双子の幻想遊戯
──《窓口》とネロ、鏡花は家の前にいた。
「さて、行きましょうか」
《窓口》は鍵を使ってドアの出現させる。三人の目的は、ある相談員に会いに行くのだ。ドアを開けた先は、とある町。この町は『鏡と境界線の町』。町の名前からわかるように『鏡と境界線』に関係する場所だ。本来、陸路ならば『夢現の街』の南西から《窓口》の家の目の前にかけて広がっている、通称『迷いの森』と呼ばれる森を抜けていかなくてはならない。三人は町を脇目も振らずに歩く。周りを見ると所々に大小、様々な鏡がある。
「さすがは鏡の町、至るところに鏡がありますねぇ」
「鏡花はこの町に来るのは初めてでしたっけ?」
周りをキョロキョロと見てる鏡花に《窓口》は振り返って聞く。正直、鏡花は《窓口》達と出会うまでの記憶がない。覚えていたのは自分の名前と、自分の弟を探していることだけだった。
「どうなんでしょうねぇ?多分、来たことはあるのかもしれないですが」
鏡花の前を歩く《窓口》は「そうですか」とだけ言って、また前を向く。しばらく歩くと一軒の洋館が見えてくる。看板はないが一階は店になっているようだ。
「こんにちは〜」
ドアを開けて中に入ると形も色も大きさも様々な鏡が棚の上に綺麗に並べられている。どの鏡も磨かれたように曇りがない。
「《窓口》さんいらっしゃい、待ってたよ」
店の奥のレジの横に、一人の焦茶色の肩まである髪に、青緑色の眼の少女がいる。彼女は鏡 愛衣。この店の店主で、色々な鏡を自分で作って売っている。前に《窓口》が使った『夢映しの鏡』も、ネロの部屋にある鏡も、元々はこの店の品物だ。
「愛衣、とりあえずお仕事ね」
《窓口》はバッグから封筒を出して愛衣に渡し、そのレジの横のスペースにある椅子に座る。
「あと、昨日のニュース観ました?」
「えぇ、観てましたよ~?珍しく夢現の街にドッペルゲンガーが出たんですってね?」
封筒の中の資料を嬉しそうに確認しながら、愛衣は《窓口》の言葉に答える。一通り、中身の確認を終えると、愛衣は中身を封筒に戻し、奥の部屋に持っていき、すぐに出てくる。
「ところで愛衣さん」
「違うよ、ネロくん、こっちは舞衣だよ」
質問しようとネロは愛衣と呼ぶが《窓口》は、出てきた彼女は舞衣だと言う。鏡花にもネロにも、先程、話をしていた愛衣にしか見えない。焦茶色の肩まである髪に青緑色の眼、ただ、その表情はまるで悪戯っ子のよう。
「全く・・・見分けがつかないからといって、二人をからかうのはやめてほしいですね」
頬杖をつき、呆れたように《窓口》が舞衣を見る。すると奥の部屋からもう一人、同じ容姿の少女が出てくる。
「あはは、ごめんね♪」
「やっぱり《窓口》さんは騙せないね」
愛衣と舞衣は、髪の色も長さも眼の色も服装も背丈も全く同じなので見分けがつかない。二人は顔を合わせて、クスクスと笑っている。
「それで、愛衣さん、舞衣さん、昨日のことについてなんですけど」
「何かな?」
「ドッペルゲンガーについての説明がほしいのかな?」
改めてネロは二人に話題を切りだす。二人から一気に言葉が返ってくる。
「とりあえずドッペルゲンガーがどういう種族からかな?」
「そこに記憶喪失のドッペルゲンガーがいるんだけどね?」
二人の視線は鏡花に向けられる。鏡花は苦笑する。
「まぁいいや、まずドッペルゲンガーは、元々は鏡の向こうの世界の住人なの」
「だからね、ドッペルゲンガーは誰にでもそっくりになれるの」
鏡は誰でも何でもそっくりそのまま写す。だからこそ鏡の魔物であるドッペルゲンガーは誰にでもなれる。二人が言うには、ドッペルゲンガーは何らかの理由で住人がこちら側に来たのが、種族としての始まりらしい。そのせいかは不明だが、この『島』にいるドッペルゲンガー達は、鏡に写らないのだとか。
「そこの鏡花ちゃんだって、鏡に写ってないでしょう?」
ニコニコと愛衣は鏡花を見る。鏡花はそうなのかと、棚にあった鏡を覗く。そこには何も写っていなかった。この『島』ではドッペルゲンガーの多くは『鏡と境界線の町』に住んでいる。
「ドッペルゲンガーは鏡を通って移動ができるからね」
「この町は至るところに鏡があるし、移動には便利なのよね」
「「ねー♪」」
さすがは双子、最後は揃っている。
「それで二人とも、今回のドッペルゲンガーの特定ってできたりしないですか?」
「うーん・・・それは」
「ちょっと難しいかな」
困った表情の二人に、やはり難しいかと《窓口》は「そうですか」と言うだけに留める。
「それか、そういう事をしそうな、ドッペルゲンガーに心当たりがあるとかは?」
「うーん・・・」
「それもないね」
鏡花の質問にも双子は首を傾げる。
「もし何かあったら、二人にも協力をお願いしたいんですが」
「「もちろん、喜んで」」
一通り話は終わったので、三人は店を出る。
「とりあえず必要なことは二人に伝えましたし、このまま何もなければいいですよね・・・」
「そうね」
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《窓口》達が双子と会っている頃、護は『夢現の街』を神崎警部と見回りをしていた。
「やはり、あれから学生なんかは、一人で出歩かなくなったのもあるんだろうな」
「何もないに越したことはないんすけど・・・何も無さすぎて本当に意味があるのかって思いますね」
あれから犯人に関しては、手掛かりも目撃証言も何もない。それもあってか、小学生なんかは登下校時に保護者同伴になっている。人通りが少ない場所は、こうして怪奇現象捜査課で見回りをしている。チラリと腕時計を見ると、正午を過ぎていた。
「飛鳥君、一旦昼食でも取ろうか」
「あ、はい」
二人は近くにあったコンビニに入っていった。
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午後になり、ネロ達に他の仕事を任せて《窓口》と鏡花は、街を見回っている。《窓口》は白いレースの日傘をさして、屋根から屋根へ、舞踊るようにふわりふわりと移動している。
「ご主人、これ凄く目立ちませんかぁ?」
《窓口》の少し後を鏡花はついていくが、こんな昼間に屋根を移動してたら、それこそ自分たちの方が不審者ではないだろうか、と鏡花は心配になる。空を箒で飛んでたり、翼がある魔物も普通にいるので、案外、大丈夫なのかもしれないが。
「大丈夫ですよ、これでもちゃんと、認識されないようにしてます」
ニッコリ笑って《窓口》は、屋根から屋根へとフワリフワリと飛び跳ねるように移動を続ける。
「でも、なんでまたこんなことを?」
「もしも今回の犯人が、キミの探している弟だったら?キミは弟の名前は覚えていても、顔までははっきりと覚えてはいないのでしょう?」
確かに《窓口》の言う通りなのだ。鏡花は『水月』という、弟の名前だけしか覚えていない。探してはいても、手掛かりは名前だけ。
「名前だけなら、わたしでも視れますからね」
「ただ、今回ばかりは違うといいなぁ・・・」
いくら再会したいと思っても、こんな形ではさすがに鏡花も嫌だ。《窓口》は最初は弟のことも《情報屋》に頼もうか、と言ってくれたが、これは自分で捜さなきゃいけない気がすると、鏡花は断っている。
「ご主人、もし水月だったらどうしましょう・・・?」
「その時はキミが、なんとかするしかないんじゃないかな」
若干、不安になっている鏡花に《窓口》は厳しいとは思うが、姉である以上は、と言うだけだった。
「ご主人、護さん達も見回りしているみたいですよ?」
「あら、本当ですね」
屋根を移動していると見回りをしている護達を鏡花が見付ける。
「・・・ついていってみましょうか?」
何を思ったのか《窓口》は悪戯っ子のように、笑顔を浮かべて鏡花を見る。
「一人でいるわけじゃないので、遭遇はしなさそうですが?」
「それもそうね・・・」
《窓口》は気付かれないように、ふわりふわりと踊るように再び移動する。なんでも護には《窓口》が気配を消していても、姿を隠していても、見付かってしまうのだとか。
「全く、こういう時の護くんは厄介よね」
笑いながらも《窓口》と鏡花は家の屋根を渡る。
「ん・・・?」
「どうしたんだい?飛鳥君」
「いや、なんでも」
神崎警部に聞かれ、護は何でもないことを慌てて伝える。なんだか先程、誰かにじっと見られていた感覚がしたが、そこには誰もいない。ただの気のせいか。しばらく見回りをしているが特に何もない。あったらあったでそれは困るが。《窓口》からは大抵、妖魔が動くのは夕暮れや夜中が多いとは聞いている。さすがに彼女も昼間に出たことは意外だったらしい。今回の見回りは主に街の北部から南東部にかけて行う。続けて見回りしていると、護は遠くの方で屋根から屋根へ、ふわりふわりと跳ねるように、移動をする二人の少女を見付けた。隣にいる神崎警部は気付いてないようだ。
「・・・アイツも見回りかなんかしてるのか」
「何か見付けたのかい?」
「遠くに《窓口》がいただけっすよ」
「そうか、ならいいんだが」
人の家の屋根を、渡り歩いてるのはどうかとは思うが、彼女達の方が何か見付ける可能性はありそうだ。何もないことに少し期待しつつ、護も見回りを再開した。
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「うふふ、今日は何もなかったみたいだね、愛衣」
「うふふ、でも明日はどうだろうね?舞衣」
「久しぶりに思いっきり遊べそうね?舞衣」
「たまには別の町で遊びたいわよね?愛衣」
「本当なら、何もない方がいいんだけどね」
「でもそれじゃ、とても退屈だわ」
双子の少女は無邪気に笑う。それはまるで玩具を見付けた子供のように。




