秋の訪れ
九月も終盤。街の木々も徐々に色づき始めている。鏡花は歩きながら、クレープを頬張っていた。
「いやぁ、食べ物が美味しい季節ですねぇ、ご主人♪」
「鏡花は花より団子ですか?」
「え?そんなことないですよぉ」
《窓口》と鏡花は商店街を歩く。今日は少しだけ、予定が空いていたため、鏡花に誘われ買い物をしていた。
「十月になればハロウィンもありますし、リオの洋服も作りたいですねぇ」
「鏡花、リオは着せ替え人形ではないのですよ?」
「わかってますよぉ」
呆れる《窓口》をよそに、鏡花は嬉しそうに笑う。
「そういえば、ハロウィンも魔女の祝祭でしたよね?」
「正確にはソーウィンなんですけどね・・・あの世とこの世が近づく日で簡単に言えばお盆なんですよ?あと、占いをするにはもってこいな日なので、魔女達はこの日に大事な占いをするらしいですよ」
「へー、そうなんですかぁ・・・でも、なんで仮装をするんでしょう?」
「実際は仮装ではないんですが、子供達が悪い魔物に連れていかれないように魔物の格好をすることで、仲間だと思わせる為だそうですよ」
この『夢現の街』でも、ハロウィンの日は子供達が仮装をして、近所の家を回る。そこに仮装の必要がない妖魔の子も、色々と仮装して混じっているが。
「今年もご主人は、護さんのところで子供達にお菓子を配るんですかぁ?」
毎年《窓口》は護の家で回って来た子供達に、ちょっとしたお菓子を配っている。理由は、どうせ護の家に行っても、護がお菓子を用意してるとは思えない、という事らしい。
「それに、今の彼の家の近くには《夢幻福音の家》もありますしね?」
「ブランシュ君にも会いにいくのですかぁ?」
「様子を見にね、なかなか行けてないですから」
ブランシュは白いウサギの男の子。一時期、彼女が保護していた夢魔だ。最初はリオネットにべったりだったが、そのうち他の同居人達とも交流するまでになった。
「護くんから聞いた話だと、向こうでも上手くやってるみたいですから、そんなに心配はないようですけどね」
「そうなんですかぁ、それはよかったですぅ」
先程まで半分くらいあったクレープが、いつの間にか最後の一口にまでなっている。
「ごちそうさまでしたぁ!」
「鏡花、食べるの早くないですか?」
「えー?そうですかぁ?」
やはり、花より団子ではないかと《窓口》は思う。本人は否定していたが。
「あ、ご主人!あれ」
呆れてものも言えない《窓口》をよそに、鏡花は前を指差す。胡桃色の髪と朽葉色の眼の青年がいた。
「あら、琴葉じゃない」
二人に気付いた琴葉は、こちらに向かって小さく手を振る。
「琴葉さんもお買い物ですかぁ?」
「メモ帳でも買いにきたの?」
琴葉は黙って頷く。その手には、可愛らしいクマの絵が描かれた薄いピンク色のメモ帳があった。
「琴葉さん、それ可愛いメモ帳ですねぇ」
鏡花の言葉に琴葉の顔が真っ赤になる。そして、凄く言いづらいと言うように、ペンを走らせる。
『これは姉さんから借りたものだから』
「あぁ、そうなんですかぁ」
琴葉には兄と姉が一人ずついる。そして、いくら自分の姉のメモ帳でも琴葉自身が使うには、少々、恥ずかしかったのだろう。
「文さんじゃなくて、章さんに借りたら良かったんじゃないの?」
『今、兄さんは仕事でいないんだよ』
つまり、兄のを勝手に拝借するのも憚れるので、姉に借りたら、女の子の趣味全開のものだったらしい。
「他にメモ帳はなかったのね?」
『あったんだけどさ、これが一番マシだったんだ』
琴葉の文字も表情もどことなく哀愁が漂っていた。
「ほとんど外では筆談ですからね、琴葉は・・・」
琴葉は頷く。毎回、筆談をしていたらメモ帳とペンの消費量は半端ではないだろう。
『僕だって、好きで筆談してるわけじゃないんだよ』
「それは知ってますよ」
過去に琴葉自身が起こした事故。琴葉の持つ能力故に起きたもので、それがトラウマになっている為に、特定の人物以外と会話ができない。
『それはそうと、しぃ達はもう帰るんじゃなかったのか?』
「そうですね、そろそろ帰らないとネロくん達も心配しますね」
「では琴葉さん、また今度」
琴葉と別れて《窓口》はポツリと呟く。
「文字にした時の方が、言葉の力というのは強いのにね」
「ですが、文字という形になっている分、扱いやすいのではないですかねぇ?」
「そういうものなのかしらね?」
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時刻は午後6時。学校からの帰り道。黒く長い髪を三つ編みにした、今時珍しい少女が日が沈みかけた道を一人で歩いていた。
「やぁ、お嬢ちゃん・・・ちょっと寄っていかないかね?」
路上で少女を突然呼び止めたのは、黒いローブを着た胡散臭い初老(多分)の男性だった。テーブルの上には「占い」と書かれた小さな木札と大きな水晶玉。どうやら男性は《占い師》らしい。
「すみません、今、急いでるんで」
特に急いではいないが、関わりたくないので、さっさと家へと向かおうとする。
「いやいや・・・ほんの少しの時間でいいんだよ、ね?」
少女は少々うざったいと思いながらも、このままではずっと引き留められると思い、話だけならと仕方なく聞いてやることにした。
「お嬢ちゃん・・・アンタだけにいい話があるんだよ」
「なんかの押し売りなら帰ります」
「いやいや、そういうんじゃなくてね?」
そういうと《占い師》はテーブルの下から古くて小さな箱を取り出す。
「なんですか?これ」
「中身はちょっとしたカードだよ、前にお客が料金の代わりにって置いてったんだ」
「なんで、これをアタシに?」
「今の私には必要がないからね、お嬢ちゃんにあげるよ」
本当は貰うつもりはなかったのだが、押し付けられた形で少女はその箱を渋々受け取った。
──それがこれから起こる事件の始まりであることも知らずに。




