遊戯による喪失
今日もまた、鏡花は街を見回りに行こうと部屋を出る。玄関の近くに《窓口》の部屋もあるため、一言、声をかけるのにドアをノックする。
「ご主人?いらっしゃいますかぁ?」
「いますよ」
「失礼しま〜す」
きっといつものように、手紙の仕分けでもしているのだろうと鏡花は思っていたのだが。
「えっと・・・何してるんです?ご主人」
「まぁ、ちょっとした占い?」
いつもなら大量の手紙と資料があるテーブルには、タロットカードやら水を張った器など色々置いてあった。
「ご主人、占いって何を占うんです?」
「今日、ドッペルゲンガーが出るかどうかと、出るとしたら場所と時間をね」
そこまでいったら、もう占いとかじゃなくて、未来予知ではないのかと鏡花は思ったが、口には出さなかった。それと同時にそういうのが出来るなら、最初からやってほしかったとも思う。
「あくまでも占いだから、絶対ではないと思うけどね?」
そういうと《窓口》は水を張った器を覗く。
「タロット占いじゃないんですか」
「カードはたまたま見付けただけですよ」
しばらく器を黙って覗いていた《窓口》が突然口を開く。
「鏡花、外れるかもしれないけれど」
「何か見えました?」
「護くんを見付けたら、ついていくといいかもしれない」
外れるかもとは言っているが、《窓口》の占いは結構な確率で当たる。その言葉通りにすれば、見付かるだろう。
「今から護さん達を見付けに行った方がいいですかね?」
「街も広いからね、捜しておいで」
「では、行ってきます」
占いの結果を一応、信じて鏡花は街へと出掛けた。
「主、時間あります?」
「何ですか?」
器の水をキッチンで捨てていた《窓口》に、後ろからネロが話しかける。
「あの双子からの連絡なんですけど」
「来るの?いつ?」
「近いうち、仕事のついでに『夢現の街で遊びたい』との事なんですが」
それを聞いて《窓口》は深いため息をついた。『遊び』とは言っているが、ドッペルゲンガーを見付けるだけでは済まなそうだというのが、彼女はその言葉だけで理解する。
「・・・まぁ、いいんじゃないですかね?」
「大丈夫ですかね?」
「街とか第三者に被害がなければいいんだけどね、あの子達も結構、派手に暴れるからねぇ」
それでも多分、大丈夫だろうと《窓口》は器を持って部屋へ戻っていく。
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「ねぇねぇ、舞衣」
「なぁに?愛衣」
「さっき《窓口》さんから『来てもいい』って」
「本当?なら今から行こうか」
「突然でも大丈夫かな?」
「一応、連絡はしておこうよ」
「そうだよね」
「さすがにね」
双子は顔を見合せ笑う。
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現在時刻は午後6時、護達は今日も見回りをする。やはりあれから進展はない。犯人に関しての手掛かりが、全くといってないのもあるが。そのせいか周りは若干イライラしているようだ。
「全く、厄介なヤツが相手になったな・・・」
そんな事をぼやきつつも仕事は仕事なのだが。その時、隣にいた神崎警部に連絡が入った。
「飛鳥君たった今、連絡があったよ」
「何かわかったんすか?」
「残念なことに被害者が出てしまったそうだ」
「?!」
急いで現場に向かうと、そこには規制線が張られ、現場検証が行われている。
「こりゃまた酷いな」
野次馬をかき分けて規制線の内側へと入る。被害者は仕事帰りの男性で、死体はバラバラに切断され、辺り一面は血の海になっていた。
「今回は間に合わなかったかぁ・・・」
殺人現場近くの家の屋根の上で、鏡花は状況を眺めていた。やはり結構、当たるとはいっても占いは占いなのか。鏡花は少しだけ周りを見渡す。状況を見る限り、事件が起きてまだそんなに時間は経っていないだろう。
「衝動的なものなら、こんなバラバラにしなくても、人間なんか簡単に死ぬのになぁ」
少しだけ首を傾げて、鏡花は花の模様が描かれた真紅色の小さな手鏡をポケットから出す。ドッペルゲンガーなら鏡に写らないから、もし捜すならと《窓口》が貸してくれたのだ。さすがに、今はいないだろうとは思うが念のため。野次馬と手鏡を交互に見るが、やはり今回はいないようだ。
「一応、ご主人に連絡しますか」
きっと護から連絡はあるだろうが、鏡花からの方が早いだろう。
ポケットからスマートフォンを出して操作する。
「あ、ご主人ですか?大変なことになりました」
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鏡花からの連絡を受けて、《窓口》も現場へ向かう。その後ろから急いで呼んだのだろう、愛衣と舞衣もやってくる。
「また酷いことになりましたね」
さすがに野次馬も落ち着いたかと思ったが、報道陣と思われる人だかりが多い為《窓口》達も屋根の上で見ていた。
人だかりをかき分けて、一人離れた場所に護が移動する。スマートフォンを取り出すところを見ると、こちらに連絡を入れるようだ。だが《窓口》の連絡の方が早かったのか護は上を見回す。
「行きますか」
ふわりと護の元へ《窓口》が移動する。双子と鏡花の三人もそれに続く。
「よぉ、《窓口》」
「こんばんは、護くん」
そして後ろにいる双子と鏡花に目線を向ける。
「「こんばんは、色々と大変そうですね?」」
愛衣と舞衣は口を揃えて話す。本当にステレオ放送のようだ。
「そりゃ大変だよ、なかなか犯人の手掛かりも掴めなくてな」
不機嫌そうに護は双子に言う。
「もし、皆様がよろしければなんですが」
「舞衣達が囮になってあげてもいいんですよ?」
双子の言葉に護の表情は、ますます不機嫌そうになる。さすがにこの少女二人を危険に晒したくないらしい。当たり前の反応である。
「大丈夫よ、護くん?この二人だって、れっきとした魔術師なのだから」
「お前が言うなら大丈夫なんだろうが、それを上層部が許可するとでも思うか?」
さらに表情は不機嫌になっていく。それをこの三人はどうでもよさげに見ている。
「それなら、わたし達が勝手にやったことにすればいいわ」
手をポンッと合わせて《窓口》が言う。後ろでは合わせたように双子は頷いている。
「それはそれで、後のこともあるのが嫌なんだが」
「あくまでも情報提供の一環ですよ」
「愛衣はこれが一番手っ取り早いと思うの」
「舞衣もそう思うの」
女子三人に押し切られるように護は渋々だが、上司に聞いてみるよと言って現場へ戻っていった。




