痛みを悼む
「《窓口》、説明してもらおうか?」
「説明?何の?」
《窓口》の家の応接室。護は若干、涙目になりながらも《窓口》に詰め寄る。
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──遡ること数時間前。
護からの犯人を取り押さえたという連絡により、神崎警部や捜査本部の人間が現場へとやってきた。警部達が来る前に、双子のケガをした方が貧血を起こしたのか倒れてしまい、このままではいけないと《窓口》はケガの手当てをすると言って、双子と共に先に家に帰ろうとする。
「おい、お前の家より、病院の方がいいんじゃないのか?」
「事情があって、ちょっと普通の病院じゃ無理ね」
そして逃げられたら困るだろうと残った鏡花は、犯人の引き渡しを見届けてから、護に、ここからは自分達の仕事だからと鏡花も先に帰るようにと指示され、家へと帰ってきた。ちょうど《窓口》は応接室で手当てをしていて、愛衣のケガは相当深かったようだ。彼女が着ていた、ワンピースや下着は真っ赤に染まっていて、そのケガの程度が想像以上に酷いものだったのが、理解出来るようだった。
「あ、鏡花ちゃん、おかえりなさい」
廊下を慌ただしく救急箱やタオルを持って、応接室とリビングやお風呂場を行き来している亜夢が、通りすがりに鏡花に声をかける。
「亜夢姉ただいま、今、必要なものは?」
「あらかた向こうには持っていきましたけど、とりあえず着替えがあれば、用意出来るかしら?」
「わかった」
鏡花は短く返事をして自身の部屋へ向かった。
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「・・・ふぅ・・・これで大丈夫」
応接室の床にタオルを敷いて、ケガの手当てを終えた《窓口》は隣で見ていた双子の片割れを見る。
「さすが《窓口》さんだね!傷痕も残ってないし」
「本当はわたしより《日向》の方が、治癒魔法は得意なんですけどね」
右手に持った本を閉じて《窓口》は立ち上がる。その時ちょうど鏡花が応接室に入ってくる。
「ご主人、今大丈夫ですかぁ?」
「鏡花か、大丈夫ですよ、今手当てが終わりましたから」
鏡花は大量の衣類を抱えていた。どうやら着替えらしい。
「えっと、あたしの私服なんですけど、サイズはわからないので一応」
「ありがとう」
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護は仕事をあらかた片付けて《窓口》の家へと向かう。応接室の灯りが点いているのがわかり、外から応接室へと入ったのだが。
ただ、そのタイミングが悪かった。その時、ちょうど双子の片割れが着替えていて、どうやら服のサイズが合わなかったらしい。そして、入ってきた護に気付いた《窓口》に思いっきり、顔面めがけて分厚い本を投げつけられ(どちらかというと叩きつけられた)、閉め出された。しばらくして、着替えも終わったようで《窓口》が応接室のドアを開けた。その目は護を軽蔑している、とても冷ややかなものだった。
「最低ですね」
「いや・・・あの・・・うん、ごめん」
《窓口》の言葉に護は言い訳をしようとしたが、その雰囲気から謝ることしか出来なかった。
「で?」
ニッコリと《窓口》は護に笑顔を向けてくる。その笑顔が余計に怖いんですが。
「えっと、お前に聞きたい事があるんだけど・・・」
「何が聞きたいのかしら?」
笑顔のままだが《窓口》は怒っているようだ。割と本気で。
「とりあえず中に入れてくれないかな・・・?」
「ここじゃダメかしら?」
「いや、ほら、さっきのは不可抗力だって、たまたまタイミングが悪かっただけで、うぐぅっ」
言い訳をするんじゃなかった、と護は少し後悔する。《窓口》が思いっきり鳩尾をグーで殴ってきた。彼女が怒っているのは別の理由だったが、火に油を注いでしまったようだ。とりあえず、中には入れてもらえたので、護は改めて《窓口》と向かい合う。
「《窓口》、説明してもらおうか?」
「説明?何の?」
若干、涙目の護を《窓口》の隣にいる双子は顔を見合せクスクスと笑う。
「まず一つ目、お前は彼女が刺されるのを知ってたのか?」
「本当に、この二人は危ない橋を渡りますよね?」
「答えになってない!」
わざとなのか、それとも本当に知らなかったのか《窓口》ははぐらかす。
「じゃあ二つ目、なんで左胸を刺されて生きている?」
「刺されたのが舞衣じゃなくて、愛衣だったら本当に死んでましたね」
「・・・ん?ちょっと待ってくれ、あの時、目の前にいたのは愛衣ちゃんじゃ?」
「途中まではね」
これも答えになってないが、新たな疑問が浮上する。
「どういうことだ?」
「あの時刺されたのはね、愛衣じゃなくて舞衣の方なの」
「愛衣と舞衣は途中でね、入れ替わったの」
それは《窓口》の言葉からもわかるのだが。一体、二人はいつ、どこで入れ替わったのか。そして、入れ替わったからこそ生きている理由とは何なのか。
「まず、この双子のことから説明しなくてはなりませんけど」
「理由だけ教えてくれないか?」
ますます《窓口》の言いたいことはわからない。
「舞衣の左胸には心臓がない」
「・・・は?」
「以上です」
《窓口》の言葉は護の予想の斜め上をいっていた。そして《窓口》はそれ以上何も言わない。それは彼女がそれ以上の説明ができないということも意味している。
「俺が悪かったって、頼むから最初からちゃんと説明してくれ」
《窓口》は大きくため息を一つついて、渋々説明を始める。
「仕方ないですね、まずは《鏡家》の不思議な特徴から」
愛衣と舞衣の家である鏡家は代々、双子で産まれるのだとか。双子の親から双子が産まれるというのはよく耳にする話なので、特に珍しいものではないが。ただ、本当にこの家系で不思議なのはここからで、どうも鏡家に双子が産まれると、必ず片方は心臓を含め、内臓が左右反対で産まれるらしく、舞衣もその例に漏れず、愛衣とは左右反対で産まれたという。二人は本当に鏡に写したように。
「代々、片方だけこうなることに関しては医師の《日向》が言ってたことを聞いたんですけどね」
《窓口》の説明はそこで終わったようで、護はすかさず次の質問をする。
「舞衣が刺されて生きている理由はわかった、だが、いつの間に二人は入れ替わってた?」
「途中、手錠を持って出てきたでしょう?あの時出てきたのが舞衣」
《窓口》が説明している横で双子は小声でこそこそ話をしている。
「やっぱり《窓口》さんには、ばれてたんだね」
「本当に、どうやっても《窓口》さんは騙せないね」
そうはいっても、二人は嬉しそうだ。
「最初の質問に戻るけど、《窓口》は二人の計画をどこまで知ってた?」
「さすがに刺されるのは知らなかったですよ?」
「だが」
「言ったでしょう?『もし刺されたら』って」
「舞衣はちょっと遊びすぎたね」
「愛衣が痛手を負わせたからって油断しすぎちゃったね」
《窓口》は薄々そうなるような気はしたようではあるが。
「護くん、いくらわたしが色々できるっていっても全能じゃないんですよ?」
《窓口》の言葉に護は苦笑する。また何か言って本をぶつけられるのはごめんだ。
「あと、最後に一ついいか?」
「なんですか?」
「なんで怒ってる?」
しばらく沈黙が流れる。それに耐えられなかったのか、双子が笑いだす。
「あはは、本当に鈍感なんだね」
「あはは、本当だね」
どういうことなのか。それを聞く前に《窓口》が口を開く。
「・・・あのね?護くん、キミがロリコンなのは前から知ってるけども、二人は年頃の女の子なのよ?」
「あの、頼むから、色々と誤解を生むような発言をするのは、やめてくれ」
「まぁ、そんな事はどうでもいいのです、せめて、来るなら来るという連絡くらいは入れられないのかしら?」
「俺はどうでもよくはないが、それは悪かった」
「連絡があれば別の部屋とかで着替えとかができたんですよ?」
つまり着替えを目撃した事を怒ってるわけではなく(それも若干あるが)、連絡を入れずに突然訪ねてきたことに怒っているらしい。
「護くんもいい大人なんですからね?」
「あ、はい・・・ごめんなさい」
《窓口》と護のやり取りを楽しそうに見ていた双子は、顔合わせて言う。
「とりあえず、犯人も捕まったし」
「めでたし、めでたしかな?」
その言葉に《窓口》と護も頷いた。




