夢路さん?」


ぶつかった相手は智志だった。隣には彼の友人だろうか、驚いて心結を見ている。その友人は猫の獣人らしく、人に近いくらいに変化しているものの猫耳や尻尾が生えていた。


「悪い、オレも友達と話ながらで前、見てなかったから」

「いえ、アタシの方こそ、少しぼーっとしてて・・・」


そんな二人の様子を智志の友人は笑って見ている。


「智志って、人間の女子には優しいよな」

「うるせーな、その言い方じゃ語弊があるだろ」

「そうか・・・智志は相手が人間なら誰にでも優しいのか」

「それはそれで誤解を招くからな?」


そのやり取りはまるで漫才のようだ。


「あ、夢路さん悪いね」

「ふふっ、大丈夫ですよ」

「もうおまえら付き合っ、っていひゃい、ほっへたつねらにゃいで」


少し黙れと、おもいっきり智志に両方の頬をつねられている。その様子はとても面白い。


「それで、夢路さんは教室に戻らないの?」

「え?あ、そうでした」


教室に戻る途中だったのを思い出し、慌てて心結は、智志達と別れて教室へ向かって走っていく。


「智志、あの子は魔力の無い人間のクラスだったのか?」

「やっぱりわかるか?なんか、おかしいんだよな」


智志から解放された友人は、つねられていた頬を撫でながら、走っていく心結を見て、首を傾げている。心結は魔力を持たないはずなのに、二人は彼女から何か違和感を感じていた。


「帰ったら姉さんに聞いてみるか・・・」



  ✡



もしかしたら、あの《窓口》なら何かわかるかもしれない。そんな期待を少しだけして、智志は家へと帰った。


「ただいま」

「あら?智志くん、おかえりなさい・・・どうしました?」


玄関からすぐ近くにある《窓口》の部屋に突然、ノックもせずに入ったのだが、特に驚いた様子もなく、彼女は仕事で使われるのか、資料をまとめていた。


「あのさ、ちょっと聞きたいことが」

「珍しいですね、キミからわたしに何かを質問するなんて」


少しだけ笑って《窓口》は作業を止め、智志にソファーに勧める。


「それで、わたしに聞きたいこととは何かしら?」

「えっと、魔力を持たない人のクラスの女子なんだけどさ、一人気になる子がいるんだけど」


いつもなら彼女は、こういった質問をすれば「好きな娘でもできた?」と、智志をからかってくる。だが、今回は智志もかなり真剣な表情だったのか、からかうような言動は見せなかった。


「魔力を持たないはずなのに、なんかこうさ・・・違和感があるんだ・・・説明は凄い難しいんだけど、これがどういうことか姉さんにはわかる?」

「うーん・・・キミの話だけでは何とも言えないのですが、考えられるのは、その子が『呪具』を持っている、または何らかの魔術とか呪術の影響を受けているか、行使している、かしらね?」


少し考えて《窓口》は答える。智志の言葉だけでは、確信はないようだが。智志を通して何かを視ているのか、何かしら汲み取ってくれている。


「でもさ・・・魔術とかを使うにしても、魔力がなきゃ無理なんだろ?」

「今は、魔力がない人でも使える『魔道具』も少なからずありますからね、護くんの鍵だってそうでしょう?」

「だって、あれは姉さんが彼のために作ってあげたモノだろ?使えなきゃおかしいんじゃ?」

「でも、実際に護くんは鍵の他にも、そうした道具を使えてますよね?」


それを言われたら、結局はなんでもありな気がしてくるが。事実は事実だ。


「あと『呪具』って何?」

「『呪具』というのは、普通に呪われた道具の事です、よく聞きませんか?所有者が次々に不幸な目に合ったり死んだりする、道具とか宝石とかの所詮は『曰く付き』のモノが」


智志は頷く。だが、そんなのはそうそう身近にあるようには思えないが。


「まぁ殆どの『呪具』は《現原家(あらはらけ)》が収集してますからね、なかなか身近にはないでしょうね」

「姉さんの親戚って、そんな事をしてんの?」

「特に現原家は、魔力とか呪力を打ち消す力が一際、強い家系ですからね」


話を聞くと、彼女の親戚の現原家の一族は、魔法を打ち消す魔法だけしか使えないらしい。


「現原は《夢幻による夢幻の破壊》だから」

「少しわかりにくいんだけど」

「簡単に言うと現原家の人間は『実現』した『夢』を『夢』で『壊す』っていうことです」


《窓口》が言うには、魔法や魔術、呪術は『実現した夢』なのだそうで。現原はそれを『魔法』によって否定することで壊すのだとか。


「でも、それって矛盾してない?」

「『否定された夢』だけが壊されるので、矛盾はしてないはずです・・・ですが現原ができるのが『夢による夢の否定』だけなので、実際には魔法は殆んど使えないと見てもいいみたいですね」


最後にそれでも現原家だけは敵に回したくないな、と言って《窓口》は作業を再開する。悟志は彼女の仕事の邪魔になりそうなので、荷物を持って立ち上がる。


「とりあえず、聞いてくれてありがとう」

「ふふっ、何かあったらその子をここに連れておいで?わたしでよければ、協力してあげますから」

「・・・うん」


智志が部屋を出ていく。それを黙って見送った《窓口》はポツリと言葉を零す。


「智志くんもなかなか気難しい年頃ですかね?何も素直にわたしに頼めばいいのに」


作業をしながら《窓口》は苦笑する。だが、その表情は少し嬉しそうだった。



  ✡



真夜中の魔女の村。突然、家のドアを叩く音が聞こえた。蜜柑色の髪に縹色の眼の魔女、アリサはこんな時間に何事かと、怪訝に思いながらもドアを開ける。そこにいたのは、アリサと同じくらいの年の魔女だった。その表情からただ事ではないようだ。


「アリサちゃん、大変よ!」

「どうしたの?」

「村の外れに住んでるお婆さんの家が、燃えてるのよ」


アリサは急いで魔導書と箒を手に取り、現場へ向かう。そこには他にも火事に気付いた魔女達が、魔法やバケツの水で消火をしていた。それでも炎の勢いは強く、なかなか消えない。そして、火が消えた時には、もう殆んどが燃えてしまい、原形をとどめていなかった。


「あれ?なんだろう、これ」


アリサは現場の近くに落ちていた一枚のカードを見つけた。カードにはお菓子の家と少年と少女の絵。下の方には『ヘンゼルとグレーテル』と書かれている。


「もしかしたら、しぃちゃんなら、これが何かわかるかな?」



  ✡



──紅い炎を上げて燃える家。

家主は苦しみながら、扉を開けようと、もがく。少女が夢の中で見る風景。自分が火を付けた、魔女の家。自分はただ、燃える家を見つめるだけ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ